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2015年3月 5日 (木)

全国医療現場では医療事故が頻発している?

この10月から始まると言う医療事故調にも関わる話なんですが、先日ちょっと興味深い調査結果が出ていたことを紹介してみましょう。

3年以内の死亡事故、4割以上の施設が回答- 日病が調査、500床以上が最多(2015年3月2日CBニュース)

最近3年以内に医療事故で患者が死亡した事例が「ある」と回答した施設は4割以上だったことが、日本病院会(日病)の医療安全に関する調査で分かった。【松村秀士】

今年10月からスタートする医療事故調査制度に向け、日病の「医療の安全確保推進委員会」は、2014年10―11月にかけて日病に加盟する施設を対象に実態調査を実施。892施設から回答を得た。

調査では、11年度から13年度の間に、患者の死亡事例が「ある」と381施設(43%)が回答した。その381施設を病床規模別に見ると、最も多かったのは500床以上で128施設。次いで、300―399床(77施設)、400―499床(63施設)、200―299床(54施設)などの順だった。

先日も紹介しましたようにこの事故調制度と言うもの、少なくとも当面はかなり届け出対象が抑制的に運用されそうだと言うのは朗報なのですが、そもそも「全例届け出なんてそんなことになったら大変だ!」と言う反対意見の理由としては一つには患者側との信頼関係を損なうと言った理由もさることながら、もう一つには単純物理的に大変な数の届け出件数になってしまうと言う懸念もあったはずです。
調査を元に推定すると全国病院数がざっと8500、3年間でこの4割に死亡事故が起こっていたとすると1年辺りにして全国でざっと1000件は死亡事故が起こっている計算ですが、もちろん施設によっては複数の事故も発生しているでしょうから「最低限年間1000件」と言うのが一つの目安になる数字だとすると、事故調を担当する方々も忙しいんだろうなと言う気もしてくるでしょうか。
ただ産科無過失補償においても今のところ当初800人とも想定されていた件数よりもずっと少ない件数に留まっていて、先日はとうとう制度設計の見直しを迫られたと言うニュースが出ていたくらいで、こちらの場合届け出は義務ではなくあくまでも権利であると言う違いを指摘されるのももっともなんですが、届け出対象となるかどうかを医師が判断すると言う時点でやはりなるべく抑制的にと言うバイアスがかかりそうには感じられます。
いずれにしても今後臨床医の先生方は常に事故調の存在を念頭に置きながら診療に当たっていく必要があると思われるのですが、先日以来話題になっている群馬大の腹腔鏡手術に関わる一連の死亡事例において、先日こんな調査報告が出ていたと言うことを紹介してみましょう。

8人死亡「全例に過失」=腹腔鏡手術で最終報告-群馬大病院(2015年3月3日時事通信)

 群馬大医学部付属病院(前橋市)で肝臓の腹腔鏡手術を受けた患者8人が相次いで死亡した問題で、同病院は3日、記者会見し、8人の全例について「過失があった」とする調査委員会の最終報告を発表した。病院側は今後、遺族に補償する意向を示した。
 同病院では2010~14年、腹腔鏡を使う難度の高い肝臓手術を受けた患者93人のうち8人が死亡。いずれも同じ男性医師が執刀しており、必要な事前審査を受けていなかったほか、手術の問題点を検証する検討会も開かれていなかった
 最終報告は、死亡した8人について、診断や手術の内容、術後の経過を個別に検証。手術に耐えられるか事前に調べる術前検査が行われなかった結果、過大な手術が行われて容体悪化につながった可能性や、肝動脈の損傷など手術中の対応の問題点などを指摘した。
 その上で、術前検査や患者への説明、死亡後の検証が不十分だったとして、死亡全例について過失があったと結論付けた。ただ、手術と死亡との因果関係については、明言しなかった。 

