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2015年2月27日 (金)

医師と看護師、その対立と協働のバランス

いわゆる新臨床研修制度が発足して以来、研修医の地位向上に伴ってかつてのように「レジデントは奴隷。研修医は人以下」と言った扱いはさすがに減っているんじゃないかと思いますが、とりわけ若手医師時代には誰しも一度はこういうことを経験しているのだろうなと思う記事が先日出ていました。

66%の医師が看護師との“バトル”を経験(2015年2月23日日経メディカル)より抜粋

 円滑なチーム医療の遂行に欠かせない、医師と看護師の連携。だが現実には、コミュニケーション不足などが原因で、職種間での意見の食い違いや認識のズレが生じることがある。そこで今回の「医師1000人に聞きました」では、日経メディカルOnlineの医師会員を対象に、臨床現場における看護師との言い争いなど“衝突(バトル)”についてのエピソードを尋ねた。
 調査期間中に回答した医師2634人のうち、66%が看護師との衝突の経験が「ある」と回答した(図1左)。衝突の頻度について尋ねたところ、約半数は「かつてあったが、ここ数年はない」と答えたものの、残りの半数は、「数カ月に1回くらい」(24%)、「年に1回くらい」(20%)と回答(図1右)。「日常的に衝突している」医師も7%いた。
 “衝突”の内容については、「病棟や外来の業務に関すること」が約6割と最も多く、「患者の治療方針に関すること」(39.6%)、「患者・家族とのコミュニケーションに関すること」(25.6%)が続いた(図2)。

 調査の中では、「これまでの衝突(バトル)の中で印象的だった経験」について自由記載を求めた。すると、図2の結果を裏付けるように、点滴などの治療や処置業務の役割分担を巡るエピソードが多く寄せられた。「今日は、検体を誰が運ぶかでもめた」(30歳代女性、一般内科)、「看護師にしてほしいケアがあったが、『人手がないからできない、医師がしてくれ』と言われた」(30歳代女性、小児科)といった日常業務の押し付け合いから、「プリンペランの側管注を『看護師業務ではない』と拒否され、本当にうんざりした」(40歳代男性、脳神経外科)、「『ここまでの範囲はやると看護部で決めた、それ以外のことは医師でやってくれ』と、勝手に業務の線引きの決定事項を突き付けられた」(30歳代男性、脳神経外科)といった、看護師の「診療の補助業務」に対する認識の違いまで、バトルの中身は多彩だった。

 医師の指示にまつわるエピソードも多かった。「指示をきちんと書いたのに見落とされ、『書き方が悪い』と看護師に逆切れされた」(20歳代女性、代謝・内分泌内科)といった記載内容に関することのほか、「『指示を出す時間が遅い』と言われ、自分で点滴など準備するように言われ、怒った」(40歳代女性、一般内科)、「薬の投与時間を病棟の都合で変更させられた」(20歳代男性、救急科)、「回診の時間が不規則で、『時間外の指示受けが多い』とよく文句を言われる」(50歳代男性、一般外科)など。オーダーを出すタイミングについても、人手の多い日中に業務をこなしたい看護師サイドと、日中は外来や手術のためオーダーが出せない医師との間で、もめごとの“種”になっている様子が伺えた。「できない理由ばかりあげてくる。できないのであれば、できるようにするために何を改善すべきか提案してほしい。建設的な意見がほしい」。40歳代の内科系診療科の男性医師は、こう訴える。
(略)
看護師をリスペクトする声も
 一方、「後で冷静になって考えると、看護師の考えにも一理あるかなと後悔することが多い」(40歳代男性、一般外科)という反省も。「プライマリーナースが患者の状態を真剣に心配し、家族構成などの社会的背景まで考慮して治療方針に対する異議を上申してきた時。熱意に頭が下がった」(30歳代男性、一般内科)、「時々看護師から貴重な意見をもらうことがある。やはり患者を一番みているのは看護師である」(50歳代男性、神経内科)というリスペクトのほか、「しっかり情報共有を図ることが大切。患者の改善のためには、時に衝突することもありだと思う」(30歳代男性、精神科)といった前向きな意見も寄せられた。
(略)

