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2015年5月27日 (水)

医療の専門分化の谷間と総合診療の役割

最近たまたま目にした「癌見逃し」のニュースなんですが、いずれも極めて教訓的内容を含んでいるように思えますので紹介しておきましょう。

2年以上がん治療放置=リンパ節に転移―新潟県立中央病院(2015年5月22日時事通信)

 新潟県立中央病院は22日、食道がんと診断した80代男性患者の治療が約2年5カ月間放置されていたと発表した。この間、男性の食道がんはステージ1から2に進行し、リンパ節にも転移したという。男性は4月に再入院し治療を受けている。

 男性は2012年10月、下咽頭がん治療のため同病院耳鼻咽喉科に入院。同月、内科で内視鏡検査し食道でもがんが発見された。下咽頭がんの治療を受け同年12月に退院したが、食道がんについては耳鼻咽喉科、内科いずれの医師も他科で治療が行われると思い込み放置していたという。

 今年3月下旬に下咽頭がんの経過観察でコンピューター断層撮影(CT)検査を行った際、食道がんが未治療であると発覚。同病院は原因について「内科医による主治医(耳鼻咽喉科)への内視鏡検査結果の報告が不十分だった」としている。 

腫瘍見逃し患者死亡 岐阜・大垣市民病院(2015年5月25日共同通信)

 岐阜県の大垣市民病院は22日、2012年に入院した70代女性のエコー検査で膵臓(すいぞう)に腫瘍が見つかっていたにもかかわらず、医師らの連絡不足などで放置する医療ミスがあったと発表した。女性は昨年8月、膵臓がんで死亡した。

 同病院によると、昨年4月、女性が腹部に痛みを訴え来院し検査を受けた。膵臓に縦7センチ、横3・5センチ大の腫瘍が見つかり、末期がんと診断された。医師が、12年の入院で受けたエコー検査の結果を確認すると、画像に腫瘍があった。女性は当時、複数科で治療を受けており、結果が担当医に伝わらず、担当医も画像を確認しなかったとみられる。

 病院はミスを認め遺族に謝罪、550万円の賠償金を支払う。藤本佳則(ふじもと・よしのり)副院長は「患者とご家族に迷惑をかけたことを深くおわびする」と謝罪した。

新潟の記事についてはこちらの読売新聞の記事により詳細な事情が掲載されていますので参照いただければと思いますが、一昔以上前であれば癌見落としと言えばシンプルに担当医が検査結果を確認しなかった式のものが多かったところ、これらはいずれも複数の診療科にまたがっての誤解や行き違いがこうした結果を招いた主因であるようで、システム的な背景も多いにありそうですよね。
特に大規模総合病院における複数診療科の連携と言うことになりますと、互いに顔も会わせないまま電子カルテ上だけでやり取りすると言う場合も日常的にあり得るだけに、同様の事態が再現される可能性は常にあるものと考えるべきですが、大垣市のケースのように日頃から複数診療科にかかっていると言う場合、新たな疾患が見つかった場合誰がその治療を担当するのかは問題になりがちですよね。
一般的には検査をオーダーした医師がその結果を確認し、必要ならその疾患を担当する診療科に割り振ると言う形になると思いますが、医師によっては検査はオーダーしても「○○のことは判らないから結果は全部△△科の先生に聞いて」と最初から結果説明を丸投げしていることもあり、なおかつそうした方針であることをカルテ記載もしていないとなると最悪誰も診療に責任を負わない状態ともなりかねません。
電子カルテであれば検査結果はオーダーを出した医師が確認するのだから見落としがなさそうなものですが、何しろ医療の専門分化が進んで検査を担当する各診療科もどんどん深いところまで突っ込んで検査をし所見をつけるようになってきた結果、ある程度その領域の知識を持っていないとそれがどうでもいい所見なのか、直ちに対処する必要があるものなのかも判断できないと言うこともあり得ますよね。
この辺りはスーパーローテート研修になって医師全般の共通知識のレベルが底上げされるのかどうかは今後の課題なのだろうし、検査担当者も自分達に判ればいいと言う所見ではなく全くの門外漢にも理解出来る所見をつけるような努力も必要なのでしょうが、やはり各専門家が寄ってたかって一人の患者に好き放題診療をしていると言う現状にも問題があるのでは?と言う問題提起もあるようです。

