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2015年1月21日 (水)

産科女医の増加は必ずしも歓迎されず?

元慶大産科教授で現在は内閣参与として少子化対策に関わっている吉村泰典氏が、久しくその危機が語られる産科医の現状について先日こんなことを語っています。

若手産婦人科医は6割超が女性 子を持つ女医の働き方を「標準」に(2015年1月20日日経メディカル)より抜粋

(略)
 産婦人科医の男女比を見ると、40歳以下では既に6割以上が女性です。ですから都に対しては、とにかく都立病院を女性が働ける職場にしてほしい、当直なしの午前9時から午後5時までという働き方も認めてほしいと訴えて、週24時間勤務でも常勤と認める制度を作ってもらいました。それに加えて国の予算措置もあり、最悪の事態は脱することができました。

 ただ、こうした対策の効果は一時的なものにすぎません。賃金を上げたり当直を免除したりといったことでは、永続的な医療はできないんですね。やはり分娩施設の集約化が必要です。年間300例のお産に3人の産婦人科医で対応するよりも、600例に6人で対応する方が圧倒的に楽ですから。医療の質を下げるわけにはいきませんので、患者さんの利便性が多少犠牲になったとしても、集約化を進めていかなければなりません

──分娩施設の集約化を図るにしても女性医師の戦力化は不可欠ですね。

 もちろんです。これまで私たちは、当直の免除や短時間勤務の導入といった待遇の改善に取り組んできました。それは人的リソースとして女性医師が期待されるからです。ただ、ここで取り組みをやめてしまえば、再び産科医療の危機を招きかねません。さらに一歩進めて、主治医制を見直してチームで周産期医療を提供することなども考えていく必要があります。

 今、独身の医師は男女を問わず、月に6~8回の当直をこなしています。それを子育て中の女性医師にやれと言っても無理ですよ。私は19年間にわたり慶應義塾大学の産婦人科教授を務めましたが、その間に入ってきた84人の女性医師のうち、今も常勤医として働いているのは4人だけです。80人はパートをしていても、第一線の戦力にはなっていないわけです。そういう女性医師に、自分が医師になった時のモチベーションを思い出してもらい、また働きたいと思ってもらえる体制を作っていかなければなりません。
(略)
──一方で、女性医師が働きやすい仕組みを充実させることが、その恩恵にあずかれない医師の不満を招いている例も少なくないようですが。

 過渡期には、そういうことが起きるものです。でも、子どもを持った女性医師の働き方が「標準」であるという考え方が広がれば、そういった不公平感を持つケースはなくなります。子どもを持つ女性に働きやすい職場は、子どもがいない女性はもちろん、男性にとっても働きやすいはずですよ。24時間ぶっ通しで働いて、それが普通だというのは、やはり問題です。

──仮に全ての医師が子育て中の医師と同じ働き方をするようになると、病院経営上の、ひいては医療保険上のコスト増につながりませんか

 それは分娩施設の集約化によってカバーできると思います。集約化を進めれば、過酷な勤務を強いられている医師の働き方を改善できますし、それによって医師の給与が増えるということもありませんから。

──大学や病院の管理職には、圧倒的に男性が多いのが現状です。その意識改革も課題だと思いますが。

 私が見る限り、意識改革は全然できていません。特に外科系では、そもそも女性医師を1人の人間として扱っていないケースが多いですね。だから勤務と子育てが両立できず、辞めていく女性医師が多い。そういう状況も変えていく必要があります。
(略)
 その意味では、女性医師の結婚相手として、相手への要求が多い男性医師はふさわしくありません。私は、いつも女性の医局員に言ってきたんです。「出世しないサラリーマンと結婚しなさい。そうすればあなたを大事にしてくれて、仕事を続けられるから」と。これは間違いないですよ(笑)。

「出世しないサラリーマンと結婚しなさい」とはなかなかに示唆的な言葉だと思いますが、実際に先日行われた別の調査によれば現役医師の実に2/3が「医師以外の人と結婚したい」と考えているそうで、その理由として共働きともなれば生活の自由度が著しく制約されるだとか、その反映によってか離婚率が高いと言った様々な理由があるのでしょうが、いずれにしても多忙であると言うことが根本的な理由と言えそうです。
医師という職業は他職種と比べて女性差別はまだしも少ない方だと思いますけれども、その理由としてはやはり男か女かよりも医師として使えるか使えないかと言うことが追及される、そしてその裏返しとして医師として評価されキャリアアップしていくためには出産や子育てと言ったジェンダーに由来する家庭的役割を半ば放棄せざるを得なかったと言う経緯があると思います。
一方で女性に限らず今どきの若い先生方においては滅私奉公よりもQOML追求が重視されると言う側面もあって、女医が家庭内での役割を重視することは人口再生産等々一般論としてはもちろん望ましいことですけれども、これだけ女医比率が増えてくると単純に現場の戦力としては頭数ほどには働いてくれないと言う不満も出てくるところでしょう。
ただその不満をもう少し細かく追及してみると単純に労働力として一人前未満であると言うことだけではないように思いますが、同じく先日出ていたこちらの記事を紹介してみましょう。

