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2015年2月26日 (木)

医療事故調「予期しない死亡」の定義は妥当?

長年続いた紆余曲折を経て、いよいよこの10月から医療事故調が始まることになりますけれども、本日まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

院内調査での再発防止策の扱いが焦点に- 25日に「医療事故調」検討会(2015年2月24日CBニュース)

厚生労働省は25日、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」を開催し、10月にスタートする医療事故調査制度(事故調)の省令や通知などについての取りまとめを目指す。院内調査の報告書に再発防止策を記載すべきかどうかや、報告書を遺族に対し、どのように説明するかなどが最大の焦点となる。制度スタートに向けては、その後に省令案のパブリックコメントの実施や、4月以降には第三者機関となる医療事故調査・支援センター(センター)の申請受け付けも控えているため、日程的にタイトな状況だ。【君塚靖】

同検討会は昨年11月に初会合を開き、25日が6回目となる。医療法で規定する事故調を運用するための省令や通知などをめぐり、毎回論点を絞って議論してきた。事故調では、医療機関は予期しなかった死亡・死産が発生した場合、センターに報告した上で、院内調査をする。このため、省令案では「予期しなかった死亡・死産」を限定する要件を挙げ、制度の趣旨が医療安全であり、個人の責任追及ではないことを明確にするために、院内調査をするに当たっては解釈通知で、その趣旨を再認識させるようにすることで一致している。

一方で、前回の検討会で委員の間の溝の深さが確認されたのが、院内調査の報告書に再発防止策を盛り込むかどうかだ。医療者側委員からは、報告書に記載するのは原因究明した事実のみにすべきで、再発防止策が事実の「評価」にまで及ぶと、後の訴訟などに利用されるなどとして、慎重にすべきとの意見が出ていた。また、再発防止策が個人の責任追及につながることになれば、院内調査での医療従事者などからのヒアリングも困難になるとの懸念も示された。

また、院内調査の結果の遺族への説明方法については、口頭または書面、口頭および書面などと複数案が検討されている。患者代表の委員を中心に、その方法を決めるに当たって、前回検討会で厚労省が示した通知のイメージで、「適切な方法を管理者が判断する」としていたことについて、その前に「遺族の希望にかんがみ」などと付け加えるよう求める意見があった。遺族への説明方法については、再発防止策を遺族に説明するかどうかも関係しているため、併せて議論されることになりそうだ。

記事を見る限りでも未だに様々な問題点が残されていると言うことが判るかと思いますが、特に患者側や司法関係者の一部を中心として早く制度をスタートさせるべきだと言う意見が強いようで、いずれにしても万人が一致する結論が期待出来ない以上はまずやってみてから手直しを考えると言うことになるのは仕方がないのでしょうか。
制度のあり方として「制度の趣旨が医療安全であり、個人の責任追及ではないことを明確にする」ことは当然として、ではその担保を制度実施上どう行っていくかが非常に気になるところなんですが、この点でやはり気になるのが事故調に報告が求められる「予期しなかった死亡」と言う状況の定義付けがどうなるかで、以前から医療従事者を中心にこの言葉が拡大解釈されると大変なことになると言われてきたものです。
ちなみに厚労省の定義によれば予期しない死亡とは「医療従事者から患者などに予期されていることを事前に説明していたと認めたもの」「予期されていることを診療録などに記録していたと認めたもの」「医療従事者などから意見聴取し、予期されていると認めたもの」のいずれにも該当しないものと言うことですが、癌の末期などは概ね予期された死亡だろうとは思うのですが、経過に疑問があれば予期されない死亡ともなり得ますよね。
剖検症例なども臨床的な疑問点を(疑問がなければ解剖する理由もないわけですから)敢えて書き連ねる場合があって、こうした場合に死因が少しでも予想外であったかのように書いていると報告義務との整合性はどうなんだと思うのですが、この辺りの考え方についてこの問題に詳しい井上清成弁護士がこう解説していることを紹介しておきましょう。

