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2015年6月 2日 (火)

未だ遅々として進まない医療現場の労働環境改善

表題の通り医療現場の労働環境改善と言うことに関連して、先日こんな記事が出ていましたけれども、日医などよりよほどこの方面で熱心な活動を続けている日看協の自画自賛を抜きにして考えれば、残念ながら未だに画期的な成果を挙げているとまでは言えないように見えるのは自分だけでしょうか。

看護師の勤務体制、「見直し進む」- ガイドラインの基準と比較、日看協が調査(2015年5月29日CBニュース)

 日本看護協会(日看協)は、2013年に公表した「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」を受け、医療機関がどの程度、勤務環境の改善を進めているかを調査した結果を公表した。調査は今回で2回目。日看協では、「実施状況には病院の勤務体制(3交代制、2交代制)による特徴があることや、医療現場においてガイドラインに沿った勤務体制見直しの取り組みが進んでいることなどが明らかになった」としている。【坂本朝子】

 調査は昨年11月28日から12月26日まで、全国の8563病院を対象に郵送で実施。回答を得たのは3213病院で、勤務体制の内訳は、「3交代制(変則含む)」21.7%、「2交代制(変則含む)」57.4%、「3交代制と2交代制のミックス」19.2%などだった。ガイドラインでは、勤務編成の考え方として、「勤務間隔を11時間以上空ける」「勤務の拘束時間は13時間以内」など11項目で基準が示されている。日看協では、各施設で優先順位を決定し、可能な範囲で進めるように呼び掛けている。

 3交代制勤務の病院では、11項目中10項目で前年度より実施割合が増加。「勤務の拘束時間は13時間以内」「夜勤の連続回数は2連続まで」「夜勤・交代制勤務者の早出の始業時刻は7時より前を避ける」の3項目では8割を超える病院で実施していた。一方で、「夜勤の途中で連続した仮眠時間を設定」は17.2%(前年度比9.2ポイント減)で最も実施率が低かった。また、「正循環の交代周期(3交代で「日勤」→「準夜勤」→「深夜勤」のように勤務開始時刻を遅くしていく方法)」も23.3%(前年度比4.5ポイント増)と、増加はしていたが依然として実施困難な様子がうかがえた。

 2交代制勤務の病院では、前年度より全項目で増加。ほとんどの項目で実施割合が6割を超え、「勤務間隔を11時間以上空ける」「1回の夜勤後にはおおむね24時間以上の休息を確保」などでは9割を超えていた。しかし、「勤務の拘束時間は13時間以内」の項目では19.6%の病院しか実施しておらず、47.1%の病院で「取り組む予定はない」と回答。2交代制の病院では多くが16-17時間の夜勤を実施していることから、日看協では「看護体制だけでなく労務管理全般にかかわる制度変更を伴う夜勤時間短縮には容易に着手できない実情がうかがえる」としている。

 日看協は27日、厚生労働省に16年度の診療報酬改定に関する要望書を提出した。その中でも、看護職員の夜勤・交代制勤務の負担を軽減する必要性を訴え、「正循環の交代周期」や「勤務間隔を11時間以上空ける」など勤務体制の改善に取り組む病院を評価するよう求めている。

看護の場合交替勤務制の導入が進んでいて、しかも昨今では休み時間が長くなる二交代制が次第に増えてきていると言いますが、どのようなシステムがいいのかと言う議論はさておき、やはり確実な休憩時間を確保した交代勤務を実施するにはある程度のマンパワー集約が必要になるのでしょうし、この点では大病院の方が小病院よりも有利になるのでは?と言う気もします。
ひるがえって医師の場合には多くの場合大病院の方が労働環境が厳しいと言う傾向があると思いますが、その理由として患者がより多く集中し高度で手間暇がかかる医療を担当しているにも関わらず、交替勤務制ではなく主治医制を維持していることで一人の医師が長時間勤務で現場を支えなければならないからだと言えそうですよね。
ただもともとの人数の多い看護師と違って、医師が交替勤務制を導入するとなれば今よりもさらに多くの人材を集中しなければやっていられない計算ですが、例えば病院での夜勤、当直に地域の開業医が参加したりと言った方法論を採っているところもあるようですし、救急や麻酔科と言った診療科では比較的交替勤務制が導入されたケースも増えてきてはいるようです。
いずれにしてもこれらは医師だけの都合で実施できるものではなく、医師の派遣を行っている大学医局の意向や病院側の意志も複合的に関係している問題ですが、興味深いのは昨今いわゆるブラック企業問題が世間的な注目を集め国もようやく是正に乗り出すと言われる中で、歴史的伝統的にほぼ全部がブラックと言ってもいい労働環境を誇ってきた病院の扱いがどうなっていくのかです。

