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2015年4月10日 (金)

死蔵された処方薬の山と言う無駄

医療費削減と言う文脈の中で、昨今病院など医療機関でのコストに相当する本体部分だけでなく薬剤費の削減にも注目されるようになってきていますが、先日こんな記事が出ていたのを御覧になったでしょうか。

飲めずに「残薬」、山積み 高齢者宅、年475億円分か(2015年4月8日朝日新聞)

 高齢者宅から薬が大量に見つかる事例が目立っている。「残薬」と呼ばれ、多種類を処方された場合など適切に服用できず、症状の悪化でさらに薬が増える悪循環もある。年400億円を超えるとの推計もあり、薬剤師が薬を整理し、医師に処方薬を減らすよう求める試みが広がる。

 大阪府忠岡町の女性(78)宅を訪れた薬剤師の井上龍介さん(39)は、台所のフックにかかった10袋以上のレジ袋を見つけた。「ちょっと見せて」。中は全部、薬だった。

 胃薬や血圧を下げる薬、血糖値を下げる薬、睡眠薬――。10年ほど前の日付の袋に入った軟膏(なんこう)もあり、冷蔵庫にインスリンの注射薬が入れっぱなしだった。錠剤は1千錠を超え、価格に換算すると14万円超にのぼった。

 井上さんは昨夏、女性を担当するケアマネジャー上(うえ)麻紀さん(37)の相談を受けた。上さんによると、女性は糖尿病や狭心症などで3病院に通い、15種類の薬を処方されていた。適切に服用しなかったので糖尿病は改善せず、医師がさらに薬を増やし、残薬が増える悪循環に陥っていた。

 「高齢で認知能力が落ちている上、3人の主治医が処方する薬が多く、自己管理が難しかったのだろう」。井上さんはみる。

 残薬は使用期限前で、保存状態が良ければ使える。井上さんはそうした薬を選び、曜日別の袋に薬を入れる「服薬カレンダー」に入れ、台所の壁にかけた。約3カ月後、寝室から約25万円分の薬も見つかり、薬の種類を減らすため主治医の一人に相談し、ビタミン剤の処方を止めてもらった。

 在宅患者や医療関係者に薬の扱い方を教える一般社団法人「ライフハッピーウェル」(大阪府豊中市)の福井繁雄代表理事によると、1日3食分の薬を処方されながら食事が1日1食で薬がたまる高齢者や、複数の薬を処方され「何をどう飲めばいいか分からない」と90日分も残薬があった糖尿病患者などの事例が各地から報告されている。

 日本薬剤師会は2007年、薬剤師がケアを続ける在宅患者812人の残薬を調査。患者の4割超に「飲み残し」「飲み忘れ」があり、1人あたり1カ月で3220円分が服用されていなかった。金額ベースでは処方された薬全体の24%にあたり、厚労省がまとめた75歳以上の患者の薬剤費から推計すると、残薬の年総額は475億円になるという。

ここでは認知症的傾向のある高齢者などが問題になっていますが、服薬コンプライアンスと言われるこの種の問題は医療関係者の間でも長年問題視されてきたところでもあり、年齢の如何を問わず現実的に処方薬を出された分きっちり全部飲んでいる人と言うのはむしろ少数派なのではないかと言う気もしますがどうでしょうね?
少しばかり思い出した話としてかつて社会問題化したスモンと言う病気があって、1950年代から60年代にかけて急にこんな病気が増加してきたと社会的問題になっていたのですけれども、実は当時全国の医療機関で気軽に処方されていた整腸剤キノホルムの副作用であったことが後に明らかになっています。
全国的にそれだけ副作用渦が発生するとはどれだけ薬を処方していたのかですが、当時は何しろ国民皆保険制度が完成した時期で特に高齢者は無料で医療を受けられていた頃ですから、どこの家庭でもお年寄りがもらってきたまま飲まれない薬が山のように積み上げられていたと言いますね。
さすがに医薬分業の時代にもなると医師の側から無駄な薬を処方すると言う動機は失われたわけですが、この残薬に投じられる無駄な医療費に国も注目せずにはいられないと言うことなのでしょう、先日はこんな記事が出ていました。

