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2015年5月21日 (木)

技術的進歩を続ける生殖医療、それでも怖いのはヒューマンエラーか

生殖医療の進歩は今さらですが、海外では商業ベースでかなりきわどいものまで実施されている場合もあるようで、先日はこんな記事が出ていました。

卵子の素で卵子若返り? 米企業、出産例発表 安全性に疑問も(2015年5圧11日朝日新聞)

 加齢による不妊に悩む女性に対して、本人の卵巣から卵子の素(もと)になる細胞を取り出し、一部を卵子に移植して若返らせる方法で、初めての赤ちゃんが生まれた、と米国の企業が発表した。妊娠の可能性が高まるとしているが、効果や安全性について疑問視する声も上がっている。

 発表したのは米国に本部を置き、世界の不妊治療クリニックに技術提供をしている「オバ・サイエンス社」。カナダの34歳の母親に試みて、男児が生まれたという。卵子の素になる細胞から、細胞に必要なエネルギーを作るミトコンドリアを取って発育不良の卵子に移植する方法で「卵子や受精卵の質が悪い人の妊娠率を上げられた」と説明している。

 北海道大の石井哲也教授(生命倫理学)は、効果や安全性に関する科学的な裏付けが欠けていると指摘。「子どもへの長期的な影響も懸念され、認める場合でも臨床試験で慎重に行うべきだ。安易に取り入れるクリニックが日本でも出てくれば問題になるだろう」と話す。

記事を見ていて気になったこととして一例報告と言う形で発表されたようなんですが、ともかくこうして成功例が表に出てきた以上は自分もその技術を利用する権利があると言う人は出てくるのだろうし、それに対してお金も出すし説明を受け理解をした上で同意してやることであれば、今後も同様のケースが後に続く可能性はありそうに思います。
もちろん大前提として大抵のことが自己責任で行われる米国だからこそ出来ることで、このままの形で日本でも即導入と言うのはちょっと考えられないのだろうとは思いますけれども、方法論としては国内の法律に明らかに反して違法であると言うものでもなさそうなだけに、有効性が確認されれば学会から除名覚悟でもやってみようと言う方々が国内でも登場するかも知れませんよね。
仮に妊娠、出産がうまくいったとしてもその後の長い子供の人生の中で何かしらトラブルがあったとき、あのときのあれが原因ではなかったかと思い悩むことになる可能性もあるかと思うのですが、それでも子供を望んでいるのに得られない不幸に比べれば子供が持てただけマシだと言う考え方もあるでしょうから、最終的には個人個人の価値観に従って判断するしかないことなのかも知れません。
技術がどんどん進歩しその臨床応用が広がるほど色々と考えることも悩みも増えてくることがあると言うことなんですが、どのような技術であれ医療として他人に提供される以上その提供体制に手抜かりがあってはならないと言うことは大前提で、その手抜かりの有無と言う点に関して先日こんなちょっと気になる事件があったと言うことが世間でも話題になっています。

2人分の精子凍結保存、了承得ず中止 大阪の病院(2015年5月20日朝日新聞)

 大阪市立総合医療センター(大阪市都島区)が、患者2人の了承を得ずに精子の凍結保存を中止していたことが朝日新聞の調べでわかった。不妊治療で精子を使おうとした患者の問い合わせで発覚した。病院側は1人に謝罪したが、別の1人には別病院に精子を移すよう求めていたとして、問題ないとの見解を示した。

 保存を打ち切られたのは大阪府と奈良県の30代の男性2人。大阪の男性によると、精子をつくる機能に悪影響が懸念される放射線治療などのため、2003年12月にあらかじめ精子を凍結保存した。奈良の男性は04年11月に凍結保存した。
 同病院によると、12年4月に責任者の婦人科副部長が別病院に異動。その時点で計13人分の精子を無償で凍結保存していたが、昨年9月ごろ、元副部長の指示で凍結保存のための液体窒素の補充が打ち切られた
 元副部長によると、12年4月の異動時に「1年をめどに患者の意向を確認してほしい」と口頭で看護師に依頼していたため、保管期限が13年3月末までということが患者にも伝わっていると思い込んだという。液体窒素の補充をしていた医師も、患者の了承が得られているか確認しなかった。

