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2014年12月13日 (土)

理念より実効性重視のクレーマー対策

最近ドラマ等でも話題のクロカンこと黒田如水は後継者である長政に家臣とのトラブルが続き苦慮していたそうで、亡くなる前にはわざと家臣達に嫌われるような振る舞いばかりをして息子に人望が向くようにしたそうですが、「それって単なる老人○○だったんじゃ?」と言う突っ込みはさておき、晩年になって人が変わったようなことをする人は少なくなく、如水の主君であったラスボスこと太閤秀吉などもその典型ですよね。
太閤の場合は田舎者が大出世して大喜びで美味珍味ばかり食べまくった結果脚気になったのでは?と言う説もあるそうですが、歴史上の人物に限らず同じような振る舞いをしても善意に解釈される人もいれば悪意に解釈される人もいて、死んだ後の評判なら知ったことではないと言う人でもそれが現世での利益不利益に直結するとなれば、やはり自分自身にとっても利益ある振る舞いをした方が得ですよね。
いささか余計な前置きが長くなりましたが、先日日本臨床整形外科学会がいわゆる問題患者の対応指針をまとめたと言うことで、その概要が日経メディカルにも紹介されているのですが、興味深いのはトラブルに遭遇した場合の基本的考え方で、より実践的なある種の割り切りとも言える考え方が見えるように思えるのが興味深いですよね。

リポート◎恐喝、暴力、セクハラ…急増する患者の迷惑行為 患者が「誤診」と騒ぎ金銭を要求、どうする?(2014年12月10日日経メディカル)より抜粋

(略)
 こうした院内暴力・迷惑行為について、予防、発生時の対応の基本としてまとめられたのが表3や3ページ目表4の内容だ。「予防のための体制作りが大切だが、発生時は、まず医療機関側に非があるのか、そうでないのかを分けて対応するよう指針に記載した」と渋谷氏は話す。

 予防策としては、患者が転倒したり、ドアに衝突するといった事故をなくすべく院内施設の整備を心掛け、職員一人ひとりに配慮した職場環境を整える。また「当院ではいかなる暴言・暴力・迷惑行為も許さない」「当院では職員を組織として守る」といった基本方針を院内掲示し、トラブル発生時の対応マニュアルを作成しておくことを勧めている。

 トラブル発生時は、患者の話を聞いて事実関係をまず把握。患者が理不尽な要求をしているときは、納得させる努力をするより「いかに攻撃をかわすか」が重要とした上で、結論を出す必要はなく、「平行線で終わることを念頭に置く」ことが望ましいとしている。

 さらに、予防・発生時の対応を行った後の「事態収拾後の対応」としては、医療機関に非がありそうなクレームの場合、後日に会談を持ったときは事実関係の検証結果を提示し、それでもクレームが続くなら弁護士に依頼する、当該職員には思いやりを持って対応する、ポジションペーパー(事実関係を客観的に示す文書)を作成して法的手段に訴える場合に備える、再発防止策を策定して職員に周知する──といった点が挙がっている。
(略)

基本的に医療と言う現場は性善説によって成り立っている部分があって、日本の医療リソースではそれを前提にしなければ実際問題仕事が出来ないと言う現実もあるわけですが、それが故に性善ならぬ何者かが混入してきた場合にうまく対応できず紛争化してしまう、あるいは場合によっては意図的にその欠点を突かれ相手を増長させてしまうと言う局面が見られたのは否めないと思います。
この点では医師よりも看護師の方が教育において「かくあるべし」論を尊んできた面があるように感じるのですが、「患者様は病気で苦しんでおられる弱者である」と言う認識の是非はともかくとして、「だから患者様が理不尽なことをされても病気のせいであり、患者様を憎んではならない」と言う方向に話が進んでしまうと、昨今よくある院内でのセクハラ騒動等にもつながりかねないと言う弊害も出てきますよね。
何かと不確かな側面の多い医療には正しい治療をするから治るのではなく、治ったから正しい治療だったのだと言う逆説的な考え方もあって、臨床で経験を積んだ医師であれば患者との対人関係においても同様の割り切りが出来ている場合も多いと思いますが、患者は全てが平等ではなく問題顧客は問題顧客として対応すると言う考え方が公の指針として出てくる辺りに時代の流れも感じてしまいます。
ただもちろん理屈の上で正しい、正しくないと言うこととは全く別の次元で、医療に限らず相手に一方的に強く出られると理不尽だとは承知していても人間ついつい一歩も二歩も引いてしまうものですけれども、以前にも取り上げましたように近年ではこの種のモンスターペイシェント対策として医療現場における警察OBの雇用が進んでいると言います。

増大する「逆紹介クレーム」にはこう対処(2014年12月10日日経メディカル)

