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2015年7月 6日 (月)

順調な医師数増加が医療改革のタイムリミットを決める?

どこまで本当なのか信じかねると言う人もいるかも知れませんが、先日こんなニュースが出ていたことを御覧になったでしょうか。

医師不足じわり解消…10年後、先進国平均に(2015年07月01日読売新聞)

 日本の人口10万人あたりの医師数が10年後、先進国が主に加盟する経済協力開発機構(OECD)の平均を上回るとの推計を厚生労働省がまとめた。医学部の定員増などで、先進国の中で低水準という長年続いた状況から抜け出す見通しとなった。地域や診療科によっては医師不足が続く可能性もあり、厚労省は夏以降に有識者会議を設け医師養成のあり方を検討する。

 厚労省は、医学部の卒業生数や今後の人口推計などを基に、将来の10万人あたりの医師数を推計した。

 それによると2012年の227人から20年に264人まで増え、25年には292人となり、OECDの平均(11年、加重平均)の280人を上回る見込み。その後も30年に319人、40年に379人と増加が続く。政府による医学部の入学定員の増員策や人口減少の影響が出る格好だ。

 08年度から始まった医学部の定員増は19年度までの措置で、医師不足の問題を抱える自治体からは継続を求める声がある。一方、医学部を新設する動きには、医療関係者から医師の余剰を懸念する声が上がる。25年に全国の医療機関の入院ベッドを現状より1割以上減らせるという政府推計もあり、医師の勤務先の見通しを含めた医学部定員の方向性を、厚労省は文部科学省と検討する。

まあ某大先生のように何でもかんでもOECD平均が~云々と呪文のように唱えていればいいわけでもないので、日本の場合医師が医師としての専門業務に専念出来ない土壌もあっての多忙さと言う一面もありますから、数字的に平均水準に達したからと言って直ちに不足解消と言えるのかどうかは微妙なところだとは思いますが、ともかくも数字としては順調に医師は増えているとは言えそうですよね。
今後はどこから医学部定員を絞り始めるのか、そもそも絞るとして医学部入学定員を絞るべきなのか、それとも進級や国試のハードルを上げることで絞るのか様々な論点がありそうですが、特に後者に関してはこのところ医学部定員増に伴い学生の質的低下が言われている中であるだけに、むしろ大学関係者や医療現場から賛同する声が上がってくる可能性もありそうです。
もちろんこの状況で医学部新設と言うことが非常にハードルが高くなったことは言うまでもないのですが、医学部定員を減らすと言う場合に各大学の自主性に完全に委ねてしまっていいのかで、医学部定員数が地域の既得権益的な位置づけになっていることを考えると、例えば卒業生の地元定着率が低い大学から優先して減らすと言った方法論も検討すべきなのかも知れません。
いずれにしても医師数が数的にはそれなりに充足してくるとなれば、今まで医師不足だからと言う名目であれやこれやと制約があった部分に関して国民・患者の側から要求が増してくることが考えられそうですが、そんな中でこんな記事が出ていたことを紹介しておきましょう。

産科医、基幹病院に集約…出産24時間体制確保(2015年6月20日読売新聞)

 日本産科婦人科学会は20日、深刻化する産科医不足への対応策をまとめた行動計画を公表した。

 地域の基幹病院に産科医を集めて、医師一人ひとりの負担を減らすとともに、24時間安心して出産できる場を確保することが柱だ。

 過酷な勤務などが敬遠され、産科医は30年前に比べて、2割減少。新たに産科医になる医師は2010年度の491人をピークに4年連続で減り、昨年度は368人だった。都道府県間の格差も広がり、人口10万人あたりの産科医数は東京と沖縄の11・1人に対して、茨城は4・8人で2倍以上の差がある。

 行動計画では、現在のお産の体制を続けるには、毎年500人の新たな産科医が必要だと指摘。

 救急にも対応でき、24時間安心して出産できる場を維持するため、産科開業医とも連携しながら、都道府県の中核でリスクの高い出産や高度な新生児医療に対応する「総合周産期母子医療センター」に20人以上、地域の中核で比較的高度な産科医療に対応する「地域周産期母子医療センター」に10人以上の常勤の産科医を集めることを目標に掲げた。集約化で、当直などの産科医一人ひとりの負担を軽減して、産科医の4割を占める女性医師が、子育てや妊娠中にも無理なく働けるようにする。