「ブラック病院」も公表対象、指導段階、厚労省見解「対象とならない医療機関はないのでは」(2015年5月28日医療維新)

 厚生労働省は5月中旬から、違法な長時間労働の問題のある、いわゆる「ブラック企業」について、書類送検前の是正指導段階から公表する措置を始めた。厚労省労働基準局労働基準監督課は、m3.comの取材に対して、大学病院や国立病院機構の病院も含めて「病院や診療所も対象」「対象とならない医療機関はないとみられる」との見解。ただ、「複数の都道府県に事業所を有している」「中小企業に該当しない」「概ね1年程度の期間に3カ所以上の以上での事実がある」などの条件が付いているため、実際に公表に至るかは未知数だ。

 指導段階での公表に至る場合、以下の5つの条件を全て満たす必要がある。
(1)複数の都道府県に事業場を有していて、資本金5000万円超で、かつ常時雇用人数(非常勤なども含む)が101人以上であること
(2)労働時間(労働基準法32条)、休日(同35条)、割増賃金(同37条)に係る労働基準法違反が認められること
(3)1カ月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えていること
(4)1カ所の事業場で、10人以上、もしくは4分の1以上の労働者に、(2)と(3)が認められること
(5)概ね1年程度の期間に3カ所以上の事業場で、(2)と(3)が認められること

 実質的には、(1)の条件で、小規模な医療機関は対象外となるほか、施設の立地範囲が限られる市町村立や都道府県立は対象外となるとみられる。また、(5)のため、3つ以上の経営施設がなければ、指導段階での公表はされないこととなる。ただ、書類送検された場合は、公表される可能性が残る。
 「公表に至るハードルが高い」との指摘があることについて、労働基準監督課は、「目的はあくまで指導によってトップの意識を変えること。公表は経営などに影響を与える可能性があり、慎重であるべき」との見解。また、「(公表に至るかとは別に)違法な実態があれば、事実が大事。労基署に相談してほしい」としている。

条件的に考えると公表の対象になりそうなのは国立病院機構などが該当してくるのか?などと様々に想像出来るのですが、複数の都道府県云々の条件を抜きにして個別の病院で考えてみれば違法な長時間労働が行われていない病院などまず存在しないだろうし、別に公表されなくとも指導や書類送検などは行われるはずですから、どの程度現場に影響が及ぶのかは今後の経過を見ていくしかないところですよね。
ただ医療現場に関して言えばひと頃から労働環境の悪い病院には医師が集まらない、あるいは集団で逃散していくと言う現象が目立つようになってきた、その背景には医局人事制度が崩壊し医師が自分で勤務先を選ぶ時代になったからだとか、ネットの普及で医療現場の異常性に医師自身が気付いてしまったからだとか色々に言われますが、ともかくも国の指導云々に先立って意識改革が進んできている現状もあるわけです。
医師の場合は国全体で総数が決まっている国家資格職であり、需要に対して供給が常に過少気味と言う売り手市場であることから、結局制度をどうこうするより逃散が一番勤務環境改善に有効であると言う意見も根強くありますが、雑多な書類仕事を引き受けてくれる医療事務員の導入などで少しでも医師の負担感を軽減するなど、まだまだ現場レベルでやれることはたくさんあるようには感じますね。

