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2015年1月30日 (金)

大阪の生保プリカ支給案、各方面で議論を呼ぶ

先日は生保受給者の多いことが知られる大阪で生活保護費をプリペイドカードで支給することが検討されていると言う記事を紹介しましたが、その後各方面で思いがけず大きな話題になっているようで、これも様々な理由で賛否両論あるようですよね。

大阪市の生活保護費プリペイドカード化は有害無益  犠牲になる生活保護当事者のプライバシーに配慮せよ(2015年1月23日ダイヤモンドオンライン)

(略)
 橋下氏によれば、このモデル事業は、希望者に対して生活扶助のうち月当たり3万円をプリペイドカードで支給するものであるという。橋下氏はさらに、
「僕も弁護士時代に破産事件よく扱っていましたけども、家計がきちっと把握できないとですね、なかなかこう、生活の方がうまく成り立たないというような実態も見えてきました。生活保護者の方はそういう方々ばかりではありませんし、(略)こういう形できちっと自らの家計収支について記録をとりながら、それを把握することが自立支援につながるという人も(略)いますので、一度モデル事業実施して、実際にどういう形で自立支援につながるのか、しっかり検証もしていきたい
 と述べ、今後、半年から1年程度のモデル事業に
「ちょっと全国初の取り組みでもありますので、一回チャレンジをしてみたい
 と意欲を示す。
(略)
 本記事冒頭で引用した橋下氏の会見内容では、プリペイドカード化のメリットが4点主張されていた。これらの問題がプリペイドカード化でどう解決するのか、一点ずつ見てみたい。

1.金銭管理等の各種生活支援を必要とする生活保護利用者、とりわけ単身高齢者が増加
 そこに述べられている「生活支援」の充実こそが、本質的かつ最良の解決である。「上限金額が設定されたプリペイドカードなら使ってよろしい」では、「金銭管理ができない」の解決にはならない。

2.2013年12月に生活した改正生活保護法で、収入・支出その他生計の状況を適切に把握することが受給者の責務と位置づけられた
3.経済的に自立していくためには家計を把握することが肝要
 自ら家計を把握することは、まずは「レシートを保存しておく」を習慣化、可能であれば「家計簿をつける」も、といったことで充分に行える
 そもそもプリペイドカードは、対応している店舗でしか使用できない。生活保護利用者たち「御用達」の店舗には、野菜の無人販売スタンド・衣料や生活用品のリサイクルショップなど、プリペイドカードに対応する見込みの低いものが数多く含まれている
 これまでに積み重ねられてきた節約の努力は、まぎれもない「経済的に自立していく」ための努力ではないのだろうか? それをプリペイドカード化で「水の泡」にすることは、どういう「自立助長」なのだろうか?

4.ギャンブルや過度な飲酒等に生活費を費消し、自立に向けた生計、生活設計を立てることが困難な人の支援が必要
 このような人々に対しては、なるべく早く専門的医療へとつなぐことこそが「正解」。手段が何であれ、消費そのものを管理することは問題を悪化させるばかりだ。日本ではすでに、
「医療機関での医療→治療施設→中間施設→支援を受けつつの地域生活」
 というルートが確立され、ノウハウも蓄積されている。ただし、施設もスタッフも不足しているため、増設・増員は必須である。

 以上、橋下氏の期待は、生活扶助プリペイドカード化では何一つ実現されそうにない。市民の「不正受給が減るならば」という期待にも応えてくれそうにない。なおかつ、米国の「SNAP」という先行例に見るとおり、多大なリスクがある。ここまで「メリットが少なくデメリットが多大」と判明しているものは、「試行」といえども行うべきではないのではないだろうか? 
 しかも、生活扶助の現金給付原則を定めた生活保護法第31条に違反している。詳細は、生活保護問題対策全国会議の要望書を参照していただきたい。
 メリットはなく、デメリットのみ、しかも法律違反。それでも推進しなくてはならない理由は、筆者には何一つ見つけられない。
(略)

生活保護のプリカ支給「当たり前」か「権利侵害」か(2015年1月25日Yahoo)

