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2015年4月 3日 (金)

群馬大病院、執刀医を責めていたはずが何故か世間から責められる

先日も少しばかり取り上げました群馬大病院の患者死亡問題で、各方面の報道では「何たる低レベルの医療!」と執刀医の評判も散々な様子ですけれども、どうも事故調査報告書を巡る経緯などを見ている限りでも一人の医師を犠牲の子羊に仕立て上げて終わるような問題でもないようです。

群馬大病院問題 執刀医が報告書に反論(2015年4月2日NHKニュース)

群馬大学医学部附属病院で、腹くう鏡の手術を受けた患者8人が手術後に死亡した問題で、全員の診療に過失があったとする病院の最終報告書について、手術を執刀した医師が、患者には手術の前に十分説明を行うなど対応しており、「過失があったという判断には納得できない」などと反論する文書を病院に提出したことが分かりました。これについて、群馬大学は「現時点では調査委員会で適切に調査し、報告書を取りまとめたものだ」とコメントしています。

前橋市にある群馬大学医学部附属病院では、去年6月までの4年間に、40代の男性医師が腹くう鏡を使って肝臓の手術をした患者8人が手術後に死亡し、病院の調査委員会は先月、「すべての事例において過失があった」などとする最終報告書を公表しました。これについて、手術を執刀した医師が「明らかに事実と異なるものがある」として反論する文書を病院と調査委員会に提出したことが分かりました。
この中で、医師はまず、「亡くなられた患者さんはもとより、ご家族の方にもおつらい思いやご心労をおかけして大変申し訳なく思っています」と謝罪しています。
そのうえで、報告書が、手術を行った場合の死亡する確率などのデータを患者に示した記録がないことから、事前の説明が不十分だったと指摘したことについて、医師は、いずれのケースも1時間以上の時間をかけて十分に説明するようにしていたと主張しています。
また、手術前にどの程度肝臓を切除すればいいのか事前の評価が不十分だったと指摘されたことに対しては、事前の評価によって治療方針が大きく変わった可能性は低いとしています。そのうえで、「過失があったという判断には納得できない」と反論し、再検討するよう求めています。
医師は「診療行為に厳しい評価が下されるとしても、公正、公平な調査をしてほしい」と主張しています。
執刀医が提出した反論の文書について群馬大学は取材に対し、「現時点では調査委員会で適切に調査し、報告書を取りまとめたものだ」とコメントしたうえで、個別の内容には答えられないとしています。
(略)
執刀医師の具体的な反論
群馬大学医学部附属病院で腹くう鏡の手術を受けた患者8人が手術後に死亡した問題で、全員の診療に過失があったとする病院の最終報告書について、手術を執刀した医師は「過失があったという判断には納得できない」などと主張して一人一人の患者について具体的な反論をしています。

このうち肝細胞がんと診断され、手術後66日目に死亡した患者について、報告書では、手術を行った場合の死亡する確率などのデータを患者に示した記録がないことから事前の説明が不十分だったとしています。そして、どの程度肝臓を切除すればいいのか、事前の評価が不十分だったため、必要以上に肝臓を切りすぎた可能性があるとしています。さらに、手術の後も患者には出血などが認められたことから、手術に何らかの問題があった可能性が高いと指摘しています。
これについて、医師は患者には手術の前に1時間以上かけて詳細に説明をするよう努めていたと主張しています。一方、肝臓の切除については切り取る部分が大きいため、術後の経過に影響した可能性が高く、慎重な判断が重要であったと反省しているとしています。しかし、調査委員会が手術のビデオを確認したうえで、原因となる操作は同定できなかったと判断していることに触れ、手術に何らかの問題があったと結論づけるのは根拠が乏しいと主張しています。

胆管細胞がんと診断された患者は、退院から6日目に腹部が膨れて救急外来を受診し、たまった水を出す治療が行われたあと帰宅しましたが、翌日、死亡しました。この患者について、報告書は、救急外来を受診した際には急性腎不全の状態だったため緊急入院させて治療を始めるべきだったとして過失があったと指摘しています。
これについて、医師は緊急入院させ治療すべきだったと認めたうえで、状態の把握と情報の伝達が十分行われず、適切な対応がとられなかったとしています。その一方で、手術後の対応から手術を行った医師らに過失があったと判断されるのは妥当性が低いと考えていると主張しています。

群馬大病院、腹腔鏡報告書を無断修正(2015年4月2日読売新聞)

