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2015年5月 7日 (木)

社会保障費抑制政策が医療をかえる?

このところ社会保障費抑制と言うことが盛んに議論されるようになっていて、先日は財務省方針として今後5年間で4兆円、高齢化進行に伴う増加に関しては年5000億円程度にまで抑制しようと言う話が出ていたのだそうで、何しろ今年は団塊の世代が65歳以上になる記念すべき年ですから、今後しばらく高齢者人口が史上最多を更新することを考えるとかなり厳しい給付の抑制を目指すと言うことになります。
この辺りは一体どうやってそれを実現するかと言う議論も必要ですが、先日の財務相の諮問会議では保険者にインセンティブをつけて歳出効率化を図ってみてはどうか?と言ったアイデアも出されたのだそうで、とかく医療業界からは現場軽視だと批判も受けているらしいですが、日本の医療制度で保険者側からどれだけ抑制がかけられるかと言えば、保険の査定を法外に厳しくする等の方法論にもなるのでしょうか?
いわゆるDPCの導入経緯にもあるように、従来の出来高制が不要な医療費支出や高額診療を招いていると言う批判は根強くあるところですし、医学教育の現場においてもようやく「人の命はお金にはかえられない」式の話から医療経済学的観点を取り入れた教育も行われてきているようですが、医師が診療にコスト意識を持つと言うことは限りある医療リソースを最適に活用すると言う点からも重要ではないかと言う気がします。
ただもちろん、国としては気長に医療現場の意識改革を待つだけではなくもう少し実際的な効果が見込める対策を講じていきたいところなんだと思いますが、以前から言われている医療における費用対効果と言う考え方の導入論に連なる話として、最近こんなことを言い出していると報じられています。

薬価に費用対効果を反映 厚労省、高額品で試行へ(2015年5月2日中国新聞)

厚生労働省は1日までに、医薬品の公定価格(薬価)を決める際、支払ったお金に見合う治療効果がどれだけあるかという「費用対効果」の指標を新たに導入する方針を固めた。2016年度の診療報酬改定で一部試行する。高度医療で使われる価格の高い薬が対象となる見通しで、一部は価格が下がる可能性もある。

高齢化に加え、抗がん剤など医療技術の高度化に伴って医療費は増え続けている。新指標の導入は、薬剤費の伸びを抑制して国民負担を軽減する狙い。ただ、開発費の回収を危ぶんでメーカーが新薬開発に消極的になり、患者が必要な治療を受けられなくなる恐れも指摘される。

薬価は現在、副作用がなく安全かどうか(安全性)と、有効な治療結果が得られるかどうか(有効性)を重視して決められている。費用対効果の指標導入で、経済的な効率性も考慮することになる。

例えば、新たに開発された抗がん剤での治療に1千万円以上かかり、延命効果は数カ月といった場合に「その薬効に多大なお金を払う価値があるか」を数値化して評価。価値が低いと判断すれば薬価を下げる。対象は、代わりの治療法が既にある医薬品や医療機器で、具体的な品目や数は今後詰める。

「癌治療に1千万円!なんてぼったくりなんだ!」と言う声も聞こえてきそうですが、一生に何度もない命がけの治療にどれくらいのコストが妥当なのかと言う議論はさておき、一説によりますと癌患者の実に9割は治療費200万円以下で治療を終了しているのだそうで、過半数が300万円以上かかると考えている国民の認識とはいささか乖離しているのでは?と言う指摘もあります。
ただ注意いただきたいのは以前であれば癌と言えば入院し一期的に治療していたことで保険の支払いも日数割で簡単に受けられるし、そもそも入院診療で高額医療費に引っかかりますから自己負担も月7万円程度で済んでいたものが、今では検査も外来で出来るだけのことは済ませ入院も最短期間で、あとは外来で治療を続けましょうと言うことになると、保険の契約内容によっては十分お金を受け取れない場合もありそうですよね。
いわゆる癌保険の類に関して様々なトラブルが散見されるのもこうした医療そのもののスタイルの変化も一因なのかも知れませんが、そもそも民間保険よりもずっと手厚い国民皆保険制度がある日本で付加的な保険が必要なのかどうかは様々な議論もあるところで、少なくとも元を取ろうなどと考えて加入するものではないとは言えるのかも知れません。

