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2015年6月 5日 (金)

保険診療の縮小はまず薬局から

先日は財務省の財政制度等審議会が麻生大臣に診療報酬のマイナス改定など医療費抑制策をまとめた建議を提出したのだそうで、財政再建の視点からはまたぞろ医療費抑制時代に入りそうな勢いなんですが、この中に高齢者の医療費自己負担率軽減の特例廃止などと並んで、ジェネリック利用率目標を60%から80%に引き上げるべきだと言う話があります。
その方法論として先発品に対する保険給付額を後発品のそれと同等にすると言う制度改定を求めていて、そうなりますと一気に保険給付が外れ価格が高騰する先発品から後発品を希望する患者が激増するのかも知れませんが、一方で調剤薬局としては単純に売上金額は安くなるわけですから、経営的にはいささかのデメリットもありそうな話ですよね。
この種の政策誘導に対して自分で何とか対策が出来てしまうのが医療の采配を振るう立場にある医師(病院)の強みだとすれば、対応の自由度が少なく政策任せなところが大きいのが薬剤師(薬局)の弱みだと思うのですが、先日は塩崎厚労相がこんなコメントを出していたそうです。

塩崎大臣、薬局減少容認の考え、経済財政諮問会議(2015年5月27日医療維新)

 政府の経済財政諮問会議が5月26日に開かれた(資料は、内閣府のホームページに掲載)。この日は、民間議員が前回提示した医療制度改革について、厚生労働大臣の塩崎恭久氏が、対応を説明した(『「適正化進まない地域、報酬下げ」案も、経済財政諮問会議』を参照)。
(略)
 前回会議で、民間議員は、「医療費適正化の改革が進まない地域における診療報酬引き下げの活用」「標準外来医療費の設定」「後発医薬品の利用率目標の引き上げ」などを求めていた。塩崎厚労相は、この日、「経済再生と財政健全化を両立させる新たな社会保障政策」の方向性を提示。

 各論としては、主に以下の点を挙げた。
(1)2015年度中に「患者のための薬局ビジョンの策定」
(2)2016年度診療報酬改定時に、かかりつけ医に関する評価のさらなる検討
(3)後発医薬品使用率を2020年度末に80%以上
(4)2018年度予定の医療費適正化計画の前倒し加速化
(5)保険者やなどへのインセンティブ改革の前倒し実施

 (1)については、医薬分業の原則に伴い、「5万7000の薬局全てを患者本位のかかりつけ薬局」とする方針を示し、「24時間対応」「服薬指導、処方提案」「残約解消、重複投薬防止」などといった機能を強化する方針で、塩崎氏は「全ての薬局を残すのではない」として、薬局数の削減にも踏み込んだ。塩崎厚労相の示した資料では、門前薬局に対する評価の見直しも掲げ、「調剤報酬を抜本的に見直す」としている。ただ、民間議員からは、「薬局再編して、薬局数を半減させるなどの目標を検討してほしい」と述べるなど、調剤関連への削減圧力が強いことを伺わせた。
(略)

要するに財務省を中心とした財政再建視点での医療費削減の要望が一方にあり、その中で調剤薬局の扱いと言うものに関して強い要請が来ている、これに対して厚労相としても薬局側に対していわば厳しいものとなるだろう改革案に対して前向きな反応が出ている、そしてその結果起こるだろう薬局の経営悪化に関しても「全ての薬局を残すのではない」とまで言い切っていると言うことです。
薬局側とすれば以前に医薬分業だ、院外薬局化だと厚労相の旗振りによってわざわざ大きな初期投資をして薬局を建ててきたものを、ここに来ていわば裏切られるかのような形ですから大変な騒ぎになるだろうと予想されますけれども、もともと医薬分業推進でかなり薬局有利な診療報酬が設定されてきたこともあって、病院における医療そのものが強力に抑制されてきたのに対して薬剤費は青天井ではないかと批判もあったようです。
こうした現状を称して日医幹部が「母屋(病院・診療所)ではおかゆをすすっているのに、離れ(調剤薬局)ではすき焼きを食べている」と言ったと言う話もありましたが、財務省のみならず厚労省側からもさらに調剤薬局の経営を悪化させそうなこんな話も出ているようです。

処方薬から市販薬へ 厚労省が転用促進の新制度導入へ(2015年5月30日朝日新聞)

