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2015年1月22日 (木)

子供に向精神薬処方が増加中

本日の本題に入る前に、先日出ていたこちらの記事から紹介してみましょう。

あなたは、暴れる患者から身を守れるか(2015年1月13日日経メディカル)より抜粋

(略)
 父親に付き添われて救急外来を受診した20歳代女性。救急外来での対応に不満を抱き、診察に当たった男性医師につかみかかろうとした。危険を感じた医師は、その場を離脱。看護師と救急隊員が制止しようとするも、患者は避難する医師を追いかけ、救急カートを倒そうとするなど暴れた。止めに入った看護師や救急隊員らに暴行を働いたあげく、医師が避難している部屋に押し入ろうと執拗にもがく。この間、1時間以上にわたってわめき散らし続けたという(写真1)。
 これは川崎市立多摩病院(神奈川県川崎市)で発生した事例だ。最終的には、警察に通報することで対処した。
(略)
 同院の医療安全対策を主導する副院長の長島梧郎氏は、「医療者は患者を助けるという業務を担うことから、患者の行動、言動、要求を受容しなければいけないとの思いが強い。そのため、暴力や暴言などに対しても、『自分の対応が悪かったのでは』『このくらいは我慢しなければ』といった感情抑制が働きがちだ」と指摘する。だからこそ「病院として毅然とした態度を示すことが何よりも大切」と話す。「暴力や暴言は犯罪行為なのだから、どんな場合であっても一人で抱え込むことなく、組織として対応し、改善していくことが重要となる。病院が組織として、一人ひとりの安全を守る必要がある」(長島氏)からだ。
 職員研修オリエンテーションでは、「患者からのクレーム、暴力、暴言への対応」を必修項目と位置づけ、こうした病院の基本方針を伝えている。また、「被害にあった医療従事者の味方になってくれる法律」(表2)を提示し、院内暴力に対する職員の意識を改めるよう促してもいる。
 2015年度内には、新たに、暴力などに対応する人的警備を担う警備員を2~3人配置する予定だ。現在の警察OBの1人から増員することで、一般患者はもとより医療従事者を守る体制を強化する。
(略)
危ないと思ったら、直ちに離脱せよ
慈恵大学渉外室顧問の横内昭光氏に聞く

 個人として目の前の暴力患者にどのように対応すべきか。まず「怖いと思ったら110番」が基本となる。マニュアルはこれだけでいい。警察には暴力に対応する専門的なノウハウがある。強制力を持っているわけだから、これを利用しない手はない。
 例えば診察中に、目の前の患者の眼の色が変わり、顔つきも険しくなったと思ったら、その場を離脱することを考える。席を離れる際は、相手の眼を見つめ、離席することを告げて診察室の外へ出るようにする。
 離席したら、他の職員に事情を説明し、複数で対応する態勢をとる。他の職員には診察室の外で待機してもらい、再び、診察室で患者と対峙する。このときも相手の眼をしっかり見るようにする。時間をおくと患者が落ち着くことも多い。
 しかし、声を荒げたり、大声で叫んだり、机を叩きわめくなどの行動が見られるようなら、直ちに外に待機している職員に応援を求め、複数で対応する。
 医療者は診療拒否をためらいがちだが、身の危険を感じるのならば診療は困難なわけで、きっぱりと診療拒否すべきだ。
 危険が迫ったときは大声で助けを呼んだり、悲鳴を上げたりするわけだが、私は大声を出したり悲鳴をあげる練習をすべきだと言っている。本当に危険な目にあったとき、人はなかなか大声を出せないものだ。

 警察OBとして病院に勤めてみて分かってきたことがある。それは、暴力の芽をいかにして摘むかということだ。
 患者は病をかかえて病院にやってくるわけで、大病院ともなれば、案内が分かりにくいなどというちょっとしたことでイラついてしまう。受付の対応が不親切だったり、診察医師の言葉遣いがまずかったりすると、イラついた気持ちに油を注ぐことになる。
 待ち時間が長くなると、こうした不満は爆発しやすくなる。ある調査によると、待ち時間が40分を超えると、暴力の発生率が一挙に高まることが知られている。待ち時間が40分に近づいた患者がいたら、「混み合っておりご迷惑をおかけしております。もう少しお待ちください」などという細やかな声掛けが必要となる。
 ハインリッヒの法則というのがある。1件の重大事故の背景には29件の軽い事故と、事故には至らなかった300件の小さなミスがあるとする安全工学上の経験則だ。暴力の芽を摘むたゆまぬ努力は欠かせない。(談)

