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2015年6月30日 (火)

少子化の時代における生殖医療の位置づけの難しさ

いわゆる人工受精、体外受精と言うテクニックは不妊症治療の中でもかなり基本的なものなのだそうで、身体的な理由で妊娠がしにくいと言う方々にとっては非常に有益だとも聞くのですが、先日その有効性をさらに高める工夫を示すデータが出たと報じられていました。

神戸の医院、受精卵検査で流産少なく 559組の夫婦で実施(2015年6月27日日本経済新聞)

 不妊治療専門の産婦人科医院「大谷(おおたに)レディスクリニック」(神戸市)は25日、受精卵の全ての染色体異常を調べ、正常な受精卵を選んで出産を試みる着床前スクリーニング(受精卵検査)を559組の夫婦に行った結果、流産率は約10%だったことを明らかにした。

 生殖補助医療を受けた妊婦の流産率30~40%と比べて大幅に低下したという。26日に千葉市で開かれる日本遺伝カウンセリング学会で発表する。

 同クリニックによると、受精卵検査を導入した2011年2月から14年7月まで、559人の妊婦が受検。このうち327人で正常な受精卵が得られ、246人が妊娠した。出産を確認したのは119人で、ほかに99人が調査時点で妊娠を継続していた。妊婦の平均年齢は40・4歳だった。

 流産は24人で、妊娠したうちの9・8%。日本産科婦人科学会のデータでは、人工授精や体外受精を実施した平均年齢39歳の妊婦の流産率は約30%、同41歳では約40%だった。

 大谷徹郎(おおたに・てつお)院長は「流産を繰り返すことは肉体的にも精神的にも大きな負担で、不妊に悩む妊婦にとっては福音になる。妊婦の利益を何より優先したい」と話した。

 受精卵の遺伝検査について、同学会は、筋ジストロフィーなどの重篤な遺伝子異常と、習慣流産の原因となる染色体異常に限定しているが、全ての染色体異常を調べる受精卵検査が流産率低下につながるかどうかを検証する臨床研究を本年度にも始めることにしている。

受精卵自体の異常によって妊娠が妨げられると言うことも当然あるのでしょうし、多胎妊娠を避けるために産婦人科学会では一度に身体に戻す受精卵は一個だけと言うガイドラインを設けているそうですから、それなりに高額なコストもかかり心身の負担も大きい中で少しでも妊娠の成功率を上げる手段と言えば、誰しも大歓迎となりそうなものですよね。
一方で出生前遺伝子診断と言うことが非常に簡便に出来るようになってきた結果、それが生まれてくる子供の選別につながるのではないかと言うことが議論になっていましたが、これもまた見方を変えれば受精卵の選別そのものであるのですから、果たして手放しで歓迎される行為なのかどうかと言う異論は出てくる可能性もあるでしょう。
人間とはどこから人間として認められるべきなのかと言うことは国や文化によっても違いがあるのでしょうが、受精する前の配偶子の段階で人間扱いすると言うことはまあどの文化圏でもないわけですので、例えば体外受精前の精子と卵子から何かしらのチェックが行えるようになればこの種の問題は減るんじゃないかと言う気がするのですが、いずれにせよ不妊に悩む当事者からすれば「少しでも妊娠確率を上げることの何が問題?」と言う話でしょう。
国にしてもこれだけ少子化対策が求められ、積極的に推進もしていくと言っている手前こうした話には表立って反対しにくいんじゃないかとも思うのですが、この点で法律的観点からも出生率引き上げにつながるようなこんな話も出ているようです。

卵子提供・代理出産「産んだ女性が母」 自民部会が了承(2015年6月26日朝日新聞)

 第三者の卵子や精子を使った生殖補助医療で親子関係が混乱するのを避けるため、自民党の法務部会・厚生労働部会などの合同会議は26日午前、親子関係を規定する民法の特例法案骨子を了承した。卵子提供や代理出産では産んだ女性を母親とし、精子提供では提供に同意した夫を父親と定めた