 医師の処方箋(せん)が必要な処方薬から、薬局などで自分で選んで買える市販薬への転用を進めようと、厚生労働省は29日、新たな制度の導入を決めた。企業に転用を促す薬の成分について、学会に提案してもらう現在の方法を改め、すべての人から要望を受け付ける仕組みにする。

 新制度は、同日開かれた厚労省の審議会で了承された。市販薬への転用促進は昨年公表された政府の成長戦略に盛り込まれていた。軽い不調は自己管理することを進めると同時に、医療機関への受診を減らして公的医療保険の支出を抑える狙いもある。

 転用を求める要望は、専門家だけでなく、消費者を含めてすべての人から受け付ける。今後立ち上げる有識者会議で、要望のあった成分について、医師の指導のない市販薬にも適しているか議論する。処方薬での使用実績や副作用の発生状況をふまえ、関係学会の意見を聞くなどして、転用の候補となる成分を公表する。転用された薬は、薬剤師との対面販売が必要な「要指導医薬品」に分類される。

この処方薬から市販薬への転用と言う話自体は近年のOTC薬普及促進と言う形で言われてきたことで、各方面から「万一何かトラブルでもあったときに誰が責任を取るんだ!」などと文句を付けられながらも今やかなり多くの処方薬が無処方でも変えるようになってきたわけですが、さらに大々的にこれを推進し健康管理は自己責任で、なるべく病院にはかからないようにと言うことを厚労相としても推進しようと言う話です。
その方針自体の是非はまた議論が大いに別れそうなところですのでここでは敢えて触れませんけれども、医薬分業推進によって各地に乱立したいわゆる門前薬局などにとって見れば今までは病院からの処方薬を袋詰めしていれば食えていたものを、市販薬を多種多様に取りそろえたドラッグストアに顧客を奪われかねない話ではありますし、その結果調剤薬局側の売り上げが減り経営的に厳しくなるのではないかとも思えます。
調剤薬局にも市販薬を揃えておけばいいじゃないかと言う話なんですが、この種の薬局はカウンターの外側は待合スペースくらいで商品を並べる場所自体存在しない場合も多いですし、そもそも病院の外来時間にあわせて朝から夕方までしか開いていない調剤薬局と、深夜どころか下手をすれば24時間営業をしている市中のドラッグストアのどちらが利便性が高いかを考えるとやはり利用者としては後者を選びたいところでしょう。

日本のように風邪をひいた、肩が痛いとすぐに病院にかかる人が多いと言うのは諸外国では必ずしも一般的ではないし、そうした初期需要にも対応している英国式の家庭医制度でも「風邪だから大人しく休んでいなさい」で終わりでろくに薬も出してくれませんが、なぜ日本ではこうまで気楽に患者が病院に受診するかと言えば、風邪薬一つ湿布一枚にしても病院で処方薬として出してもらったほうがずっと安いと言う事情があります。
医者の方でも自分の懐が痛むわけでもないので気楽に言われるまま薬を出して来たところがありますが、例えば風邪薬や湿布薬のようなものは保険診療の対象から外して全部市販薬にすべきだと言った意見も根強くあるように、何でもかんでも保険診療に抱え込んでいくやり方では医療費がかさむ一方だと言う危機感は多くの人々が共有するところですよね。
手順としてもまずは忙しくて病院になど行っていられないと言う人々にいつでも市中で多少の薬が手に入るようになれば便利だろうし、それによって症例経験を積み重ねておけばいざ保険から外すとなった場合にも「別に今まで大した問題もなかったでしょ?」と言えるだけのデータも蓄積されている計算で、要するに国としては順次手順を踏んで保険診療の縮小を図っていくつもりであると言うことのようです。
この方面では実質的な混合診療が順次拡大されていっているなど、いずれにせよ国策として何でもかんでも安く保険で診てもらえると言う時代は近い将来終わりを告げそうですが、永続的な制度の維持と言う観点からいずれにしても保険診療の縮小が避けられないのであれば、何を残して何を外すすべきなのかと言う部分を予めしっかり議論しておかないと後々大変なことになるかも知れませんよね。

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コメント

つぶれる薬局が増えて困るようになったらまた考えるだろ

投稿: | 2015年6月 5日 (金) 13時19分

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