事故調は責任追及型でも責任免除型でもない(2015年2月2日医療ガバナンス学会)より抜粋
1.予期しなかった死亡
この1月14日、厚労省で第4回目の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」が開かれた。最大の論点とされ先送りされてきた「予期しなかった死亡」の定義が、いよいよ真正面から取り上げられたのである。ところが、意外とあっさりと決着した。
厚労省医政局総務課の法令系の官僚は、最大の懸案であった「予期しなかった」の法的意味につき、あらかじめ十分に整理していたのである。「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないもの」として、3つのケースを挙げた。

・管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該患者等に対して、当該死亡又は死産が予期されていることを説明していたと認めたもの
・管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの
・管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び、医療の安全管理のための委員会(当該委員会を開催している場合に限る。)からの意見の聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていると認めたもの

つまり、事前説明、カルテ記載、意見聴取での供述、の3つのうちのいずれかがしっかりとあれば、「予期していた」ものとなり、改正医療法にいう「医療事故」には当たらない、と定義したのである。これは、法的視点で見ると、「医療過誤の呪縛」から解放されて、もっぱら「医療の安全の確保」を目指す法律解釈を採用した、と高く評価できると思う。

2.医療過誤の呪縛からの解放
医療事故調査というと、どうしても医療過誤の調査となってしまい勝ちであった。医療過誤は確かに医療安全と表裏一体のところもあるが、もちろん医療安全のすべてではない。医療過誤を指摘するということは、いわば低い医療安全の所を排除するということを第一次的に意味する。つまり、法的なものを含めてその責任を追及することが主たる結果であった。医療安全の水準を引き上げるという意味はあっても、どうしてもこれは二次的・副次的になり勝ちである。ここ十数年前からの医療不信と相まって、医療事故調の議論は往々にして、医療過誤の責任追及や紛争解決と切り離せなかった。そのため、真正面から、医療安全水準の引上げに向かいにくかったのである。それはいわば「医療過誤の呪縛」とも評しうる現象であった。

ところが、今回の改正医療法に基づく医療事故調では、その責任問題と医療事故調とを切り分けようと試みたのである。「医療過誤の呪縛からの解放」の試みと言ってもよい。象徴的なのは、厚労省ホームページ上の「医療事故調査制度に関するQ&A」であろう。このQ&Aの冒頭の〈参考〉に、WHOドラフトガイドラインを紹介し、「今般の我が国の医療事故調査制度は、同ドラフトガイドライン上の『学習を目的としたシステム』にあたります。」と断言した一文がある。これはまさに、「医療過誤の呪縛からの解放」を宣言し、責任追及と医療安全の切り離しを意図したものであろう。
(略)
4.たとえば予期能力の向上を
たとえば、医療機関が医療行為の先行き・予後のリスクを意識せずに漫然と医療行為を行って患者死亡の結果に至ったならば、「予期しなかった死亡」として「医療事故」と扱われてしまうであろう。このことは、医療機関がシステムの点でも個々の医療従事者の点でも十分にその予期能力を向上させ働かせて、たとえば丁寧なインフォームドコンセントを推進することによって、少なくとも改正医療法上の「医療事故」から適用除外されることを意味する。厚労省の立場からはたとえばこのような視点から全国の医療機関の予期能力の向上を図って「医療安全の総和」を高めようと政策形成している、とも推測しうるように思う。

厚労省の考え方が井上氏の見立て通りであれば医療側の立場とも対立するものではないし、かねて同制度に対して(控えめに言っても)批判的な言説を繰り返してきた井上氏が絶讚と言っていい書き方をしているくらいですから、まずは制度のスタートとしては少なくとも医療現場に大きな悪影響を与えない形になったのではないかと考えたいところでしょうか。
ただ懸念された責任追及と言う点が排除されてくるとなると、やはり制度の本旨である医療安全がきちんと担保されたものになるかどうか医療側にも責任があるとも言え、患者側と医療側とが共に前向きに医療の向上に協力し合えるような制度になれれば理想的ではあるのですが、この点で特に患者側の感情に大きな影響を与えることになりそうなのが報告書の内容ですよね。
少しばかり気になるのが例えば先の震災時に大きな被害を出した大川小津波被害の事例を巡って文科省が検証を行っているのですが、もちろん個人責任追及と言った不毛の方向に話が進んでは事故の教訓も十分くみ出せないと言うことになるとは言え、遺族感情云々を抜きにしても教訓としてもあまりに実効性が疑問視されそうな当たり障りの無い?内容に終始していたと批判されていることが気になります。
産科の無過失補償制度なども様々な意見があるとは言え、今のところ関係者一同「これなら医療安全性向上にも大いに貢献する」と絶讚するような報告書が続々出ていると言う話もあまり聞きませんから、どうも調査と教訓拾い上げのシステムがうまく回っていないんじゃないかと言う印象も受けるのですが、この辺りは先の大戦などにおいても日本の弱点として見られたところでもありますよね。