記事後段に示された詳細な実例報告に関してはまさに諸先生方におかれましても「あるある」の連続ではないかと思いますが、しかしこうした経験をどのような病院で得たのかと言う点に関しても調査を行ってみると面白かったかも知れませんね。
古典的な医療現場においては医師と看護師の関係は縦の関係であって、軍隊で言う士官と兵卒のような命令を発する者とそれを受ける者と言う上下の位置にあるかのように受け取られがちですが、これもあくまでも相対的な力関係が大きいのは古参下士官の方が新米士官より実際には偉いと言うのと同じで、特に大学や国公立病院では医師の立場はひどく抑圧されたものになりがちでした。
もちろん現代のチーム医療においては始めから各職種は平等対等に協力して医療に従事するメンバーであると言う建前であって、医師が看護師を顎で使うと言うこともなければ看護師が研修医を酷使すると言うこともないはずですけれども、これまた実際にはその場その場の関係においてどのようなことも起こり得ると言うことですよね。

記事にもあるように理想的には相互にリスペクトしながら効率的に仕事をこなしていくのがいいのでしょうが、一つには多忙な職場ほど各職種共にキャパシティーを超えた仕事をせざるを得なくなっている、そして医療の高度化に伴い仕事量は増える一方ですから、それは毎日深夜まで残業超勤の連続でこれ以上仕事を増やしたくないと誰しも予防線を張りたくなるのは当然かも知れません。
一方で多くの先生方が怒りと共に語っているように、特に大学病院の看護師などは「あれは看護師ではなく茄子。仕事は看護研究(笑」と揶揄されるような状況にあった(あるいは、ある)ことも事実ですが、これまた医師の側でも大学病院と言えばどこにも行き場がないアレな医師の最後のたまり場と言う説もありますから、案外先方から見れば立場の違いだけで状況は似たようなものなのかも知れません。
この点で看護師が医師の領分にまで手を出すとも言われるナースプラクティショナー、特定看護師と言ったものが臨床現場に出てくるようになると、今以上に看護師が大きな顔をし始めるのではないかと懸念される向きもあるやも知れずですが、先日こんな記事が出ていたことを紹介しておきましょう。

研修医とJNP、いいライバル関係に - 東京医療センター松本・菊野両氏に聞く◆Vol.5(2015年2月15日医療維新)より抜粋

――医師やJNPでない看護師さんは、JNPをどう受け止めておられるのでしょうか。

菊野 職場に入ってくるまでは、私たちも実際にそうだったのですが、皆、非常に懐疑的、批判的な目で見ていました。初期研修医は、「パイが減る」ことを懸念していた。「JNPが入ってくることにより、自分たちがやれる中心静脈穿刺や気管挿管の数が減るかもしれない」と考えていたわけです。
 しかし、実際には指導者としては、先ほども言ったように、初期研修医の代わりに、JNPにやらせるわけではなく、JNPでも「まだ無理」と判断した場合には、やらせません。それは研修医の場合も同じことです。
 初期研修医にとっては、同じ現場で同じ業務をJNPとやっていくと、「医学部6年間で学んだものとは、違う能力を持った医療者が隣にいる」ことがすごく勉強になるようです。いろいろ助かることもあり、JNPと初期研修医は今、お互いに刺激し合って、いいライバル関係にあるのです。
 またJNPと一緒に働いている職場では、看護師たちはものすごくありがたがっており、いい関係を築いています。JNPはやはり看護師のマインドを持ち続けているため、「自分たちの職場のレベルアップに貢献したい」と常に思っているからです。例えば、救急部門では、医師は患者に張り付き、ほぼリアルタイムで患者の変化を把握しています。これに対して、看護チームは、医師がカルテに書いたものを読んで、医師とディスカッションして、追いつくという形でした。JNPは医師のカンファレンスに参加するなど、いろいろな形で介入し、看護チームに情報を伝えたりしているため、医師と看護師の距離がものすごく縮まっています
(略)
――「看護師に、特定行為などはできるはずがない」という見方があったのですね。