 群馬大学病院(前橋市)で肝臓の腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を受け8人が死亡した問題で、病院側が設けた調査委員会の報告書が、外部委員が内容を承認した後に無断で修正されていたことが関係者への取材でわかった。
 各症例を検証した結論の中に「過失があった」と加筆するなどしていた。「過失を強調し、遺族の納得を得ることで幕引きを急いだのでは」との指摘もあり、再調査を求める声が改めて上がっている。

 病院側が昨年8月から外部委員を交えた調査委員会で調査した。関係者によると、今年2月半ばには、調査報告書の最終案が外部委員に送付され、各委員の意見により修正された後、全委員が承認して最終的に完成したはずだった。
 ところが、3月3日に病院側が記者会見で公表した報告書は内容が変わっており、患者8人の診療を個々に検証した結論の末尾に、「過失があったと判断される」との一文が書き加えられていた
 一方、複数の遺族によると、調査報告書をまとめた後の2月半ば以降に行われた各遺族への説明の際、手渡された個別報告書には、それぞれ「過失があった」との記載があった。
 調査手法を巡っては、外部委員の医師には初回に出席を求めただけだったことが厚生労働省の審議会で問題視されている。
(略)

今のところ実際に医療内容にも問題があったのはある程度確からしいとは言えそうなのですが、逆にこの種の事後検証で何一つ問題点が指摘されない医療などまず存在し得ないことは症例検討などの場を一度でも経験してみれば誰にでも判ることで、要するに突っ込みどころがあるから医師の過失だなどと軽々には言えないと言う点が一つのスタートポイントになるかと思います。
その点で近年の医療訴訟などにおいても標準的な水準の医療からどれほど逸脱しているかと言う観点からの判断がなされるようになっていて、またこの標準的な水準の医療とは何かと言う点も非常に議論の余地があり医療訴訟批判の眼点にもなっているところですけれども、ともかくも症例毎の個体差も大きい医療だけにある程度の最善解からのブレは仕方がないと考えなければ医療が出来ないと言うのが現実であると言えます。
その点でここに突っ込みどころがある、こちらにはこうした道があったとあれこれあげつらうこと自体は調査報告書の性質上仕方がないにしても、それが何を目的に行われている指摘なのか、個人の責任追及なのか再発防止のためなのか等々目的が決まらなければ内容に対する評価も出来ないのは当然であり、まずは大学側は事故調が何を目的にしているものなのかと言う点を明快にすべきだと思いますね。

この事故報告書内容に関してはすでに各方面から突っ込みが入っていて、坂根Mクリニックの坂根みち子院長などは「小学生並みの論理展開」などと散々で「驚くべき稚拙な「責任追及型報告書」」である点を指摘し糾弾していますが、その理由として外部医員にあの(笑)日本医療安全調査機構のメンバーも入っている点を挙げ「過去にも責任追及型の報告書を出している」と指摘しています。
また井上清成弁護士はメディアスクラム過熱の原因は調査報告書の公表にあるとし、予期しなかった死亡か否かの認定が曖昧であること、医療事故調査と銘打ちながら診療報酬不正請求問題をも追及していること、そしてそもそも医療安全目的の報告書となっていないことを列挙し、「敢えて過失認定を明示したのであるから、つまり、ここには何らかの隠された目的が存在しているのであろう」とまで踏み込んでいます。
当然ながらこうした数々の指摘を見れば誰しも東京女子医大のケースを想像せざるを得ませんが、大学側がたった一人の医師に全ての責任を押しつけようとしたあの事故調査報告書にこそ、組織とその中の個人の利害関係は一致するどころか明確に対立することもあり得るのだと言うことを示しているのだろうし、いずれにしても一方の当事者である大学側が関わる以上そこに一定のバイアスが避けられないのは明らかだとは思いますね。
この点で日本医療安全調査機構などはこの秋からの医療事故調にも関与が取り沙汰されているし、その事故調もまずは院内事故調で調査を行うことになっていることから果たしてどうなることやらと不安を感じざるを得ないのですが、未だ制度設計に関する議論すら続いているとも言われる中で事前にこうした予想される問題点のケーススタディが出来たと言うことを前向きに受け止めておくべきなのでしょうか。

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コメント

夜な夜な峠ばっか走ってるからだよw

投稿: | 2015年4月 3日 (金) 07時44分

全ての関係者が大学に再調査を要求してるってことですね。
でも事故調査って誰かの満足得るためのものでもないはずなんですけど。
これでゴネたら思い通りの報告書が出るなんて勘違いしないでほしいですが。