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コメント

>厚生労働省は25日、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」を開催し、10月にスタートする医療事故調査制度(事故調)の省令や通知などについての取りまとめを目指す。院内調査の報告書に再発防止策を記載すべきかどうかや、報告書を遺族に対し、どのように説明するかなどが最大の焦点となる。
なんか不調だったみたいですね。
「医療事故調検討会、最終回で物別れに 2015/2/26 満武里奈=日経メディカル」
記事を読むと「遺族が要求したら渡すという点も担保すべき」と主張しているのはいつもの方でしたが、「遺族に報告書を渡す義務を含むのであれば絶対に反対」と主張しているのが弁護士だったのがちょっと意外。
医師会副会長が「『遺族が希望する方法で説明するよう努める』という文言で義務ではないニュアンスにしてはどうか」と日和見っても
弁護士さん「「遺族に対して院内調査結果を渡すことが義務と読める文言あれば反対。義務でないことを明記するのではあればよいが」と強硬。

投稿: JSJ | 2015年2月26日 (木) 08時01分

正直やってみないとわからないってところかと。
でも届け出範囲が抑制的になりそうなのは朗報ですね。
患者説明では「死ぬ(かも知れない)」の一言がデフォになるのかなぁ。

投稿: ぽん太 | 2015年2月26日 (木) 09時06分

患者に説明もできないような後ろ暗い医療やってる医者はいらないよ

投稿: | 2015年2月26日 (木) 09時39分

人間ですから間違いはありますのでご了承下さい、って事前に言いましたって記録しておけば、医療事故にはならないってことなのかしら

投稿: | 2015年2月26日 (木) 10時10分

報告書の説明義務に関しては、およそ紛争化が予想されるような症例では担当医の治療内容が否定的に扱われるケースが多いと予想されるわけで、現実的にどう説明したものか悩ましいところではあると思いますね。
その意味で当面の現場における対処法としてはそもそも事故調にあげさせないよう対応していくと言うことにもなりかねませんが、(少なくとも表向きの)事故調設立目的に照らして言えばこうしたやり方がどうなのかです。

投稿: 管理人nobu | 2015年2月26日 (木) 10時25分

>当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していた

「○○○、あるいは○○○の治療などが原因で死亡することがあります。
また脳卒中、心筋梗塞などが生じたことにより死亡する可能性がありますと説明した。」
(○○○は主病名)とカルテに前もって全例で記載しとけばいいんですね。

投稿: 嫌われくん | 2015年2月26日 (木) 14時22分

つまり、漫然と治療しようが、治療上の過失で死のうが、治療により死亡することがあります、て言っとけば、医療事故にならんてことで

投稿: | 2015年2月26日 (木) 15時42分

この場合遺族の訴えで調査になると言うことはないんですか?
事故調に回らなかったらよけいに不満を抱く人もいそうです。

投稿: てんてん | 2015年2月26日 (木) 16時10分

A2. 医療法上、本制度の対象となる医療事故は、「医療事故(当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるもの)」とされています。
 本制度で対象となる事案は、医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であり、それ以外のものは含まれません。また、「予期しなかったもの」についての考え方は、さらに検討を進めることとしています。
 これらについて管理者の判断を支援できるよう、今後設置する厚生労働省の検討会において具体的な内容を検討し、ガイドラインを定める予定です。
 なお、医療法では、「医療事故」に該当するかどうかの判断と最初の報告は、医療機関の管理者が行うことと定められており、遺族が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告する仕組みとはなっていません。(Q3参照)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061214.html

投稿: | 2015年2月26日 (木) 16時50分

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