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2015年7月29日 (水)

国が医療費抑制のための方法論を模索中

医療費に対しても厳しい歳出抑制が図られつつあるのが現状ですが、当然ながら単純に診療報酬削減と言うだけではまたぞろ医療崩壊だと騒ぎになりかねず、学習能力の欠如を指摘されても仕方がないところで、最近ではもう少し合理的な方法論での歳出抑制策が検討されていると言います。

予防で医療費抑制/廃校を貸し出し 政権、新たな歳出改革(2015年7月25日朝日新聞)

 安倍政権が、新たな歳出改革の取り組みを始めた。景気を冷やす単純な歳出カットは控え、予防医療を進めて医療費を抑えたり、少子化で廃止された小学校を民間に貸したりと、公共サービスの質を落とさずに財政を改善することを目指す。ただ、効果が出るまでには時間がかかりそうだ。

 内閣府と財務省は24日、各省庁の事務次官を首相官邸に集め、歳出改革への協力を求めた。西村康稔・内閣府副大臣は「無駄の排除、民間活用を徹底して、歳出増加を抑えることが重要だ」と呼びかけた。

 政府は2020年度の基礎的財政収支の黒字化を目指している。ただ、実質2%の高い経済成長率を実現しても、20年度で6・2兆円の赤字が残る見通しだ。

 そのため、経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)の下に専門調査会をつくり、年末までに歳出改革の工程表を策定。自治体の優れた取り組みを全国に広げるための組織もつくる。

 具体的な改革案としては、健康になる努力をした人には商品などに交換できる「ヘルスケアポイント」を発行して医療費を抑える仕組みや、自治体の窓口業務の民間委託を広めることなどが検討されている。政府は今後3年を集中改革期間と設定している。

この健康であろうとすることへのインセンティブと言うもの、以前にも麻生氏が一席ぶって批判を浴びたことがあるように反対論も根強くあるようですけれども、メタボ健診導入などこれだけ社会的に健康向上努力への圧力がかかっている中で何ら現世御利益もないと言うのは筋が通らないですし、努力した人が相応に報われると言うのは社会として健全だろうと言う声もあるようです。
この辺りは病気持ちの人に対する差別だと言う反対意見もありますが、近年コントロール不良なてんかんや糖尿病患者による交通事故が話題になっているように、基礎疾患がある人ほどより熱心に自己コントロールを必要とするのは当然ですから、努力に対する評価をどのように行うのかと言う議論はあるにせよ基本的に悪い話ではないように思いますね。
ただ無駄の排除と言えば聞こえはいいですが、医療のような予定外の緊急事態にこそ直ちに対処しなければならない業界で何をもって無駄とすべきか判断の難しいところで、空きベッドと言う無駄を排除すべく常に満床で病床を運用しなければ病院経営が成り立たない診療報酬体系にした結果、救急車を受け入れられる施設がなくなり救急崩壊と言われる現象が社会問題化した経緯も周知のところだと思います。
これに対して医療に対しても費用対効果、コストパフォーマンスと言う概念は必要だと言う考え方は、特に保険者となる大企業などを中心に長年主張されてきたところですが、先日このコスパと言うことに関して評価のガイドラインが策定されると言う話が出ていました。

費用対効果評価、ガイドライン作成へ 中医協専門部会、QALY評価には慎重な意見も(2015年7月26日医療維新)

 7月22日に開かれた中央社会保険医療協議会費用対効果評価専門部会(委員長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)では、2016年度診療報酬改定の試行導入に向けて、費用対効果評価の分析方法などについて議論した。今後、標準的な分析方法についてガイドラインを作って示す方針となった(資料は、厚生労働省のホームページに掲載)。

 厚労省は、2015年度の厚生労働科学研究において、国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部部長の福田敬氏が実施している事業の中で、分析方法をガイドラインとして示すことを提案。委員から大きな異論はなかった

