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2015年7月 8日 (水)

高齢者地方移住計画、受け手は必ずしも反対しているわけではなく

ちょうど2年ほど前から国が高齢者を都市部から地方へと移住させることを考えていると言うニュースが出ていましたが、そんな話が一気に話題になったのが先日の日本創生会議による提言で、将来的に介護人材が不足するから首都圏の高齢者を地方に移住させよと言う内容が棄民だ、現代の姥捨て山だと話題になったものでした。
もちろん当事者にもそれなりに言い分があると言うことは想像に難くないところで、この「首都圏高齢化危機回避戦略」に関しては同会議HPにも詳細な資料が掲載されていますけれども、先日は同会議のメンバーで今回の提言をまとめた高橋泰教先生が、その提言の狙いとするところをこんな風に解説しています。

「創生会議が提言した『老人の地方移住』は姥捨て山ではない」国際医療福祉大学大学院の高橋泰教授に聞く(2015年6月25日日経ビジネス)

(略)
 今回の日本創生会議の提言に対して、首都圏と地方で受け止め方に温度差がありました。その理由を私なりに考えてみますと、首都圏ではまだ介護クライシスが起きていない。だから、実感が湧かないんでしょうね。(略)ただ、データを少しでも触ってみれば、(自然災害やテロなどによる)原発事故よりも介護クライシスの方が間近に迫っていることがヒシヒシと分かるはずです。
(略)
 年齢別の医療介護需要の発生率を推計すると、入院需要は2025年までに全国平均で14.1%増えます。具体的に言うと、1日当たりの入院需要は2015年に133万人だったものが、2025年に152万人に増えます。
 先ほども申し上げた通り、一都三県では後期高齢者がこの10年間で急増します。そのため東京圏では入院需要の増加率が全国で最も高くなります。2025年には埼玉県で25%、神奈川県で23%、千葉県で22%、そして東京都が20%増加します。
(略)
 要するに、入院を要するような急性期医療についても、介護など慢性期医療についても、東京圏は極めて厳しい状況にならざるを得ないと言えます。まずは、この現実をより多くの人に知って欲しいと思います。
 政府は、介護施設に入りきれない人は在宅で介護しようとしていますが、それだけの数の老人に対して在宅でサービスを提供するためには人手が要ります。厚生労働省が「地域包括ケアシステム」と称して実現を目指していますが、課題は人材です。今でさえ介護サービスを提供する人が不足しているのに、人材を供給できると思いますか
(略)
 それで、このまま状況が大きく変わらない限り、介護クライシスが近い将来起きるのはほぼ間違いない。だからこそ、一人ひとりが引退後にどう生活していくかをディシジョン(決定)しなければなりません。今回の提言では、そのための選択肢も提示しました。それが、医療や介護の提供体制が比較的充実している地方への移住です。
 仕事をしている現役時代は仕事がある都市部に住むのが便利だし、合理的です。だけどリタイアすると医療と介護の比重が増します。収入も給与から年金に代わるので定額となる。そうするとお金をいかに効率的に使うかがより重要となります。

年金額は東京でも沖縄でも変わらないので、だったら生活費が安い地方に住んだ方がお得でしょう、ということですか。

高橋:そうそうそう。6月4日に創生会議が今回の提言を発表した記者会見の場でも、私が申し上げました。例えば、東京の人が大分の別府に住めば、「、2LDKに住んでいる人は3LDKに温泉付きに変わりますよ、また孫を連れた旅行ができるぐらいの余裕が出てきますよと。
 そういう利点を時間をかけて説明したつもりでしたが、ほとんどのニュース番組は「創生会議が東京の老人は地方に移り住めと提言した」みたいに報じたでしょ。ちゃんと報道してくれたのは大江麻理子さんのところ(テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」)ぐらいじゃないかな…
(略)
 繰り返しになりますが、創生会議の提言というのは、近い将来に東京圏では医療施設の深刻な不足が予想されますよ。その現実を踏まえて、地方に行きたい人は行って下さいと申し上げているだけです。全員が移住すればいい、なんて考えてもいません。ある一定の割合の人が地方に移り住むだけでも、東京圏の医療施設に余裕が生まれるから、みんなにとってハッピーじゃないですか。
(略)
 日本の人口は減っていくというのは避けられない現実です。全国一律に人が減っていくのは最悪のシナリオなので、これからは「住みやすい場所」の競争になっていくのが理想です。首長さんも自らの自治体の魅力をどう高めていくかという視点で選挙を戦ってはいかがでしょうか。とにかく住みやすい場所を提供して人口を増やす、もしくは維持した場所が生き残る。そういうことも創生会議の記者会見では申し上げたつもりでした。
 だけど、(番組の)尺の問題なんでしょうかね。ニュースとしては「老人は東京から出て行け」と創生会議が提言した、みたいなニュアンスで報道されてしまうのです。
(略)

