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2015年8月18日 (火)

ながら手術は有害無益?

昔から音楽などを聴きながら行う「ながら勉強」は是か非か?と言う論争があって、効率が低下すると言う意見もあればかえって調子が出ると言う意見もあるようで、この辺りは個人差や程度にもよる問題なんだろうと思いますが、医療の世界においては先日こういう調査結果が出たと言うニュースが出ていました。

手術中の音楽、患者の安全を脅かす恐れ 研究(2015年08月07日AFP)

【8月7日 AFP】音楽をかけながらの手術では、手術チーム内で会話が聞き取れずに返事を促す可能性が、音楽をかけていない場合の5倍におよぶとの研究結果が、5日の専門誌「先進看護ジャーナル(Journal of Advanced Nursing)」に掲載された。音楽をかけながらの手術は一般化しているが、論文はこの習慣に疑問を投げかけている。

 研究論文は「手術室での音楽は(手術)チームのコミュニケーションをさまたげる可能性があるが、安全を脅かす恐れのあることとしてはほとんど認識されていない」と警告している。

 研究者によると、50%以上の手術が音楽をかけながら行われている。割合は国によって異なり、たとえば英国では音楽をかけながらの手術が72%に上っているという。

■音楽かけながらの手術、返事促す回数5倍に

 手術室で音楽をかけるのは最近始まったことではない。100年前、英国の草分け的な外科医は、手術前に麻酔をかけた患者の気分を落ち着かせるために、音楽家を雇って演奏させていた。だがこの慣習はやがて、患者のためのものから、手術スタッフのためのものへと変化して行った。

 外科医が音楽をかける理由は、ストレスの緩和、ホワイトノイズの遮断、集中力アップなどさまざまだ。しかし、その有効性や悪影響についてはこれまでほとんど検証されたことがなかった。

 英インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)の上席研究員、シャロンマリー・ウェルドン(Sharon-Marie Weldon)氏ら研究チームは、英国で6か月間に行われた音楽のかかっている手術、かかっていない手術、計20件を録画した。

 結果、医師あるいはスタッフが、話し掛けた相手に応答を求める事例が5000回以上あった。そのような事例は、音楽がかかっている場合がそうでない場合の5倍だった。

「音楽に外科医の集中力を高める効果や外部の雑音を遮断する効果があるかどうかにかかわらず、チームのコミュニケーションを損なう恐れのあるものは何であれ、患者の安全を脅かす恐れがある」と、論文は結論付けた。

しかし話しかけても返事がないと言うのは、一般的に集中している状況と言うものを想像できて目的にかなっているとも思えるんですが、単に音楽がうるさくて聞き取れなかったと言ったことであればそれば音楽の是非ではなくボリューム調節の問題と言うことになりそうな気もします。
ちなみに掲載誌を見る限りでは手術場ナースが中心になってまとめた論文なのでしょうか、日本で看護研究と言われれば何やら妙な理由で一定のバイアスがかかってみられそうにも思うのですが、当事者である外科医側の見解がどうであるのかと言うことも気になる一方で、やはり客観的指標として外部目線での評価と言うことも必要なんだろうとは思いますね。
そもそも手術室に何故音楽をかけるのか?と言う点は諸説あるようですが、日本の医療現場で見る限りでは当の外科医がこれがいいと選んで曲を流していると言うことはあまりなさそうであって、多くの場合には何となくリラックス出来そうなBGMが漠然と流れているだけのように思いますが、その種の音楽に関して言えば別に外科医の気分を高めると言う効用はあまりないのだろうし、デメリットだけが出る可能性はありそうです。
今年出ていた別の論文ですが、外科医が始めた手術と無関係な会話は外科医/麻酔医のチームワーク悪化と関連し、騒音は外科医のストレス増加および麻酔医の作業負荷増加と相関したと言い、まあ外科医がくだらない親父ギャグを連発しているような環境は麻酔科医もゲンナリするだろうとは想像は出来るのですが、単純に騒音と言うものも手術場における阻害要因になるのはまあ判る話ですよね。

ながら勉強の話に帰って経験者の語るところを聞いてみても、肯定派のしばしば言うところの「お気に入りの音楽を聴きながら勉強すると効率が上がる」と言うのは、逆に言えばどうでもいい音楽を流しても単なる騒音にしかならないと言うことでもあるのだとすれば、単純に音楽が有益なのか有害なのか?と言う調査だけでは意味がなくて、その音楽に対して外科医がどう評価しているかと言う視点も必要になるのかも知れません。
ただ当然ながら手術場にいるスタッフは外科医だけではないのだし、何人かのスタッフがいれば人数分の音楽の好みがあるはずですから、執刀医がお気に入りの曲が他のスタッフにとっては単なる騒音にしか過ぎないと言うことになれば、これは確かに全体としての効率が低下してもおかしくはない道理ですよね。
究極的には各個人がイヤホンなりを装着してお気に入りの曲を聴いていた場合にどうなるのかと言うところに行き着きそうですが、当然ながらその場合スタッフ間の意志疎通をきちんと確保する工夫も必要になるわけで、そこまで手間暇をかけるくらいなら最初から音楽なしでやるか、せいぜいどうでもいい無難なBGM曲を流すくらいでいいんじゃないか…となれば、まさしく今の日本の手術場の光景そのものになってきそうです。
ただし手術を行う側の効率としてはそんなこんなでさほどに有益な点がないのかも知れませんが、患者側にとってのリラックス効果と言うものはそれなりにある可能性もあって、例えば病室を出た時からイヤホンでお気に入りの音楽なりを聞いておけば余計な周囲からの雑音も遮断できて、気持ちよく麻酔がかかると言った効用があるのかどうかは誰か調べて見る価値があるかも知れませんね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

運転中は眠気を抑えるんでしたっけ?
ほんとに集中してたら音楽きこえないかなって気もしますけど。

投稿: ぽん太 | 2015年8月18日 (火) 08時12分

>英国で6か月間に行われた音楽のかかっている手術、かかっていない手術、計20件を録画した。
母数20?しかも 掛かっているのといないのの合計で?
こんなので「論文は結論付けた」エッヘンって言われてもなあ。
たまたまドクターやナースが年寄りで、シムケンじゃないけど
「あぁ?あんだって?」状態だったのかもしれないし
若くても 滑舌が悪いスタッフが入ってたのかもしれないし。

投稿: | 2015年8月18日 (火) 09時25分

元論文に当たっていないので何とも言い難いのですが、記事から読む限りではこれだけでは何とも言い難いと言う印象も受けるところです。

投稿: 管理人nobu | 2015年8月18日 (火) 12時21分

いつも楽しみにしています。
人間の集中力は2~3時間程度しか続かないので、普段はリラックス、必要に応じて集中力を上げて手術を行っています。いつでも目をつり上げて集中しなくてはいけないっていうのは素人の考えることで、達人はリラックスして集中するのです(^-^)。
手術開始から問題がないところは世間話も馬鹿話もしたり、音楽を聴いたりなどいろいろな人がいます。本当に集中力を上げる必要ができたときのために普段は肩の力を抜いてリラックスしておく。なかなか理解しづらいのかもしれませんが。多分ドラゴンボールのカウンターをつけていれば集中力が出たときには100倍くらいにググっーて上がっていると思います。

投稿: 外科医です | 2015年8月18日 (火) 13時00分

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