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2015年8月12日 (水)

医学部新設・定員増の結果、医師の強制配置が実現する?

先日は千葉県成田市に新たに医学部が誕生すると言う話を取り上げたところですが、新設医学部は国際貢献に資する人材を養成する特別な医学部であって、一般診療はやらせるつもりはないんですよと言ったところで医師免許は一種類しかないわけですし、国際貢献で食っていけると言う保証がない限り卒業生がいずれ市中臨床医として流出してくる可能性は否定出来ないわけです。
この点でそもそもの国の方針に対して各方面から「医師不足だと言われているこの時代に、そんな医学部をわざわざ新設する意味があるのか?」と言う突っ込みも入っていることであり、また千葉県と言えばかねて人口比で医学部定員が少なすぎると問題視されていた地域ですから、最終的にごく普通の医学部として機能すると言うことであればそれはそれで問題ないとも言えそうです。
ただこの医学部新設に絡んで少しばかり興味深い指摘もあったのですが、まずは先日出ていたこちらの記事から紹介してみましょう。

東北や成田の医学部新設で医師不足は解消する?(2015年8月10日日経メディカル)

 政府は7月31日、千葉県成田市に医学部を新設する方針を決めた。医学部の設置主体は国際医療福祉大学が本命視されており、早ければ2017年度にも開学の運びだという(関連記事)。2016年度の開学に向けて準備が進んでいる東北と合わせ、1979年の琉球大学以来、三十数年ぶりとなる医学部の新設が動き出す。

 成田市の医学部新設に対しては、構想が浮上して以来、日本医師会や日本医学会、全国医学部長病院長会議などが繰り返し反対意見を表明してきた。既存の医学部の定員増により医師不足に解消のめどが立っていること、大学病院の新設で医師や看護師の引き抜きが起こり地域医療の崩壊を招く恐れがあること──などが主な理由だ。しかし政府は、これらの反対を押し切る形で今回の方針を決定した。
(略)
偏在解消なくして医師不足の解消なし

 ただ、ここで問題になるのが、医学部の新設や定員増と医師不足の解消は単純には結び付かないということだ。

 日本の人口1000人当たり医師数は、2012年の時点で2.3人。軒並み3.0人を超える欧州諸国から見ると低い水準だ。しかし都道府県別に見ると、徳島県や東京都、京都府のように、人口1000人当たり医師数が既に3.1人に達しているところもある。

 これに対し、最も医師不足が深刻な埼玉県の人口1000人当たり医師数は1.5人にすぎず、上記の医師充足県との格差は2倍を超える。この地域偏在の解消には、2007年から急増した医学部の「地域枠」が一定の役割を果たすと期待されるが、その数は毎年の卒業生の約2割にとどまり影響は限定的だ。

 また、地域偏在と並んで医師不足の大きな要因とされる診療科間の医師の偏在については、2017年度に始まる新専門医制度を活用する案が浮上している。だが、専門医制度を通じた医師数のコントロールには否定的な意見もあり、具体的な検討は進んでいない。

 つまり、現状のまま医学部の定員を増やしたり医学部を新設しても、医師不足に悩む地域の状況が改善する保証はないのが実情といえる。せっかく医学部を新設するのであれば、医師不足の解消に向けて今一歩踏み込んだ対策を検討してもいいのではないだろうか。

 その面で1つのヒントになりそうなのが、ドイツが1993年に開始した保険医の定員制だ。これは、14の診療科ごとに各地域で保険医として開業できる定員を定め、それを10%上回る場合には新規開業を認めないという仕組み。近年は医師の偏在解消を目的に、過剰地域の医師の報酬を減額し、不足地域では増額する政策も導入されている。

 かなりドラスティックな政策といえるが、実は1990年代後半に厚生省(当時)も、ドイツの制度を参考に日本版の保険医定員制を導入することを検討していた。当時の同省幹部は筆者の取材に、「医師数は養成数でのコントロールが難しいので、保険医数をコントロールさせてもらう」と述べていた。しかし、保険医定員制は自由開業医制や職業選択の自由を侵害するものだとして関係団体の強硬に反対したため、結局、実現には至らなかった。

 だが、その芽はまだ消えていないようだ。塩崎恭久厚生労働相の私的懇談会が6月にまとめた提言書「保健医療2035」には、「医師の偏在等が続く場合においては、保険医の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見直しを含めて検討を行い、(中略)地域や診療科の偏在の是正のための資源の適正配置を行う」という記述が出てくる。医師不足の大きな要因である地域・診療科間の偏在解消に向けて今後、保険医の定員制が改めて再び政策メニューに躍り出てくる可能性は十分にある。
(略)