高梁先生自身のお考えにももちろん人それぞれに頷ける点も多々あるだろうし、人生の中で時期毎に最適な地域に移り住むと言うことは世界的に見てそう珍しい行動でもないのですが、やはり高齢者と言う存在が現代日本においては医療や介護などにおける最大の消費者であり、基本的にそのお世話には大きなコストがかかり持ち出しになりがちであると言う点にも注目しないわけにもいきませんよね。
地方の方が医療や介護が充実していると言うのはその地域に長年暮らしてきた方々が支払ったお金によって、よりよい住民サービスを提供するために公的な資金も使って整備されてきたはずですから、若い時期は便利な都会暮らしで楽しく過ごしておいて、歳をとったら他人がお金を出して作ってきたインフラにタダ乗りしようでは童話「アリとキリギリス」を思い出させるような話にもなりかねません。
この点で高齢者自身にとっては確かにメリットがあることでも、受け入れる側にとっては正直あまりうれしくないと言うことになる可能性がどれくらいあるのかが気になりますが、先日全国の都道府県知事を対象に行われたアンケート調査ではこんな結果が出たと言います。

高齢者地方移住 「賛成」は知事の3割 財政負担増に懸念(2015年7月6日東京新聞)

 都道府県知事を対象とした共同通信のアンケートで、東京圏の高齢者の地方移住を進めることに「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えたのは約三割の十三人だったことが五日、分かった。「反対」「どちらかといえば反対」は東京など六人。残る二十八人は賛否を明確にしなかったが、移住者受け入れに伴う財政負担の増加を懸念する声が続出した。民間団体「日本創成会議」の提言を受け、政府は東京一極集中の是正を目指す地方創生の目玉策として移住促進を打ち出したが、自治体側の慎重な姿勢が浮かんだ。

 高齢者移住の促進に「賛成」は山形、和歌山、鳥取、徳島の四人で、「どちらかといえば賛成」は岡山や長崎など九人だった。山形は「高齢者の受け皿整備は地域の雇用を確保し、若者の定住促進にもつながる」と理由を説明した。

 「反対」は東京、神奈川の二人、「どちらかといえば反対」は茨城など四人。茨城は「高齢者が住み慣れた地域で、最期を迎えることができるような施策を進めている」と強調した。

 「どちらとも言えない」は青森や熊本など二十六人で、地域活性化効果に期待しながらも、負担増への恐れから賛成に至らない回答が目立った

 埼玉、千葉、東京、神奈川の四都県を除く四十三道府県に、医療・介護のサービス不足が深刻化するとされる二〇二五年ごろ、東京圏の高齢者を受け入れる余裕があるかを尋ねたところ、約半数の二十人が「ない」「あまりない」と回答。余裕が「ある」「ある程度ある」とした山形、和歌山、徳島、高知の四人を大幅に上回った。
(略)