(略)
 Yahoo!ニュースの「意識調査」では1月22日時点で約11万票が集まっており、「賛成」が85.9%で「反対」の12.3%を大きく上回っています。

「賛成」派の意見

 現金化されないように対策をすることが必要で、その上で賛成。
    現金支給より、ハッキリしており不正も出来無いから。試験的にやって、成功すれば全国で導入されれば良いね。
    転売を防ぐために、カードはチャージ制で個人認証ができるといいだろうね。 生活保護が、パチンコに消えるとか、豪勢な暮らしで何故か受給されてるとか、不正受給が多すぎる。
    まずは、収支の把握(どのようにお金が出て行くのか)が把握できれば、パチンコなどに使わたり換金される実態も分かるのでいいんじゃないかと思いますけどね。実態が分からないのでみんな想像でものを言ってしまっている要素もあるでしょうし。

「反対」派の意見

    人の尊厳を無視した形でそういった事を言うのは断固として反対。
    生活保護の自治体職場で働いてきた実感から、プリペイドでは何も解決しないし、そんな上から目線の対応では、寄り添う支援もできないことを指摘せざるをえません。
    わかりやすすぎるカード会社に対する利益誘導。大手企業も貧困ビジネスに参入なのだ。生活保護受給者に対する人権侵害も大問題。よくもここまで腐った考えが浮かぶものだと感心する。
    不正をした人は、取り締まる。ほとんどの受給者は、働きたくても働けない人たちだ。本当に困っている人の自由を奪ってはならないと思う。

各方面での反応をざっと見たところでは賛成派は不正受給の把握や不適切(と世間で受け止められている)使用への抑制効果を期待する声が高い、一方で反対派は人権的観点やカード会社関与に対する反発が主体なのかなと言う印象を受けたのですが、現行の生保のシステムが万全だとは到底言えないわけで、橋下市長も言っているようにとにかく試しにやってみて、うまく行けば全国でもやればいいと言う声が多いようです。
そのうまくいくかどうかの評価軸をどうするかなのですが、恐らく不正受給と言うことに関してはプリカ化で直ちに劇的な改善があるとはちょっと考えにくいものの、昨今しばしば問題視されているいわゆる生保ビジネスと言うものに関しては把握しやすくなる可能性もあるかも知れずで、いずれにせよプリカ導入で得られたデータを他部署とも連携しながらどう利用していくかと言うことがポイントになりそうです。
裏を返せばそれだけ受給者の個人情報を多くの人間が把握すると言うことにもなるわけですから、当然ながら人権擁護派の方々を中心にプライバシーの侵害だ、生保受給者だからと言って差別するなの声が上がってくるわけですが、しかし賛意を表明した大多数の市民の感覚としてはまさしく俺達の税金を何に使われるか判らないのは気分が悪いと言う、ごくごく素朴な感情に由来している気もします。
この点で先頃兵庫県小野市で生保受給者がパチンコをしている場合は通報せよと言う条例案が大いに議論を呼んだことを思い出すのですが、多少なりとも生保受給者と関わった人間であればいわゆる不適切な保護費使用と言うものが現実にあると言うことは誰でも知っているわけで、その部分を把握するのに使えると言うのであればいいんじゃないかと言う「スポンサーとしての感覚」は理解出来ます。

生保受給者の権利をどのように考えるかは人それぞれ持論があると思いますが、このところの社会保障費抑制政策で生保支給水準の切り下げが行われてきている、そして低所得労働者層との逆転現象も実感として認識されている中で、やはり既得権益は一歩も譲らないと言う姿勢では世の反発も大きいのだろうし、運用してみて実効性など問題があるならさらに制度を改良していけばいいと言うことなのでしょう。
こういうやり方は今までの日本の地方行政ではあまりなかった方法論で橋下市長流なんだろうと思いますが、実際に和歌山県上富田町で生保受給資格確認の厳格化と平行して当座の食料現物支給制度を開始したところ受給者割合が周辺自治体の半分で済み予算も大いに節約出来ている、そして何よりあからさまな不正受給狙いの方々が窓口で引き返していくと言いますから、いずれにせよ制度に工夫の余地は大いにありそうですよね。
ただ受給者に金銭の自己管理が出来ない人が多いと言うのは人権派の方々ですら認めているところですから、認知機能に障害のある高齢受給者等も含めて本当に外部から管理をきちんとするならそれはそれで悪くない話なんですが、現状ではそこまでするだけのスタッフの人手もとても足りていないにも関わらず情報だけは入ってくるとなれば、何かあれば知っていながら放置した行政の怠惰だと批判される余地はあるかも知れません。
そんなこんなで当然ながら情報量が増え分析と対策の業務が増えただけスタッフも増員してもらわなければ現場は大変だと言う話なんですが、この点で労働意欲がありながら就労の機会を得られずやむなく生保受給を続けている受給者本人に何かしら仕事をしてもらうと言うのも自立対策として有益なのかも知れずで、ともかくせっかく制度に手をつける以上形だけでなく本当に有効な手立てを探ってもらいたいところです。

