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2015年4月22日 (水)

高齢の医者が持つ独自の価値

お年寄りが元気な時代と言えば昨日今日に始まったことではありませんが、何しろ今の日本では最も人口も多くお金も持っている年代はお年寄りであると言えるくらいで、なおかつ選挙などの投票率も高齢者の方がずっと高いそうですから、社会的発言力も強まろうと言うものです。
一方では元気であればまだまだ働きたいと考える人も多いのがこの世代で、基本的に仕事を頑張ればそれだけ右肩上がりでの成長を続けてきた時代に生きてきた方々ですから理解出来る衝動ではあるのですが、では一体何歳まで?と少し考え込んでしまいそうなのがこちらのニュースです。

鹿児島の離島、2年ぶり医師着任 経験50年の78歳(2015年4月11日朝日新聞)

 常駐の医師がいなかった鹿児島県屋久島町の口永良部島に今月、2年ぶりに新しい医師が着任した。アフリカや離島で医療活動を続けてきた久保利夫さん(78)。昨年8月に新岳が34年ぶりに噴火し、不安な生活が続く中、島民たちは「やっと安心できる」と喜んでいる

 久保さんは医師歴50年を超えるベテラン。在外日本大使館の医務官として、アフリカのケニアや南米のコロンビアなどで勤務してきた。退職後は東北地方の無医村などをまわり、先月まで沖縄県竹富町の黒島診療所で駐在医師をしていた

 昨年12月、屋久島町立の口永良部へき地出張診療所が医師を募集しているのを、インターネットで見つけた。新岳の火山活動が長引いている心配に加え、祖父母が鹿児島県出身だったこともあり、「最後の仕事に」と応募を決めた

まあ大ベテランの先生が赴任してこられたので島の方々も安心だ、めでたしめでたしで済ませてもいい話ではあるのですが、それにしてもかれこれ80歳にもなろうかと言う方が未だ現役で医師をやっていられるのも驚きですし、率直に申し上げて様々な意味で大丈夫なのか?と言う心配もなしとはしないところでしょうね。
ただ経歴を見ても判る通りなかなか特殊なキャリアを持っている方であるようで、僻地診療の経験も豊富だそうですから適材適所と言うことでもあるのでしょうが、こうした高齢の先生まで導入しなければならない状況をどう考えるべきなのかで、某大先生などはさらにどんどん医者を増やさなければ!と大騒ぎしそうではあります。
逆に考えれば僻地診療で求められている医療とは決して最先端の高度なものではなく、日常的なごくありふれた疾患に対する対応がほとんどであると言うことでもあるのでしょう、言い方は悪いですが医療技術や知識で時代についていけなくなった先生方でも長年の経験を活かしてまだまだ活躍の余地はあると言うことでしょうか。
僻地と言えば日常生活の不自由さなど医療以外の面での制約から敬遠されがちですが、その求められている医療の内容を見れば案外特徴のあるものでもあって、そういうことがやってみたいと考える先生も決して世の中に全くいないわけではないだろうと思っていましたら、実際に僻地志望と言う新卒医師の先生がいらっしゃると言います。

還暦の新人医師が出発「へき地で30年働く」(2015年4月9日河北新報)

 十和田市の市立中央病院で今春、60歳の男性が研修医のスタートを切った。ことしの医師国家試験に最高齢で合格した水野隆史さんだ。異色の新人は「へき地の医療に貢献したい。最低30年、死ぬまで働く」と力を込める。

 福井県出身の水野さんは東大農学部卒の元農水官僚。2009年に金沢大医学類の学士編入試験に合格した。14年春に大学を卒業し、国家試験は2度目でパスした。
 医師を志すきっかけは、金沢市の北陸農政局に赴任した10年前、50代の女性が医学部に受かった新聞記事だった。19歳の時父親を病気で亡くし、医師という職業に関心があった。仕事をしながら、毎日午前3時に起きて受験勉強した。
 医師への道は楽ではなかった。必死に勉強したが、若いころより記憶力は衰えた。学科試験を通っても、年齢を理由に面接で落とされた。受験は5年間で延べ30校に上った。
 「面接官から『あなたが医師になることは、若い人の芽を摘むことだ』と言われたこともあった。私は『若い人だって明日死ぬかもしれないが私は40年生きます』って答えた」
 金沢大では入学式で保護者と間違われ、患者からは教授と勘違いされた。「指導教授の大半は年下。向こうはやりにくかったろう」と笑う。

 いつか東北で働こうと決めていた。入省3年目に水沢市(現奥州市)にあった岩手県の出先機関で勤務し、人や自然に引かれた。「最終的に女房が奥入瀬や十和田のバラ焼きを気に入った。都会には何の未練もありません」と言い切る。
 2年間の研修後は、身近な病気を広くカバーする「総合診療医」になりたいと考えている。医師不足に悩む東北のへき地で医療に携わるのが目標という。
 「当直勤務は体力的に不安だが、いつでもどこでも寝られる。役所時代に国会対応で鍛えた」と、どこまでも前向きだ。