 今年4月、精子を使おうとした大阪の男性が同病院に問い合わせて凍結保存の中止が発覚。病院側が調べたところ、13人中6人については元副部長が事前に了承を得ており、3人は死亡していた。別の2人には「1年ごとに意思表示をしなければ廃棄する」と書いた文書を渡していた記録が見つかった。
 しかし、大阪と奈良の2人には了承を得ていなかった。奈良の男性には今月15日に電話で謝罪したという。大阪の男性については、13年3月末までに別病院に精子を移すよう、12年の受診時に依頼していたとして、問題ないとの見解を示している。男性は「勝手に廃棄することはないと説明された」と主張しているが病院側は否定している。
 保存容器は現在も病院内にあるが、内部の精子の機能は失われているという。(藤田遼、西村圭史)

■説明不十分だった

 〈大阪市立総合医療センターの瀧藤伸英病院長の話〉 大阪の男性については、凍結保存継続の意思表明がなかったので保管をやめた。他の病院に移管するよう伝えていたので対応に問題はない。言葉がなくても、移管をお願いした期限より先は保証できないという意思があった。その意味を患者が受け取れたかは何とも言えない。説明が不十分だったことは否めず、文書も示して説明すべきだった。奈良の男性には謝罪した。結果的に男性は精子を使う予定がなかったが、そうでなければ取り返しのつかないことになっていたと思う。

この一連の件に関しては朝日新聞の取材で発覚したと言うことのようで、例によって当事者情報に満ちあふれた記事が出ていますので参照いただければと思いますけれども、関係者相互で様々な行き違いや思い違いがあったのも事実だとして、一方でそもそも無料で精子を預かった上にその保存期間はいつまでにするのかだとか、連絡がつかない状態が続いた場合にどうするかと言った詳細が決まっていなかったように聞こえる点が気になります。
当然ながら保管そのものにコストもかかるし、何よりいつまで保管するのかと言う条件設定を決めておかなければ当事者が破棄していいと連絡をして来ない限り未来永劫病院側に管理責任が生じる理屈で、どうも異動した元副部長がその辺りのルールをいい加減にしたまま個人の責任でやっていたことにも見えるのですが、やはりこの種のことは組織として管理しておかなければ抜けがあった場合に大変ですよね。
精子はきちんと凍結しておけば半永久的に使えるそうですが、当然ながらコストがかかることなので通常は有料の保管契約を結ぶのだそうで、逆に言えばお金を出さなくなった時点で保管を続ける意志がないと自動的に決まるとも言えるのですが、この病院では無料でこういうことを引き受けていたのかについて何かしら事情があったのかどうか、結果として妙なサービス精神が完全に裏目に出た形とも言えそうです。
この件に関しては医療関係者の間でも色々と議論はされていますが、技術的先進性などとは全く別な次元で非常に教訓的な事案とも言えますから、病院側としても是非今後のためにも詳細な事情を調べ検討していただき、出来ればある程度公に結果を公表いただければと思いますね。

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コメント

こう言うのっていくらでも新しいやり方が出てくる。
もう個別に検討じゃなくて包括的ルールがいりそうですね。
でも自由の国アメリカじゃ規制反対って人も多そう。

投稿: ぽん太 | 2015年5月21日 (木) 08時33分

自分の遺伝子を残したいというのは生物としてかなり根源的な欲求であるので、本人希望に反して社会的に規制すると言うことに関しては実はかなり厳密な理由付けが必要になると思われます。

投稿: 管理人nobu | 2015年5月21日 (木) 11時21分

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