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コメント

自ら家計を把握することは、まずは「レシートを保存しておく」を習慣化、可能であれば「家計簿をつける」も、といったことで充分に行える。
≒自ら血糖管理するのは、血糖測定を習慣化することで十分に行える。
≒学校の勉強についていくのは、毎日の予習復習を習慣づけることで十分に行える。

投稿: JSJ | 2015年1月30日 (金) 08時31分

たぶん、自律できる人と自律できない人を同じ制度の対象にしているからどちらに対しても中途半端になっているんじゃないですかね。
自律できる人に対しては自立を阻害し、自律できない人に対しては放任になっているんじゃないかと。
ダイヤモンドオンラインのみわよしこ氏の意見は極論すれば自律できない人に対しては何らかの病名をつけて医療の対象にしろ、ということになりますが、
病名をつければ差別にはあたらないんだ、という発想でいいんでしょうかね。
先日も別件で書きましたが、なんでもかんでも医療のほうに丸投げしなくても(しかも現状では一人の医師の恣意に左右されうる制度になっていて、不正の温床になっている)
行政の方で判断する制度を構築することを考えてもいいんじゃないかと思います。医療施設・スタッフを充実させる予算があるなら可能でしょう。
あれもベストとは言いませんが、介護度の判定会議のような先行事例もあるわけですし。

投稿: | 2015年1月30日 (金) 09時42分

↑09時42分投稿はJSJです

投稿: JSJ | 2015年1月30日 (金) 09時44分

まあでも自分も出来てないから偉そうにはできないですが。
お年寄りが多いならよけいに自己管理なんてできないでしょうにねえ。
試しにやってみるって言ってるんだからやらせてみたらいいんじゃないかなと。

投稿: ぽん太 | 2015年1月30日 (金) 09時45分

生活保護で渡されるお金は「受給者が自由に使えるお金ではない」という前提がおろそかになっているような気がします。
それを踏まえても、今回の大阪市の挑戦はクレカを持てない方々にとっては買い物の自由度が上がる良い方法ではないかと思われます。

投稿: クマ | 2015年1月30日 (金) 10時26分

馬鹿馬鹿しい
カード会社にもうけさせるだけでしょ

投稿: | 2015年1月30日 (金) 10時44分

もちろん商売でやる以上利潤の追求はあるのでしょうが、それでも反社会的団体や生保ビジネスにお金が流れるよりはまだしも健全なのではないかと言う気がします。
議論が対立する根本的原因として生保とはどのようなものであるべきかと言う前提が共有されていない点が大きいと思いますが、少なくともワープア層との逆転現象は勤労意欲と言う点からも改善が急がれるでしょうね。
ワープア対策が必要であるからと言って生保支給水準切り下げの理由にはならないと言う意見もありますが、現実に生保以下の収入で暮らしている人がこれだけ増えると市民感情としても批判が出るのはやむなしでしょう。
すでに一部自治体で実効性がある程度確認されていると言う点を考えても、今後は使途無制限の現金支給から現物支給化に加えて、用途限定の金券等が主体になっていく可能性はあると思います。

投稿: 管理人nobu | 2015年1月30日 (金) 11時29分

>カード会社にもうけさせるだけでしょ
いやいや どうせ事務処理には誰かの手が要る訳ですし
当然それにはコストが発生しますよね。
それを割安で企業に振ってると考えれば別に問題ないのでは?
役人にやらせたらもっと高くつくって話なのでしょ。

投稿: | 2015年1月30日 (金) 18時07分

マイナンバー制度を実施されてから、プリペイドカードで支給すると
脱税のからくりが分かりそう。金の流れが分かりやすくなるのはいいですよね。

投稿: | 2015年1月30日 (金) 19時43分

生保受給者の皆様にお金を使っていただくことが重要なのです
http://bylines.news.yahoo.co.jp/miwayoshiko/20150204-00042782/

投稿: | 2015年2月 5日 (木) 20時59分

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