産婦人科の女性医師、半数が妊娠・育児中- 不公平感で産科離れ懸念、医会調査(2015年1月15日CBニュース)

分娩を取り扱う病院の産婦人科医の約4割を女性医師が占めており、その半数以上が妊娠・育児中であることが、日本産婦人科医会の調査で明らかになった。妊娠・育児中の女性医師の割合は増加傾向にあり、当直や勤務時間を緩和するなどの支援体制を整える病院も増えているが、一方、それ以外の医師は、産科医不足の中で依然として過酷な勤務環境にあることもうかがえた。同医会は「不公平感からも産科離脱に至る危険のある状況」と、子育て中以外の医師にも配慮した環境改善の必要性を指摘している。【烏美紀子】

調査は、同医会が2007年から毎年行っている「産婦人科勤務医の待遇改善と女性医師の就労環境に関するアンケート」。今回は全国の分娩取り扱い病院1097施設を対象に実施、780施設(71.1%)から回答を得た。

調査結果によると、回答施設の常勤医師数は4916人。このうち女性は1903人(38.7%)で、996人が妊娠中か小学生以下の子どもを育児中だった。妊娠中の女性医師に対して夜間の当直勤務を軽減しているという病院は46.4%あった。小学生以下の子どもを育児中の女性医師については、全面的に当直を免除されている人が45.3%だった一方、ほかの医師と変わらず当直勤務をしている人も23.8%いた。また、育児中の女性医師で分娩を担当しているのは43.7%にとどまった。

全体を見ると、1か月当たりの当直回数は平均5.8回。救急や小児科といった他診療科に比べても多く、調査開始時から改善していない。当直翌日を休みにするなどの勤務緩和を設けている病院は23.1%(180施設)にとどまる上、実際にそうした体制が取れているとしたのはわずか10施設だけだった。

調査を担当した日本医科大の中井章人教授は、「(ここ数年の)産科医師の微増の効果は、妊娠・育児中の女性医師の増加で相殺されている」と分析。チーム制の徹底などで妊娠・育児中の医師の力をもっと生かすと同時に、当直翌日の勤務緩和の導入などが必要だとしている。

妊娠中の女医に夜間勤務を軽減している施設が半数以下と言うのは多いのか少ないのか微妙なところですが、子育て中も含めて何ら特別な配慮をされず勤務を続けている女医も多い、そして当直翌日の勤務緩和措置も相変わらず大多数の施設で未実施のままであるなど、女医だからと言うよりも医師の労働環境として未だ劣悪な環境を強いられていると言えそうです。
もちろん女医に限らず男であってもこうした勤務体系の改善が喫緊の課題であることは言を待ちませんが、しばしば見られる現象として女医が産休・育休を取得し夜勤当直は出来ないと言い始めると、その分の負担を背負い込むことになる同僚の男医が不平不満を募らせると言う問題があって、逆にそうした職場内の人間環境に配慮すると出産や子育てに及び腰になってしまうと言うこともありそうですね。
先日も当事者である女医らが出産や子育てと仕事との関係を切実に語った記事が出ていましたが、やはり男医に比べて同じ仕事を続けることが難しい女医に対する周囲のマイナス感情、女医の存在をむしろ迷惑に感じる男性上司・同僚の心理と言うものは相当に負担にはなっているようで、この辺りは若い先生方は意識も変わって今後次第に「女性が選ばないような科は、男性も選ばなくなって」いくことになるのかも知れません。

ただ一人でも抜ければ物理的に手が足りず仕事が回らなくなると言う職場の余裕の無さも根本的な問題ですが、それに加えて女医問題に限らずですが平日のみの勤務で夕方定時にはきっちり帰って行く先生と、休日夜間もなく日夜過酷な診療に従事している先生との給料にほとんど差がないと言うことも、「これでギャラはなの」と不公平感を募らせる要因になっているとは感じますね。
この辺りは常勤医の時間外・当直手当に関して不当な安値でそれを強いてきた給与体系の問題でもあって、先日来続いている奈良・産科医訴訟のようにようやくそれを是正すべきだと言う現場の機運も出てきたところですが、そうした施設においても案外当直アルバイトの先生にはいい給料を払っていたりするのですから、やはり年俸制に近く業務量が加味されない給与体系の抜本的な見直しも必要なのではないかと言う気がします。
日常診療においても予約制外来において診療密度や量を制限するなど自主的に労働管理を始めている先生方もいらっしゃると思うし、残業代ゼロ法案云々と言わずとも本来医師はそうした自主的労働管理が期待される管理職に近い立場だと見なされがちなのですから正当な権利と言うものですが、この点ではその時が来れば勝手に患者が来てしまう産科や救急はいささか不利な立場であるのは確かでしょうね。