 生殖補助医療の法整備を検討している自民党プロジェクトチーム座長の古川俊治参院議員は「今国会に提出したい」と述べた。

 認められた民法特例法案の骨子では、自分以外の卵子を用いた生殖補助医療で出産したときは、出産した女性をその子の母親とすると規定した。ただ、代理出産では、依頼した夫婦と生まれた子で、親子関係が成立できるような制度を検討していくという。

 精子提供では、妻が夫の同意を得て夫以外の精子を使って妊娠した場合、夫が父親となるとした。

 民法は、第三者が関与した生殖補助医療による出産を想定しておらず、卵子の提供者と産んだ人のどちらが母親になるか明文化されていない。タレントの向井亜紀さんと高田延彦さん夫妻が米国の女性に代理出産を依頼して生まれた双子の男児について、2007年に最高裁が「自分の卵子を提供した場合でも、民法では母子関係の成立は認められない」とする判断を示している。今回の法案骨子は、最高裁の判断をふまえた形になっている。

 これまで海外で代理出産を依頼した夫婦は、子どもを特別養子縁組で引き取る例もあるとされる。

 また、生殖補助医療の法制化については、限定的に代理出産を認める案などを検討してきたが、意見がまとまっていない。出自を知る権利を認めるかどうかも検討課題となっている。しかし、海外で代理出産を選択するケースが後を絶たないため、親子関係の規定を先に進めることにした。(福宮智代)

今後は代理出産に関してもより現場の実情に即した法制度を検討していくと言うことで、要するに誰が親と認められるのかと言うことを現場のそうあって欲しいと求めている方向にしていく改正であると理解出来るものではあるのですが、一見すると精子提供では提供者が父親に認定されるのに、卵子提供では提供者ではなく生んだ者が母親に認定されるのはおかしい、男女差別ではないか?と言う解釈も出来そうですよね。
この法改正の大きな原動力となっているのが記事にもありますように、生殖医療の場合それと望んで技術を利用した二人こそが親であるべきなのに、実際にはそうなっていないと言う歪みがあるからだとも言えるのですが、配偶者の親兄弟などから精子や卵子を提供された場合に親子関係をどう解釈すべきなのか等々、様々な疑問点はかねて提出されてはいるところです。
最近では代理出産を頼んだはいいが、生まれた子供が障害者であると判った途端に引き取りを拒否した「親」のニュースが大いに話題になっていましたが、あれなどは聞くところによればそもそも代理出産契約が認められる方がいささかどうよ?と言う特異な背景事情もあったのだそうで、こうした場合にはむしろ親を親として認める方が子供の福祉に背くのではないか?と言う考え方もあるでしょう。
少子化対策が急がれる時代だけに現場でより使いやすいような制度にしてもらうのが一番いいのかも知れませんが、現代日本の妊娠行動にはどうも根本的なところで以前とは考え方が変わってきているんじゃないかと言う指摘もあって、近くそういった辺りもまた取り上げてみる予定にしています。

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コメント

代理母の場合、特別養子縁組で引き取りゃ何の問題もなく、現行法でいけるのに
なんでごねているんだとずっと思っています。
裁判所さえ認めりゃ、戸籍上の表記も実子とおなじなのに。
ここのところ理解不能。

投稿: | 2015年6月30日 (火) 08時57分

関係者それぞれが感情論で語ってるって言うか。
でも一つきりの共通のルールじゃもう対処できないんだろうしなあ。
それやって誰が得して誰が困るの?ってことなんでしょうね結局は。

投稿: ぽん太 | 2015年6月30日 (火) 09時58分

出自や子作りで差別するのが楽しくてしょうがない人たちがいるから

投稿: | 2015年6月30日 (火) 10時25分

ひどく個人的な問題にまで他人が踏み込んで来ることは基本的には失礼なことなんだろうとは思うのですが、社会の中で許容される権利を追及することは同時に掣肘されるべき義務も負うと言うことなのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2015年6月30日 (火) 12時22分

>生殖補助医療を受けた妊婦の流産率30~40%と比べて大幅に低下したという。

すばらしい!こうなったら国は出生前診断を徹底的に支援すべきだね!

投稿: | 2015年6月30日 (火) 19時09分

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