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2015年1月29日 (木)

違法な薬物使用は悪いことだとされています

本日の本題に入る前に、先日こんな試みが始まったと言うニュースが出ていたのをご存知でしょうか。

院外処方箋に20項目の検査値を表示(2015年1月23日日経メディカル)

 川崎市立多摩病院は、院外処方箋において患者の検査値表示を今月から開始した。関東地域の病院での導入は恐らく初めてという。処方箋に表示するのは、身長、体重、検査値の一部。検査値は、過去3カ月以内に測定された、肝・腎機能や血液凝固能、血糖、脂質、電解質に関連する20項目

 同院薬剤部長と同病院の管理運営を行っている聖マリアンナ医科大学病院薬剤部長を兼任する増原慶壮氏は、「処方内容が個々の患者にとって適切かどうかを薬剤師が判断する上で、検査値のチェックは、本来必須の仕事」と話す。院内の薬剤師は検査値を見ることができるが、現在、院外処方箋を受ける薬剤師のほとんどは検査値を見ることができない

 このような現状を変えるため、院外処方箋に検査値表示を開始する大学病院が増えつつある。2011年に福井大学医学部附属病院が処方箋への検査値表示を開始。その後、京都大学医学部付属病院なども検査値表示を始めている。

 ただし、電子カルテから検査値を抽出するためには、新しいプログラムが必要となるなどシステム上のハードルがある。同院では、電子カルテシステムの更新時期に合わせて検査値表示を開始したという。増原氏によると、聖マリ医大病院でも、同様に電子カルテの更新時期に合わせて検査値表示を開始する計画だ。

 川崎市立多摩病院が処方箋への表示を開始した検査値の一覧は、同病院のウェブサイトで公開されている。

医薬分業が言われた当初から「薬の処方箋だけを見て判ることなどほとんどないのだから、分業などと言っても絵に描いた餅だ」と言う声はありましたし、熱心な薬科の方々からももっと臨床面に関与したいと言う声があり院内ではチーム診療に参加してもらうケースが増えたとしても、誰が関わるとも決められていない外来診療でこうした試みがなされるのも時代の流れでしょうか。
もちろん医学的にはこうした情報は共有すべきだし正しい方向での取り組みだと思いますが、個人情報なりプライバシーなりの保護がこれだけ叫ばれる時代にその管理をどうするのかで反対意見も出るかも知れずで、この辺りは施設間共有なども含めて以前からの医療情報共有と言う課題にも関わってきますが、今後マイナンバー制が導入されると多少なりとも改善されてくることになるのでしょうか。
ひとたび始まった以上は情報流出のリスクは必ずあるだろうし、それに対してより大きなメリットがあるのだからと割り切るしかないところで、当面は同意を得られた患者に限って運用すると言った制約も課せられるのかも知れませんが、将来的には例えば保険証に電子化された診療情報が書き込まれているとなれば飛び込みで救急病院にかかったとしても病歴薬歴が判らないと慌てなくても済むようになるかも知れません。
薬に関してもそれだけメリットもあればデメリットもあり、専門家が正しい情報を元に判断しなければ思わぬデメリットを生じてしまうと言うことなんですが、その意味で素人が勝手に好き放題すると言うことはどこの国でも危険な行為だとして規制されている中で、先日こんなとんでもないルール破りが発生したとニュースが出ていました。

父親がガンになった娘に大麻を服用、物議を醸す(2015年1月19日新華ニュース)

海外メディアの報道によると、オーストラリア人男性のケストラー氏の娘が末期ガンになり、かなりの苦痛を訴えていた。ケストラー氏は娘に医学用大麻油とココヤシの混合物を服用させ、娘の症状が改善した。娘は腹部の痛みが和らぎ、食事の量も増加し、体重もやや増加した。

オーストラリアで大麻の服用は禁止されいるので、ケストラー氏は2日に逮捕された。彼は保釈で刑務所を出たが、娘に会ってはいけない。現在、娘の症状が好転し、集中治療室(ICU)で治療を受けているという。

事件公開後、5万人のネットユーザーはクイーンズランド州の州長や司法当局が介入するよう請願した。声明で、多くの国で医学用大麻の使用は合法的であり、しかもがん患者には有効で、副作用はないとしていた。

大麻と言えば昨今ではその合法化がしばしば議論になってきたところですが、その議論にあたってはしばしば「○○よりは大麻の方が安全」と言った論法が使われるようで、その○○にはタバコだの酒だのと言った多くの国々で合法的に用いられている嗜好品が入ることから、どこまでを規制の対象としどこからを解放するのかは文化的伝統も絡んで常に難しい議論になってきます。
そうは言っても一部地域とは言えすでに一般人が使ってもいいとされているものを、命に関わるような重病で使ってはいけないと言うのはおかしいじゃないかと言われればまあそうなんだろうなと言う気もするところですし、この場合十二分に同情の余地もある事情であって、副作用はないと言われれば違うと言う気はしますが少なくとも薬物中毒等や自傷他害の恐れが問題になるような状況ではすでにないわけです。
これが法的に問題があるなら法律そのものがおかしいのだ、とまで話を広げるとまたややこしいことになりますけれども、この場合周囲の誰もが別に処罰感情があるわけではないだろうし、何より事情が事情だけに時間的猶予もないと思われますから、多くの方々の署名もあってかその後特例的な対応が取られたと言う続報を聞いて誰しもほっとしたと言うのが正直なところではないでしょうか。

未承認薬をがんの娘に与え、逮捕された父に15万人の嘆願署名。再会へ(2015年1月23日IRORIO)

