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2015年7月21日 (火)

二つの業務上過失致死裁判

東京で発生した脊髄の造影検査時の造影剤誤投与による患者死亡事件について先日お伝えしたところですが、本日まずはその裁判の判決を伝えるこちらのニュースから紹介してみましょう。

造影剤誤注入で患者死亡、医師に有罪判決「初歩的ミス」(2015年7月14日朝日新聞)

 国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)で昨年4月、女性患者(当時78)の脊髄(せきずい)に誤った造影剤を注入して死亡させたとして、業務上過失致死の罪に問われた女性医師(30)の判決が14日、東京地裁であった。大野勝則裁判長は「ミスはごく初歩的であり、過失は重い」として禁錮1年執行猶予3年(求刑禁錮1年)を言い渡した。

 判決は、造影剤の箱などには「脊髄造影禁止」と目立つように朱書きされていたと指摘し、「ほんの少し注意を払えば使用してはならないと容易に気づけた」と批判。一方で、「反省し謝罪を重ねている」とした。判決後、患者の次男(50)が記者会見し、「医師の教育が不十分であり、病院の過失も非常に大きい刑事事件で医師しか裁けないのは限界を感じる」と述べた。

 判決によると、女性医師は昨年4月16日、脊髄造影検査をする際に、患者に脊髄への使用が禁止されている造影剤「ウログラフイン」を誤って注入し、患者を死亡させた。

この事件に関しては前回もお伝えした通り、システム的な問題としても非常に多くの教訓をはらんでいると思うのですが、医師は終始事実関係を否定することもなく、事故後は真摯に謝罪と反省をした上で臨床の現場を離れ一切診療も行っていないと言うことですから、過失は重いとしながらも執行猶予がついたと言う点ではそれなりに情状酌量の余地有りと判断されたのかどうかですね。
医療関係者は背景事情を非常に問題視していて、その部分を何とかしないまま個人の努力不足、勉強不足が問題だといたずらに責任を追及しても何度でも再発する可能性があると主張してきたわけですが、検察側はそうした問題はあくまでも背景事情であると一刀両断した形で、記事からも伺える通りこの辺りは裁判に影響を与えたもう一つの要因として遺族の処罰感情もあったのか?とも推測されるところです。
さて、当「ぐり研」では以前にも何度か「ズンズン運動」なるものを取り上げて来たところですが、全く無資格の素人が乳幼児の首をひねり上げ死なせてしまうと言う重大事故を何度も繰り返してきた、そして事件後も「施術が原因ではない」と繰り返し今後も施術を続けていくと主張していたと言うことですから、まあ普通に考えるならば謝罪も反省も全く見られないと受け止めるべきなのかと言う気が致します。
この術者がその後業務上過失致死に問われ裁判になっていたわけですが、先日その経過を伝えるニュースが出ていたのでこれまた紹介してみましょう。

「おわびと償いの人生歩みたい」…乳児施術死、禁錮1年を求刑 「ズンズン運動」元理事長に(2015年7月14日産経新聞)

「ズンズン運動」と称する独自の施術で生後4カ月の男児を昨年6月に死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われたNPO法人「子育て支援ひろばキッズスタディオン」(新潟県)=解散=の元理事長、姫川尚美被告(57)の論告求刑公判が14日、大阪地裁(柴山智裁判長)で開かれ、検察側は禁錮1年を求刑した。判決は8月4日。

 検察側は論告で「医学的根拠もなく男児の動脈を繰り返しもみ、窒息状態に陥らせた。過去にも施術後に死亡した例があり、人命軽視の態度が甚だしい」と指摘。続いて、遺族側が被害者参加人の立場から「法律で定める最大限重い懲役刑にしてほしい」と述べた。

 弁護側は遺族への賠償を理由に執行猶予付き有罪とするよう求め、被告は「今後はおわびと償いの人生を歩みたい」と謝罪した。

 平成25年2月には新潟県の男児=当時(1)=が施術後に死亡。業務上過失致死容疑で書類送検された被告を新潟地検はいったん不起訴としたが、今年6月に新潟検察審査会が「起訴相当」と議決し、再捜査している。

