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2015年4月23日 (木)

新たな専門医制度が持つ危うさ

専門医制度と言うものが大きく変わっていく予定で、好き放題乱立しているマイナー学会もいずれまとめて淘汰されかねない勢いなんですが、それ以上にとりわけ外科系の先生方にとって大きな問題となりそうなのが資格の取得や維持に実際に手術を日常的にこなしていることが要求されそうだと言うことです。
一見すると当たり前のことじゃないかと思われるような話なんですが、例えばその道の大ベテランの先生が基幹病院を引退し開業などしてしまうとあっと言う間に専門医資格を失ってしまいかねないわけで、逆に専門医資格を維持したいと考えるならそれが可能な施設に勤め続けなければならない理屈です。
この結果専門医資格の取得条件を満たす認定施設と非認定施設の間に大きな格差が生まれ、自然と医師の移動と再分布が盛んになる結果医師の集約化と病院の統廃合が進む、と厚労省が青写真を描いているともっぱらの噂ですけれども、当事者である外科医の間でもこの辺りの事情は認識されているようです。

「一番大変なのは学会と病院」、外科新専門医(2015年4月18日m3.com)

 4月17日の第115回日本外科学会定期学術集会で、外科学会専門医制度委員長の北川雄光氏(慶応義塾大一般・消化器外科教授)は「新専門医制度で一番大変なのは学会と病院」と話し、制度見直しによって多くのメリットが生まれる一方で、新たな負担が生じるとの見通しを示した。
(略)
 今後の外科専門医のキャリアパスとして、(1)外科専門医+サブスぺシャリティ専門医を維持、(2)外科専門医取得後、内科系サブスぺシャリティへ移行、(3)外科専門医取得後、総合診療専門医へ移行――の3パターンを例示。(2)と(3)については未定と説明したが、(2)については現在もメスを置いた外科医が関連する内科分野のサブスぺシャリティに移行することは多く、関心が高いという。
(略)
 また、北川氏は管理職になるなどして執刀数が基準を満たさなくなったとしても、外科診療にかかわっていれば、外科専門医を維持できる仕組みが必要との考えを示し、4回目の更新時(20年目)には、希望すればNCD登録症例の申請を免除できるようになるとした。2007年まであった外科認定登録医制度については、日本専門医機構が専門医以外の名称を使用しないとしていることから、どのような位置付けになるかは未定とした。

 診療実績の証明ではこれまで以上にNCDが活用され、外科専門研修施設はNCD登録参加施設となることが必須となる。専門医認定時には350例(術者として120例)、更新には5年間で100例を必要とする基準は変わらない。 研修プログラム、複数施設で運営  新専門医制度で新たに導入される専門研修プログラム整備基準では、各地域で基幹施設が中心となり、複数の施設で「研修施設群」を構成することになる。単独施設プログラムは認められないと強調し、実際の運用について会場から質問が出ると北川氏は「客観的な評価と主観的な評価をすることになる」と説明。単独を避けるために1施設だけを連携施設に加えるよう運用は認められない可能性があると述べた。

 現在は指定施設が1277施設、関連施設が872施設となっているが、新制度での基幹施設は約300施設となることが想定される。基幹施設は、専門プログラム管理委員会の設置を義務付けられるなど、「多くの機能、責務を担う施設で、従来の指定施設とは全く異なる概念」と説明した。

 各施設群では専攻医(後期研修医)1人当たり、3年間500例以上を確保することが求められる。新たに設けられる専門研修指導医1人につき専攻医は3人までとされる。専門研修指導医は1回以上の専門医更新が条件となり、外科学会指導医とは別の概念になる。なお、日本専門医機構は指導医の認定は行わないため、今後どうするかは未定という。
(略)

まあ偉い先生方が制度を設計するわけですからそうした先生方に損になるようにはしないのだろうし、なんだかんだと激変緩和(?)の措置も導入されそうな勢いなんですけれども、いずれにしても医師の自己満足的な意味づけに留まってきた専門医制度と言うものが、地域医療の行く末を左右するまでになりそうだと言う話ですよね。
想像するに今現在の診療実績はさほどではなくとも、過去の診療実績を元に何かしらの資格を維持出来るような道も用意される可能性が高そうに思うのですが、では実際にそうした資格が診療上どのように活用できるのかと言うことを考えた場合に、当事者の自己満足以外では案外使い道がないものなのかも知れません。
ただ手は動かせなくなっても経験や知識を使って内科的診療に従事している外科の先生方は数多くいらっしゃるわけで、その意味では外科医から内科系への移行と言う道がどのように認定されるのかは大きな問題なのだろうし、そうした先生方への教育システム整備もまた新制度における一つの課題と言えそうです。
一方でこうした制度が大ベテランの先生方を中心に設計されつつあるとすれば、今後資格取得を目指すような若手の先生方にもそれなりに言いたいことはありそうに思うのですが、先日なかなか興味深い記事が出ていたことを合わせて紹介してみましょう。

