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2015年8月 3日 (月)

やればやるほど損になる行為を普通の人は続けない

かつて注射針を使い回ししていた時代があって、学校の集団予防接種で特定地域内の特定学年の学童がその後揃って肝炎を発症した、などと言うあまりうれしくない話もありましたが、当時は「2、3人打ってちょっとなまくらになってきた針の方が痛くない」などと得々と事情通を気取る学童もいたとかいないとかで、感染防止意識の高い医師でもせいぜい一人打つ毎に針に消毒用エタノールを通す程度だったと言う話を聞いたことがあります。
もちろん血液などの体液を介して感染する疾患が少なからず見つかっている今の時代、かつてはリユーサブル(再利用可能)であったものであっても次々とディスポーサブル(使い捨て)製品が当たり前になってきているわけですが、一般的にディスポで使い捨て出来ると言うくらいですから安価なものかと思ってしまうと、これが案外お安くなかったりするからこういう事件も起きるのでしょう。

使い捨てカテーテル再使用 神戸大病院「滅菌すれば…」(2015年7月30日朝日新聞)

 神戸大学医学部付属病院(神戸市中央区)は30日、不整脈を治療する際に心臓内部に入れて用いる、使い捨ての「電極カテーテル」を、滅菌処理して再使用していたと発表し、謝罪した。厚生労働省が再使用を禁止していた。再使用した可能性のある患者は少なくとも337人にのぼるが、今のところ健康被害は確認されていない。

 病院によると、循環器内科の不整脈治療スタッフらが少なくとも2010年度から、保険診療の範囲を超える本数が必要になった際に、一回きりで再使用していた。肝炎などに感染した患者に使ったものは再使用していないという。今春着任した滅菌処理の担当者が気づき、院内に調査委員会を設置して調べていた。

 同科の平田健一診療科長は「保険では3、4本までしか使えず、それ以上は病院負担になる。滅菌すれば安全なので使ってしまった」と話した。(略)

カテーテル300人に再使用、滅菌は実施 神大病院5年間に(2015年7月30日神戸新聞)

 医療用カテーテルを国の通知に違反して使い回していた問題で、神戸大医学部付属病院(神戸市中央区)は30日、使い回しは記録が残る2010年度からの約5年間に296人に実施し、41人にその疑いが否定できなかった、と発表した。保険診療で定められた本数を超えて治療する場合、診療報酬が受けられないため、担当医の判断で滅菌して使い回していた。10年度以前にも使い回しの可能性があり、同病院は調査を続ける。

 同病院によると、今年4月に着任した医療器具の滅菌担当者が使い回しを知り、院長に連絡。病院が調査した結果、循環器内科の不整脈治療を担当する医師らが使い回しを認めた。現時点で健康被害は確認されていない。

 カテーテルは1本約20万円。同病院循環器内科の平田健一診療科長は「国の通知に沿い、カテーテルの添付文書にある再使用禁止を守らなかったのは反省すべき」と謝罪した。

 同病院は6月に近畿厚生局と神戸市保健所に調査結果を報告。両者は7月13日に臨時の立ち入り検査を実施し、再発防止策を求める行政指導をしたという。(略)

このニュースを読んでもちろん大学病院が何と言う馬鹿なことを、と非難する声が多いのですが、使い捨てのカテーテルが一本20万と聞いて驚いたと言う声も少なからずあるようで、確かに日本の医療機器はちょっと価格設定的にどうなのかと言う気はしますでしょうか。
もちろん高価だからとカテを再利用すると言うのもどうなのかと思うのですが、記事にもあるように認められた本数だけで終わらない処置もままあると言うことであれば、一本余計に使うたびに20万円づつ赤字がかさんでいくというのは確かに病院にとっては痛いことではあるのでしょう。
こうした場合赤字になることは一切しないと言う経営感覚を持っている医師ばかりなら医療財政ももう少し好転しているのかも知れませんが、はっきりしって大学病院の医師のように最も経営のことを考えていなさそうな方々がこうした行為に走っていたと言うのは少しばかり意外な気もするところで、そんな無駄なリスクを冒しても別に給料増えるわけでもないだろうにと思ってしまいますが、神大病院ではまた違った事情でもあるのでしょうか?
国にしても感染防止のためにはディスポがいいと言うのであれば、きちんとそれで赤字にならずに済むような診療報酬を設定すべきなんだろうと思うのですが、この辺りの診療報酬設定の現場感覚に沿わないおかしさと言う点で、先日こんな記事が出ていたことも紹介してみましょう。

「手術時間短縮で減点」回避へ、今秋に要望 ( 2015年7月29日医療維新)

