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2015年8月28日 (金)

日医、国に医師の人権を売り渡す提言をまとめる

日本医師会(日医)と言う組織が既得権益確保にとにかく熱心なのは業界団体である以上当然と言えば当然なのですが、その既得権益と言うことをいよいよ露骨に表立って言い始めたと話題になっているのが、先日出されたこちらの提言です。

医師の偏在解消に向け、医師会など緊急提言へ(2015年8月20日 読売新聞)

 日本医師会と全国医学部長病院長会議は19日、地域や診療科ごとの医師の偏在を解消するための緊急提言の骨子を発表した。

 骨子は、〈1〉生涯にわたり異動を把握する「医師キャリア支援センター」を各大学に設置〈2〉臨床研修は原則、出身大学のある地域で行う〈3〉地域の診療科ごとに必要な医師数を把握する――など。「現在の医師不足の本質は、絶対数ではなく、地域・診療科ごとの偏在にある」としており、近く正式な提言書にまとめ、厚生労働省などに提出する予定。

「大学が生涯、医師の異動を把握」案提言、医学部新設対案「歯学部になりたくない」との吐露も、日医など(2015年8月20日医療維新)

 日本医師会と全国医学部長病院長会議は8月19日、医学部新設への実質的な対案となる「医師の地域診療科偏在解消の緊急提言」の骨子を公表し、会見を開いた(資料は、日医のホームページ)。 提言の骨子には、卒業大学が医師の異動を生涯にわたって把握する「医師キャリア支援センターの設置」や、「大学所在地域における研修の原則化」「医療機関管理者要件への医師不足地域での勤務経験の導入」などが含まれていて、大学医局機能や、医師への規制強化とも受け取れる内容が並んでいる。
(略)
 趣旨説明では、「現状の医師不足の本質は、医師の地域・診療科偏在で、これらの解消こそ喫緊の課題」との立場に立っている。さらに、「課題解決のためには、医師自らが新たな規制をかけられることも受け入れなければならない」と指摘して、「現状に対する危機感の下、相当の覚悟を持って提言を取りまとめた」としている。
 「相当の覚悟」について、日本医師会副会長の中川俊男氏は、「最大の危機感は、申し訳ないが、歯学部のようになりたくない。国民が質の高い医療、医師を求めていると考える中で、適正な医学部定員を守らないといけない」と発言。その上で、「医師自ら新たな規制をかけられることまで覚悟をした上での緊急提言。医療界や医師会内部でも反発があるとみているが、それでも今出すのが決意の表れ」と述べた。

医師の行方把握「大学の義務」

 提言骨子の5つの柱は(1)医師キャリア支援センター構想、(2)出身大学がある地域での臨床研修、(3)病院・診療所の管理者要件への医師不足地域での勤務経験の導入、(4)地域ごと、診療科ごとの医療需給の把握、(5)医学部入学定員の削減と新たな医学部設置認可の差し止め――の5つ。
 (1)については、全ての大学に「医師キャリア支援センター」を設置する考え。センターに卒業生全員が登録し、大学が生涯にわたって医師の異動を把握、研修医マッチングや臨床研修、専門医、生涯教育にわたって、キャリア形成に関与する。
(略)
 (2)では、出身大学がある地域での臨床研修を原則化し、需給が均衡しない場合、「医師キャリア支援センター」の全国組織で調整する考え。「強制力や罰則を持たせない」(日医常任理事の釜萢敏氏)方針だが、大学の研究成果などの自校教育を実施して、「地域への愛着をはぐくみ、地域での臨床研修意欲につなげる」(提言骨子)としている。
森山氏は、現状の医学部定員の地域枠においても「法的拘束力がなく、ルーズなところがある」と指摘。臨床研修を行った地域に医師が定着しやすいとの見方もある中で、偏在解消に期待を示す声が出た。

地域医療の経験の重要性強調

 (3)の病院・診療所の管理者の要件として、「医師不足地域での勤務」の導入を提案。「医師不足地域」は、都道府県の持つ「地域医療支援センター」や都道府県行政が調整して指定する構想で、森山氏は、「強制的に思えるかもしれないが、地域医療における経験は医師養成の意味から重要」として、理解を求めた。
 (4)では、大学の「医師キャリア支援センター」が、地域医療支援センターや医師会とともに、各地域の現状と将来の医療受給のデータを把握する考え。医師配置の自主的な収斂を目指していて、医師や医学生の診療科選択に当たっては、大学の「医師キャリア支援センター」が相談に乗る構想。
 (5)では、現在の医学部定員について、本格的な見直しが予定されている2019年度を待たずに、早急な削減を提言。地域枠を維持する場合は「一般枠の削減」を求めている。さらに、千葉県成田市における医学部新設構想については、「認めることができない」として、差し止めるようを求めている。