このところ医療機関において警察OBを雇用すると言うことがちょっとしたブームのようになっていて、もちろん警備担当として対暴力のノウハウを活用すると言う意味合いもありますけれども、やはり顧客トラブルと言うものは初動できちんとした対応を取らなければ無駄に炎上してしまうものであり、素人ばかりが適当な対応を続けて話をややこしくしてしまった後では収拾もつかないと言う意味合いもありそうです。
記事からも判るように専門家や担当者が口を揃えて言うことには「患者は病人だから仕方がない。この程度のことは我慢しなければ」と言う妙な意識をまず捨てる必要があると言うことで、一見すると難しいことのようですが一般社会において許容されないような行為は病院内においても許容されるべきものではないと言う当たり前のことを言っているに過ぎないわけです。
もちろんそうした行為の原因として例えば認知症なり譫妄状態なり医学的な理由が求められる場合もあるでしょうが、まずは医療従事者自身が身の安全を確保することが診療の大前提であり、その大前提が犯されそうになった場合には躊躇なく応援なり警察なりを呼びましょうと言うことが、患者様に余計な罪を犯させないと言う意味でも重要であると言うことでしょうね。
この辺りは深夜の急性アル中で搬送されてくる輩は本来警察が扱うべきものではないか?(警察官職務執行法第三条規定による)と言う議論などと同様、互いの業務対象の線引きの難しさが下手すれば押し付け合いにもつながりかねませんけれども、検死など医療の側から協力する場合もままあるわけですから、なるべく平素から良好な関係を気付いていくに越したことはないでしょう。
余計な前置きがいささか長くなりましたけれども、近年学校教育現場の荒廃が言われて久しい中で、先日こんな気になる調査結果が出ていたことを紹介してみましょう。

子どもへの向精神薬処方について、9年間の変化を調査(2014年1月19日医療NEWS)

医療経済研究機構は1月13日、子どもへの向精神薬処方の経年変化に関する研究結果を発表した。抗精神病薬と抗うつ薬が増加傾向にあり、治験の推進が課題となることが分かったという。この研究は、同研究機構の奥村泰之研究員らが行ったもので、2014年11月25日の「精神神経学雑誌」に掲載された。

子どもへの向精神薬の処方件数は、世界中で増加している。日本における未成年の精神疾患による受診者数は、2002年は95,000人だったが、2008年には148,000人まで増加。向精神薬を処方される子どもの数も増加していると予想される。
しかし、日本国内において承認されている向精神薬のうち、子どもを対象にしたプラセボ対照無作為化比較試験を経たものは、注意欠如・多動性障害(ADHD) 治療薬である、「アトモキセチン」と「徐放性メチルフェニデート」の2剤のみ。そのため、子どもへの投与に関する有効性や安全性が確立していない向精神薬を、やむを得ず使用していることが考えられる。こうした現状のなか、実際、子どもへ向精神薬(ADHD治療薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安・睡眠薬など)がどの程度使用されてきているのかについては、これまで報告がなかった。

抗精神病薬と抗うつ薬の増加傾向、治験の推進が課題

今回の研究では、厚生労働省が実施した2002〜2010年の社会医療診療行為別調査(毎年6月審査分の全国のレセプトを無作為抽出)のデータを二次分析。18歳以下の外来患者、延べ233,399件を分析対象としたという。
2008〜2010年の患者と2002〜2004年の患者と比較した結果、6~12歳ではADHD治療薬は84%増、抗精神病薬は58%増と、増加傾向が認められた。13~18歳では、ADHD治療薬は2.5倍増、抗精神病薬は43%増、抗うつ薬は37%増と、こちらも増加傾向が認められた。この結果により、子どもを対象とした治験が実施されているADHD治療薬だけではなく、抗精神病薬と抗うつ薬の処方割合も増加していることが判明。子どもへの治験の推進が課題と考えられる。
さらに、抗精神病薬を処方された13~18歳の患者のうち、53%は抗不安・睡眠薬、26%は抗うつ薬が併用されていることが判明。また、抗うつ薬を処方された患者のうち、58%は抗不安・睡眠薬、36%は抗精神病薬が併用されていた。アメリカ、ドイツ、オランダで実施された、子どもへの向精神薬間の併用割合は6〜19%と報告されており、日本では併用割合が高くなる理由を検討していく必要があるという。

こうした併用処方の有効性と安全性に関するエビデンスは諸外国においても不足しており、実臨床において、併用処方による長期的な有効性と安全性を把握できるような調査手法を検討することが課題となる。(遠藤るりこ)