「必要執刀数の上積みを」、若手が提言(2015年4月20日m3.com)

 第115回日本外科学会定期学術集会で4月16日、特別シンポジウム「若手外科医から見た新しい専門医制度」が開催された。登壇した後期研修医から指導医までの4人は必要症例数の上積みや認定基準の精緻化を求めた一方、司会を務めた外科学会の重鎮らは「非常に頼もしいが、外科志望者が減る中で果たして一般的な意見なのか」と疑問を呈する場面もあった。
(略)
 最後に、後期研修中の市立函館病院心臓血管外科の柴田豪氏は「僕が願う専門医制度―心臓血管外科専門医制度について―」を説明。現在のカリキュラムは患者から信頼される標準的な医療が行える心臓血管外科医になれるか不安があるとして、最低執刀数の底上げや、早くからサブスペシャリティである心臓血管外科のトレーニングを受けられるようにしてほしいと要望した。

外科医志望が減っている原因は?

 登壇者らによるディスカッションでは、司会を務めた外科学会専門医制度委員長の北川雄光氏(慶応義塾大学一般・消化器外科教授)が「専門医プログラムを決める中でハードルを上げすぎないようにしようと議論していた。果たしてみなさんはマジョリティか」と問題提起。外科志望者が減っている現状について、演者に意見を求めると「女性医師の増加」「リスクを回避したい、自分の時間を持ちたいという学生が増えてきた」という声が出る一方、「志望者の質は昔と変わらない」「専門医制度がしっかりすれば増える」という意見も出た。

 同じく司会を務めた東京女子医科大学消化器外科教授の山本雅一氏は「一人前の総合外科医になれという意見があったが、専門と総合のどちらに力を入れたいか」と質問。村上氏は「当院で一般外科をやった後で、他院でサブスぺシャリティに集中する期間を求めている。最近は合併症の患者が多いので、多くの領域を経験していることで、(専門)領域の先生に話をつなぎやすい」と指摘。他2人も総合的な経験を重視する中で、唯一、柴田氏が「心臓血管外科ではなかなか手術ができない医師が多い。少しでも早く一人前になりたい」と訴えた。

もちろんこうしたものの考え方は各人の目指すところや現在の職場環境などもあって人それぞれなんですが、面白いのは制度を議論する教授先生がハードルを上げすぎないようにしていると言う一方で、若手の先生はもっとハードルは高くすべきだと言っていると言う、一見奇妙にも見える構図ですよね。
若手先生方にとっては日夜奴隷労働に従事している以上症例など幾らでも溜まってくると言う計算もあるのだろうし、少々の数では何らハードルにならないと言う気持ちなのでしょうが、ここで留意すべきは競合関係にあるライバルの追い落としと言う側面もありそうだと言う点です。
かねて心臓血管外科や脳神経外科と言った難しい領域の手術をこなす外科医に関して、日本は諸外国と比べて一人当たりの執刀数が少なすぎると言う話があって、その結果術者のレベルがなかなか上がらないからもっと数を絞って多くの症例を経験出来るようにすべきだと言う声があったわけです。
しかしそうなれば今でさえ実際に手術が出来るのは数人に一人、それ以外は単に雑用をこなしているだけなどと揶揄される非執刀医の先生方の不満がさらに爆発すること必至だと思うのですが、専門医取得条件を満たすと言う大義名分があれば症例の集約化と言う点ではやりやすい面もあるのかも知れませんね。

