« お祭り騒ぎの現場における微妙な一線 | トップページ | 間違った方法論によって導き出された結論はサイエンスの世界ではまともに相手にされません »

2015年8月21日 (金)

国がさらに一段と後発品利用を推進

本日の本題に入る前に、一体いつになったら締結されるのかと言うTPP交渉の中で、先日こんな話が出ていたのを御覧になったでしょうか。

TPP、合意見送り 新薬・乳製品の対立解けず(2015年8月1日日本経済新聞)

 【ラハイナ(米ハワイ州)=八十島綾平】環太平洋経済連携協定(TPP)を巡ってハワイ州のホテルで開かれていた日米など12カ国の閣僚会合は7月31日午後(日本時間8月1日午前)、合意を見送って閉幕した。医薬品に関する知的財産ルールや乳製品の貿易で対立し、各国の利害を調整できなかった。参加国は8月中の閣僚会合の再開を目指す。交渉の妥結に向けた機運をつなぎ留めることができるかが、当面の焦点となる。
(略)
 今回のTPP閣僚会合は7月28日から4日間の予定で開かれ、各国はぎりぎりの交渉を続けてきた。交渉最終日となった31日に向けて事務レベルでは前夜から徹夜の調整が進められ、「残された課題は相当数減った」(交渉関係者)。31日朝までに特産品に地名をつける地理的表示の保護ルールの交渉などは、おおむね決着したという。

 だが当初から難航が予想された薬品のデータ保護期間を巡る交渉は、最後までもつれた

 新薬を開発できる巨大製薬会社を抱える米国は企業が開発コストを回収できるように12年の保護期間を主張。一方、早期に安価な後発薬を使いたいオーストラリアやニュージーランドは5年を求め対立が続いた。閣僚会合では8年という妥協案で合意を目指したが、最後まで折り合うことができなかった。
(略)

今やこの新薬問題はTPP交渉最大の難関となっていると言う声もあり、当然ながら開発元の製薬企業が多く立地する米国としては保護期間を長く設定したい道理ですが、昨年米製薬大手が自社が特許権を持つ主力商品について後発品参入を妨げることを計画していたと報じられるなど、儲けに直結するだけに割合にきな臭い話題にもつながりやすいところではありますよね。
もちろん高い開発コストを回収できなければ新薬開発も進まず、結果として医療の進歩が滞ってより多くの人々の不利益になると言う理屈も成り立つわけで、製薬会社が適正な利潤を追求することは全く悪いことではないのですが、この辺りは発展途上国におけるAIDS治療薬の特許権問題などと同様、人の命に関わることもあるだけにどこまで経済的側面を追及すべきかと言う判断も難しい部分はあるかも知れません。
経済的側面と言うことで言えば、日本において後発医薬品の普及が進まない最大の理由として処方する医師にしろ薬を患者にしろ「安物」の後発品を使うメリットに乏しいと言うことも言われてきましたが、国としても何とか医療費削減のために安価な後発品利用を進めたいと言う気持ちの表れなのでしょう、先日はまた新たな誘導策が出てきたと報じられていました。

健保の健康対策に競争制…後発薬使用やメタボ健診率成績で負担増減(2015年8月14日読売新聞)

 厚生労働省は、会社員や公務員が加入する様々な医療保険事業者に対し、健康づくりを競わせる制度を導入する方針だ。

 健康促進や病気予防に優れた成果を出せば後期高齢者医療制度への支援金の負担を軽くし、成績が悪いと負担増のペナルティーを科す仕組みだ。健康への取り組みを活発化させ、医療費抑制につなげる狙いがある。今年度中に成績を評価するための指標を定め、2018年度からの導入を目指す。

 競争方式の対象となる医療保険事業者は、大企業の会社員が加入する健康保険組合(健保組合)、国・地方の公務員の共済組合、中小企業社員の全国健康保険協会(協会けんぽ)。いずれも加入者の大半は、働く現役世代だ。

 成績評価の指標は、〈1〉糖尿病の重症化予防への取り組み〈2〉後発医薬品(ジェネリック)の使用割合〈3〉特定健診(メタボ健診)の受診率――などが中心となる見通し。

しかし最近は自治体ごとに医療費削減を競わせたりと、何かとこの競争原理の導入と言うことが目立つ気がするのですが、その成績評価の基準の一つとして後発医薬品使用割合が取り上げられたと言う点も注目すべきですし、そうまで言わなければ後発品利用が進まないと言うのも何やら不思議な気もしますが、一面では後発品利用率と言う判りやすい指標で医療現場のコントロール策を模索しているのかも知れませんね。
後発品利用促進と言えば、かつて自己負担のない生保受給者は後発品利用率が一般患者より低いことが長年問題視されてきた経緯があって、「人権侵害だ!」と主張する進歩的な方々の反対を受けながら後発品利用を推進した結果、昨年ようやく一般患者を上回る後発品使用率を示したそうですが、これも未だに指導する自治体の対応の差なのか各地で利用率に大きな差があるようです。
そうした点からすると保険者に対するアメとムチと言うものがどれほど有効なのか?と言うことなんですが、例えば明示的な理由がなければ原則先発品処方はすべて査定対象にするだとか、先発品を出した場合は面倒くさい書類の提出をその都度求めると言った泣き所を突くようなやり方を徹底していくと、医師の側としては案外簡単に転向する先生が多いかも知れませんね。
もちろん後発品が先発品と全く同じではないことは医療従事者であれば周知の事実ですが、多くの場合その差異は多少の調節等で何とかなるものでしょうし、どうしても正当な理由があって先発品でなければ駄目だと言うのであれば堂々と先発品を使うことは誰も否定していないことなので、この辺りはこだわりを持つ先生には是非最後までこだわりを貫き通して欲しいものだとも思います。

