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2015年1月26日 (月)

部活中の事故が気付かせる深刻かつ根本的な課題

本日の本題に入る前に、こういうことは割合に珍しいと言うことなのでしょうが、先日こういう訴訟があったと記事が出ていたことが話題になっています。

「壊れたロレックスの修理代払え」 警官が容疑者訴える(2015年1月24日朝日新聞)

 張り込み捜査中に逃走した男を確保する際、高級腕時計が壊されたなどとして、埼玉県警の50代の男性警察官が昨年8月、容疑者の男に時計の修理代や慰謝料など計約360万円の損害賠償を求めてさいたま地裁に提訴していたことが23日、わかった。県警は「個人の問題なのでコメントできない」としている。

 訴状などによると、警察官は2013年11月、埼玉県蓮田市内で公然わいせつ事件の張り込み捜査中に、女性に下半身を露出した男を見つけ追跡。逃げようとした男の車のワイパーをつかんだところ、数十メートル引きずられて手やひざなどにけがを負ったほか、身につけていた高級腕時計「ロレックス」が壊れたとしている。男は公務執行妨害容疑で逮捕され、その後、傷害罪で略式起訴された。

 訴えに対し、男の代理人は準備書面などで「被疑者との間で身体的接触を伴うトラブルが起こるのは想定できた。捜査中に高価なものを身につけていたのであれば原告にも落ち度はある」などとして、賠償額の減額を求めている。

もちろん民事ですからどのような内容であれ取りあえず訴えることは可能であるし、仕事中に顧客?とのトラブルで被った被害を損害賠償請求して悪いと言うことはないと思うのですが、しかしこの種の仕事をしているのですから壊れては困るものや高価なものを身につけていると言うのもちょっと思慮が足りなかった気がしますがどうでしょうか?
医療従事者の場合しばしば問題になるのが結婚指輪の扱いで、外科医など手を消毒する機会の多い方々は邪魔になる、無くすかも知れない等々の理由で最初から付けていないと言う場合も多いと思いますが、もちろん配偶者との約束で片時も外すことは出来ないんだ!と言う人もいておかしくないでしょうし、また逆に敢えて指輪の有無を明らかにしないと言う意味もあって意図的に外している先生もいるとかいないとかです。
ただ何かあったら自己責任だと言う覚悟は出来ているだろうし、医療上どうしてもそれが邪魔になると言う場合には躊躇なく外すことだろうと思うのですが、今回の裁判に関しては被告側である容疑者もかなり逮捕時に抵抗したようですし、何かしら心理的な軋轢等も作用して高めの慰謝料を請求することになったのかで、ともかく被告側にしても減額は求めても払わないとは言っていないようですから最悪時価相当額程度は出るのでしょうか。
ともかくもニュースを見ていますと世の中なかなかに興味深い裁判と言うものが時々報じられていて、何故それが裁判になる?と言ったものは多くは判決段階でそれなりの結果になることも多いのでしょうけれども、中にはある程度判決は予想出来てもその意味するところはなかなか難しいと言う裁判も少なからずで、先日はこんな裁判がこれまた話題になっていました。

部活中に熱中症で障害、県に過失 2.4億円賠償命令(2015年1月22日朝日新聞)

 兵庫県立龍野高校(同県たつの市)のテニス部員だった女性(24)が「学校側が熱中症への注意義務を怠り、部活動中に倒れて重い障害が残った」として、県に約4億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が22日、大阪高裁であった。森宏司裁判長は請求を退けた一審・神戸地裁判決を変更し、県側の責任を認定。計約2億4千万円の支払いを命じた。

 控訴審判決によると、女性(当時高校2年)は2007年5月24日午後3時ごろ、たつの市営のテニスコートで倒れ、一時心停止となった。低酸素脳症による重い意識障害が残り、寝たきりの状態が続いている。

 事故時について森裁判長は「コートは30度前後で、地表はさらに10度前後高かった」「当時は定期試験の最終日で、女性は十分な睡眠がとれていなかった」と指摘。ウイルス性の心筋炎の可能性を踏まえた一審判決の認定を変え、女性は熱中症だったと認めた

 正午から約30分間練習に立ち会い、出張でコートを離れた顧問の教諭について「キャプテンだった女性が指示された練習メニューをこなそうとすることは想定できた」と判断。軽度な練習にとどめるなどし、危険が生じないように配慮するべきだったとした。そのうえで将来の介護費用として約1億円、逸失利益として約6千万円などとする賠償額を算定した。

 女性の弁護団は「指導者に厳しい注意義務を課した今回の判決は現場への影響も大きい」としている。(太田航)