この医師配置の管理強化に関わる政策と言うものは今までは関係団体の強硬な反対で実現してこなかったわけですが、注目すべきなのは関係諸団体の中でも強硬派の筆頭格とも言うべき日医はすでに「医師不足はこのままでも解消される見込みだ」と言い、その根拠として全国病院における求人倍率が減少してきていると言うことを挙げている点です。
その調査の内容を見てみると総数ではその通りだとしても診療科間ではまだ求人倍率にかなりの差があり地域差も大きいと言う医師の「偏在」が指摘されていて、特に大規模病院ほど医師不足感が強いと言う現場の実感とよく合う結果が示されているわけですが、要するに日医の調査結果によっても医師は総数の不足から領域や地域ごとの偏在が問題になってきていると言うことが示された形です。
となれば日医としては今後の問題となってくる偏在の解消策に反対する理由はないと言うことになりそうですが、特に大規模病院にもっと医師を集約化するよう政策的誘導をかけると言うことになれば、当然ながら日医の主たる支持母体(と言うことになっている)開業医の権益を制限すると言うことにもなりかねず、どう折り合いをつけていくつもりなのかは興味深いですよね。

ちなみに記事にもあるように例の専門医制度の改定が間近に迫っていて、色々と制度の変化も細々とあるものの一番のポイントとしては取得もさることながら維持が難しく、きちんと専門医としての診療実績を積んでいかなければ資格を失ってしまうと言う点だと思いますが、この意味するところは専門医をより厳格に管理することによって、いわば医師コントロールの手段としても利用出来るようにすると言うことだとも言われます。
ほとんどの専門医資格は開業医や市中の中小病院では維持出来なくなってくるとなれば、今までのように何ら専門的医療を行っていない町医者が専門医コレクターぶりを誇示できなくなる理屈ですが、それが嫌なら中核施設での診療に長く従事しなさいと言うことであって、要するに厚労省が長年目指してきた医師集約化の目的に沿った制度改定であるとも言えると思いますね。
先の偏在の話と合わせて客観的には医師集約化が今後の最優先課題になりそうだし、そのために必要な根拠や方法論も揃いつつある中で、それでは現場の医師は何をどうしたらいいのかと言う話なんですが、そもそも医療崩壊と言う現象の発端が中核施設における医師の激務から逃散を招いたと言う経緯を振り返ってみれば、根本原因である激務解消策をどうするかと言った辺りがもっとも異論の少ないところなのかも知れません。

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コメント

>その面で1つのヒントになりそうなのが、ドイツが1993年に開始した保険医の定員制だ。
確か この導入をきっかけにヨーロッパ諸国の中でも比較的低賃金だったドイツの医師が
「やってれん!」ってなもんで、他国への流出が本格化したんじゃ なかったでしたっけ?
この記憶に間違いなけりゃあ、今ココで厚労省が真似っ子したら それこそまさに
「国際貢献に資する人材」が千葉だけでなく、全国で発生しそうな予感…

投稿: | 2015年8月12日 (水) 07時16分

医師会以外でちゃんと医師の代弁者がいないとダメですね…

投稿: ぽん太 | 2015年8月12日 (水) 08時43分

>「国際貢献に資する人材」が千葉だけでなく、全国で発生しそうな予感…
碌に英語もできない人がほとんどなのでそれは無いかと
イギリスで医師の流出が続いたのは英語圏だからですね

投稿: | 2015年8月12日 (水) 09時00分

↑「国際貢献に資する人材」だからして英語ばりばりに決まってるじゃないですかやだーw。仮に英語が出来なくてもサボタージュ…もとい、順法闘争は出来ます。既に頼もしい味方たる量産型弁護士が絶賛喰いっぱぐれ中だしw

ところで、

>14の診療科ごとに各地域で保険医として開業できる定員を定め、それを10%上回る場合には新規開業を認めない

既に開業されてる先生にとっては願ったり叶ったりじゃないですか?

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年8月12日 (水) 09時53分

>14の診療科ごとに各地域で保険医として開業できる定員を定め、それを10%上回る場合には新規開業を認めない

外科で届けをだしても内科診療出来ますし、どこまで意味があるルールなのでしょうね?
あと、一般的なクリニックは複数の診療科を標榜していることが多いですが、その扱いも気になります。

投稿: クマ | 2015年8月12日 (水) 10時30分

日本の場合専門医と言うものと標榜診療科が全く無関係なので、正直ドイツ式の規制がどれほど有効なのか判りませんが、いずれにしても新規参入抑制は既存開業医にはむしろウェルカムかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2015年8月12日 (水) 12時42分

医者がワガママ言わなかったらいんじゃね?

投稿: | 2015年8月12日 (水) 16時44分

↑10.ありえない解決策を図る
「犬が卵を産めるようになれば良いって事でしょ」

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年8月17日 (月) 10時37分

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