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2015年5月18日 (月)

最近目にした考えさせられる医療訴訟二題

医療訴訟でかなり高額の損害賠償が認められたケースが報じられていますが、これは様々な意味で教訓的な症例とも言えそうですよね。

低血糖見落とし女児に障害、4968万賠償命令(2015年05月13日読売新聞)

 生後6か月の時に低血糖を見落とされ、治療が遅れて後遺障害が生じたとして、少女(13)と母親が中国中央病院(広島県福山市)を運営する公立学校共済組合(本部・東京)を相手取り、6700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が12日、広島地裁であった。

 龍見昇裁判長は「医師が注意義務に違反した」として、組合に4968万円の支払いを命じた。

 判決によると、少女は2002年2月、けいれんの疑いなどで病院を計4回受診。医師はてんかんの可能性を考え、脳波検査を実施した。3月末の血液検査で低血糖症と診断されて治療を受けたが、06年に重度の知的障害と認定された。

 龍見裁判長は「けいれんの原因がてんかん以外による可能性を疑った上で、医師は血液検査を実施し、全身疾患の有無を識別する注意義務を負う」と認定。ただ、病院側の注意義務違反が障害のすべての原因とまではいえない、とした。

 組合は「判決内容を精査の上、今後の対応を検討する」とコメントした。

これはまた医療訴訟としても非常に議論を呼びそうな話で、下手をすると「正しく診断がつけられなければ罰金」的に受け取られかねない判決なんですが、ただ夜間当直帯でたまたま一度だけ見かけた症例と言うのではなく何度も同様の症状で受診し脳波検査(そうとう面倒な検査です)まで行っていると言うことで、そこまでやるのであれば先に採血等でも他原因によるけいれんの除外診断も行うべきだったと言う批判はあり得るのでしょう。
ただ鑑別診断の難しさと言うものは常に医療の現場においても問題になるところで、だからこそどんな名医でも見逃しや誤診はあると言いますが、結果が悪くなったからと懲罰の対象とするべきなのか?と言う議論は常に言われていて、いわゆる過剰診療や防衛医療的なものを誘発する原因にもなっているとはしばしば指摘されるところですよね。
ちょいとググってみただけでも「新小児科医のつぶやき」さんで福山地区の小児救急医療が崩壊しつつあると言う記事を紹介されていて、各種現地情報も交えて興味深く拝見したのですけれども、こうした低血糖性のけいれんでも例えば発熱で哺乳が落ちて発症するような場合熱性けいれんと考えがちでしょうし、それらに対して片っ端から見落としのない鑑別診断を行えとなれば救急医療など成立しなくなるでしょう。

この辺りは大人の救急医療でもどこまで検査をしなければならないのかと言うことが裁判の判例に基づいて決められてきた経緯もあって、特に救急患者などの最終的な引受先になりやすい基幹病院では経過観察で問題ないと言うためだけに延々と検査を続けなければならないのだと現場から受け止められがちであり、それがためにさらに診療が遅れ人手不足も深刻化し、リスクある現場からの逃散離職が進むと言う状況に陥りがちです。
この医療訴訟対策で医療の内容が決められていく、いわゆるJBM(Judgement Based Medicine, 判例に基づいた医療)と言うことはもちろんある種の必要悪的な部分もあると思うのですが、一方で医療のあるべき姿を決めていく別な側面として医療財政やマンパワー、医学的知見や社会の認識等々様々な要因があって、それらが重複し競合する領域では時々何が正しいやり方なのかと言う議論も勃発しがちです。

「拘束解除で呼吸器外れる」遺族が塩釜の病院提訴(2015年5月12日河北新報)

 坂総合病院(塩釜市)に入院中だった宮城県利府町の男性=当時(75)=が遷延性意識障害(植物状態)になり死亡したのは、病院が男性の身体拘束を解いたために呼吸器を外してしまったからだとして、遺族3人が11日、病院を運営する宮城厚生協会(多賀城市)に2000万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。

 訴えによると、男性は昨年2月上旬、靴擦れによって左足親指が壊死(えし)したため入院。治療中に感染症にかかって呼吸器が必要となったが、呼吸器が外れ、約4カ月間の植物状態を経てことし2月、心拍低下などで死亡した。