厚労省が中医協総会に報告 薬剤師の疑義紹介で約29億円の医療費削減効果(2015年4月9日m3.com)

厚生労働省は、薬剤師が残薬を確認し、医師に疑義紹介を行うことで、年間約29億円の医療費削減効果があるとのデータを4月8日の中医協総会に報告した。残薬の薬剤費は、年間475億円にのぼると推計されており、重複投与などの無駄な投薬を防ぐことが求められている。重複投与の防止や残薬があった場合の疑義紹介など、地域包括ケアの中で、かかりつけ機能を担う薬局薬剤師がいかに処方医と連携し、役割を担うかが、今後議論となりそうだ。

薬局では、処方せん受付後に、口頭や持参薬を確認することで、残薬がないか確認。残薬が認められた場合には医師に疑義紹介して処方を変更し、調剤を行う。日本薬剤師会委託事業による調査結果によると、薬学的疑義紹介のうち約10.1%が残薬の確認に関連する事項。疑義紹介を行った結果、日数・投与回数を調整したのは応需処方せんのうちの0.23%だった。これを年間の処方せん枚数に換算すると約29億円に相当する。

薬局に対して、残薬の経験の有無を聞いたところ、残薬を有する患者が「頻繁にいる」との回答は17.1%、「ときどきいる」が73.2%で約9割の薬局が残薬のある患者がいたと回答した。一方で、患者調査でも医薬品が「大量に余ったことがある」が4.7%、「余ったことがある」が50.9%にのぼった。この理由として、長期投与の増加による飲み忘れ、飲み残しや、症状の変化などがあげられる。残薬がある理由を把握し、薬剤師が医師に疑義紹介を行うことで、医療安全への寄与も期待される。

一方、重複投与については、薬学的疑義紹介の約6.5%を占めるとのデータも示された。これは、年間の処方箋枚数に換算すると、約117万件にのぼると推計される。重複投与は小児で多い傾向がみられ、薬効分類別では乳幼児では去たん薬や鎮咳去たん薬など呼吸器疾患に対する薬剤が多い一方で、高齢者では鎮痛・消炎、催眠、抗不安薬などが多い傾向がみられた。

もちろん患者にとってもうっかり誤って重複内服するリスクを減らせるなど利益のない話ではないし、医療費削減を云々せずとも是正すべき話ではあるのですが、実際に広く行うとなると非常に多くの業務量が薬局薬剤師にのし掛かってくることは明らかですから、現実的にそれが出来るかどうかと言う話もありますよね。
4年制から6年制の移行に伴う一時的な薬剤師供給不足もそろそろ安定化し、今後長期的に見れば薬剤師も次第に過剰になってくると言う観測もあるわけで、業界的に新たな市場を開拓する意欲はあるのでしょうが、当然仕事が増えれば報酬を支払わねばならずで、結局は処方の無駄を省く費用削減効果と相殺される可能性もあるでしょう。
一方で無駄な処方を出している形の医師としても外来での服薬コンプライアンスを把握出来るようになるのは悪くない話ですが、この辺りは現状で必ずしも円滑に機能しているとは言えない疑義紹介と言うシステムが有効に機能するものなのかどうかも気になるところです。
ちなみにこの残薬の件に関して日医が「以前から気になっていた」と関心を示しているようなのですが、その対処法として長期処方を禁止すべきだなどと言い出すあたり、患者の来院回数を多くして医療費を無駄につり上げると言う点でどうなのかだし、多忙な勤務医に取ってみれば大きなお世話どころではない迷惑な対案でしょう。

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コメント

薬を辞めた時に訴えられた訴訟リスクは医者が全部受け持つのかな?
医者が893医師になっている理由は、薬剤師も厚労省も民主党関係者もこいつらは無責任だからなwww
法務省と厚労省で話しておかないと訴訟リスクが高すぎて、893医師は悪い事をたくさんします。

投稿: | 2015年4月10日 (金) 07時31分

もらえるものならついでにもらっておこうって考えの人が多いみたいなんですよね。
古くなる前なら薬局で回収して返金しますって言えば少しは改善するのかも?