この辺りは専門医と言うものの位置づけが大きく変化していきそうだと言う件とも絡んでいて、要するに誰も彼も好き勝手に取れる名ばかりの専門医から、実際に現在進行形でその領域のスペシャリストと呼べる先生に与えられる称号としての専門医に変わっていくのだとすれば、当然名ばかり求める未熟者は淘汰されてしかるべきです。
ただ専門医と言う(当の本人にとっては)アメすら与えられなくなった場合、ただでさえ不満が溜まりやすいその他大勢の先生方がそれでも地道な下積み仕事をこなしてくれるものなのかどうかと言う疑問も残るのですが、専門医資格基準を満たさない人々の扱いは現場を退く大ベテランの先生方にとっても大きな問題ですよね。
資格取得や維持の要件ばかりハードルを上げていけば、そもそも専門医などいらないんじゃね?と真実に目覚めて(?)しまう可能性もあって、資格取得が修行する動機付けになるどころか意欲を失わせる要因になったのでは意味がないことですが、では資格取得者にどんなインセンティブを与えるのが妥当なのかです。
専門医を取れば普通の医者には扱えないような難しい患者さんの診療が出来ます、などと言われてそれは凄い、是非やってみたいと言うタイプの先生方ばかりであればいいのですが、基本的にそんな余計な面倒毎を自分から抱え込みたがる人間は社会的少数派であるはずで、非専門医に対する処遇と言うのはそれなりに頭を悩ませそうですよね。

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コメント

診療科と地域間の偏在にも言及しているので新しい専門医制度は将来的に定員制になりそうですね。
というかその為の制度と言っても良いかも
http://www.recruit-dc.co.jp/miraiyosoku/
↑から引用
医師の診療科間の偏在もまた、今の医療が直面している課題だ。「自由に診療科を選択でき、どの地域で医療をしてもいい状態では、医師の偏在は解消しません。住民の人口、年齢分布などを考慮して、各専門医に大まかな定員を設けるべきです」


また研修出来る病院はかなり限定するとの事なので大学とその関連病院のみって事に地方はなりそうですね。
教授達はどうもこの機会に医局の復活を考えているようですし
http://www.galenus.jp/vision/visionchiba.html

↑の引用です。
>初期研修医制度は、ある程度のクオリティが病院にあれば受け入れることができます。しかし今度の専門医制度は、国立大学病院が核となり、地域の病院との連携の中で「専門医の育成」が必要になります  
そして、どの科においても、どの専門医でも、大学が核となって、優秀な人材がいる地域の病院とネットワークを作り連携していかないと、専門医が地域に定着していかないと感じています。

投稿: | 2015年4月23日 (木) 07時41分

定員制導入は定年制導入とセットでなけりゃいけない
年寄りをどう引退させるか決めないと若者はいつまでも下働きですよ

投稿: | 2015年4月23日 (木) 07時46分

おそらく飴と鞭での誘導はあるでしょうね。
あと漢方専門医だと透析専門医だとか認定されてない所はどうなるか気になる

また一つ面白い記事があったので紹介
http://medical-confidential.com/confidential/2015/01/post-0893.html

投稿: | 2015年4月23日 (木) 07時52分

専門医に対する優遇措置に関しては長年日医が反対し云々と言う噂もありますが、新制度下ではとても開業医に維持出来るような資格にはならなさそうですから、制度的なアメの用意にはますます反対意見が強まりそうです。
ただある意味では誰でも気軽に取れて維持出来るからこそ現行の名誉呼称的な専門医も続いている側面もありそうで、本気で専門的診療に従事しなければ取れない専門医に対する需要がどれくらいあるかは未知数ですね。
仮に狭き門となった専門医資格を目指してしのぎを削ると言うような展開になるのであれば、競争率激化それ自体が取得のモチベーションになるのかも知れませんが。

投稿: 管理人nobu | 2015年4月23日 (木) 12時37分

おそらく開業医には総合診療専門医って感じになると思いますよ。
医療機関の機能分化も絡んでますし
新専門医 診療科や地域の偏在 医療機関の機能別分化
これら全部別々の動きではなくリンクしています。
まぁそれだけ日本の医療が崖っぷちで大幅に変わろうとしているんですよね。

投稿: | 2015年4月23日 (木) 13時16分

なんつうかさ、モバゲの課金アイテム集めにやっきになってる廃人ゲーマーとおんなじだよね
大金つぎこんでコンプリートしたころにはサービス終了って感じ?

投稿: ゴン | 2015年4月23日 (木) 18時38分

現行の専門医制度と新しい専門医制度は趣旨が微妙に違うような気がします。
専門医じゃなくて別の名前にすればいいのにと、個人的には思います。

投稿: クマ | 2015年4月24日 (金) 01時01分

>>専門医じゃなくて別の名前にすればいいのにと、個人的には思います。

これ本当にそう思います!

投稿: | 2015年4月24日 (金) 07時51分

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