しかし官僚と言えば余生はお気楽に天下りと言う風潮もある中で何ともアグレッシブな方なんだろうなと想像するのですが、やはりこの場合に目につくのが御年60歳にして医療の現場に足を踏み入れると言うことで、何度も面接で落とされたと言う話も妙にリアリティがありますよね。
訴訟沙汰にまでなった群馬大学のケースなども含めて以前から高齢者は(表向き様々な理由はつけるにしても)合格させないと言う医学部はかなりあるとされていて、興味深いのはこうした入学拒否が疑われ紛争化するケースは医学部独自のもので、あまり他学部では起こっていないようなんですね。
その理由として医学部は卒業と資格取得が一体化しているだとか、断固として医師になりたいと考える人間が多いからだとか様々なものがあるのでしょうが、やはり選抜する側とすれば同じ条件であればより実働期間が長い人間を選びたいと言う気持ちはあるのだろうし、単純に体力的な面でも若者だから務まっている局面も多いわけです。
その意味では身体的なハードさがさほどに求められないだろう僻地診療専門にと言うのはいい落としどころではあるのだろうし、本当にここから30年働くとなればこと僻地診療に関して言えば大多数の医師よりもよほど社会に貢献したと胸を張って言えるようになる可能性はありますよね。

医療崩壊と言われる現象の起こった理由の中には医療従事者自身が生活の質(QOML)を追及し始めたからだと言う声もあって、それは365日24時間ハードワークを強いられたのではよほど心身にタフな人間でなければ逃げ出したくなるだろうし、逃げ道がなかった時代には本当に心や体の病気になって仕事が出来なくなってしまっていたわけです。
それが嫌なら逃げてもいいんだと言うことがようやく認識されるようになり、各地でハードな急性期から楽な職場へとドロップアウトしていく先生が増えた結果急性期は崩壊したかも知れませんが、社会的需要があるのに医師不足にあえいできた一部施設などにとっては逆に医師が増えてよかったと言う側面もあったかも知れません。
こういう医師の労働環境の改善の目安として子供を持った女性などハンデのある先生方でも十分仕事が続けられる環境を目指すべきだと言う考え方があって、その意味で言えばとうにリタイアを考えるべき高齢の先生方でも務まる職場と言うのは究極的な良環境とも言うべきなんでしょう。
医師不足に対する対策として馬車馬のように文句を言わず奴隷労働を続けられる人間を優先的に選抜すると言う考え方もあるでしょうが、逆にそうした価値観を持った人ばかりですと僻地だ老人病院だと言った職場で働きたがる人は減る理屈で、案外今までは学生の選抜方式からして大きな落とし穴があったのかも知れないですね。

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心と体」カテゴリの記事

コメント

ところでこのおじいちゃん達にいくら払うんだろう?

投稿: | 2015年4月22日 (水) 07時48分

年齢で弾くとなると憲法的にアウトなんじゃ
まぁ表向きは別の理由だから大丈夫なのかもしれないけど
なんなら昔みたいに国試さえ合格すれば医師になれるみたいな
仕組みにしたら面白そう。

投稿: | 2015年4月22日 (水) 07時57分

いまの大量老人世代が死絶えて、医者が余るころにリタイアしてくれるような年齢の医者なら、将来過当競争で食えなくなるとかの心配もなくていいんじゃないかと思うが

投稿: | 2015年4月22日 (水) 08時59分

Nondiscrimination actのある米国などでは受験の面接で年令を持ち出すことは法律違反になります。もちろん、不合格の理由にもできません。入り口、途中、出口での差別が禁止されているから。米国で卒業時に還暦となるような高齢の医学生が少ないのは、学費の高さと学費ローンの返済があるから。受験生サイドの金銭的な制限です。同じく差別禁止法のある英国は医学部進学に上限となる年令制限はありませんが、受験に際しては卒後のトレーニングの厳しさを熟慮して医学部を受けるように各医学部の入試案内のサイトに記載があります。
この60歳の医師のかたは東大理系卒業なので素の頭が良いのと、国立金沢大学医学部は多浪生や再受験生に寛容とされている大学なので、学力さえあれば受け入れてくれたのでしょう。
60歳はギリギリだと思いますが、きつい診療科目でなければ細く長く勤務は可能です。年令の若いバカ私立医大の医師たちよりマシです。

投稿: physician | 2015年4月22日 (水) 09時28分

>いつでもどこでも寝られる。役所時代に国会対応で鍛えた

ここが笑いどころなんでしょうか?
元東大卒官僚の思考回路なので、意外と真剣に言っているのかもと微妙。
記者さんも記事の書き方に苦慮しているのが分かります。

投稿: hisa | 2015年4月22日 (水) 09時41分

知り合いの先生が70代後半で未だに当直バイトされてますね。
あと自分も療養病床に入院しながら診療してる先生もみたことあります。
個人の考え方生き方の問題だからどうこう言うもんじゃないですけど。

投稿: ぽん太 | 2015年4月22日 (水) 10時08分

診療に関してはあくまでも契約ですので、医師と患者の双方が納得した上で契約を結ぶのであれば何歳だろうが関係ないと言う考え方はあるでしょう。
と言いますか、一部のメディア露出の多い先生方によるネガティブな影響の大きさに比べれば、この種の僻地診療所で何があっても(言葉は悪いですが)しょせんたかが知れていると言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2015年4月22日 (水) 13時02分

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