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2015年3月28日 (土)

遺伝子診断が身近なものになりすぎるとどうなるか?

米女優のアンジェリーナ・ジョリー氏と言えば昨年にもご紹介しました通り、遺伝子診断の結果から大胆な乳房予防切除に踏み切り一連の経緯を公開したことで話題になった方ですが、その方が今度は卵巣も予防切除をしたと表明し大きな話題を呼んでいるようです。

アンジーさん、今度は卵巣摘出…がんリスク回避(2015年03月25日読売新聞)

 【ロサンゼルス=加藤賢治】米国の人気女優アンジェリーナ・ジョリーさん(39)は24日付米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、がんになるリスクが高いため、予防措置として卵巣と卵管の摘出手術を先週受けたことを明らかにした。

 ジョリーさんは2013年5月にも同紙への寄稿で、遺伝子変異により乳がんになる確率が87%と高いことが分かったため、予防目的で両乳房を切除したと公表している。卵巣がんになる確率も50%あったため、切除を選択したという。ジョリーさんの母親は49歳で卵巣がんと診断され、56歳で亡くなった。

 ジョリーさんは今回の寄稿で、病気への知識を深めることの重要性を強調。女性に対して「どんな健康問題にも複数の対処法がある。最も大切なのは、あなたにとって正しい選択をすることだ」と呼びかけた。

乳房予防切除などは特にそうですが、診断技術が進歩して高率に発癌のリスクがあることが明らかであること以上に、やはり乳房再建の技術が進歩し美容的に問題ないレベルで整復出来るようになったことが女性方にとっては大きいようで、日本においてもこのところ温存手術よりも全摘術を希望する乳癌患者が増えたと言うのも同じ文脈にある出来事であると言えそうです。
こうしたニュースを見ているとさすがにアメリカはこの方面でも考え方が進んでいるなとも思うのですが、もちろん本人も言っているように社会的に注目を受ける立場であることから「こうした選択肢もあるよ」と示す意味で敢えて行っている側面も多分にあるのだそうで、さすがに現状ではまだ平均的な対処法であると言うわけではないようですね。
病気が進行してから見つかって大がかりな治療をするよりも、あらかじめ予防的に治療しておけるならそれに越したことはないと言う方は相応にいるのだろうし、病気の発症リスクと予防的治療に要するコストや手間などを総合的に判断してどこかに妥当な線引きをしていけば医療費や医療リソース削減にもなりそうなのですが、この発症リスクを知ることへの負担感を大幅に軽減しかねないこんなニュースが出ていました。

順次サービスを拡大、感染症検査や遺伝子検査も検討中 KDDI、ネット経由で血液検査サービスを提供へ (2015年3月17日日経メディカル)

 KDDIは2015年3月16日、一般向けにインターネット経由で健康チェックを行える新サービス「スマホdeドック」の提供を始めると発表した。スマホdeドックは、自宅などに送付される検査キットで検体を採取し、解析後にスマートフォンやパソコンで検査結果を確認できるサービス。
 第一弾としてKDDIは、管理医療機器に当たる血液検査キットを開発・販売しているリージャー (東京・中央、長谷川重夫社長)と業務提携し、「生化学14項目血液検査サービス」を提供する。検査できるのは、総タンパク、アルブミン、AST、ALT、γ-GT(γ-GPT)、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、血糖、HbA1c、中性脂肪、総コレステロール、HDL-コレステロール、LDL-コレステロールの14項目。
 KDDIがサービス全体の統括や、検査結果に対するアドバイス提供のアルゴリズム開発を担当し、リージャーが血液検査キット「デメカル血液検査セットFF」の提供、リージャーと協業しているIMSグループのアイル(東京・板橋、山崎徹也社長)が血液検査を担当する。