向精神薬はもちろん、昨今何かと話題のうつ病についてもこれだけ患者が増えている以上処方も増えるのだろうなとは思うのですが、ここでは特にADHD治療薬であるメチルフェにデート(リタリン)に注目してみたいと思います。
以前からアメリカあたりでは授業中に落ち着きがないなどちょっとしたことで子供にリタリンを飲ませると言う乱用とも言える状況にあって、同薬の生産量は過去10年間で10倍にも膨れあがっていると言いますから大変なブームと言うべきですけれども、もちろん集中力が増して勉強がはかどる等の効果もあるにせよ、子供が落ち着いて扱いやすくなると言う大人視点でのメリットから頻用されている面もあるようです。
ただADHDのない普通の人にとっては落ち着かせるどころかむしろ興奮剤として作用すると言い、そうした側面からパーティドラッグなど好ましからぬ目的外使用も多く見られるそうですし、ADHDで使用している当事者にしても効果は認めながらも「自分が自分でなくなる」と使用を拒否するケースもあると言いますから、そう軽々しく使って欲しい薬ではなさそうに思えますよね。
ドラッグに限らず「なんでもあり」のアメリカで「リタリン=お金のかからないコカイン」などと呼ばれていてもそうそう驚きはないかも知れませんけれども、日本においても同薬の処方が伸びていると聞けば大丈夫なのか?と心配にもなるだろうし、これほど市中に出回っていれば覚醒剤などと同様に闇取引が横行している現状もさほど不思議ではなさそうです。

もちろん処方薬である以上根本的には医師が正しく処方しているかどうかが問われるのですが、例えば他院にかかりつけだと称する一見さんの患者が何でもない症状で来院し、ついでにいつもの薬も一緒に出してくれと言ったケースは日常診療でもまま見られることだろうし、そうした場合にどこまで厳密に処方内容をチェックしているかと言えば多くの臨床医の先生方はそこまで余裕がない環境で働いているだろうと思います。
国としてもこうした現状にそれなりの憂慮を抱いているのでしょう、もともとうつ病に対して同薬処方を認めているのは世界中で日本だけと言われた現状を改めるべく段階的に規制が強化され、2007年にはうつ病を適応症から外すと共に翌年からは専門医のみに処方を限定する措置を講じていますが、この結果一時は前年の1/10にまで処方量が落ちていたものがその後再び増加傾向にあるのは根強い需要があると言うことでしょう。
正しく使えば効果はあるだけに何を以て適正使用と考えるか難しいところなんだろうと思いますし、逆にリタリン処方厳格化で将来を悲観した患者も数多く自殺騒ぎにまで発展したと言う話も聞きますが、治療効果と言っても数字の上下で図れるような領域ではないだけに、まずは早いうちにきちんとしたエビデンスを確立していく必要がありそうに思います。

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コメント

患者が来れば診断するだろうし、診断したなら治療もするだろう
その治療の内容が問題だってんなら標準治療法のあり方が問題なんじゃないの?

投稿: | 2015年1月22日 (木) 08時51分

子供と大人と言わず薬飲んだ方がいんじゃない?って人はいますけどね。
でも精神科で薬が増えるたびに見た目かえって悪くなってる人もいるんですよね。
薬で自傷他害の恐れを軽減したらボーっとした感じになっちゃうのかなと。

投稿: ぽん太 | 2015年1月22日 (木) 10時14分

>治療の内容が問題だってんなら標準治療法のあり方が問題
 そですね。この領域でまともに機能してる学会が無いから、DSMなまかじりの診断+見よう見まね処方、を排除できない。
 一方、ADHDの有病率など変わらないはずなのに、「何とかしろ」という圧力が学校にかかってきていているのも見て取れる。 薬を飲みながら落ちこぼれてる子は明らかに増えている。大変なことになりつつあると思うよ。

投稿: 感情的な医者 | 2015年1月22日 (木) 11時32分

精神科と身体科とが長年別々に独自に発展してきたわけですが、スーパーローテートで双方に目配りが出来る医師が出てくると意外な発見があるんじゃないかと少しばかり期待しています。

投稿: 管理人nobu | 2015年1月22日 (木) 12時12分

上記記事で日本でのADHD治療薬の処方が増えたのはADHDに適応のあるアトモキセチン(ストラテラ)とメチルフェニデート徐放錠(コンサータ)の販売が始まったからだと考えます。
それまではメチルフェニデート(リタリン)を「適応外で」こっそり処方していました。
専門医にとっても2002年と2008年では薬の出しやすさが格段に違います。

あと、私は18歳未満で抗うつ薬を処方することは少ないです。18歳未満で純粋なうつ病があまりいないからです。
何で抗うつ薬処方がこんなに増えるのか不思議・・・

投稿: クマ | 2015年1月22日 (木) 12時51分

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