投稿: ぽん太 | 2015年4月10日 (金) 07時58分

残薬が相当な額になっており、医療費削減のために管理していくというのは判るのですが、
きちんと飲んでいないほうが問題ですよね。なんか議論が逆のような。
飲んでいなくても症状に問題なければ、不要の薬だったということでしょうけど。

投稿: hisa | 2015年4月10日 (金) 09時25分

癌は過剰診療、予防接種も危険、薬は出し過ぎ…
もう祈祷師で充分じゃねの?国は祈祷師を配置すべき。
これで全てが解決する。

投稿: | 2015年4月10日 (金) 09時49分

医薬分業が行われて、このザマなのに、医薬分業が無駄だったとの結論ではなく、もっと医薬分業しろ、という結論になぜかなるのですね。薬代より、薬剤師人件費の方がよっぽど無駄ですよね。

投稿: 麻酔フリーター | 2015年4月10日 (金) 10時28分

長年無策だったくせに

投稿: | 2015年4月10日 (金) 10時43分

えっとその祈祷師の国家試験はどのような内容に?

投稿: | 2015年4月10日 (金) 11時15分

やはり祈祷師たるもの何らかの宗教法人格なりが必要では?と言う議論にもなりそうなのですが、そうなると下手な国家資格よりもよほど狭き門になって難関化するかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2015年4月10日 (金) 12時55分

免疫教 教祖近藤誠は時代を先取りかな。KOはすごいんです。

投稿: | 2015年4月10日 (金) 13時26分

残薬の発生は高齢者に限りません。
月1回飲むだけ、月1回注射するだけみたいな薬が増えればいいのですが・・・

投稿: クマ | 2015年4月10日 (金) 16時24分

薬局で投薬時にかなり多い問い合わせに
「今日はこの薬余ってるから要らないって言ったのに~」
と、
「今日は先生にあの薬(下剤や湿布)も頼んだのに~」
の2つがある。

不要の訴えがあった時くらいの削除判断は薬局に与えてくれても良いと思うんだよなぁ・・・。

投稿: | 2015年4月11日 (土) 09時39分

それ実際には医師に頼んでないってパターンも多いんですよね
毎回やらかす患者には用心して診察室で何度も確認してんですけど

投稿: | 2015年4月11日 (土) 10時32分

くすり余ってるときは、錠数とだいたいの日数を数えてきてもらい、薬ごとに処方日数を変えます。

反対に60日分だしたのに、1ヶ月後に薬なくなったという患者がきます、
どういう飲み方してるんだか。たいていは、薬のしまい場所忘れてるだけ。

投稿: physician | 2015年4月12日 (日) 10時51分

くすり余ってるときは、錠数とだいたいの日数を数えてきてもらい、薬ごとに処方日数を変えます。

反対に60日分だしたのに、1ヶ月後に薬なくなったという患者がきます、
どういう飲み方してるんだか。たいていは、薬のしまい場所忘れてるだけ。

投稿: physician | 2015年4月12日 (日) 10時52分

「なくした」って正直に申告される患者様もおられますね。
厳密には「紛失」は自費になるそうですが、とりあえず聞かなかった事に…してませんよもちろんですよ通報なんかしないで下さいねっ

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年4月13日 (月) 10時57分

私は「紛失した」と言われても「飲み過ぎた」と言われても問答無用で自費にします。
以前生活保護の方が紛失したときは1週間分の薬代が2万円超えで本人が青ざめてました。
さすがに一括払いは無謀だったので12回の分割払いで全て払っていただきました。
(生活保護担当のケースワーカーに連絡&承諾済です)

投稿: クマ | 2015年4月13日 (月) 17時25分

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