菊野 そうです。アメリカでは、医学部生と看護学部生は今、一緒に基礎医学の講義を受けてから、専門に分かれていく形で、やっていると聞きます。日本の場合、看護大学になっても、ベースにあるのは准看護学校の教育であり、医学部で教えている医学の教育とは違う

――では、来年10月から、看護師の特定行為に関する研修制度がスタートするメリットをどう受け止めておられますか。特定行為を38に限定した方がいいのか、あるいはそれ以外にも広げるべきなのか。

松本 私の意見としては、限定するのは意味がないと考えていますが、JNPたちの立場を守るためには、制度はあった方がいいと思います。制度の立ち上げ時期は、致し方がないでしょう。あと10年くらい経ち、JNPの人数が増え、実力も向上すれば、自然に変わってくると思います。看護師の業務をどこまで認めるか、大いにディスカッションしていただきたい。
菊野 私も全く同じ考えです。看護師の医行為の制限は、「敷地と建物」の関係に似ていると思います。あまりに狭い敷地の中に建物を建てると、いびつな建物、不便な建物しかできない。ある程度の広さは必要と思います。一方、何百坪もの敷地に、10坪の建物を建てても不釣り合い。適度の敷地があれば、それでいいと思う。家を大きくしたいと思った時点で、敷地が広がっていけば十分かなと。
(略)

これまた制度設計に携わるような偉い先生方と、下っ端ぺーぺーの先生方とでは大いに見解は異なる問題なのかも知れませんが、研修医により近い存在としていわばライバル的関係になるとも危惧されたこのNPと言うもの、実際には案外現場では妥当な落としどころが見つかっているようだと言えるのでしょうか。
救急隊の医療行為に関する話でもそうですが、やはり制度としてどうこうと言うよりも個々の個人に対する教育がきちんと行われているかどうかが重要であって、いくら医学部を出て医師免許を持っていようが教育が正しく行われていなければ何をやらしても危なっかしい、任せられないと言うことになるだろうし、きちんと教育さえされていれば別に医師免許がなくても色々な仕事がこなせるようにはなると言うことでしょう。
もちろん医療行為と言うものは唯一日常生活の中で他人に意図的に危害を加えることを合法的に認められた特殊な行為であって、そうであるからこそ法的裏付けのある立場の人間にしか認めないとされてきたわけですが、制度がそうであるから看護師はここから先は一切やってはいけませんと言うやり方は、言ってみれば「それは看護師の仕事ではありませんから」と同じ発想ではありますよね。
NPに限らず医療現場が人手不足であっぷあっぷ言っている中で、コメディカルにあれは駄目これはいけないと権限を縛っておいて全てを下っ端医師に押しつけるよりは、他の職種に分担させられる仕事はなるべくお任せする方向でシステムを調えていった方がいいと思うのですが、そうしたルール作りを決めていく立場の偉い先生方がどれだけ研修医・若手時代の気持ちを覚えているかと言うことも問い直してみるべきなのかも知れません。

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コメント

医療費抑制の為にもナースプラクティショナーは割と現実的だと思います。
それこそ本場だと外科 病理 放射線科以外の事は出来るみたいですし

投稿: | 2015年2月27日 (金) 07時27分

高度なことは期待しないから採血注射くらい当たり前にやってくれ……orz

投稿: | 2015年2月27日 (金) 07時46分

中心静脈穿刺にしても気管内挿管にしても適応を判断するのが医者の仕事、
実際に手を動かすのは上手ければだれでもいいと思ってます。

投稿: JSJ | 2015年2月27日 (金) 08時20分

この時期は微熱でもインフルエンザの検査を電子カルテで指示するのですが、病棟の看護師が
「微熱だからインフルエンザではないだろう」
と勝手に判断して指示した検査をしなかったことが1回あります。
そういう判断がしたいなら医者になってからしてくれと思います。