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コメント

今はどうか分かりませんが麻酔科はバイトにかなり旨味があったり
そもそも当直が無かったりする科もあったりで
外科や産科離れは当然
嫌なら施設の集約化と診療科で給与に差を付けるか定員設けるしか無いでしょ

投稿: | 2015年1月21日 (水) 07時34分

当直もしない定時帰りのマイナー科一人部長が激務奴隷科医師より高給取りな理不尽

投稿: | 2015年1月21日 (水) 09時04分

精神的貴族に位置するマイナー科一人部長様が比喩でもなんでもない文字通りな奴隷より高給なのは当然かとw

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2015年1月21日 (水) 09時16分

>医師という職業は他職種と比べて女性差別はまだしも少ない方だと思いますけれども

逆じゃないです?
女医の記事も読みましたが、(本当なら)ここまでのことは一般企業にはないですよね。
今ではすぐ訴えられたりするので、逆に優遇されているかと。

女医の記事の中で笑ってしまったのが、女性管理職云々のところです。
女医は理系で論理的な思考が出来る人が多いと思いますが、一般の職業では、その場の思いつきとか
感情での行動とか、基本自己中という人が普通です。いわゆる普通に筋道が通る思考、判断が
出来る女性は少数なのです。なので、管理職として求められる能力という点では、
そういうところが問題なので、大きく増えるはずがないんですよね。

投稿: | 2015年1月21日 (水) 09時16分

>その場の思いつきとか感情での行動とか、基本自己中という人が普通です。いわゆる普通に筋道が通る思考、判断が出来る女性は少数なのです。

差別意識満載ワロタw

投稿: | 2015年1月21日 (水) 09時40分

基本的には「時間外に働くこと」に対する手当が少なすぎるのが不公平感の一番の原因だと思います。
「体力が持つなら月10回でも当直したい」と思うような金額設定にすれば、当直免除の人に対する不公平感はなくなるでしょう。

投稿: クマ | 2015年1月21日 (水) 10時10分

当直って言うな!夜勤、連勤、って言え!交代職場らしい勤務管理しろ!

投稿: | 2015年1月21日 (水) 10時20分

産科も交替勤務制導入を検討するのであれば、日勤帯は完全に女医さんに任せると言ったやり方も考えられるかと思いますが、いずれにしても常勤医の夜勤当直料が安すぎるのは不公平感を助長しかねないですね。
どれくらいが妥当かは何とも言い難いのですが、例えば日勤だけの先生に対してフルタイムは給料倍と言うくらいの差があれば、あいつら楽しやがってと言ったやっかみは減ってかえって勤務しやすくなるのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2015年1月21日 (水) 10時25分

医者の共働きも悪くないですヨ。
二人揃って「勤務と子育て」両立させても世帯収入ならけっこうな額になりますもん。

投稿: JSJ | 2015年1月21日 (水) 11時00分

想定外の結婚・出産ナシ!一生働く女の葛藤
http://sys.diamond.jp/r/c.do?1foO_3JmV_Bp_vow
どこの業界でも同じみたいですよ

投稿: | 2015年1月22日 (木) 09時01分

昔は、こう言う記事を参照して、情報公開請求して、労基署に出向いて告発していたものですが、今ではすっかり普通の医者をしてます。。。笑

どうせ他人事だしね。。。

勤務医の未来を変えるのは、当事者に任せました。

私にできることはいろいろ尽くしたつもりですので、恥じるところはありません!

投稿: Med_Law | 2015年1月23日 (金) 23時12分

大北唯一の産科休止…大町総合病院、3月で
http://www.yomiuri.co.jp/local/nagano/news/20150121-OYTNT50301.html

 大町市立大町総合病院は21日、4月以降は医師の確保が難しくなったとして、3月末で分娩ぶんべんや妊婦健診などの産科診療を休止すると発表した。
人口約6万人の大北医療圏(大町、白馬、小谷、池田、松川の5市町村)では、お産できる医療機関がなくなる。同病院で3月中旬以降に出産する予定の
約120人は、別の医療圏で受診する必要がある。
■医師確保難しく
 同病院では近年、信州大医学部付属病院から派遣された常勤医2人が診療を担当し、直近2013年度は妊婦199人が出産した。
 同病院の説明では、医師1人が今月上旬、病気療養の休暇取得を申し出た。信州大に代わりの医師を要請しつつ、人材仲介会社などを使って採用を模索。
しかし、この医師が療養に入る22日までに代わりのめどが立たず、休止を決断した。
 山田博美病院事業管理者は記者会見で、「24時間の受け入れが必要な産科で、1人態勢ではお産の安全性を確保できない」と説明。
同病院の決定を受け、信大側はもう1人の医師を3月末で引き上げることを伝えてきた。この結果、妊婦健診も4月から中止となった。
 3月上旬まで出産予定の12人は同病院で分娩する。出産予定がそれ以降の21人と、妊婦健診を受けている約100人が転院対象となる。
同病院は20日から、松本、安曇野、長野の3市の病院を紹介している。 (以下、略)

投稿: | 2015年1月24日 (土) 07時44分

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