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2015年7月 7日 (火)

医療事故調発足を前に医師法21条はほぼ有名無実化

迫る医療事故調に関して不安を覚えている先生方も多いと思いますが、先日日医の代議員会でもこの事故調に関する議論が交わされたようで、それはそれで有益な話ではあると思うのですが、その流れの中でこんな気になる文言がありました。

事故調、「責任追及の恐れ、払拭できず」制度開始迫るも、いまだ残る不安と準備不足(2015年6月30日医療維新)より抜粋

(略)
質問:(医療事故調査制度を定めた医療法の)公布後2年以内に見直すことになっており、医師法21条、さらに(業務上過失致死傷罪を定める)刑法211条の見直しについて、今度こそ日医が主導して取り組まなければいけない課題だと考えている。

今村常任理事:2年以内というと、来年6月であり、施行から8カ月以内の見直し規定が設けられている状況。医師法21条の問題は、この制度の枠外とはいえ、切っても切れない関係にある。医療安全対策委員会でも、あるいは別の場所でも、非常に問題になっているところだ。ただ、一方、この問題について、どのように対応すべきかについては、会員の先生の中でも大いに見解の相違がある。21条を改正すべきという意見と、行政通知等で運用するのが現実的ではないかという二つに集約される。この点についても、現時点から、大いに関心を持って取り組んでいる。

松原副会長の回答:医師法21条の解釈については、いろいろな考え方があるが、(東京都立広尾病院事件の)最高裁の判例に、厚労省のこれまでの見解を合わせると、「検案して外表に異状を認めた時には、21条に基づき報告する」ということ。また厚労省がかつて国立病院に出した通知書(2000年の「リスクマネージメントマニュアル作成指針」)だが、国立病院はもはや存在しないので、無効であるという見解だ。今年度版の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル)では、(24時間以内に所轄警察署に届け出る判断について)以前は日本法医学会の異状死ガイドラインを参照することになっていたが、今年度からその文言が消えている。つまり、最高裁の判断に基づいて、「検案して外表上、異状を認めた時」に届け出るということ。この点がもう少し明確になるように、政治の場、あるいは厚労省の通知で対応するよう、今努力をしている。

ここで出ているのがいわゆる「異状死の届け出」を義務づけた医師法21条問題なのですが、念のために申し上げておきますと「異常」ではなくあくまでも「異状」であると言う点がポイントですよね。
今秋からスタートする医療事故調においては、「診療行為に絡んで起きた予期せぬ患者死亡事例」の第三者機関への全例届け出が全医療機関に義務づけられると言うことで、これと相前後して警察への届け出を義務づけた医師法21条との関係性がどうなのかと言う議論がありました。
この医師法21条と言うもの、そもそもが見た目に犯罪が関わっていそうだと言った明らかな異状性があれば警察に届けなさいよと言うごく当たり前のことを規定した古い法律で、今の時代に議論になっている医療事故云々とは全く関係がない話であると言う議論は長くあったのですが、話をややこしくしているのが法医学者達が出している「異状死ガイドライン」なるものの存在です。
このガイドラインで法医学会側は異状死に関して「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」と言う独自の定義を打ち出していて、「これではいわゆる診療関連死なども全て含まれてしまう」と臨床系の学会から(当然ながら)大々的な反発が起き、これに対して法医学会側は「それが何か?」とばかり厚労省に対して医師法に付記せよとまで主張してきたわけです。
特に問題となるのが厚労省が出している「死亡診断書記入マニュアル」の中で、わざわざこの法医学会のガイドラインを引いて警察への届け出を推奨しているかにも見える文言が記載されてきたと言うことなのですが、今年の改訂でその部分が大幅改訂された事情を、かの東京女子医大事件で大学当局から「売られ」あやうく有罪になりかけた佐藤先生が解説しています。

「医師法21条」の誤解、ようやく解消へ(2015年6月30日日経メディカル)より抜粋

(略)
 簡単に言うと、昨年度版までは、診療関連死は全て、死亡から24時間以内に警察に届け出ないといけないかのような誤解を与える文章がありましたが、この文章について修正されたということになります。
 問題の箇所ですが、昨年度版までは「また、外因による死亡またはその疑いのある場合には、異状死体として 24 時間以内に所轄警察署に届出が必要となります」と記載され、注釈で「『異状』とは『病理学的異状』でなく、『法医学的異状』を指します。『法医学的異状』については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』等も参考にしてください」となっていました。
 これが今改訂では、「また、医師法第21条では、『医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない』とされています」と記載が変更されたほか、「『異状』とは『病理学的異状』でなく、『法医学的異状』を指します。『法医学的異状』については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』等も参考にしてください」という箇所が削除されました。

