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2015年7月10日 (金)

医師法21条の正しい解釈、未だ根付かず?

本日の本題に入る前に、先日こういう事故の事例が報道されていたのですが、御覧になりましたでしょうか?

<特養ホーム>食事や薬誤配、2人死亡…事故8件隠す 埼玉(2015年7月5日毎日新聞)

 埼玉県熊谷市の特別養護老人ホーム「いずみ熊谷」で昨年、入所者に別の入所者の薬を誤って与えるなどのミスがあり、2人が死亡していたことがわかった。同施設ではこれを含めて県への報告が必要な事故が計8件起きていたが、いずれも報告していなかった。県は遺族の通報で今年1月に立ち入り調査を行い、行政指導した。

 ◇県が行政指導

 いずみ熊谷の岡部陽子施設長らが4日に記者会見して明らかにした。事故を隠すために報告しなかったと認めたうえで、謝罪した。
 岡部施設長らによると、昨年12月19日、女性入所者(88)に、別の入所者が服用するパーキンソン病の薬を介護職員が渡した。女性は薬を飲み、副作用による嘔吐(おうと)が原因とみられる誤嚥(ごえん)性肺炎で3日後に死亡した。介護職員は薬を置いた別の入所者の食膳を誤って女性に渡したという。県警が業務上過失致死容疑で捜査している。
 同3月21日には、いなりずしを食べた男性入所者(84)が喉につまらせ、1カ月後に誤嚥性肺炎で死亡した。男性には食べやすいちらしずしを提供することになっていたが、調理を担当する職員らのミスが原因で、他の入所者と同じいなりずしを提供してしまったという。
 いずみ熊谷ではこの他に、昨年4〜12月の間、入所者が転倒して腰の骨を折る▽入所者が入浴中に意識を失い救急搬送される▽職員が入所者に誤った量の薬を飲ませる▽入所者が喉に食事を詰まらせて肺炎になる−−など厚生労働省令に基づく県への報告が必要な事故が6件起きていたが、死亡事例2件をあわせた計8件を報告していなかった。
(略)

不幸な事故でお亡くなりになった方々のご冥福を祈りたいと思いますが、薬の誤配などは事故として非常に起こりがちな事例であるだけに本来教訓としてきちんとスタッフ一同で共有し再発防止の問題意識を高めていくべきところなんですが、こうした事故隠しが行われているような現場では果たしてどれだけそうした問題共有が図られていたのか不安を感じずにはいられませんよね。
本来的に今秋スタートする事故調などもこうしたケースで個人の責任追及ではなく、原因究明とそれに基づく再発防止を考えていくためのものであると言うことなのですが、今回のように事故を故意に隠蔽したりするようですと警察の介入など思いがけない結果を招きかねず、本来的な意味において何ら益することがないと言う点でも非常に教訓的なケースであったと思います。
さてここで少し話は変わって、医療現場においても残念ながら時に遭遇するこうした過誤によるとも思われる死亡症例を見た場合に、医師として組織としてはこれを異状死体の届け出義務を定めた医師法21条に照らし合わせて、警察に届けるべきであるのかどうかと言うところが問題になりやすいところだと思いますけれども、諸先生方の施設ではこうした場合の対応マニュアル等ではどのような記載がなされているでしょうか?
この点に関する一つの答えとなる話として、先日は医療事故調発足に先立って、いわゆる異状死体の届け出義務を定めた医師法21条が医療現場では事実上有名無実化したと言うことを紹介しましたが、これとも関連して厚労省の姿勢変化を示すこんな記事が出ていたことも紹介しておきましょう。

「リスクマネージメントマニュアル作成指針」失効(2015年7月6日医療維新)

 日本産婦人科協会は7月6日、同協会が、厚生労働省が2000年に当時の国立病院等に対して出した「リスクマネージメントマニュアル作成指針」について質問した結果、同省が「同指針は既に失効している」と回答したことを公表した。「同指針と同様の内容のマニュアルを、独立行政法人国立病院機構やその他の所管の独立行政法人に作成させるべく指導しているか」との質問には、「指導をしておらず、各医療機関の自主性に任せている」との答えだった。同協会が文書で質問したのは2015年5月29日、厚労省医政局医療経営支援課の担当者から電話で回答があったという。

 「リスクマネージメントマニュアル作成指針」は、国立病院、国立療養所、国立高度専門医療センターに対する指針で、医療事故の発生防止対策や事故発生時の対応方法などについて、国立病院等がマニュアルを作成する際の指針だった。その中には、「医療過誤によって死亡または傷害が発生した場合、またはその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う」と記載されており、「外表異状説」に基づき、異状死体の届出を求める医師法21条との相違が問題になっていた。

