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2015年5月 8日 (金)

民間の卵子バンクが初承認

本日の本題に入る前に、先日出ていたこういう記事を紹介してみましょう。

ゲノム編集技術改良 高確率の遺伝子組み入れ(2015年5月4日NHK)

生物の遺伝子を操作する「ゲノム編集」と呼ばれる技術を改良し、高い確率で狙った場所に遺伝子を組み入れる方法を、東京医科歯科大学などの研究グループが開発しました。

ゲノム編集の新たな方法を開発したのは、東京医科歯科大学の田中光一教授の研究グループです。生物の遺伝子を操作する方法としては「遺伝子組み換え」技術が広く使われていますが、狙った場所に遺伝子を組み入れる際の成功率は1%以下とされています。
これに対し、最近広まりつつあるゲノム編集の技術は、成功率が10%程度まで高まっていますが、研究グループはこの技術で使われる「ガイドRNA」と呼ばれる物質を改良するなどして、成功率を50%にまで高めることができたということです。

研究グループでは、成功率が高まったことで、マウスなどにヒトの遺伝子を組み入れ、病気の原因を解明するスピードが早まったり、副作用の少ない遺伝子治療が可能になったりするのではないかとしています。
研究を行った相田知海助教は「これまでは生物に新しい遺伝子を入れたり別のものと置き換えるのは難しかった。今回の成果で研究者なら誰でもできるようになり、研究が進むだろう」と話しています。

最近の遺伝子研究の進歩につきましてはちょうどこちらの解説記事を参照いただきたいと思うのですが、一般論として技術的進歩は非常に喜ばしいものでもあるし、NHKのニュースにしてもめでたいことだと言う論調で報じているわけですが、このゲノム編集技術と言うことに関してはつい先日に中国のグループがヒトの受精卵に応用して国際的批判を浴びたばかりですよね。
この際に国立成育医療研究センターの阿久津英憲先生が「目的外の遺伝情報にも改変が起きてしまう点で未完成。ヒトの受精卵に応用するような段階ではない」とコメントを出していたことが思い出されるのですが、逆に言えば今後技術的に成熟しほぼ安全確実にゲノム編集が行われるようになった場合に、その技術をヒトに応用することは有りなのか無しなのかです。
この種の最先端技術の臨床応用に関しては大抵各方面から反対意見が噴出しますが、よく見て見ますと「技術的に未熟で失敗する確率が高い」と言う理由と「倫理的道徳的に認められない」と言う理由が両立しているケースが多く、仮に技術が進歩し安全確実に行えるようになればこのどちらの立場に立つのかによってやっていい、悪いと言う判断が分かれることになる理屈ですよね。
まさにこの古典的な実例として今もアメリカなどで選挙のたびに争点になる堕胎の問題などもあるのだと思いますが、各個人や国、民族によって文化的背景も異なる以上こうしたことに正解はない理屈で、いずれは現在の安楽死のように希望する人はそれが認められている国に出かけて行くと言うことが起こるようになるのかも知れませんが、それはそれで個人と社会の折り合いをつけるためには仕方ないのかなと言う気もします。
のっけからいきなり話が脱線してしまいましたが、これまた社会的に議論が別れそうな生殖医療に関して、先日こんなことが決まったと言うニュースが出ています。

民間バンクの匿名卵子提供を倫理委が承認(2015年4月30日NHK)

病気などが原因で妊娠できない女性に卵子を無償で提供する取り組みを進めているNPO法人が、ドナーの募集に応じた匿名の第三者からの卵子提供が倫理委員会で承認されたことを明らかにしました。実施されれば、民間の卵子ドナーバンクを通じた匿名の第三者からの初の卵子提供になるということです。

不妊の女性に無償で卵子を提供する取り組みを進めているのは、病気などで不妊となった女性とその家族、それに専門の医師などで作るNPO法人「OD-NET」です。
「OD-NET」によりますと、ドナーの募集に応募した女性2人が、それぞれ匿名で不妊の女性2人に卵子を提供することについて倫理的に問題がないか、不妊治療のクリニックで作る団体の倫理委員会で議論した結果、提供が認められたということです。