投稿: ぽん太 | 2015年4月 3日 (金) 08時58分

この手の報告書は本人が「自分が悪かったです」と発言していたとしても、本当にそうなのかしっかり吟味して作成するのが基本だと思います。
「過失」という単語を安易に使うのは、記事にもあるとおり本当に「素人」だったのでしょう。

投稿: クマ | 2015年4月 3日 (金) 09時00分

いざというとき組織は自分を守ってくれない。
自分を守るのは自分だけ、と他山の石としたいと思います。
カルテ記載がプアだったというのは事実なのでしょうから、その点で脇が甘かったと言われるのは仕方ないことかと。

投稿: JSJ | 2015年4月 3日 (金) 09時26分

つまりは手術について、問題のありなしを判断できない医師だったのかな?
だとすれば、そういう人に任せた病院に全面的に責任があると思うけれど。

投稿: | 2015年4月 3日 (金) 10時21分

おっしゃる通り組織として仕事をしている以上、担当医に問題があるなしに関わらず組織として責任を負うべきだと思うのですが、どうも組織の責任回避のための個人晒し上げの気配も感じるところです。

投稿: 管理人nobu | 2015年4月 3日 (金) 10時43分

外部委員も内部委員も医療事故検証のノウハウ、書いてはいけないこと、してはいけないこと、が全くわかっていないから、トンデモな報告書になったとも言えます。
田舎のボンクラ駅弁国立医学部だから、東京の金満私立医大だから、ではなく、医療安全検証をまともにやれる専門家がレアなことが、一番の問題です。

投稿: physician | 2015年4月 3日 (金) 12時06分

それ医療訴訟の証人になる医師も同じことですよね
森功名心先生にいつまで権威ぶらせとくんだって言うね

投稿: | 2015年4月 3日 (金) 12時50分

医者を攻め立てる患者側証人、森なんちゃら 大阪市立医大、南淵なんちゃら 奈良県立医大。
ふーん。

投稿: physician | 2015年4月 3日 (金) 15時10分

遺族がわかりやすいと…群馬大学病院、「過失」加筆を釈明

 肝臓手術後に患者の死亡が相次いだ群馬大学病院(前橋市)。先月、ようやく腹腔鏡(ふくくうきょう)手術の死亡例に対する調査報告書を公表したばかりだが、調査の不備が次々に発覚し、ついに再調査に追い込まれた。執刀医からは、この報告書への反論も寄せられ、事態は混迷を深めている。

 「ご遺族にわかりやすいと、『過失があった』と後から入れてしまった」

 2日、記者会見した群馬大学病院の永井弥生・医療の質・安全管理部長は、そう釈明した。

 この日の会見では、報告書で明記されていた「過失」の文言を削除することが発表された。病院として、「過失があった」との判断には変わりないが、調査委員会としての結論ではないと訂正した形だ。

 病院側は2月、報告書の最終案を外部委員が承認した後、無断で内容を修正。死亡した8人の検証結果の概要の末尾にそれぞれ「過失があったと判断される」と書き足した。外部委員の一部からは、「過失」の文言削除を求める抗議文も提出されていた。

 このほか、外部委員が初回しか出席を求められていないことや、執刀医らの聴取内容が十分に外部委員に知らされていないなど、調査を巡る不備が次々に発覚。追加の調査をせざるをえない状況となった。

 一方、執刀医は、3月30日付で調査委員会あてに反論の上申書を提出していた。報告書で、技術などの問題が指摘された後に、「以上のことから、過失があったと判断される」とされたことに対し、「妥当ではないのではないか」と反論した。ただ、技術的な問題の指摘自体には、「申し訳ない」としているという。

 これに対し、父親を亡くした遺族の男性は「専門家が調査した上で、病院側が過失があったと判断しているのに、こういう反論は疑問に思う。まだ執刀医から直接は何も聞いていない。まず説明してほしいという気持ちだ」と話している。

(2015年4月3日 読売新聞)

投稿: | 2015年4月 3日 (金) 18時58分

今回のニュースも含めて思うことですが、説明を何でもかんでも主治医にさせようとする風潮は何とかして欲しいです。
患者さんやその家族への説明は、説明可能な情報を持ち合わせているのであればどの病院職員がしてもいいわけですから。

投稿: クマ | 2015年4月 4日 (土) 17時31分

誰が話しても内容がぶれないように文書で標準化してんのに「説明と同意の取得は先生の仕事ですから」ってもうね

投稿: たま | 2015年4月 4日 (土) 18時04分

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