投稿: クマ | 2015年2月27日 (金) 08時27分

NPって使い勝手はよさそうなんだけど大きな病院だけ配置だとどうなんだろう?
医者も少なくて手が足りない小さな病院の方が需要が多そうなんですけど。
田舎の町立病院だったらこういう人いくらでも仕事ありそうなんだけどなあ。

投稿: ぽん太 | 2015年2月27日 (金) 08時38分

日本じゃ、NPってNSじゃモノ足らない(指示されたことしかできない)っていう理由から目指す人が
多くなりそう。
これもあれもやらせろって要求が出て、そのうち医療事故続発・・・?

それなら最初から医者めざせよって思うんですが。

投稿: | 2015年2月27日 (金) 09時48分

コストを考えるとNPで十分と言う局面も多々ありそうですから、要は使う側の工夫次第だと思います。
その意味ではあまり細かく職域の範囲を規定しない方がいいという考え方もあるでしょうが、あまり何でも屋扱いすると往年の雑用係研修医的ポジションになって不満がたまるかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2015年2月27日 (金) 12時28分

ナース・プラクティショナー、医療費削減にはほとんど役に立ちませんね。

日本の医療の人件費、医者は10%をしめるに過ぎず、アメリカと違って医者と看護師の給料差もそれほど大きくないので、仮に2万人のNPが誕生しても(超非現実的な数字)、せいぜい10%が9.6%程度になる程度でしょう。消費税の影響で何倍も消し飛ぶ程度の削減効果しかありません。主治医制を患者側からも求められることも大きなネックですよね。医者も2〜3交代で夜の呼び出しなどなく、さらに各科医師が入り乱れて完全分業、といった医療制度ではないと、入り込む余地はほとんどないと思います。

また、医師の業務を軽減するための医師法の改正(医業独占を崩して、看護師がちゃんと責任を持って医療行為を行う)は行われる機運が全くないのと、NPを推進する看護側が、なぜNPを推進するのか全く大混乱で、ナース・プラクティショナー、高度実践看護師、専門看護師、認定看護師など支離滅裂の状態ですので、なにがしか全国的に意味のある制度が近年中に生まれる可能性は皆無です。

投稿: おちゃ | 2015年2月27日 (金) 12時29分

ごちゃごちゃ言わずにやらせてみりゃいいんだよ

投稿: | 2015年2月27日 (金) 15時06分

偏見かもしれませんが、こんな医者モドキに成りたがるような看護師って碌でもないのしかいない気がするんですよねえ大学ナース的な意味で。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年2月27日 (金) 16時05分

経費削減のため介護職を病院に入れてるため、病院が紛争地域。仁義なき抗争がwww
ナースと介護職の給与が倍違いあたりで、雰囲気が最悪。人不足の介護職自体がヤクザが人集めするから。
病院に入院するか、安楽死選べるようにしたほうがいい。厚労省と民主党関係者は滅びよ。

投稿: | 2015年2月27日 (金) 16時26分

大学ナースってどうしてそんなに医師から目の敵にされるのかな。一人や二人の証言じゃないから相当なんだろうなあ。市中病院との違いはなんなのよ。

投稿: | 2015年3月 2日 (月) 00時26分

大学にナースなどいない
いるのは腐れ茄子だけだ

投稿: | 2015年3月 2日 (月) 07時18分

>市中病院との違いはなんなのよ。

研修医の存在です。

大学には看護師以下の待遇で奴隷扱いできる研修医がいる→看護部は気に入らない仕事を研修医に押しつけて終わり

市中病院にはそんな奴隷はいませんから、仕事を押しつける先がない→きっちり自分たちで必要な仕事をやるしかない。

投稿: | 2015年3月 2日 (月) 09時09分

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