国内では、不妊の女性が姉妹や友人から卵子の提供を受ける卵子提供は行われていますが、民間の卵子ドナーバンクが提供者を募集し、匿名で卵子を提供したケースはこれまでないということです。
NPO法人では、ほかにも3組が倫理委員会に申請する予定で、認められれば順次、提供が行われることになるとしています。

何やらネットでちょいと検索してみるだけでも卵子提供サービスがたくさん引っかかってくるようで、今さらこんなことを言い出すのは事後承認もいいところなのではないか?と言う気もするのですが、海外の怪しげなサイトに引っかかるよりは国内のしっかりした公認サイトの砲が当然様々な意味で安心感もあるだろうし、子供の人種的特徴などを気にしなくて済むと言う実利もあるのでしょう。
すでに半世紀以上の歴史があり国内でも久しく以前から稼働している精子バンクに比べれば、卵子バンクはようやく国内で認められ始めたと言う最初期の段階ですけれども、OD-NETに関してはこれまで海外で行われてきた有償のサービスではなくあくまでも無償のサービスであると言う点が特徴であり、海外の有償サービスで最近話題になっているようにドナー情報のカタログを見てこれがいいと決めるようなものでもないようです。
実際に稼働に当たっての問題はドナーがどの程度現れるものなのかと言う点にもかかってくると思いますが、この点で気になるのが国連の子供の権利条約によって子供が出自を知る権利が担保された結果、希望があれば15歳以上になった時点で子にドナーの情報を開示すると言う決まりがあると言うことで、法的に何か義務を負うわけではないとは言えやはり気になる人にとっては気になりそうな部分ですよね。

法的な問題と言えばこのOD-NETに関しては結婚していて、なおかつ卵子がない状態だと診断された人に対象を限っているわけですが、今後他の民間ドナーバンクが登場しこの辺りの条件が緩くなってくるようであれば、例えば独身女性やいわゆる性的マイノリティーの方々からも当然利用希望があるのだろうし、こうした方々に差別的な対応はすべきではないと言う考え方が昨今世の中で大いに主張されているわけです。
有名な話で1983年に日本産科婦人科学会が非配偶者間体外受精を認めないと言う見解を出し、一部の除名上等な施設でしかそれが行えないと言う状況が続いてきたわけですが、2000年頃からは厚労省の部会で非配偶者間も含めての生殖医療に関しても条件さえ整えば認めていく方向で議論が続いてきたと言え、それならばどこまで技術的進歩を享受出来る対象を広げていくべきなのかも検討すべき時期でしょう。
純粋に医学的に考えると別に結婚していなかろうが母胎としての機能に問題がなければリスクの増加はないのだろうし、妊娠してもパートナーがしっかり稼いで生活に支障がないとなれば相手が異性だろうが同性だろうがどちらでもいいだろうと言うことになりそうなんですが、仮に今後そうした考え方で規則のゆるいドナーバンクが登場した場合、学会等医療関係者がそれに対してどのような態度で接するものなのかにも注目したいですよね。

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コメント

これ無料なの?ほどなく経営破綻しそうなんだけど大丈夫?

投稿: | 2015年5月 8日 (金) 07時41分

ドナーや遺伝的素因が気になるのは人情ですもんね。
多少お金がかかっても身元のしっかりしたドナーを選ぶ人がいるのでは?
優秀な遺伝子を高く売り買いしたら問題だろうけど。

投稿: ぽん太 | 2015年5月 8日 (金) 08時33分

少なくとも遺伝的に、高い確率で病気が発生するなどは排除すべきでしょうし、
誰でもいいという訳にはいかないんじゃない?

投稿: hisa | 2015年5月 8日 (金) 08時54分

理屈の上では献血時の感染症チェックなどと同様ルーチンに除外診断をするべきなのかとも思うのですが、実際の運用を考えますとここまでは弾くがここからはスルーすると言う線引きは難しそうに思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年5月 8日 (金) 12時40分

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