まずはなんとも不幸な事故であったことは明らかなのですが、同時に原告側弁護団も語るように「現場への影響も大きい」判決になったことは想像出来るところで、こうした注意義務を負うことになれば指導者としてどう対処すべきなのかと言うことですね。
とりあえず事実関係を整理しますと春の終わりながらかなり暑い日でそろそろ熱中症も考えられる状況ではあったようですが、一般にはまだ熱中症が頻発する時期ではなかった、そして事故自体は顧問が席を外した間に起こっているのですが、この女子学生自身は当時キャプテンであり、当然ながら顧問不在時の練習を統括する立場ではあったと言えそうです。
もちろんちょうど試験明けの11日ぶりと言う練習で頭も疲れ身体もなまっているだろうしで、裁判所が「軽度な練習にとどめるなど」配慮すべきであったと言うことは理解出来るし、顧問が指示していったと言う練習内容が極端にきつすぎると言うことであれば事故の有無に関わらず指導者の資質として問題になるのでしょうし、この場合キャプテンとしてどの程度自主的に練習を仕切ることが出来ていたのかと言うことも気になりますよね。
この辺りは普段から顧問の指導方針や部員達との関係などもあるかと思いますが、いずれにしてもこれだけの事故が起これば親としては学校なり県なりに今後の費用をお願いするしかない状況ではあるだろうし、その意味で学校はまだしもスポーツ少年団なども事故の保険くらいは用意すべきかと思うのですが、今回気になるのはこうした事故が起こると万一にも予想されるとすれば顧問としてはどのような対応を取っていれば万全であるのかです。

今どき「練習中に水を飲むな!」式の指導をしているのは論外にしても、大汗をかくような環境下で長時間の練習を続けているにも関わらず水ばかり飲んでいるのでは電解質異常など深刻な問題を招きかねず、それでは皆に適切な組成の補水液を飲ませるとなればそのコストは大変なことになり、学校での部活動として妥当なのか?と言う意見も出てくるでしょう。
また今回の事故は顧問不在の状況下で起こったことも問題で、例えば致死的な不整脈でAEDを使うべきと言う状況になれば大人不在と言うことが生死を分けかねないはずですが、それでは正しい対応が出来ない未成年者だけでは不安だから常時付き添わなければならないと言う話になれば、現実的に本業の片手間でやっている顧問教師の負担があまりに大きくなってしまいますよね。
先日はスポーツ選手を専門に養成する体育大学で起こった事故が様々な議論を呼んでいることを紹介しましたが、それ専門の大学レベルであればまだしも中高の部活動レベルでどこまで顧問に負担を求めるのが妥当なのかと言うことを考えた場合に、あまり厳しい注意義務という要求を突きつければ顧問を引き受けることのデメリットが大きすぎるだろうと言う話です。
実際に一部の教員の方々などを中心として部活動など一切禁止すべきだ、顧問は頼まれても全て辞退しようと言う運動が草の根的に広がってきてもいるのだそうで、リスクマネージメントの観点からも多忙な教員の労働管理の観点からも実はそれが唯一の正解と言うことにもなりかねないだけに、生徒も部活は学生にとって当たり前の権利なんだと安閑としていられない時代になってきたとも言えるでしょうね。

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コメント

毎日ソースが詳しい。顧問の責任範囲はやっぱり揉めたみたい。

部活事故:高2女子に重い障害 兵庫県に逆転賠償命令
http://sp.mainichi.jp/select/news/20150123k0000m040104000c.html
以下抜粋
 森裁判長は、顧問が出張のために練習に立ち会わない代わりに、練習内容を主将だった女性に指示していたことについて「熱中症に陥らないよう指導すべきだった」と指摘。安全配慮義務違反があったと認定した。

 判決は、当日の状況について(1)普段は夕方に部活動をしていたのに、日差しの強い日中に練習をした(2)定期試験の最終日に当たり、練習は10日ぶりで、部員は睡眠不足の可能性があった(3)女性にとって顧問が不在時に練習を仕切るのは初めてだった−−と大きな負担がかかる状況だったと指摘した。

 更に、顧問が指示した練習メニューは密度が濃く、これまでの練習ぶりから女性が率先してこなすことが予想できたと判断。「練習の様子を直接監督できない以上、部員の健康状態に配慮すべきだった」と述べ、練習を軽くしたり、水分補給の時間を設けたりし、熱中症になるのをあらかじめ防ぐべきだったと結論付けた。賠償額のうち将来の介護費用を約1億円と算定した。