以前もこの話題に触れたが、再び新たな動きが伝えられた。それは嘆願署名が15万人に達し、ついにオーストラリア人の父親が、がんと闘っている娘と再会できたというもの。

大麻から抽出したオイルを与えて逮捕

父親の名前はアダム・クレスラーさん。彼は離婚後、2歳になる娘、ルーマー・ローズちゃんを1人で育ててきた。しかし彼女は「神経芽細胞腫」というがんに侵され、生存の確率が50.0%と診断されたため、アダムさんは医療用の「カナビス・オイル」を与えた。
「カナビス・オイル」とは大麻から抽出した精油のことで、脳腫瘍や乳がん、皮膚がん、肺がんなどに効果があると、多くの研究でも報告されていた。そしてルーマーちゃんにも劇的な効果をもたらし、一時は回復の兆しも見えていた。
しかしオーストラリアでは16歳以下の人に与えてはならないと、法律で決められていたため、アダムさんは病院で逮捕されてしまう。

15万人の嘆願署名が集まる

やがてアダムさんは解放されるが、保釈の条件は「娘と会わないこと」。その結果、再び通常の薬を使い症状が悪化していたルーマーちゃんに、ずっと会うことができずにいた
もしかしたらこのまま会えずに、娘は死んでしまうかもしれない。そんな危惧を抱かざるを得ない状況の中で、彼を支援する人々が現れた。
彼らはネットでこの事実を多くの人に知らせ、法律を犯してまでも自らの娘を助けようとした父親を擁護し、娘と再会できるよう、または使う薬は自分で決められるよう、政府に嘆願するため、署名を集め始めた。
そして今週、その署名が15万人に達し、ついにアダムさんは娘に再会することができた。まさに多くの人間の意志が、硬直した世界を突き動かした結果となった。

40分間、娘と同じ部屋で過ごす

とはいえ警察は当初、病室の外で、窓越しでの面会しか認めていなかった。しかしアダムさんが病院を訪れて交渉した結果、娘に会う権利があることを認められ、同じ部屋で一緒に過ごすことを許可された。
1月2日に逮捕されて以来、離れ離れになっていた父と娘は、再会することになった。
アダムさんは40分間、ルーマーちゃんと同じ部屋で過ごすことができた。そして衰弱した娘を、しっかりと両腕で抱きしめられたようだ。

支援団体の広報は、その時の様子を次のように語った。

「ルーマーちゃんは(病気のため)少し疲れていたようだった。しかし私たちは彼女が微笑みながら、父親と一緒に遊ぶ、可愛らしい写真を何枚も撮影できました」

今後も裁判は続けられる

保釈中とはいえアダムさんは、娘に「カナビス・オイル」を与え、違法薬物を所持したとして起訴されており、今後も裁判が控えている。またこれからも、自由に面会できるかどうか見通しが立っていない
支援団体はなおも当局にこの問題を調停するよう呼びかけ、嘆願署名を続けるという。その嘆願書には次のように書かれている。
「娘の命を長らえさせたいと願う愛情から行動を起こした父親を、重い病気と闘っている娘から引き離すことは、非人道的で公正とは言えない

記事の写真を見ますと何やらほっとするところがありますが、今後も厳しい状態が続くことは間違いないだろうとは言え、まずはルーマーちゃんが元気になることを祈るばかりですが、その間の法的責任追及をどうするのかと言う問題があります。
とりあえず逃亡の心配もないであろうこの状況下では、一時的に拘置を解いても大きな社会的不利益はなさそうに思うのですが、それではこの状況が数ヶ月、数年と続いた場合にどうするのか、いつまで特例扱いを続けるのかと言う判断も難しそうです。
違反とは言え事情も事情ですし、不慮の事故時などに無資格の素人が医療的行為をして救命したと言ったケースと同様、緊急避難的行為だとして罪には問われない可能性も十分あるとは思いますが、いずれにしてもそれは裁判所の判断を待たなければならないと言う点で、子供と過ごすべき貴重な時間を当面厳しい制約下で過ごさなければならないことには代わりがないわけです。
人間の数も増え考え方のバリエーションも増えてくるほど法律は杓子定規に運用しないことには始末がつかないことになりがちであり、その意味でごく少数の人々が法的・社会的制約によって非常に困った事態に遭遇してしまうと言うこともまたありがちですが、ではどこから超法規的措置なりで例外を認めるべきかと言えばケースバイケースで判断も難しいだろうし、緊急に異論のない形でその判断を行えと言うのも無理があります。
そして当然ながら意図的に脱法的行為を行う人間ほど「あいつには認めたのに何故オレは駄目なんだ?」と例外をついてくるものですから厄介なのですが、こうした誰しも判りやすい問題提起を契機として普段見過ごしがちな問題に注目が集まった以上、改めてルールについての議論を深めていくことも規制する社会の側としての課題になるのでしょうね。

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コメント

罪は罪だし罰は罰だけども
でもちょっと待つことぐらいは出来るでしょ

投稿: | 2015年1月29日 (木) 09時43分

薬局あてのデータ開示で一気に疑義照会が増えるかも。
腎障害があるのにARB処方していいんですか?とか。

投稿: ぽん太 | 2015年1月29日 (木) 10時10分

いわゆる禁忌・慎重投与の問題やプライバシー保護の問題など様々な問題は派生しそうですが、データを知った以上は薬剤師にもチェック義務が生じるのか否かは気になりますね。

投稿: 管理人nobu | 2015年1月29日 (木) 10時51分

 検査値を印字する件は、ケンコーコムのヨヤクスリのような形で第三者に大量に情報が流れる懸念もある。利用されて患者さんの利益になるなら結構なんだが 
 http://www.qlifepro.com/news/20140313/kenko-com-submitted-the-reply-to-doubt-reference.html
 仁義をまもって匿名化してくださるものか、業者を信頼するしかない、という状況。 

投稿: 感情的な医者 | 2015年1月29日 (木) 15時43分

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