 11月某日、東京慈恵会医科大学の講堂で開催された「HKO会」という研究会のセミナーを聴講してきた。HKO会は、医療機関の職員として患者サービスやトラブル処理などに当たる警察OBのための勉強会だ。
(略)
 押し寄せる外来患者の診察に追われる大病院の医師の中には、勤務負担の軽減につながる外来縮小策を歓迎する声が少なくない。ただ一方で、逆紹介する際、「追い出された」という思いを抱く患者からのクレームにさらされる医師も出てくる。東京慈恵会医科大学病院でも、「うちは代々慈恵がかかりつけなのに、なぜ他にかからなければならないんだ!」といったクレームが寄せられるケースが増えているという。
 常喜氏の講演では、1つの興味深いデータが示された。2013年4~10月に同病院に寄せられた患者の苦情の内訳を見ると、最も多かったのが「医師の態度・説明・変更」で、前年同期と比べて20ポイント以上増えているというのだ。

「医師の態度・説明」への苦情が増えた理由

 医師の接遇や疾患の説明などに対する評価が、わずか1年で大きく変わるとは考えにくい。逆紹介の取り組みを強化し始めた時期と調査期間が一致していることから、常喜氏は、他院への受診を勧められたことに対する不満が「医師の態度・説明」へのクレームとして表れたとみている。
 では、逆紹介への理解を得るために何が必要なのか。常喜氏はそのポイントとして、院内の部門間連携の強化と職員の「帰属意識」を挙げた。各科の医師やスタッフ、連携室などが個別に対応するのではなく、病院を挙げて取り組まなければならない。組織が一体となって難しい課題に対処するためには、そのベースとして「この病院で働きたい」という帰属意識が不可欠だ──。常喜氏はそう訴えた。
 この話を聞いて、大いに納得させられた。患者の逆紹介率が高く、病診連携の実効性を高めている病院の中には、院内の部門間連携や職員満足(ES)向上への取り組みに熱心なケースが多いという印象を持っていたからだ。
(略)
 また、「この病院から見放された」という患者の思いを和らげる手法として、口頭での説明に加え様々なツールを活用するやり方もある。地域連携に積極的な病院の中には、逆紹介後も年1回の検査などで定期フォローする患者に対し、担当科の外来の直通電話番号などを記したカードを交付してきたケースもある。「あなたのことを見放してはいませんよ」というメッセージを伝えるのが狙いだ。こうした工夫を取り入れるには、医師と事務、連携部門などとの協力体制が欠かせない。

 一方で、常喜氏が指摘する「帰属意識」を高める取り組みは、相応の時間が掛かることが多いが、上記のような連携の仕掛けづくり自体が、スタッフのモチベーション向上につながることもある。例えばある民間病院では、逆紹介だけでなく紹介に関する業務もMSWに一括して担ってもらい、地域連携に関する様々な意思決定の権限も付与している。「信頼され、任せられている」ことが、スタッフにとって大きなやりがいになっているという。
 「ESなくしてCS(顧客満足)なし」というのは、経営の世界でよく語られる言葉だが、これは逆紹介への取り組みにもそのまま当てはまる。医療機関の機能分担の進展に伴い、紹介・逆紹介の最前線に立つスタッフの負担は一層大きくなる。病院の経営者や管理者には、対応を現場任せにせず、「組織管理」全体に関わる課題と捉え、腰を据えて対処することが求められる。

まあ単純粗暴型の問題顧客には強面のスタッフが効くと言うのはまま見られる話で、院内に顧客トラブル対応の専門家を置くのが昨今の流行りであるようなんですが、一見すると病院側の都合で進められているようにも見えるこうした対策が、実は大部分の普通の顧客にとっても満足度向上につながると言うことは留意いただきたいと思います。
さて、記事にあるようにスタッフの帰属意識、あるいは組織に対する忠誠心の高さが顧客満足度に直結すると言うのは別に医療に限った話でも何でもなく、古来店員がやる気のなさそうな店は不味いなどと言われたりするものですが、給与待遇等々で自分は報われていないと不満を抱えている人間が、顧客に対してだけいい顔をするとはとても思えませんよね。
とりわけ日本の場合医療現場はワンオペ牛丼店もかくやと言う多忙さで恒常的なオーバーワークを強いられている場合も多く、先日も日本の病院を視察したドイツ人医師が二交代制の看護師の長時間勤務に驚いたと言う記事がありましたが(ただし、二交代制の方がむしろ楽であると言う現場の意見も少なくないようです)、単純に過労が続けば気配りも行き届かないし表情も強ばろうと言うものですよね。
さらに多忙な医師に顕著に見られる傾向として患者が増えようが病院の利益にはなっても自分の得になるわけではない、故に働けば働くだけ損ではないかと言う考え方から診療を意図的にセーブする(とは言っても、やはり多忙であることには変わりないわけですが)とか、さらには応召義務から直接断ることは出来ないにしろ患者が自分から立ち去るよう意図的に乱暴な診療をすると言ったケースもあるようです。
まさにそれが故にこそスタッフの労働満足度(ES)の高さが顧客満足度(CS)向上につながると言うことであって、物理的な話に限っても患者がちょっとイレギュラーなお願いをした時にもにっこり笑って対応できるにはスタッフにもそれ相応の余力がいると言うことなんですが、ただそれだけで顧客満足度が左右されると言うわけではないのはもちろんです。