|

« お祭り騒ぎの現場における微妙な一線 | トップページ | 間違った方法論によって導き出された結論はサイエンスの世界ではまともに相手にされません »

心と体」カテゴリの記事

コメント

なにかこう強制的にやらされると反発したくなる気もしますけど。
でも比較したらそんなに実害のないコストカットの部類なんだろうなあ。

投稿: ぽん太 | 2015年8月21日 (金) 08時39分

>医薬品に関する知的財産ルールや乳製品の貿易で対立し、各国の利害を調整できなかった。
 日米だけが後発品禁止期間を延長することに執着していたことは留意しておいた方がいい。
 米はともかく日本のメーカーがそんな開発力wがあるのでしょうかね。

 日本の製薬メーカーは国内で治験がやりにくい(保険医療が充実していて治験に参加したい患者が発生しないため)と、昔からぶーたれていましたが、国際的に治験のデータを使いまわすことを許す合意後は、ほとんどの治験を国外で安く実施し、国内では必要最小限のP3を行ったのみで保険収載して、後発品が出るまでの6年ないし10年あいだに「お上お墨付きの先発品公定価格」で利益を得ている状況です。
 国内発売時期も横並びなら、価格も横並びの 新規糖尿病薬群をごらんなさい。後発品が出てくるまで、国民医療費に費用を負担させながら上市後大規模試験でデータと金の草刈り競争をしている。後発品解禁は遅いほどよい理由は日米間でだいぶ違います。米は外国の患者から利益を得たい、日本のメーカーは日本国民から利益を得たいのです。
 ジェネで生き残れる薬こそが本物、と私は思っています。メトホルの復活が遅れたのはメーカーが足を引っ張ったせいもある、と思ってます。

投稿: 感情的なDM医者 | 2015年8月21日 (金) 09時57分

医療費抑制は直接的には税・保険料負担や窓口負担の軽減から国民に対しても利益になるので、為政者としては比較的推進しやすい政策だと思います。
それに対する反対論を単に既得権益維持のための業界の抵抗だと一般国民に感じさせてしまうのは、過去の行動による医療系団体に対する信用の無さに由来するのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2015年8月21日 (金) 14時05分

>米はともかく日本のメーカーがそんな開発力wがあるのでしょうかね。
今のアメリカの医薬品売り上げ1位は日本の薬だったような気がしますし、ある程度は・・・

そんなにジェネリックを普及させたいなら、先発品とジェネリックで窓口の負担割合を変えるのが一番手っ取り早いと思います。

投稿: クマ | 2015年8月21日 (金) 14時37分

ひょんな事から3年前に院内の採用を任されるポジションになったので、
思い切って古参の医者の意見を完全無視して既存の採用品をガンガン後発に切り替えたら、
月額の医薬品購入額で200万くらい削減できたなぁ。

窓口会計も前より安くなったと患者からも好評だったし、財政の苦しい地方なもんで、役場からも感謝されたな。
もちろん何人か薬が合わないって人もいたのは事実だけど、そういう人は院外処方箋で対応してもらった。

GEは製剤工夫も進んでるし、今後はそういった製剤化の技術もメーカーの競争力に関わってくる部分だと思うな。

投稿: | 2015年8月21日 (金) 18時12分

クマ先生
 塩野義のクレストール(古典ですね)のことでしょうか。金額的にはヒュミラ、レミケード、エンブレルといったRA新規薬に追い落とされています。良い薬なので生き残るでしょうけれど。大塚のエビリファイの評価はこれから。
 分子標的薬や生物製剤に日本のメーカーが必ず噛んでいるのは、成功したベンチャーを買収しているからで、商売上手といえても開発力ではないです。
https://www.utobrain.co.jp/news/20130724.shtml
商売上手に海外で稼いでいただきたいものですが
http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/mif_156.pdf
 バイオ系オーバードクター、プアPDを量産した一方でバイオ系医薬のプラントの立ち上げも韓国に負けてるし。

投稿: 感情的な医者 | 2015年8月24日 (月) 14時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/62115561

この記事へのトラックバック一覧です: 国がさらに一段と後発品利用を推進:

« お祭り騒ぎの現場における微妙な一線 | トップページ | 間違った方法論によって導き出された結論はサイエンスの世界ではまともに相手にされません »