 国立病院・療養所は2004年4月1日付で、国立高度専門医療センターも2010年4月1日付で、それぞれ独立行政法人に移行し、国立の組織ではなくなった。形式的にも、また実運用上でも、「リスクマネージメントマニュアル作成指針」が失効していることが、今回の厚労省の回答で確認された。6月29日の日本医師会定例代議員会でも、日医副会長の松原謙二氏は、「作成指針は無効」と説明していた。

 同協会の顧問を務める弁護士の井上清成氏は、厚労省の回答を踏まえ、「死体の外表に異状が無いのであれば、仮に『医療過誤またはその疑いがある』時であっても、警察署に任意に自主的に届け出ない場合でも、各医療機関や管理者の責任にならない。逆に、任意に自主的に届け出ると、現場の医療者に対する届出医療機関や管理者の責任が生じ得る」と解釈を示す。「医療過誤またはその疑いがある時は警察署に届け出る、という院内規則が残っている場合には、直ぐに削除しないと、『削除しない』という管理者の不作為責任も生じかねない。管理者のガバナンスが問われる局面と言える」(井上氏)。
(略)

医療過誤問題等でも高名な井上弁護士の見解として「任意に自主的に届け出ると、現場の医療者に対する届出医療機関や管理者の責任が生じ得る」「医療過誤またはその疑いがある時は警察署に届け出る、という院内規則が残っている場合には、直ぐに削除しないと、『削除しない』という管理者の不作為責任も生じかねない」と言う何とも逆説的な解釈が示されたのは非常に印象的な話だと思いますが、どうでしょうか?
もちろん国立病院なるものが存在しなくなったという形式の上でもこの指針はすでに無効化していると言う指摘はあったわけですが、こうして厚労省の見解としてそうした指導を今後もするつもりはないと言う回答が示されたと言うことは重要で、国の方針として医師法21条を完全に有名無実化する方向で舵を切ったのだと言うことがここでも明らかにされたと言えそうです。
ただここで気になるのはこの見解があくまでも厚労省の見解として示されたものであると言う点で、実際には厚労省は裁判など司法を管轄する省庁ではないわけですから、例えば誰かが「あの病院は医師法21条に違反している!」と告発した場合に厚労省見解を元に裁判の要否が判断されるものなのかどうかと言う点は少し疑問が残るところです。
実際にいつもお世話になっている弁護士ドットコムなどを拝見してみますと、医療過誤が疑われる余地は残るもののここでの定義上明らかに異状死体ではないと思われるケースに関して専門家の見解として「刑事で医師法21条違反を問える」と言う回答が堂々と示されている点を見ても、最終的な裁判の場での判断はともかくとして当面は訴えられるかどうかと言う点では混乱が続きかねないように思いますね。
要するに厚労省の見解がどうあれ、当面のところは医療と司法双方の現場で認識の統一が図られない可能性は十分にあるし、自分達は理解しているつもりでも関係する全ての人間が正しい現状のルールを理解しているとは限らないと言う前提で、さてどうすべきかと言うことを各施設、各個人がきちんと考え答えを出しておかなければならないと言うことになりそうです。

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コメント

21条もだけど 19条の方こそ整備の方を。。。

投稿: | 2015年7月10日 (金) 07時42分

問いかけたらやっと個別に答えるのって何か違う気が。
厚労省はどういうつもりでいるんでしょうね?

投稿: ぽん太 | 2015年7月10日 (金) 07時50分

役所(特に国)ってそんなところでしょう?
基本、責任を絶対にとらない、間違うってことはないというところですから。
通知にしろ、責任者の氏名がない書類とか世間一般ではあり得ないことが
当然のように続いていますから。

投稿: | 2015年7月10日 (金) 09時37分

弁護士ドットコムに刑事裁判で問えると書いた法律家は、医師法21条の最高裁判決での解釈を無視している。
法律家が、それじゃダメでしょ。
厚労省の死体検案書/死亡診断書の説明も法医学会のガイドラインを反古にしたし、21条に基づいたら警察への通報も厚労省の見解では失効。
条文通りの解釈になっているのに、なに言ってるんだか、呆れる。

投稿: physician | 2015年7月10日 (金) 11時07分

今や弁護士って、ろくでもない人間が増えているから仕方がないのでは?
(それはそれで問題なんですが)

投稿: | 2015年7月10日 (金) 11時28分

個人名を出さない通知と言うのは特定個人ではなく組織として承認したと言う形で、こうした組織の場合必ずしも悪いことばかりではないように思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年7月10日 (金) 11時59分

 主様のお考えに一票。
>責任者の氏名がない書類とか世間一般ではあり得ないことが
当然のように続いていますから。
 署名する立場 など切って捨てるため用意したトカゲのしっぽかも。(「業過」で個人を吊し上げて溜飲を下げる世間一般さまw対策)
 大臣なんてなんぼでも変わるんです。議員様は官僚の首のすげ替えで満足していては、実は仕事になっていないということ。
 

 

投稿: | 2015年7月11日 (土) 09時57分

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