とある病院ではごく普通の患者だった人が、施設を変わったところとんでもないモンスター顧客になったと言う話は聞くところで、単純に肌に合わないと言うこともあるのでしょうが、とりわけ大学病院から市中のクリニックに逆紹介されると不安を覚えると言うのでしょうか、大学こそ至上と言う権威主義的観点からすると「何故オレがこんな場末のクリニックに」との都落ち気分から、つい周囲にきつく当たってしまうものなのかも知れません。
また一般論として顧客は不満が大きければ立ち去るもので、どこであれ長年そこにかかっていると言うことはそれなりに満足していたからこそ続いていたのだと考えると、逆紹介に限らず転院となった場合に新たな施設でより高い満足度を得る確率よりも、満足度が低下する確率の方が高いんだろうなとは思いますね。
要するに転院と言う行為は単純にお互いをよく知らないからこそ発生する誤解に留まらず、様々な意味で顧客満足度を引き下げる方向に働く要因となる行為であり、それがさらにはモンスター顧客を生む下地となるとすれば、やはり第一印象は非常に重要であり、まず「あ、ここはちゃんとしたいい病院なんだな」と思わせることで善隣的関係が開始され、モンスター化のリスクを引き下げることは出来るでしょう。
ただ受ける側にしても大学が見放したモンスター患者を引き受けるリスクを甘受したくはないはずで、冒頭の指針ではありませんが何かしらの理由があって機会的にモンスター化しているだけなのか、それとも真性のモンスターなのかと言うことを真っ先に見分け、必要なら断固として対応を区別していくと言うことは組織防衛上もスタッフのES向上の上でも、そして回り回って顧客満足度向上のためにも必要だと思います。

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コメント

私の経験では、前医への不満やトラブルを抱えている患者が一番危険です。

投稿: JSJ | 2014年12月13日 (土) 08時22分

前医がいたらなかったにしても、不満を我慢出来ない低沸点の患者だって傍証ではあるよね
病歴長いのに紹介状もなしで飛び込んでくるタイプは特に危ない気がする

投稿: 海野 | 2014年12月13日 (土) 08時41分

鼻にチューブ(ENBD?)入れたまま転院しようとしてきた患者はさすがにお断りしました。
胆石だかで入院中だったのを勝手に逃げ出して家から救急車呼んだらしいんですが。
いったい前医で何があったのかは怖くて聞けなかったです。

投稿: ぽん太 | 2014年12月13日 (土) 09時48分

高い給料もらってんだから文句ばっかり言ってないで仕事しろよ

投稿: | 2014年12月13日 (土) 11時39分

>高い給料もらってんだから文句ばっかり言ってないで仕事しろよ

元の病院にお返しした方が患者さんのためと判断すればそうします。
この手の患者さんは何らかの不満や不安を抱えていますので、よく話をきいて状況を確認し、
これまで受けてきた治療が適切なものであると判断される場合はそのように説明して(セカンドオピニオンみたいになりますが)
「紹介状にいい感じで書いておきますから安心してお戻りください」と言ってもとの病院にもどっていただきます。

なので、単純に引き受けるよりお戻りいただく方が余計大変です。

投稿: クマ | 2014年12月13日 (土) 13時44分

>高い給料もらってんだから
 気分が良い、悪い、の2値でものを云う馬鹿がまかり通るから、菊花病院すら消滅して地中海病院になってゆく。そろそろ医療者は見限った。 
 
 肝腎な情報(ごみはイラン)の伝達と人間関係の調整にどれだけコストが掛かるかわかってないうえ、自身は医療費を高々3割すら負担していないことも失念しているのか。どんなに崩れても自分には野垂れ死にはない、と嵩を括っているのだろう。こういう馬鹿を巻き込んだ福祉には余分な負担をしたくないという気分が 新自由主義を育てる。十二分に育ったようで先が楽しみ、でしょ、無名の工作員(もしくは只野莫迦)さん。

投稿: | 2014年12月14日 (日) 15時52分

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