 外科系学会社会保険員会連合は7月28日の会見で、2016年度診療報酬改定に向けて、手術後の生存期間や手術時間短縮、医療紛争リスクなど、新たな5つの評価軸を、今秋まとめる予定の外保連手術試案8.3版に盛り込む方針を明らかにした。2014年度改定では、帝王切開手術の点数が、手術時間が短縮した結果、「人件費などが減った」などと受け止められ減点も起きていて、適正な評価につなげたい考え。
 また既に2016年度改定に向けて、厚生労働省に対し、452項目の改定要望を出していて、瀬戸康之実務委員長は、要望の採用を増やしたい考えも示した。

帝王切開手術の引き下げが契機に

 外保連手術試案は、2010年度改定から診療報酬改定の参考資料として用いられるようになり、8.2版までは、手術について、「人件費」「技術度」「手術時間」「医療材料」の4項目を評価軸として活用されてきた。結果として、2014年度改定では、帝王切開手術をはじめとして、手術時間の短縮が救命や予後改善につながる手術において、人件費などの観点から引き下げられる事態が起き、問題になっていた。外保連の岩中督会長は、「(手術時間の短縮などの)背景を発信しないといけない。頑張った結果が、マイナス改定はおかしい」と、今回の検討経緯を説明。

 外保連では、2014年から、川瀬弘一氏を座長とする新たな評価軸を検討するワーキンググループを立ち上げて、検討を続けてきた。このほどまとまった評価軸は、(1)手術を行うベネフィットのスコア化の策定(生命維持・延命効果、QOLの維持・改善効果、医療資源の有効活用)、(2)医療紛争リスク、(3)手術中の緊急度(レベル別、エビデンスの有無により3段階に分類、(4)2つの命を扱う手術、(5)費用対効果――の5項目。これらは、これまで用いていた4項目とは異なり、全ての術式に対して適用するのではなく、該当する術式のみに評価軸として使う。今後、外保連の加盟学会に対し、該当する術式を募集し、手術試案8.3版に入れ、改定の際に評価を求める。ただし、評価点数までは示さない見込み。
(略)

在来線が新幹線になれば普通世間では高い特急料金が加算されるのが当たり前に受け入れられている中、医療の世界では「乗っている時間が短くなったんだから料金も安くなって当然だろう」がまかり通りのですから何とも良心的な顧客重視の姿勢と言うべきですが、特に産科領域などは基本的に保険診療外の業務であるわけですから、儲からないものはやめようと言う判断がまかり通れば結局顧客利益につながるのかどうかです。
この帝王切開手術の報酬引き下げについてはそれなりに長いバックグラウンドがあって、そもそもは平成19年に日産婦が出した提言で「努力目標としては30分以内に帝王切開が可能な体制を目指していく」と書かれていたことがそもそもの発端とも言え、この後「緊急帝王切開は30分以内に行われなければならないと学会がガイドラインを示した」と言う30分ルールなるものの誤解が全国に広まっていったとも言えます。
当時からすでに「そんなことが可能なのは一部施設だけで、ほとんどの施設では2時間ルールがせいぜい」だと散々に言われたものでしたが、ある意味では予想通りにこの提言を引用し横浜地裁で「帝王切開決定から施術までに1時間以上を要したので、子どもが仮死状態で生まれ脳性麻痺になった」と一億四千万円の損害賠償が認められた判決が出されたわけですから、それは産科医も頑張って帝王切開を一分でも早くと努力するでしょうね。
こうして手術の時間も短くなった、よかったと思いきや、国からは「そんな短時間で済む簡単な手術ならもっと診療報酬減らしてもいいよね?」と点数カットされたのでは泣くに泣けないとはこのことですが、ここでも「無駄な検査や治療をしない名医ほど報酬が少なくなる」と言う古来言われる出来高制の矛盾点などと同様、診療報酬と言うもののあり方に疑問を感じずにはいられないところではあります。

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コメント

医者が金儲けばかり考えてるからこうなる

投稿: | 2015年8月 3日 (月) 14時12分

リハビリを真面目にやると特養から追い出される。
真面目にやる人が馬鹿を見る。安楽死制度を早く導入しなさい。

投稿: ; | 2015年8月 3日 (月) 15時40分

1本20万(定価)で、実際の納品価格はその1割とかじゃないの?
医療機器の定価設定が異常なのはそういうことかと思ってたけど

投稿: | 2015年8月 3日 (月) 17時25分

>1本20万(定価)で、実際の納品価格はその1割とかじゃないの?

この部品については分かりませんが、一般的にはプリンターと同じで本体は安くしてくれるのに消耗品は・・・ってことが多いです。

投稿: クマ | 2015年8月 4日 (火) 10時23分

現場の医師はむしろ定価よりも売価の方を承知しているように思いますがどうでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2015年8月 4日 (火) 10時39分

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