 そもそも医師法第21条は異状死体等の届け出に関する条文であり、「医師は、死体または妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署へ届け出なければならない」と規定しています。殺人、死体遺棄・死体損壊などの犯罪捜査への協力のために作られたものであって、決して診療関連死に関する規定ではありません。死体の外表に異状が見られる場合、それが犯罪の痕跡である可能性があるため、届け出を義務付けたものなのです。
 一方の日本法医学会の「異状死ガイドライン」は、「確実に診断した内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体」を警察に届け出るよう求めているものです。これは異状死体の届け出について定めた医師法21条の解釈を大きく超えています
 今回の改訂は、これまであった誤解を正すものになりますから、現場に与えるインパクトは大きいはずです。
(略)
 ちょうどこの時期、私は大学との和解が成立したばかりでした。それまで自分の裁判で手一杯だったのですが、このシンポジウムでの講演準備のために他の刑事事件についていろいろ調べたのです。医師法21条の関することをネット上で隅々まで調べたほか、国会図書館で医師法21条に関するありとあらゆる本や論文をコピーして読みあさりました。
 その結果、分かったことは、大半の本や論文では「異状死体」を「異状死」と表現しており、診療関連死や医療過誤は全て警察に届け出ないとならないという誤解が浸透しているという現実でした。日本法医学会の「異状死ガイドライン」や、それを参照するよう求めている「死亡診断書記入マニュアル」が存在することで、こうした誤解が現場に根付いてしまったのです。

 その後、私が所属している東京保険医協会で、医師法第21条の正確な解釈と適正な運用の重要性について講演や執筆活動を重ね、2012年10月には、東京保険医協会会長を差出人として、厚労大臣以下担当の厚労省官僚と「医療事故に係る調査の仕組み等あり方に関する検討部会」のメンバーに対し、医師法21条の正しい解釈を求めた書面を送るに至りました。
 この書面を提出した効果だと思っているのですが、同月に開催された検討部会では当時の田原克志医政局医事課課長から、(1)診療関連死イコール警察届け出という解釈は誤りであること、(2)検案での「異状」とは外表異状を指すこと、(3)検案で異状がなければ届け出の必要はないこと―――などの説明があったのです。
(略)
 改正医療法が成立する1週間前となる2014年6月10日の厚生労働委員会では、小池晃議員が当時の厚労相である田村憲久氏から医師法21条の解釈について考えを引き出すことに成功しています。具体的には、医師法21条は医療事故などを想定したものではなく、これは法律制定時から変わっていないと、大臣が明言しました。
 これだけでは不十分で、死亡診断書記入マニュアルを改訂するという確固とした約束を取り付けたいと思っていたところ、民主党の足立信也議員から厚労大臣と総理大臣に2回ほど質問をしていただけました。ここで、死亡診断書記入マニュアルを改訂する必要があるという両大臣の意思を確認することができたのです。こうしたやりとりを経て、今年2015年3月の改訂に至りました。
(略)

まあしかし佐藤先生もずいぶんと尽力されたことなのだと思いますけれども、まずはこうした言質を引き出したのは大変な進歩であるし、それに伴い厚労省のマニュアルから法医学会のガイドラインを参照せよ云々の記載が削除されたと言うのも、臨床医にとっては非常に意味のあることではありますよね。
ただここで改めて気がつくこととして、すでにこの医師法21条問題に関してはほぼ臨床現場では関わり合いがない話だと言うことが国からはっきりコメントとして出ていると言うにも関わらず、それが実際の現場に周知徹底されているかと言えば必ずしもそうではなく、冒頭の日医代議員会でもこうした話の流れが知られていないまま議論が交わされているような印象さえ受けます。
そもそも毎年改定される死亡診断書記入マニュアルを臨床医のどれだけが真面目に読むのかと言う話だし、その中のごく一部が変わっていたとしても間違い探しでもする気ではない限り誰も気付かないと思いますが、こうした重要な変更がきちんと公的な通知としてなされるわけでもなければ、マスコミ報道なり学会等の広報で大きく取り上げられたわけでもないと言うのは現場にとっては聞いてないよと言う話ですよね。
基本的に事故調成立で診療関連死は第三者機関に届け出ることになる、そして医療現場の中で起こったことに関しては警察が介入する余地はほぼなくなったと考えると、とりあえずは事故調の方に意識を集中できるのですから臨床現場にとってはありがたい話なので、こうした情報は誤解される余地がなくなるまで何度でも周知徹底しておくのがよいのではないかと言う気がします。

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コメント

めでたい!