事件の詳細について実態を存じ上げないので医学的な観点からの評価は当「ぐり研」では何とも言えませんが、一見すると大学側が自らの罪を認め断罪するかのような話にも見えるのが目を引くところで、事故調実施を前に今回モデルケース的に調査を行ったのか?だとか、遺族に対する補償云々を自ら切り出したと言う点も逆に言えば裁判なりに訴えられる前に予防線を張ったとか?だとか、色々と想像の余地はありそうですよね。
ただここで留意いただきたいのは手術中の患者死亡を巡って人工心臓を扱った担当医が逮捕された東京女子医大事件で、後に無罪が確定した同医師が「大学が調査報告書で自分一人に事故の責任があると罪を押しつけた」と損害賠償請求を行うに至ったように、病院と医師個人とは決して立場を同じくするものではないどころか、場合によっては利害関係が対立するものであると言う認識は必要でしょう。
この辺りは有名な福島の大野病院事件においても県から「こう書かないと賠償金は出ない」と担当医に責任があるかのような報告書が提出された経緯が福島県立医大教授によって暴露されていましたが、医賠責の場合支払いの対象となるのは医療事故ではなく医療過誤であると言う点で自動車保険等とは事情が異なると言うことも、下手すれば個人責任論に傾きやすい医療側から見た場合の別な理由であるのかも知れません。

臨床上問題となった症例を皆で議論する症例検討会であるとか、院内でのトラブル防止を図るインシデント・アクシデント対策委員会などにおいてもまずはレポートを出すことが重要だとはよく言われる一方で、かつて医療訴訟が激増し社会問題化したときに学会や医学雑誌における症例報告が(後々医療訴訟に活用されることを恐れて)激減したと言う話もありますよね。
今回の場合マスコミ等の扱いを見てもすっかり特定の医師が諸悪の根源的な扱いで、実際医学的に何かしら問題があったのかどうか、仮に問題があったとすれば死亡例が頻発している中で何故誰も停められなかったのかと言う点が誰しも気になるところでしょうが、医療もまた社会との関わり抜きには語れない部分はありますから、今回の調査でも手術と死亡との直接的な因果関係にまでは踏み込んではいないようです。
もちろん遺族感情からすれば「結局あの先生の手術が悪かったのかどうか、それが知りたいんだ!」と言うものでしょうし、仮に手術に問題ありともなれば裁判沙汰になりかねない、だからそこの部分には踏み込めないと言う調査する側の判断もあるのでしょうが、今後この報告書を巡ってさらに紛糾するかどうかが事故調実施を目前に控えて全国医療機関からも注目されるところとなりそうな気はします。

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コメント

群馬大はなんで本人に謝罪させないんだ?まったく誠意が感じられないんだけど

投稿: | 2015年3月 5日 (木) 07時39分

医療事故で亡くなられた方より医療事故があってから亡くなられた方はずっと多いのでしょう。
でも届け出対象になるのは事故の有無じゃなくて予期しない死亡だけなんですよね?
事故が起こってからこの方はもうすぐ亡くなりますって大慌てで説明したらどっちになるんだろ?

投稿: ぽん太 | 2015年3月 5日 (木) 08時41分

>群馬大はなんで本人に謝罪させないんだ?まったく誠意が感じられないんだけど

一般的には、大企業で社員の不祥事が発覚したとき、記者会見にその社員を出して謝罪させることは少ないと思われます。

投稿: クマ | 2015年3月 5日 (木) 09時00分

>事故の有無じゃなくて予期しない死亡だけ

絶対失敗しませんなどと現実世界で言うわけないから、全て予期されているってことになる
届け出なんて全くしなくていいってことなんでしょ

投稿: | 2015年3月 5日 (木) 09時14分

その辺りの線引きが非常に議論になるところなんだと思いますが、臨床経過上は特に事故を考えないような症例が事故調送りにならないよう、現場でも一定の手順遵守が求められるのだと思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年3月 5日 (木) 10時24分

> 記者会見では、野島美久(よしひさ)病院長が沈痛な面持ちで、「なぜもっと早く問題を把握して、対応できなかったのか。それが最大の問題だった」と振り返った。
> 閉鎖的な診療体制で、死亡例が相次いだことについて、「統括すべき診療科長の管理責任は重大だ」と言及。「他の診療科からの意見や批判にさらされることなく、チーム内でも症例の吟味や振り返りがなかった」とした。病院の管理体制についても「不備があった」と述べた。

院長にここまで言われたんじゃ最低でも懲戒免職くらいは確実?!

投稿: | 2015年3月 5日 (木) 14時30分

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