まあどれだけ時計の針を逆回転させるつもりなんだと言う前時代的な提言ばかりが並んでいると言う印象で、「こういうことを考える人間が上に立っている組織はヤバい」と言う声も少なからず聞こえてくるのですけれども、しかし「歯学部のようにはなりたくない」とは彼らの本音を極めて端的に示した、けだし名言と言うべきでしょうか。
ちなみに今やワープア化著しく学生を集めるのも困難になっていると言われる歯科医の現状はすでに各方面で報じられている通りですが、そもそもこうした状況が予想され現実化しているにも関わらず歯学部定員を絞り込むことが遅れに遅れたことが状況を悪化させたことは明らかですし、「高収入の歯科医にこんな亭偏差値でもなれる?!」と喜んで歯学部に入学した学生達こそ一番の被害者と言うべきでしょう。
一方で同様に供給過剰が続き崩壊した弁護士業界について見ると、例えば弁護士不在の田舎で原告、被告双方を担当する弁護士が揃わないため裁判が開けないと言う司法僻地解消も期待されていたのですが、実際にはやはり商売にならないからと全くそうした効果はなかったようで、供給過剰を続ければ田舎にも人材が満ちてくると言うほど単純なものではないと言うことも判ってきています。
医学部に関しても現状のままではいずれ供給過剰になると言う点では誰しも異論はないはずですし、現状のように単純に数だけを増やすことで何かしら問題が解決するわけでもないと言う予想をする人も少なくないのでしょうが、それでは時代を数十年逆行させるのがいいかと言えば、当時と今で医療環境が全く変わっていると言う点をわきまえない老人の妄想としか言い様がないですよね。

ちなみに見ていて興味深いのは、この提言の中で医療機関の管理者要件で医師不足地域の勤務経験を問うと言う話が出ていることなのですが、この医療機関の管理者と言えば日医会員である可能性が高い層だと思われますから、会員から裏切りではないかと批判される余地がありそうに思えます。
ただ他の提言などを見ても判るように、今現在現役の医師を対象として行えるとは到底思えない提言が並んでいることから、恐らく日医の考えとしてはいついつ以降の医師免許取得者に関してはこうすると言ったいつもの若者を人身御供に捧げる方式であろうし、その意味では現在の偉い日医幹部の先生方にとってはむしろ新たな商売敵の参入を抑制する一石二鳥にも三鳥にもなるアイデアとも言えそうです。
実際に底辺私大や駅弁大学(失礼)を卒業して都会の一流大学の医局に入局すると言う、いわゆる学歴ロンダリングを行っている先生方も多いわけですが、こうした方々は当然ながら入局した医局と関連する地域で働いているケースが多いと思いますから、過去に遡って出身大学界隈に戻れと言われても地域医療の崩壊なしに行うことなど出来そうにないですよね。
そうしたことから考えると現実性には少なからず疑問符がつく提言なのですが、医師の団体を自称する方々からこうした話が出てきたと言うことの意味合いは決して小さなものではなく、日医の偉い先生方が今後国と折衝する過程で確実に既得権益を確保できる目処が立つのであれば、もう少し現実的方法論で若手医師を売り渡すと言う妥協案は成立する余地があるのかも知れません。

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コメント

医師不足地域がどこかってことで一悶着ありそうな提言ですねえ。ある意味埼玉も医師不足地域ですし。
どうせ厚労省が何枚も噛んだ提言なのでしょうけれども・・・

投稿: クマ | 2015年8月28日 (金) 08時10分

これって、事実上の「医師キャリア支配センター」じゃないか。
また白い巨塔をおっ立てる気かよ。

こうなるといよいよ町医者は一回淘汰されたほうが良い気がする。
生き残りをかけてサービス面の向上してる歯科診療所と比べて、
ボロくて汚ねぇ設備のまま我が物顔で名士ぶってる医者多すぎだろ。

こんなもん若手の医者も可哀相だわ。

投稿: | 2015年8月28日 (金) 08時23分

日医に昔みたいな影響力がなくてよかった。

投稿: ぽん太 | 2015年8月28日 (金) 08時57分

日医と医学部長会議のコラボ提言ですが、今後の医療環境の変化を全く知らない内容。
ほぼ全体が現実離れした妄想で、おつむボケすぎじゃないのって。
実際の今後の医師需要供給の変化は、日医と医学部長会議の主張と間反対の方向なんですが。

投稿: physician | 2015年8月28日 (金) 09時48分

今後医師不足が深刻化するのは地方ではなく大都市なんですがこいつら大丈夫か
医師会 駅弁大の教授だけ得する提言
地方の医療崩壊より大都市の医療崩壊のが影響は大きいのにそれを後押しする内容

投稿: | 2015年8月28日 (金) 10時18分

地方は人口も減って、今後は医師も足りてきます。
地方は人口少ないのに、病院がありすぎて、医者いないって言ってる。
だったら、病院まとめればすむが、それしないでごねてるのが日医と医学部長会議。
地方にある病院も医学部定員も減らされるの、嫌なんでしょう。
医者のこない医局の教授たちも、自分等の権限、さらになくなってきたし。
お気持ちはわかりますが(棒

今後は大都市圏にますます医者が必要、日医も医学部長会議もそれには眼をつぶっている。

投稿: physician | 2015年8月28日 (金) 11時24分

地方の中小病院には大学からの天下りポストの意味合いもありますので、大学側としてはおいそれと潰せないのも当然かと思われます。
日医にしてもそうですが、こうまで率直に権益維持を公言できると言うのはある意味ですごいかなとは感じますね。

投稿: 管理人nobu | 2015年8月28日 (金) 13時31分

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