 男性の両手には当初、拘束用ミトンが付けられていたが、病院が拘束を解除。男性が自分で呼吸器を外したとみられる。

 遺族側は「病院は当時、『いつまでも拘束するのはかわいそうだった』と説明したが、生命維持に必要な呼吸器は厳格に管理すべきだ」と主張している。

 宮城厚生協会は「訴状が届いていないのでコメントできない」と話した。

何やらしかし、コメントだけを見ていると遺族と病院側の主張が逆転しているようにも見えるのが興味深いケースですね。
医療訴訟としても色々と考えるべき点がありそうなのですけれども、身体的な面からのみ考えるならば人工呼吸器や点滴が外れることで亡くなったり重大な障害を負ったりすると言う事件は時々報じられているところで、そうであるからこそこうした場合患者が勝手に身動きをしないよう厳重にくくりつけておくのが正しいと言う考えはある理屈ですよね。
一方でこうした高齢者は早期に身体を動かしてリハビリを進めていかなければ様々なトラブルが多発しどんどん重症化しがちなもので、その意味では身体が硬くならないように一生懸命動かしている一方で拘束などとんでもないと言う考え方も成立しそうなんですが、もう一点ややこしい点としてそもそも患者を拘束するなどとんでもない、ケシカラン行為であると言う主張が近年次第に勢力を増していると言う事実があります。
そもそも拘束と言う行為は単純に考えて患者の意志に反して行われる行為であることは明白なのですから、説明と同意に基づいて医療を行うべきであると言う現代の考え方からもどうなのかですが、一方で一人の患者に24時間365日スタッフが張り付いているわけにもいかず、「最低限の拘束をさせていただくか、それともご家族が毎日24時間付き添っていただけますか?」と問われれば多くの家族が前者を選ばざるを得ないのが現実でしょう。

ちなみに拘束と言う言葉には手足をベッドに縛り付け動けなくするイメージがありますが、厚労省の定義によれば本症例のように指が分離していないミトン型と言われる手袋を装着することも拘束であり、また暴れる患者さんに眠り薬等を使うことも拘束なのだと言いますから、文字通り本人の望む通りに振る舞えなければ全て拘束だと言う、これはこれである意味清々しい定義付けがなされているようです。
医療の側もこんなことは別にやりたい仕事では全くないのだし、代わりにどうすればいいと言う良い代案があるなら歓迎なんですが、拘束など無用であると主張する方々の言うところの代案と言えば「点滴は本人が見えにくいところに刺せばいい」だとか「チューブで栄養を入れている間はスタッフが見守っていればいい」だとか、現場の状況を考えるとちょっとそれはどうよ?と言う部分が少なからずあるのも困った点ではありますよね。
実際にミトン装着で最高裁までもつれ込んだ裁判のケースもあって、最終的には原告である家族側の主張が退けられた判決が確定したのですけれども、その是非以前に司法の場での話の成り行きを見ているだけでも現場感覚としてはあまりに斜め上方向に逸脱した議論が続いているように見えるところで、正直こういうものを医療に求めているのであれば今の現場の体制を根本からそっくり作り替えなければ無理ではないかと思えてしまいます。
もちろん中には「拘束は本人が嫌がるから絶対にしたくないです。その代わり私が常時側についています」と本当に24時間家族が付き添われているケースもあって、そうした方々には医療の側としても協力を惜しむべきではないと思いますけれども、各方面からこれが正しい、あれは間違いとお互いに相反する要求が現場に突きつけられ、そのいずれもが賠償金への道につながってくるとすれば現場としてはなかなか対処に迷いますよね。

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コメント

呼吸器つけたハイリスク患者なんか入院させるから

投稿: | 2015年5月18日 (月) 07時55分

単純にミトンだけつけていたのであれば呼吸器を外すのは簡単そうですが・・・
ミトンを付けた上で腕を拘束していたのでしょうかね?
どちらにせよ、身体拘束をしている患者さんに「かわいそうだから」などというくだらない理由で拘束を解除するのは事故のもとです。

投稿: クマ | 2015年5月18日 (月) 08時01分

民事ですから、まあいいんじゃないでしょうか。

低血糖のほうは、血糖値を調べなかったどんな事情があったのかにもよるとは思いますが、医療側の責任ゼロということはないと想像します。

拘束解除のほうは、関係各位にはご愁傷様ですが裁判としては面白いと思います。

投稿: JSJ | 2015年5月18日 (月) 09時05分

病院内で、仁義なき抗争が893医師とクレーマーでやっている気がします。
KOの免疫教近藤隊長が、とんでもない事を言っている気がしますが、
紛争地帯になっている病院は逆に危ないのです。

投稿: | 2015年5月18日 (月) 12時22分

医事紛争が勃発すると組織としてどのような方針を持っているかが判りやすい気がしますが、その意味では某F島県や某女子医大などは近年ずいぶんと株を下げた印象がありますね。

投稿: 管理人nobu | 2015年5月18日 (月) 14時23分

>その意味では某F島県や某女子医大などは近年ずいぶんと株を下げた印象がありますね。

まあ組織ってのは基本そんなもんで、日本人にありがちですが無条件の忠誠誓う方がどうかしてるんわけですが、その点大野病院事件時の佐藤章・福島県立医大産婦人科教授は口の悪いネット医師をして、「理想のボス」と言わしめただけあって感動的でしたね。こんなボスならオレもドロッポしなかったかも…(ドロッポしないとは言っていない)。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年5月18日 (月) 15時42分

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