 「顧問は常時練習に立ち会う義務がある」との原告側の主張については1審同様に退けた。

投稿: | 2015年1月26日 (月) 08時39分

毎日の記事だとものすごく運が悪くて起こってしまった事故という印象ですが。
一定の確率でこういうことが起こるのはどうしても仕方ないんでしょうね。

投稿: ぽん太 | 2015年1月26日 (月) 10時22分

詳しい中身がわからないのであれですが、県に賠償命令と言うことは、顧問個人には賠償命令は出ていない?
判決内容は顧問の安全配慮義務違反を認定しているのに・・・・。

原告側が「かわいそうだから」ということでの判決としか思えないですよね。
誰がみてもおかしいと思うんじゃないでしょうか。

まさか顧問も、高2にもなって自分の体調より言われたことを優先するなんて思わなかったでしょう。
というより、そういった特殊な子とわかっていたら、キャプテンなんかにしないだろう。

こういうのが確定すると、少なくとも運動系の部活は消滅しますよね。

投稿: | 2015年1月26日 (月) 10時45分

あまり確定的なソースではないのですが患者の親御さんと学校側、特に校長との間で事後対応を巡って感情的とも言える軋轢もあったようで、話がこじれたのもそう言った行き違いもあってのことなのかも知れません。
ただ基本的には偶然に偶然が重なった不幸なケースと言う印象で、こうした事故には顧問の指導ぶりに余程に問題があったと言うのでもなければ民事よりも、保険なり無過失補償なりで対応すべきではないかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年1月26日 (月) 11時36分

>あまり厳しい注意義務という要求を突きつければ顧問を引き受けることのデメリットが大きすぎるだろうと言う話です。

引き受けなきゃいいんですよそんなもん。部活の顧問なんてほぼタダ働きでしょ?いい機会だからそんな同調圧力で個人の善意に付け込むのが前提の前時代的システムは一掃すべきです。

>こういうのが確定すると、少なくとも運動系の部活は消滅しますよね。

このくらいで消滅するならそもそもイランって事かと産科医みたいなもんでww

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年1月26日 (月) 12時33分

同意です。安全管理(とそれに伴う責任)には、ちゃんと金を取って、その上で、賠償責任保険にも入るべきです。自分の管理下にあるものが不幸にして亡くなったら、金は払うのが常識です。刑事を無責とするのと、民事で金を払うのは、次元が違います。

投稿: 麻酔フリーター | 2015年1月26日 (月) 13時34分

学校の部活で顧問が監督を兼任して片手間で指導する悪習は、個人的には廃止していただきたい。
運動部に限らず、能力のある指導者を招いて行うべきです。

今回の裁判については、加入している保険会社が支払いを拒否していたのではないでしょうか?
もしそうであれば、裁判しないと保険会社から金が出ませんし・・・

投稿: クマ | 2015年1月26日 (月) 14時24分

東京みたく目には目で、歯には歯でで、顧問に報復していたら、帰宅部が主流になった気がする。
ハンムラビ法典は凄いと思いました。

投稿: | 2015年1月26日 (月) 14時38分

私学は顧問教師の個人責任もきびし~く追及されるんだね

部員死亡 校長「熱中症への危機感薄れていた
 八月十日、桜川市の私立高校・永正学園高等学校は緊急保護者説明会を開き、八月六日に同校で起きた熱中症による部員の死亡について説明と謝罪をした。同校の校長は「連日の猛暑のもとで部活動を指導していたために、私をはじめ各教員に熱中症に対する危機感が薄れてしまっていた。亡くなった生徒の保護者および関係者と、多大な心配をおかけした保護者のみなさまに深くお詫び申し上げるとともに、再発防止に努めるべく各部の顧問教師への注意喚起を徹底し、いざ症状を訴えた生徒が出た際の応急処置の方法を定着させていくことを約束します」と話した。八月六日にテニス部を指導していた四十一歳の顧問教員には厳重注意をしたほか、減給と無期限の部活動指導禁止の処分を下したが、同教員は退職願を提出しているため受理するかは理事会で検討するという。

投稿: | 2015年1月26日 (月) 16時09分

このような個人のみに責任を負わせる糞私学もあるんですね。糞病院同じく気をつけないと。熱中症への注意喚起など、労働衛生のしおりレベルで毎年書かれていることで、従業員(ここでは教員ですが)教育をする責任は雇用主にあります。減給の処分は校長や教頭に下されるべきものです。

投稿: 麻酔フリーター | 2015年1月27日 (火) 08時42分

私学はイメージ落ちれば経営にも関わるし仕方ないのかも。
表向きは厳しく処分しても裏で補償してたりするのかなあ?

投稿: ぽん太 | 2015年1月27日 (火) 10時18分

桜川市に「永正学園高等学校」なんて学校はないし,この文章自体がフィクションなんですが.
http://ncode.syosetu.com/n2466cb/13/

投稿: Citius | 2015年1月28日 (水) 00時12分

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