薬漬け、処方されるまま 13種飲み副作用…86歳救急搬送 医師、情報共有せず(2015年5月25日朝日新聞)

 医師が処方した多くの薬を患者が飲み続けた結果、具合が悪くなって救急搬送される例が後を絶たない。薬の情報が、医師同士や薬剤師の間で共有されず、重複したり、飲み合わせが悪くなったりするからだ。厚生労働省は患者が飲む薬を一元的に管理する「かかりつけ薬局」の普及を進めるが、課題も多い。

 水戸協同病院(水戸市)の救急外来には、薬の副作用で体調を崩した患者が多く運ばれてくる。特にお年寄りが多い。
 同病院に今春まで勤めていた阿部智一医師らが、2013年末までの9カ月間に運ばれてきた85歳以上の高齢者381人を調べたところ、7%が薬の副作用が原因だったという。服薬していた高齢者の7割が5種類以上飲んでおり、最も多い人で22種類飲んでいた
 めまいや嘔吐(おうと)などの症状で運び込まれてきた女性(86)は、13種類の薬を飲んでいた。そのうち、高血圧薬や利尿薬による副作用が原因とみられた。尿が出なくなったという男性(87)は、不整脈を防ぐ薬の副作用が原因とみられ、12種類の薬を飲んでいた。
 阿部医師は「多くの病気を抱える高齢者は複数の診療科にかかるため、薬が増えやすい。体全体の機能が衰えており、薬の影響が強く出る。体の状態に応じ、常に薬の種類や量を見直す必要がある」と話す。

 兵庫県の30代男性は片頭痛、糖尿病、痛風、高血圧、肥満などの治療で四つの医療機関に通っている。3月、もらった処方箋(せん)を近所の薬局に出したところ、計36種類の薬を渡された
 精神安定剤、食欲抑制剤、睡眠剤、抗不安薬、痛風治療薬、胃薬……。「効き目がない」と医師が処方をやめたはずの食欲抑制剤が、別の医療機関の医師によって処方されていた
 薬剤師は薬が多すぎると思ったが、「一度体重を測ってみませんか」と助言することしかできなかった。
 薬剤師は「お薬手帳」で、患者がどんな薬を飲んでいるか把握する。手帳の記録から、薬の重複がわかっても、薬の整理までは手が及ばないことが多い。
 不要な薬の整理に取り組む薬剤師の福井繁雄さんは「医療機関に問い合わせてもすぐに返事がもらえないこともある。患者を待たせないため、処方箋通りに薬を渡せばよいと考える薬剤師がまだ多い」と話す。

 在宅患者らの減薬に取り組んでいる、長尾クリニック(兵庫県尼崎市)の長尾和宏院長は「ほかの医師の処方に口を出しづらい。『処方を勝手に変えないで』と、別の病院の専門医から苦情が来ることも珍しくない。患者の薬をまとめて整理する主治医が必要だ」と話す。
 心臓病、糖尿病、認知症などを抱える、尼崎市の松田弘さん(82)は以前20種類の薬を飲んでいた。長尾さんが主治医となり、治療に必要な薬の優先度を見極めた結果、今は12種類まで減らすことができた。介護する長男充弘さん(57)は「薬を減らしても状態は変わらずに落ち着いている」と話す。

 ■薬剤師が調整役、限界

 厚労省は、患者が不必要に多くの薬を飲む事態を引き起こす要因の一つが、医療機関の前に立ち並ぶ「門前薬局」にあるとみる。患者が複数の病院で診療を受け、それぞれの門前薬局を利用すると患者のすべての服薬状況を把握できない。
 問題を解決するため、厚労省は患者がなじみの薬剤師をもつ「かかりつけ薬局」の普及を進めている。薬剤師が患者の服薬情報を一元管理して不必要な薬を減らせるよう、厚労省は来年度の診療報酬改定に向けて検討を進めている。
 いくつも病気を抱える高齢者が複数の医療機関にかかって重複する薬が処方されても、かかりつけ薬局なら、重複をチェックできる。患者宅を訪ねて、薬の副作用や飲み残しがないかを確認する役割も求める。