しかし現状でさえ東北地方などは高齢化率がハンパないと思うのですが、高齢者が増えて地域活性化効果や雇用促進効果が期待出来るのであれば、こうした超高齢化地域ほど経済的に栄えていなければおかしいんじゃないかと思うのですけれども、実際のところどうなんでしょうね。
この賛成3割と言う数字が高いのか低いのかも何とも判断が分かれるところなんですが、一方で反対が多数派に登るかと言えばむしろ賛成よりも少なく半分以下の1割強と言ったところで、当然ながら財政負担など様々な懸念はあるにせよ、決して頭から拒否と言う感じではなさそうですよね(当の東京、神奈川など首都圏が反対に回っていると言うのもなかなか興味深いですが)。
近年では引退後に物価が安く年金の使いでがある東南アジアなどに移住する高齢者もいると報じられていて、これまた現地事情に疎いまま移住を決めてしまうと誰も友達のいない孤独な日々が続くだとか、最悪何かしら犯罪行為に巻き込まれるリスクもありとも言い、その挙げ句に結局日本食レストランで食事をしているのではかえって日本にいるより高くつくと言う声もあるようです。
国内移住においても医療・介護に関しても基本的には全国一律の公定価格がベースになっている以上、特にこれらに対しての支出割合が多くなる高齢者の場合は支出面で果たしてどこまで移住のメリットがあるのかはっきりしない部分もあって、さらに今後高齢者の医療費自己負担率軽減の特権が廃止されてくるようになってくればますます有り難みは減ってくるかも知れません。
そうしたリスクをしった上で、長年住み暮らしてきた地縁や人脈を捨てて移住する価値があるかどうかは個人の価値観の問題もあるかも知れませんが、周りの高齢者と呼ばれる方々の生活ぶりを見ている限りでは「夕食のおかずが一品増え」ることにさほどの意味を見いだしそうな人も多くはないだけに、移住のメリットがあるのは身よりも友人もなく介護の担い手不足で都内にいられなくなった寝たきり老人ばかり、と言うことになるのかも知れないですよね。

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コメント

>山形は「高齢者の受け皿整備は地域の雇用を確保し、若者の定住促進にもつながる」
ほんとかなあ?だって山形も含めて若者たちは
>都市部に住むのが便利だし、合理的
って考えてるからどんどん東京に出ていくわけでしょ?
ましてや生み出される雇用は喰っていけない程給料が安い介護職。。。
どうにもお役人様の机上の理論の様に見えてならないのですが。

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 07時19分

死んだらその土地で遺産全部税金に納めるとかだったらありかもね

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 07時44分

今だって介護職員不足なのに雇用創出もなにもないかと。
知事さんが思いつきで言ってるだけくさいですね。

投稿: ぽん太 | 2015年7月 8日 (水) 08時16分

>東京の人が大分の別府に住めば、「、2LDKに住んでいる人は3LDKに温泉付きに変わりますよ、また孫を連れた旅行ができるぐらいの余裕が出てきますよ

大嘘だな
狭い持ち家⇒広い持ち家に住み替えられたとして、
インフラコストの高い地方では、都会より光熱費高い
生活必需品も、流通のいい都会の方が安価
孫を連れた旅行では、交通の便のいいところに出るまでの交通費が余分にかかる

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 09時16分

今でも高齢者が多い仙台以外の東北の都市と福岡 熊本を除く九州諸都市の廃れっぷりを見ると
高齢者移住で雇用創出、若者も移住するとか絵に描いた餅も良いところ

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 09時44分

普通に考えれば地方にとってはメリットの乏しい話で、肝心の高齢者の利益もはっきりしないですので、これだけで高齢者移住を促進させようと言うのは半ば詐欺に近い行為のような印象が拭えません。

投稿: 管理人nobu | 2015年7月 8日 (水) 11時23分

東京が地方に負担を押し付けようとしているような話になってますが
だったら最大の利益享受者であるはずの東京がなぜ反対しているのか
ということですやはり正確な情報が出回っていないと考えるべき

実際は東京が損をして地方が得をする話なのかもしれません

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 13時14分

>「東京一極集中の是正を目指す地方創生の目玉策」

政治経済全て東京に集中させ、貢献しないような老人を地方に移動させるっていうことだから
さらに一極集中が強まるはずですよね。
どこが是正を目指すなんだろうか。小学生でもおかしいとわかるレベル。

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 15時11分

ていうかあれだな
地上の楽園的な胡散臭さを感じる

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 16時02分

>医療や介護の提供体制が比較的充実している地方への移住

あー
充実してるんだ、はじめて知った

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 16時11分

地方にとってもメリットがあると言うより、東京が不幸になるんだから地方も一緒に共倒れしようぜって言ってるようにも聞こえる
現実的に東京が一番金持ってるのに、なんで自分達で金出して整備しないで田舎に丸投げしようって思うんだろ?

投稿: たま | 2015年7月 8日 (水) 22時07分

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