これまた死亡という重大な結果を招いたこと、そして遺族の処罰感情が非常に強いことと言う前掲の裁判と共通する要素がありますけれども、一方でこちらの場合全くの無資格、無勉強で危険な行為を行っていたと言う点で「初歩的ミス」どころではない話だと思うのですけれども、奇しくもどちらも求刑では禁錮1年と言う全く同じ内容になっている点が気になりました。
さらに興味深い点として記事にも書類送検されながらいったん不起訴とされていたようにこのズンズン運動なる行為、以前に死亡事故を起こした際にも書類送検されながら死亡との因果関係が立証できないと不起訴になり、今回の場合も非常に起訴に至るまで難渋したと言うことで、もともと法律のグレーゾーンに位置し下手をすれば今もずっと放置された状態になっていた可能性も十分にあったようです。
もちろん人が死んだと言う結果に関して何ら違いはないと言う考え方もありますが、前述の医師が今後きちんと反省し真面目に勉強し医師として成長していけばこれからどれだけの患者の利益になるかと言う期待が持てるのに対して、こちらの場合何年やろうが何らの治療効果も期待出来ず同じように事故が発生する危険性は軽減しないだろうと考えると、これら二つが同列の扱い?と何とはなしに釈然としない気になるのは自分だけでしょうか。
過去にも専門医は一般医よりも高いレベルの診療内容を期待されて当然で、何かあれば非専門医よりも高いレベルの責任を問われて当然だと言う考え方の是非が医師の間で話題になったように、現場の当事者がこれはおかしいと感じることと国民感覚との間にどの程度の開きがあるのか、そして司法の判断はどちらにより近い基準で行われているものなのかには注視する必要がありそうですよね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

亡くなられた方々のご冥福を祈ります。
ズンズンの人が反省を口にし出したのは弁護士の入れ知恵?
同種のフォロワーが出ないことを願いたいですね。

投稿: ぽん太 | 2015年7月21日 (火) 09時25分

誰が殺したって人殺しは人殺しですよ
医者の思い上がりは見苦しい

投稿: | 2015年7月21日 (火) 10時17分

前者は被告の責任にしてしまうと同じことが起こってしまうリスクが減らない。
後者は被告の責任にしてしまわないと同じことが起こってしまうリスクが減らない。

同じ法律で裁かれているのにえらい違いです。

投稿: クマ | 2015年7月21日 (火) 11時05分

遺族の方々にとってはどちらにしろ大差ないのかも知れませんが、原因究明と再発防止と言う事故調的な考え方からすると対処にはずいぶんと違いがあると予想されますので、やはり区別すべき意味がある症例だと思います。
ただ法的には素人が何も知らずにやって重大な結果を招いた場合、玄人が同程度の結果を招いた場合よりも軽い罪になるのが基本のようで、この辺りの考え方は少し違和感を感じる時もありますね。

投稿: 管理人nobu | 2015年7月21日 (火) 11時39分

そもそも、刑事裁判というのは犯した罪に対して相応の罰を決める場であって、
「真実」を明らかにする場ではないし、いわんや再発防止策を考える場でもありません。
たぶん。

投稿: JSJ | 2015年7月21日 (火) 12時49分

故意ではない誤投薬による死亡事故で、禁錮刑+執行猶予になるか、そうではなく罰金刑になるか、いずれにせよ、有罪です。
他の同様の誤投薬による医療事故と同様に、医師が罰金刑となったとしても、有罪になった記録は残ります。
「遺族の処罰感情に基づいて」「故意ではない医療事故を刑事で有罪にすれば警告となり、医療事故が減る」という検察の考えが、現在のWHOや先進各国の医療安全では間違った考えとされ、「システムエラーとしてとらえる」ことができない点を医療側は問題視しています。
この医師が不注意や無知でエラーを犯したことは否定しません。

フェイル・セイフ=故意ではなく、間違った医療行為を行おうとした際、バリアが働いて、事故を未然に防ぐ、フール・プルーフ=故意ではなくとも、人は間違いをするという前提で医療行為や医療機器使用、医薬品投与の設計をする、罪を問う文化から一歩も二歩も進んだのが、国際規準であり、検察の主張は時代遅れであります。