いささか話が脱線しましたけれども、こうした薬価引き下げは国民側からは「ボロ儲けしてきた医者と薬屋はいい気味だ」などと言う声も出がちなものですが、そもそも医師に関して言えば別に高い薬を出したから給料が増えるわけでもなく、特に勤務医の場合には正直あまり関心がない話かも知れません。
また製薬会社に関しても特に新薬を開発する先発メーカーには大きなダメージになることが想像されますが、何故とてつもなく高額な薬があるかと言えば多くは患者数が少ないのに開発費が多額を要すると言う理由もあるからで、あまり彼らの研究開発費まで圧迫するようなことをしていくとマイナーな病気ほどいつまでたっても新薬が出ず昔ながらの医療をせざるを得ないと言う事態も想定されますよね。
そしてそもそも国民にとってこの種の超高額な薬はどうせ高額医療費の上限に引っかかるわけで、薬価が引き下げられたからと言って直接的に支払い額が変わるわけではない以上あまり有り難みがないとも言えますが、間接的な医療費抑制効果による税金の節約効果についても国民一人当たりの負担額にして考えるといくらくらいになるのかで、あまり効果を実感出来るようにはならない気がします。

ただ長期的な医療に与える影響と言う意味では決して小さくないものもあって、例えば今現在も存在しているドラッグラグの問題なども海外では当たり前に使われている新薬が日本の低すぎる薬価ではとても儲けが出ず製薬会社が導入したがらないとなれば、それでは自費でお金を出してでも治療を受けたいと混合診療を希望する声が強まってくる可能性はあるかも知れませんね。
かねて言われている通り国は国民皆保険のカバーする範囲を減らしたがっているのでは?と言う声も根強くあって、近年のOTC薬拡大政策と同時進行で風邪薬や湿布薬などは保険適応から外そうと言う動きが繰り返し出てきていますけれども、費用対効果として考えれば超高額な割にそう劇的に効くわけではない(場合が残念ながら多い)一部の抗癌剤などは真っ先に切られていておかしくはない話です。
もちろん湿布薬がなくても人間生きていけますが癌の治療をしなければ確実に死んでしまうわけで、その意味で既存の薬を保険外にしてしまうと言うのはさすがに国民も納得しないと思いますが、各種の周辺環境を整えていくことで効果が乏しく高いばかりの薬は少なくとも新規に保険収載はしないと言うことになっていけば、長期的には同じような効果が得られるとも言えますよね。
こうした方向性が医療現場にとってはどうなのかですが、一つの疾患に数多くの治療プロトコールがあってどれも治療効果としては大差ないと言う場合、どれを選ぶかの選択基準に費用対効果と言うことを考える習慣を持つことは今後重要になってくるのだろうし、場合によっては無意味な延命医療や実質的に無意味な治療を経済的制約から断念させると言うこともあるのかも知れません。

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コメント

薬の値段って政治的に決められた感じでちょっと判りにくいんですよね。
保険での負担割合一定にするんじゃない方がいいのかもって気もしますが。

投稿: ぽん太 | 2015年5月 7日 (木) 08時37分

マイナンバーで所得把握が容易に成るのでそれに応じて負担額を変えるとか
どっちにしろ現在の制度は制度疲労を起こして変えざるを得ないですね。
ちょうど憲法改正もあるかもしれませんし丁度今が歴史の転換点なんでしょうね。
高度経済成長から始まったモデルはもう無理です

投稿: | 2015年5月 7日 (木) 10時09分

負担額を変動制にするにしても所得応分がいいのか資産応分がいいのかでどの世代に負担増になるのかが大きく変わってきそうですが、いずれにしても何らかの制度改正は急がれるとは思います。
今は選挙制度が変わって巨大与党が誕生しやすくなってきたようですから、与党にその気がありさえすれば以前ほど制度改正は難しくはないようにも思うのですが、まずは必要性をきちんと説明できるかどうかですね。
今のところ政治家の口から社会保障の切り下げが必要になってくると言う話はあまり出てきているようではなく、せいぜい官僚レベルが粛々と行動しているだけに見えます。

投稿: 管理人nobu | 2015年5月 7日 (木) 11時06分

高額医療費制度って、今年から値上がりしてますよね。70歳以上は据え置きですが、、

投稿: | 2015年5月 9日 (土) 23時50分

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