投稿: | 2015年7月 7日 (火) 08時17分

死亡診断書記入マニュアルの改訂でこそっと文章を修正。
ものすごく大きなことであるにも関わらず、あくまで「こそっと」。
普通に考えると、通達やら説明会まで開いてもおかしくないと思うのだが。
所詮、無責任役人のお役所仕事か・・・。

投稿: | 2015年7月 7日 (火) 09時00分

法医学会の法律逸脱のガイドラインが現場を混乱させましたが、法医学会からは謝罪もなければ、自身のガイドライン削除もない。
愚かです。
また、それをマニュアル化した厚労省役人も、同じく愚か。

投稿: physician | 2015年7月 7日 (火) 09時50分

法医学会が、法曹関係者の解釈から大きく逸脱したガイドラインを出した経緯や理由が知りたいです。どっかの被害者団体に乗っ取られたのでしょうか?何か利権になるとでも思ったのでしょうか?

投稿: 麻酔フリーター | 2015年7月 7日 (火) 10時48分

法医学会に文句を言うのは筋違いで、医療関連死も業務上過失致死なりの犯罪行為とされる可能性がある以上、疑いがあれば当然に警察に届け出るべきだと言う考え方もあるようです。
http://blogos.com/article/102031/

投稿: 管理人nobu | 2015年7月 7日 (火) 11時09分

医療関連死が、故意なのか、怠惰なのか、合併症なのか、疾患の自然経過なのか、医療サイドで検証しないで警察に届け出を主張する輩は、医療安全検証システムを知らないから。
単に、医事紛争化して、飯の種にしたい医療紛争活動家と同じレベル。

が、少なくとも厚労省の方針転換で、医事紛争化したい法律家も含めて、そういう連中の主張は否定されたわけで。

投稿: physician | 2015年7月 7日 (火) 11時24分

管理人さん提示のブログ、法医学者のみっともない弁解ですね。
法律を超越した法医学会のガイドラインの作成と、厚労省役人の利用が間違いであることへの反省も自覚もなし。
必要のない警察への届け出はガイドライン作成前にはなかったことすら認識できていない。
こんな連中が臨床の現場をかき回していたかと思うと呆れる。
結局、反古にされたからよかったものの、有害無益な法医学会のガイドライン。

投稿: physician | 2015年7月 7日 (火) 11時35分

ほんとにどんどん警察に届け出させて、法医学者は解剖なりで全部対応できるの?って気が

投稿: ゴン | 2015年7月 7日 (火) 12時30分

>法医学者は解剖なりで全部対応できるの?
死因不明社会で海堂先生がそんなことおっしゃってたような気がする。法医はAiにも横やり入れてましたからね。

投稿: | 2015年7月 7日 (火) 22時09分

ただし問題は「ミスがあろうがなかろうが、死体の外表に異常があれば届ける」という最高裁判所判例に内包されています。

・看護師による誤投薬で死亡→腕に誤投薬による炎症→外表に異常がある→警察届出
・看護師による誤投薬で死亡→死体外表には目立った異常なし→警察届出必要なし→死体検案書発行

これが判例なわけで、臨床の実感には即していません。下の場合も考えられます。

・手術手技に伴う合併症で死亡→診療した傷病による死亡ではない→死体検案→外表に異状(傷)→警察届出(ミスの有無は関係なし)

さらには、

・肺炎で入院中、ベッドから転倒し死亡→診療した傷病による死亡ではない→死体検案→外表に異状(傷)→警察届出
・家で転倒して入院→そのまま死亡→診療した傷病による死亡→死亡診断書(当然、届出必要なし)

「本来は行きずりの死体が運ばれてきて傷があったら警察に届けてね」という法律だったのですが、最高裁判所判例により一部は解消されましたが、診療中の患者にも適応するというおかしな部分が付け加えられてしまったインパクト(この点の批判もあります)が、今後じわじわきそうです。

投稿: | 2015年7月 8日 (水) 19時14分


「異常」ではなく、「異状」
全例、届け出の必要なしかと。

投稿: physician | 2015年7月 9日 (木) 00時50分

対象が異状死ではなく異状死体ですから
どんな死に方だろうが見た目以外関係ないのです

投稿: | 2015年7月 9日 (木) 06時41分

physician さん 遅レスですが
>全例、届け出の必要なしかと。

ところがどっこい、
「看護師による誤投薬で死亡→腕に誤投薬による炎症→外表に異常がある→警察届出」
これは届けないことが刑事罰として最高裁で有罪確定してしまってるんですよね。

投稿: | 2015年7月16日 (木) 14時08分

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