 だが、地域医療機能推進機構顧問で、総合診療医の徳田安春さんは「医師と薬剤師が十分情報共有しない現状で、薬剤師だけに薬の調整役を担わせるには無理がある」と指摘する。
 医師が出す院外処方箋には通常病名は書かれておらず、薬剤師は薬から推測したり患者に聞いたりするしかない。情報がないのに薬剤師から医師に薬を減らすよう求めることは難しい
 徳田さんは「医師同士が連絡を取り、必要なら処方の内容を変えるのが本来の姿。だが、薬を減らす訓練を受けていない医師が多く、教育が欠かせない」と話す。

まあ厚労省の解釈もどうなのかと思うのですが、特に高齢者の場合調べれば調べるだけ幾らでも異常と言うものは見つかってくるのだろうし、それらの疾患に対してガイドラインではこれこれの対処をしろと言う指針を明示している以上、将来的な訴訟リスク等も考えると「異常が見つかったけれども何もせずに放置します」と言える医師もなかなか少ないのだろうとは思います。
そして医療の専門分化が進み、各診療科でそれぞれ高い専門的判断に基づいた診療が当たり前となってくれば、他科の専門医が出した処方を勝手に変えにくいのも確かだろうし、勝手に変えられる側にしても「そんなことをされたのでは診療に責任が持てません」と言うものでしょうが、そうは言ってもやはり必要な薬とそうでもない薬と言う違いはある程度あるはずですよね。
この辺りは各診療科の医師が普段から相互に連絡を密にしていれば「この薬は絶対ないとダメ、こっちは効かなければやめてもかまわない」と言った情報共有が出来る理屈ですが、同じ施設内で診療をしている医師の間でも数多く抱えている患者のそれぞれにそこまでの手間暇がかけられるとは思えず、現実的には薬剤師等が個別に担当医に相談して処方を減らせるかどうか検討してもらうのが限界なのかも知れません。

こうした問題点を抜本的に解消する方法論として、かねて患者の全体像を把握し治療全体のマネージメントをする役割を今日的な意味での主治医と言うものに期待する動きがあり、特に複数診療科にまたがっての疾患多数を抱える患者も少なくない以上、この場合の主治医に求められる資質として総合診療医的な能力であろうとも言われているようです。
この総合診療医と言う存在に期待される役割として一つには初診の患者がどの診療科にかかるべきかと言うゲートキーパー的役割があり、一つにはこうした複数診療科にまたがる患者の全身的管理と医療全般のマネージメントがあると思いますが、特に後者の場合専門医が良かれと思ってやっている診療に言わば口出しをするわけですから、それなりに相手からも尊重されるだけのものを持っていなければならないですよね。
そう考えると最近はテレビや書籍の影響もあってか医学部生や若い先生方にもこの総合診療医と言うものが人気なのだそうですが、年々高度化する各診療科の専門性についていくとなると日々の勉強も大変であるはずで、一昔前の「専門医としては引退した先生が余生をまったりと過ごす場合に標榜するもの」的なゆるいイメージで捉えてはいられないと言うことでしょうか。

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コメント

そういえば総合診療医になりたいって研修医も少なからずいるんですよね。
テレビでいろいろやってるの見て感化されたんですかね?
でも国が求めてるなんでも屋とはちょっと目指してるとこが違う気もしますが。

投稿: ぽん太 | 2015年5月27日 (水) 08時17分

精神科の場合、すでに調剤薬局を1カ所決めてそこで薬をもらえば医療費が安くなる制度がありますので、
それを全ての患者さんに広げたらいいのではないかと思います。
おそらく、かかりつけ薬局以外は医療費を高くする方向になるのでしょうけれども。

投稿: クマ | 2015年5月27日 (水) 08時31分

かかりつけ薬局に関しても機能しているところと単なる調剤だけで終わっているところがある印象で、このあたりは薬剤師内部でも意識改革と改善の機運を高めていってもらいたい気がします。
ただいくら薬局側にその意志があっても処方箋を出す側の協力が不可欠であることは言うまでもないので、疑義照会に途端に不機嫌になるような態度は医師側も意識改革が必要でしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2015年5月27日 (水) 12時34分

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