 サービスの大まかな流れはこうだ。生化学14項目血液検査サービスに申し込んだ利用者には、リージャーの血液検査キットが送られてくる。血液検査キットは、使い捨てタイプの採血用の皮膚穿刺器具と吸引器、血液分離用のボトルとシリンダー、消毒布、絆創膏などから構成されている。
 利用者は、穿刺し、吸引器で吸引した血液を、内部標準物質を含んだ溶液入りのボトルに入れて混ぜ合わせる。その後、ボトルに5層濾過膜を備えたシリンダーを押し込み、血漿を濾過した状態でアイルの検査センターへ送付する。0.065mLの微量な血液で検査が可能だという。約1週間後、利用者は、スマートフォンやパソコンで検査数値や検査結果、改善アドバイス、医学的見地からのコメントを閲覧できる。
 検査結果は、検査数値に基づき、肝機能や腎機能などのカテゴリーごとに、全く問題ない(A)、軽度異常あり(B)、高度異常あり(C)、医師の診察を促す(D)の4段階で示される。こうした検査結果や改善アドバイス、医学的見地からのコメントなどは、医師監修の下、KDDIが開発したアルゴリズムに基づいて提供されるという。生化学14項目血液検査サービスは、20歳以上を推奨年齢として、1回4980円で販売する。販売開始は2015年夏の予定。スマートフォンやパソコンのOS、ブラウザなど、対応環境を満たしていれば、誰でも利用できる。

 サービス開始に先立って、KDDIは実証実験をスタートさせる。具体的には、2015年4月中旬から2016年3月末まで、全国20市区町村、2健康保健組合と提携し、約24万人を対象として無料でサービス提供を行う。
 KDDIは今後、感染症検査や血液以外の検査など、スマホdeドックのサービスを拡充させる方針。「遺伝子検査サービスも候補に挙がっており、検討を進めているところだ」(KDDIの広報担当者)という。

こういう記事を見ると何かとんでもない時代になってきたなと思ってしまうのは歳をとったと言うことなんでしょうか、しかし自己採血と郵送で簡単に検査が出来ると言うのであれば仕事で病院にかかる暇もないと言う方々にも需要はあるのだろうし、競合他社も相次いで参入してくればコストもさらに下がり、検査の範囲も拡がっていくのかも知れませんね。
実際の臨床の場においてはこうした検査の結果異常が出た場合に誰が対応すべきなのか?と言うことが気になるのですが、今でさえ他院での検査結果だけを持ち込んで「詳しく説明してくれ。料金は前の病院に請求しろ」などと無茶を言う患者が来て困っている、などと言ったネタのような話も聞かれる時代に、患者が勝手にどんどん検査をした分まで説明させられるのでは手が回らないと言う先生方も増えそうです。
もちろん本来的にその辺りも含めてのサービス提供となるべきで、例えばセンターに嘱託の医師がいてメールで○回までの問い合わせなら無料と言ったサービスのスタイルはありなのだろうと思うのですが、一般にこの種の検査結果だけを見て何か確定的なことが言えるかと言えばほとんどの場合難しいのだろうし、結局「○○科を受診し専門医の判断を仰いでください」で丸投げにされる可能性も少なからずありそうには思います。

もう一つ気になる点として将来的に遺伝子検査も予定されていると言い、また競合他社が参入してくれば必ずこちらの方面を売りにする会社も出てくると思うのですが、この遺伝子検査なるものも何でもかんでも調べてしまっていいのかどうか、倫理的に問題あるのではないかと各方面で議論もあり、抑制的に運用されているものではありますよね。
判断力のある大人が自己判断で行う以上、どんな結果が出ても受けた本人の責任で対処するのだから構わないじゃないかと言う声もあると思うのですが、少なくとも記事にあるようなシステムで検査を行う場合には例えば親が勝手に子供の血を自分のそれだと偽って送りつけると言ったこともあり得る話ではあるかも知れませんし、今後妊婦相手に遺伝子検査を提供する会社も出てくる可能性もあります。
さすがに生まれた子供相手であれば仮に望ましくない結果が出たとしてもどうこうできないだろうと言う話なんですが、例えばもう一人子供を持つべきかどうか悩んでいると言う世帯においてこうした検査結果を見て判断する場合もあるのかも知れませんし、案外その影響は広範なものになってくるのかも知れません。
お見合い時の釣書に既往歴だ原病歴だと言ったものを記載すると言う場合もあるようで、もちろん結婚しこれから所帯を持つとなれば健康であるのかどうかと言った情報は非常に重要ですけれども、それだけに留まらず遺伝子的情報までもやりとりされると言うことになってくれば容姿や財産、社会的地位だけでなく、遺伝的素因も結婚相手の条件として重視されることになっていくのでしょうか。