考えてみると日本が豊かになった昭和末期頃からお産の多様化と言うことが言われるようになり、それまでの効率第一で進められてきたお産が自費であるにも関わらずあまりにもお粗末過ぎると言うこともあったのでしょう、病室や食事内容を改善したり、水中出産を取り入れてみたりと様々な方法論が選べるようになった中で、必然的に純粋な効率としては低下してきていたとは言えそうですよね。
ところがいわゆる産科崩壊などと言う現象が注目を集めるようになると、ただでさえ不足しがちな産科医を分散配置するのは非効率で安全性にも問題がある、基幹病院に集約化していつでもお産に万全の態勢で望めるようにしようと言う流れが顕在化したのがここ10年ほどの間のことですが、それによって妊婦目線で見れば個性的なお産の機会が奪われるだとか、家に近い場所から産科医が消えると言った弊害もあるわけです。
医療安全と産科医のこれ以上の疲弊防止と言う点である程度効率性重視にならざるを得ないことは国民からも一定の納得を得ていると思われるので、当面この方針で産科医の集約化を進めることには全く異論がないのですが、この調子で医師数が増えた、もはや先進国平均並みになったと言う報道が続いてくるようになると、「なぜ医師は増えたのに未だにこんな不便を強いられるのか?」と言う疑問も出てきそうに思います。

これは別に産科医集約化に限った話ではなくて、不要不急の救急・時間外受診の抑制であるとか、地方の小さな自治体病院の縮小廃止による医師の集約化と言った様々な話も元を辿れば医師不足であるから進められてきた話であり、医療全体が崩壊してしまうよりはいいだろうと言うことで日頃の小さな不便を凌いできたと言う側面はあると言えます。
マスコミが医師が増えた増えたと連呼するだろう10年後までにはこうした医療現場の効率化を十分に達成しておかないと、またぞろ医師に様々な仕事を担わせようと言う圧力がかかってくる可能性がありますから、特に病院統廃合などの抜本的な改革をするなら今しかないと言う気がするのですが、このところ少しばかりそうした危機感が失われてきているようにも見えるのは気になりますかね。
この辺りは特に病院の管理者になっているような偉い先生方の問題意識がどこまであるのかで、医師が増えて自分のところも純増○人だ、これでさらに業務を拡大できると単純に喜んでいるようではお話にならないことなので、医者はとにかくOECD平均まで増やせと言うシンプルな主張をしてきた方々が、今後実際に増えた医者に何をさせようとしてくるのかにはしっかり注目しておかなければならないでしょう。

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コメント

大学病院みたいな使い方してたらいくら増えたって足りないですよ。

投稿: ぽん太 | 2015年7月 6日 (月) 08時17分

確か日本の医師数の統計ってよその国と違って日野原大先生のような超高齢医師も現役かどうか関係無く頭数に加えてませんでしたっけ?

投稿: クマ | 2015年7月 6日 (月) 08時25分

女性医師の増加や引退者も含めて考えるとまだ足りない
特に大都市部ではこれから大幅に不足

投稿: | 2015年7月 6日 (月) 08時48分

>産科医は30年前に比べて、2割減少

出生数 S60 143万人 →28年後 H25 103万人 28%減
これから見たら仕方ないわなぁと思ってしまう。

投稿: | 2015年7月 6日 (月) 09時23分

効率に悪い働き方して、数が足りないと騒ぐことに違和感を感じるのは私だけでしょうか?麻酔領域に関しても、下手くそな外科医を駆逐する仕組みがちゃんと機能すれば、今の数で十分だと思いますよ。極端な僻地では、手術自体が贅沢でしょう。

投稿: 麻酔フリーター | 2015年7月 6日 (月) 09時47分

おっしゃるような効率化推進の上でも、今だに医師不足とされている間にさらなる改革を進めておくべきかと言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2015年7月 6日 (月) 11時10分

人口動態で医学部の定員削減もあるのでは?
人口100万人を切っている、あるいは100万人ぎりぎりの県に定員100人の国立大学医学部1校、その反対に人口500万人超えで1校、1000万人超えで2校。
人口と国立大学医学科の定員のアンバランスがあって、人口少の地域から人口多数の都道府県に医師の流れがある。
定員を人口動態に応じて考慮なら、わかりますが。

投稿: physician | 2015年7月 7日 (火) 06時40分

技師から釈迦に説法…

診療科ごとに医師1人当たりの標準的な診療請求金額を出し、各医師の診療報酬請求金額の偏差が実診療の関わりの尺度になると思います
注1 病院所属は除く
注2 地域による査定の甘辛も考慮したい所


統廃合の問題点は、搬送時間と社会復帰率の関係をどう思うか…
いくら集約しても、人口が多い所(医療機関も多い)のほうが平均余命が長いというDATAもあるようですが…

投稿: オヤズ | 2015年7月 9日 (木) 21時19分

病院間は直線距離ですが 

香川ー徳島大学病院間(43.5km)
香川県人口 98万、徳島県人口 77万/合計175万
23位の熊本県1県より少し少ない

鳥取ー島根大学病院間(52.4km)
鳥取県人口 58万、島根県人口 70万/合計128万
32位の岩手県1県とほぼ同じ。。。

道州制には色々問題があるものの、
「四国はまとめて医学部2校(愛媛、徳島くらい?)で充分!」
「中国地方全体で3校(岡山、広島、鳥取かなあ)に絞れ!」
こんな議論が出ても不思議がない数字だと思います。

投稿: | 2015年7月10日 (金) 08時40分

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