この労働環境改善と言う点に関連して、全国各地に医師を大事にしないどころか背後から撃つような行為を平気でするとされる「聖地」と呼ばれる土地が少なからずあって、心ある医師はそうした地域に決して近づいてはならないなどと言われていたりもするのですが、実際にそうしたネット上での風評がどれくらい現実の医師分布に反映されているのかも興味があるところですね。
先日面白いと思った話として1994年から2012年までの18年間で医師の流出、流入を都道府県毎に調べたところ、必ずしも聖地と呼ばれる地域から医師が流出していると言ったわけでもないようで、流出流入に影響がありそうだと見なされた因子としては「医師の養成数が多い地域から少ない地域へと移動する傾向がある」「女性医師は移動しにくい傾向がある」の二つだけだったと言う結果が出たそうです。
もちろん小松先生が「立ち去り型サポタージュ」と言う言葉を2004年に初めて用い、大野病院事件が2004年、大淀病院事件が2006年と言うように、医療崩壊と言う現象が顕在化してきたのはおおむね2000年代に入ってからだと言うことを考えるともう少し最近のデータではどうなのか?ですが、供給過多の地域から需要方の地域への移動だとか、女性は地元志向が強いだとか言った話だけ聞けば案外普通には思えますよね。
低賃金で粗悪な待遇の環境に進んで飛び込むマゾ奴隷的な人間が多いなどと言われてきた医師も結局は人の子で、長期的統計的に見れば当たり前の考え方に従って働く環境を選んでいるのだとすれば、一部の医療系団体などが盛んに主張するような医療現場の特殊性をやたらに強調するようなやり方よりも、世間で当たり前に望まれているような対策を地道に講じていく方が有効性は高いのかも知れませんね。

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コメント

数字指標だけみてたらかな~り多そうですけどね。>ブラック病院
でも当の医師がそう認識してるかどうかってどうなんでしょ?

投稿: ぽん太 | 2015年6月 2日 (火) 08時57分

仕事内容の範囲を定めない雇用契約を結ぶのが悪いのですよ。医者の場合、資格なしの派遣労働者と異なるのに、、、
何も考えずに、麻酔科常勤になると、麻酔科医長(役職は何でも可)に命ずるという辞令貰うだけで、仕事の範囲書いていませんでした。ICUやペインや(全科で回している違法な)当直や、はたまた、医療安全・薬事・医療ガス等の会議や、範囲が際限ない。で、現状では、もっとも手っ取り早い方法は、非常勤になること。報酬麻酔点数の8割そんだけ。(その他は、契約期間や契約延長方法や交通費程度)定めがなければ、オンコールも引き受けません。引き受けても有償です。

投稿: 麻酔フリーター | 2015年6月 2日 (火) 08時58分

仕事の範囲が書いていないっていうのは別におかしいことじゃないと思いますが。
そんなの書いてある業種ってどれだけあるんだろうか。
完全に単純作業くらいかな?

投稿: hisa | 2015年6月 2日 (火) 09時50分

仕事の範囲が書いていない常勤契約は、日経の受け売りですが、(医療に限らず)日本独特とのことでした。コピーまで取る、残業代貰えない、名ばかり管理職が蔓延していますからね。

投稿: 麻酔フリーター | 2015年6月 2日 (火) 10時36分

日本の場合業務範囲を定めての雇用契約はむしろ非情に珍しいことかと思いますが、逆に言えばそれが続いてきたのは企業なり団体、組織への帰属意識と忠誠心発揮が大前提となってきたことのように思います。
医療においても現場スタッフが組織への忠誠心と士気を保持出来るかどうかが重要で、それを維持出来ない組織は崩壊しても仕方ないのでしょうが、今まで経営側もそのあたりに無頓着すぎた気がしますね。
まあしかし医療現場で業務範囲を明確にしてこなかったのは、細々とした雑用まで専門職にさせてきた名残でもあって、そこを明確にしてしまうと新たなスタッフを雇い入れないといけなくなるからと言う理由なんでしょう。

投稿: 管理人nobu | 2015年6月 2日 (火) 10時58分

 労働環境がクソなのは、日本全体の話。

投稿: うう | 2015年6月 3日 (水) 13時17分

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