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コメント

腕を骨折したケースでも、ハンギングキャストで自然に骨を付けた場合とオペをしてプレート入れて固定した場合、前者は思うように骨が付かない場合のリスクがあるし、後者はオペに伴う感染症や対策で使用された抗菌剤による副作用やプレート導入後の予期せぬ筋痛など、どちらの治療法を選んでも一定割合で治療が上手くいかず、障害が残ったりする事があるという。

確かに遺伝子診断で色々と対策を練る機会は増えると思うけど、一方で判明したリスクに対して対策・処置をした事で、新たなリスクが生まれるという可能性も考えなくてはいけないと思うんだよなぁ・・・。

投稿: | 2015年3月28日 (土) 08時35分

高い確率でガンになるって言われたら手術するだろうな
でもこれから子供欲しいときに卵巣とるのは迷いそう
いつごろガンになるかもわかったらいいのにね

投稿: | 2015年3月28日 (土) 08時47分

結婚する時に競馬見たく相手の相性と能力を遺伝子診断で調べてから、結婚が流行になると思います。
顔じゃなくて、遺伝子で結婚を決めるのが21世紀。

投稿: | 2015年3月28日 (土) 13時26分

実の親子じゃないと判明する例も増えそうですねぇ

投稿: | 2015年3月28日 (土) 14時14分

アンジェリーナ・ジョリーの決断、専門医ら称賛 「信じがたいほど勇敢な行為」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150326-00000501-fsi-bus_all

なんかあちらの先生って遺伝子診断おすすめって感じだね
日本の先生はなんでこんなに消極的なの?馬鹿なの?

投稿: | 2015年3月28日 (土) 16時41分

>馬鹿なの? 
 挑発が好きだね。
リスクのけつをとらないでガーガーいう輩が多いから、顔をさらして困猿してくれる医者がほしいなら、それなりのモノを出してもらわないと。

>総合的に判断してどこかに妥当な線引きをしていけば医療費や医療リソース削減にもなりそうなのですが、この発症リスクを知ることへの負担感を大幅に軽減しかねないこんなニュースが出ていました。
>検査結果や改善アドバイス、医学的見地からのコメントなどは、医師監修の下、KDDIが開発したアルゴリズムに基づいて提供

 医師監修w。 データベースとリンクさせるボットで十分でしょ。一般の治療のGLもネット公開のサイクルが速くなってるから、診療機関の電カル/オーダリングシステムにボットで最新情報を取り込むようなるだろうね。 アップトゥデート(商標)の画面に目を走らせなくても基本的なことはビルトイン、人間はその先をやる、ということになるんじゃないの。

>患者が勝手にどんどん検査をした分まで説明させられるのでは手が回らないと言う先生方も増えそうです。

 管理人様もお人がよろし杉です。何でよそでやったことの説明がロハなの? セカンドオピニオンは有料。あとで医者の顔を拝んで罵倒したいのなら、リスク別料金は当前。

投稿: Anonymous Alcoholicus | 2015年3月28日 (土) 20時47分

 何でやらないか、の説明が尻切れトンボだったな。
 バカじゃない人には蛇足だろうが。
 そんなことしても今のところ実入りはないし、ほかにやることがいっぱいあるからだよ。

 それでもやるやつはやってるだろ。m3が勉強しろって言ってるよ。節穴に気取られると余計なリスクを引き込むから隠密でいいんだ。
 

投稿: Anonymous Alcoholicus | 2015年3月28日 (土) 21時00分

人工知能活躍のいいネタじゃないの

投稿: | 2015年3月30日 (月) 11時25分

> 管理人様もお人がよろし杉です。何でよそでやったことの説明がロハなの? セカンドオピニオンは有料。あとで医者の顔を拝んで罵倒したいのなら、リスク別料金は当前。

まったくもっておっしゃる通りなんですが、現実的に場末の医療機関の通常外来に検査結果だけ持ち込んで時間を占有した挙げ句、初診料だけでお帰りになっている方々も未だ少なくないのでは…と危惧しております。

投稿: 管理人nobu | 2015年3月30日 (月) 12時40分

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