投稿: physician | 2015年7月21日 (火) 12時52分

>そもそも、刑事裁判というのは犯した罪に対して相応の罰を決める場であって、
>「真実」を明らかにする場ではないし、いわんや再発防止策を考える場でもありません。

医療事故の場合なにがあったか明らかにならない限り罪かどうかも判断できない気が。

投稿: | 2015年7月21日 (火) 13時00分

誤投薬による死亡事故となった今回のような刑事裁判では、システムエラーを考慮して、量刑が思いか、軽いか、の違いでしょう。
もちろん、刑事裁判で判決文にシステムの改善策が盛り込まれることはありません。
民事裁判でも同じ。

繰り返しになりますが、「遺族の処罰感情に基づいて」「故意ではない医療事故を刑事で有罪にすれば警告となり、医療事故が減る」という検察の考えが、現在のWHOや先進各国の医療安全では間違った考えとされ、「システムエラーとしてとらえる」ことができない点を医療側は問題視しています。

投稿: physician | 2015年7月21日 (火) 13時00分

>医療事故の場合なにがあったか明らかにならない限り罪かどうかも判断できない気が。
そもそも、刑事裁判というのは犯した罪と、相応の罰を決める場であって、

投稿: JSJ | 2015年7月21日 (火) 13時28分

え〜とつまり、
>同じ法律で裁かれているのにえらい違いです。
>原因究明と再発防止と言う事故調的な考え方からすると対処にはずいぶんと違いがあると予想されますので、やはり区別すべき意味がある症例だと思います。

裁判という枠組みのなかで対応するかぎり、区別がないのは致し方ないことだと思います。

投稿: JSJ | 2015年7月21日 (火) 13時38分

JSJさまへ

後者については、これを過失として裁いていいのか?ってのが私の中にある違和感です。
未必の故意で傷害致死が適応されるべき案件ではないかと・・・現状でそうなってはいないのですがね。
このあたりは法学に詳しい方に聞いてみたいところです。

投稿: クマ | 2015年7月21日 (火) 20時39分

こいつもう大金稼いでいつでも引退できるんだろうな

投稿: | 2015年7月21日 (火) 22時05分

いつも思うのですが「遺族の処罰感情に基づいて」量刑が変わっていいんでしょうか?日本って一応法治国家なんですよね?もちろんそれ以前に故意でない医療事故には、警察なんざお呼びでないのは当たり前なのですが。

投稿: あぽ | 2015年7月22日 (水) 01時33分

吊るし上げって気分いいんだから仕方ないよ

投稿: | 2015年7月22日 (水) 07時32分

警察が事故を調べるって普通だろ

投稿: | 2015年7月22日 (水) 09時03分

仇討ちを禁止して処罰を公権力が独占しているのだから、そのかわり遺族の処罰感情が量刑に反映されるのは当然だと考えます。

投稿: | 2015年7月22日 (水) 10時26分

判決を見る限りあまり遺族感情で量刑を左右したと言うことは(少なくとも表向き)あまりないように思いますが、実際のところどうなんでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2015年7月22日 (水) 12時49分

病院が警察に届ける医療事故としなければ、警察は介入せず。
この病院、医師法21条の曲解に基づく法医学会のガイドラインは失効したのに、警察に届ける大失態。

過去に同一造影剤で同日に患者2名死亡の整形外科医と、患者1名死亡の今回の整形外科後期研修医が同じ量刑なのは処罰感情の影響か?

投稿: physician | 2015年7月22日 (水) 21時03分

「ずんずん運動」と称した乳幼児向けの独自健康法によるマッサージで2013年2月、1歳10カ月の男児を窒息死させたとして、
新潟地検は4日午後、業務上過失致死の疑いで元NPO法人理事長の姫川尚美容疑者(57)を逮捕した。

 姫川容疑者は4日午前、同様のマッサージで生後4カ月の男児を死なせたとして業務上過失致死罪で、禁錮1年、執行猶予3年の判決を大阪地裁で受けたばかりだった。

 逮捕容疑は13年2月17日、新潟市内で施術中、必要な業務上の注意義務を怠り、新潟県の1歳10カ月の男児を窒息死させた疑い。

http://www.47news.jp/smp/CN/201508/CN2015080401002392.html

投稿: | 2015年8月 5日 (水) 06時32分

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