 効果指標については、厚労省は、質調整生存年(QALY)を基本として、疾患や医薬品の特性などに応じて、その他の指標も用いることができるようにする方法を提案。費用については、公的医療費のみを費用の範囲と含めることを原則としながら、公的介護費、生産性損失も同時に提出することも可能とした。さらにアプレイザルの際に生産性損失等を含めた分析結果が必要とされた場合などには、費用の範囲を見直した分析も追加的に求めることとするアイデアを示した。

 日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏は、海外のデータの使用を容認しながら、日本におけるデータ整備を進めるよう求めた。さらに、鈴木氏はQALYについて、高齢者について不利な結果になる点や、国によって、社会的なバックグラウンドが違う中で、QALYのような指標だけでなく「バランスの取れた評価をしている国を参考にすべき」と釘を刺した。

 健康保険組合連合会副会長の白川修二氏は、QALYについて「全て解決するとは思わないが、制度ではQALYでスタートせざるを得ない」と指摘した。

記事中に出ている指標QALYについてはこちらなどを参照いただくとして、もちろん医療の費用対効果を評価する事自体への反対意見はないのでしょうけれども、評価した結果を臨床現場に対してどのように活用していくかに対しては反対意見も続出するだろうとは容易に想像出来るところだし、そもそも保険診療で認められている医療行為に対して「それはコスパが悪いからやらないで」とは一体誰が言えるのか?と言う話ですよね。
この医療に対してのコスパ計算が難しい理由の一つとして、特に日本においては医療の患者負担が安く医療費と言うものがどれほど高いものかと言うことが(患者のみならず医師らにとっても)具体的な実感として理解されて来なかった、その結果医療の結果に対する評価基準として効く、効かないと言うことは指標に挙がっても、その結果を得るのにどれだけのコストがかかるのかと言うことはあまり考慮されていなかったと言う点があります。
特に「命の価値はお金では計れない」式の考え方からするところ、命が助かると言うことは無限大の効果であるわけですからどれだけコストがかかろうが行うべきだと言う思考停止に陥りかねないだろうし、実際に寝たきり高齢者や明らかな末期患者に対するフルコースの延命医療なども、諸外国のようにそれが直接的な患者負担増加に結びついていたとしたならそもそも最初から臨床現場に定着しなかったことだろうと思えますよね。

もう一つ難しい点として、コスパが悪いと言う治療法があった場合にそれをどうするのかと言う問題がありますが、保険診療上は点数を幾ら上下させても患者負担は高額医療にかかれば一定ですから忌避する理由はなく、仮に定額診療等で病院側がコストを抑えたいと考えたとしても患者側がそうした事情を斟酌する理由はないと言うことになり、病院と患者との間で新たなトラブルの火種にもなりかねません。
一般に国がああしろ、こうしろと言うのはいいとして、その付随する面倒ごとを現場に丸投げすると言うのは嫌われるものですけれども、患者側からすれば「こちらは命がかかっているのに、病院の儲けが減るからと治療拒否するのか?!」と受け取ってしまうのも無理からぬ話ですし、サラリーマンである現場医師にとっても直接給料に関係する話ではない以上そこまで言われてその治療は出来ませんとも言いにくいでしょう。
この辺りは一口に病院と言っても経営者目線と現場労働者目線で話が全く違ってくると言う話でもありますが、コスパ評価をした上で実際の診療行動の変化にどうつなげていくのかと言う方法論は非常に扱いが難しいところがあるし、高い医療はなるべく避けると言うインセンティブを一方の当事者である患者側にも用意しなければ臨床応用はうまくいかない可能性がありそうですね。

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コメント

受診抑制に効くのは窓口負担アップなんでしょうけど…

投稿: ぽん太 | 2015年7月29日 (水) 09時51分

自己負担割合を病院>一般診療所>かかりつけ医とするのが手っ取り早いような気がします。

投稿: クマ | 2015年7月29日 (水) 10時22分

こんなんじゃ全然抑制できないかと
年1兆ペースで社会保障関係の支出は増えてるのに

投稿: | 2015年7月29日 (水) 14時03分

金銭的な効率から言えばゲートキーパーが有用ですが、受診の自由を建前としている限りは難しいところでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2015年7月29日 (水) 18時46分

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