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2014年12月 5日 (金)

高齢者在宅看取りの前に立ちはだかる壁

暖冬から一転して冷え込んできた今日この頃ですが、この時期高齢者の脳卒中なども急増するのは毎年のお約束で、本日の本題に入る前にまずは先日出ていましたこちらの記事を紹介してみましょう。

入浴中の高齢者、心肺停止9千人 寒暖差で血圧急変(2014年11月12日朝日新聞)

 冬場は高齢者の入浴の際に寒暖差に注意を――。高齢者の健康を守るための研究を続けている「東京都健康長寿医療センター」が呼びかけている。血圧の急変で入浴中に心肺停止になるお年寄りが目立っているという。
 センターが今年3月に公表した47都道府県の消防本部へのアンケート(全785本部のうち634本部が回答)では、入浴中に心肺停止し、救急搬送された65歳以上の高齢者が2011年に9360人にのぼった。
 男性4654人、女性4706人だった。年齢別では、80歳以上が5386人と約6割を占め、70歳代が3257人、65~69歳が717人。月別では1月が最多の1759人で、12月が1722人と冬が多く、最少は8月の165人だった。
 センターの高橋龍太郎副所長は「寒暖差での血圧の急変化が大きな原因」と語る。冷えた体で入浴し、血管が緩んで血圧が急に下がって脳に血液が流れにくくなり、意識障害を引き起こす。そのまま水死する場合もある。また、長く高温で入浴すると、発汗して血液量が減り、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞の引き金になりうるという。
 高橋副所長は「冬場は脱衣所が寒いままの場合が多い。入浴前には脱衣所を暖めるなど、部屋との温度差を小さくすることが必要」と指摘する。(川口敦子)

■入浴死を防ぐためのポイント

・脱衣所に小型暖房機を置くなどして部屋や浴室との温度差を小さくする
・入浴前にシャワーを出して浴室を暖める
・脱水状態を防ぐため、入浴前後にコップ1杯の水を飲む
・入浴中は家族がこまめに声をかける
・お湯の温度は41度以下でぬるめに
(東京都健康長寿医療センター研究所などから)

ときおり聞く話ですが毎朝ジョギングをしていた元気な年配の方が冬の朝に玄関先で倒れていた、などと言うのも同じ構図で、急に寒暖差の大きい環境に出ると言うのはそれだけで体に大きな負担をかけるリスクになりますし、また乾燥しやすい割に口渇を覚えにくいこの時期は意識して寝る前後、入浴前後など折々に水分補給をしておく習慣をつけておくのもいいかと思います。
そうは言ってもすなおに言うことを聞かないのが高齢者と言うものでもあって、独居の方々は仕方ないとしても子や孫世代が同居されている場合は単に口で言うだけではなく積極的に周囲環境を整えていくことも大事かと思いますが、若い人はあまり利用しないだけに意外と盲点になりやすいのが夜間のトイレであるようで、この時期は暖房や保温便座など何かしらの対策を講じておいた方がいいのかなと言う気もします。
前振りはそれとして、高齢者についてこのところ国の舵取りで病院から施設へ、さらには在宅へと言う流れが加速されつつある中でその看取り方と言うものも改めて注目されていくと思いますけれども、例えば積極的な延命治療の希望もなく施設で死にたいと希望しているにも関わらずいざ最後となると救急搬送されてしまう、そしてその結果救急受け入れ施設のリソースが看取りで浪費されてしまうと言った問題もありますよね。
そうしたせいもあってか今春には東京都病院学会による調査で「施設での看取りを促進して欲しい」と言う意見が救急病院から数多く出されたのだそうで、ならばさらに条件が厳しい在宅での看取りなどと言われても現場が対応出来るのかどうかですが、先日介護側の視点からこうした記事が出ていたことを紹介しておきましょう。

在宅での看取り、介護職との連携に課題(2014年12月3日日経メディカル)

 在宅での看取りの場面において、訪問看護師は、ケアマネージャーや介護福祉士などの介護職とケア方針を共有することに困難を感じていることが分かった。11月15日に都内で開催された第4回日本在宅看護学会学術集会で、西武文理大学看護学部看護学科在宅看護学講師の齊藤美恵氏が発表した。

 齊藤氏らは、高齢化率の高い関東地方のB県A地区にある訪問看護事業所60件の管理者(有効回答率60%)と事業所に所属する看護師(同42.6%)、計458人(同41.3%)を対象に、2014年2~3月、訪問看護師が看取りを行う上で直面する困難要因を明らかにするため、質問紙調査を行った。
 管理者には「常勤看護職員数」「事業所における看取り体制」などの事業所の概要を、看護職(管理者を含む)には「訪問看護における看取り体験」「看取りケアに対する満足感、難しさ」などを、それぞれ尋ねた。さらに、先行研究で明らかになっている、看取りの困難要素(療養者の体調の変化、家族との信頼関係、医師や関係職種とのケア方針の共有など、計10項目)について、実際に困難と感じる順に順位付けも求めた。
 回答した事業所の人員体制は平均5.3人(常勤換算)で、看護職の平均年齢は45.9歳、臨床経験年数は「10年以上」が91%、訪問看護の経験年数は「5年以上」が55%を占めた。雇用形態では正規職員が64%だった。

 88.9%の事業所が24時間体制をとり、91.7%が看取りを行っていた。夜間や緊急時の連絡体制は、約70%の事業所が患者の主治医と連携体制を構築していた。日ごろ関連の多い職種は、医師(22%)、ケアマネージャー(21%)、介護士(14%)などだった(複数回答)。
 調査対象の看護職に対し、看取りにおける困難要素について尋ねたところ、順位相関から6項目が挙がった。最も多かったのは、「医師以外の職種と、関係機関(病院・診療所、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所)との間でのケア方針の共有」で、「医師と医師以外の職種との間でのケア方針の共有」がそれに続いた。次いで、「医師と関係機関との間でのケア方針の共有」が多く、上位3つまでが他職種間の連携に関係し、訪問看護師は間に入って連携をとる必要がある場合に困難感を抱いていた。一方、医師との連携は比較的取れていることも示唆された。4位と5位は療養者の体調の急激な変化に関するもので、家族との信頼関係の構築については、6位で最も低かった
 また、看取りにおいて「困難」を「とても感じている」は45%、「やや感じている」は53%だったが、一方で、行った看取りに対する満足感は「やや満足している」が55%を占めた。雇用形態でみると、非正規職員と比べて、正規職員では困難に感じながらも満足感を持つ看護師が多かった

 齊藤氏は、「A地区は高齢者が多く、介護保険による利用者が多いため、看護師は主治医よりむしろ、ケアマネージャーや介護福祉士などとの連携を困難と感じやすいようだ。一方で、家族との関わりを困難と感じる順位が低いのは、経験年数が10年以上の訪問看護師が多いことが影響しているのではないか」と考察した。
 また、同氏は、「介護職は人の死に立ち会う機会が極めて少なく、看取りを支援することに不安を覚える場合が多いようだ。しかし、在宅療養者と共に過ごす時間が長いのも介護職であり、不安をいかに和らげるか、どのようなケアを行えば良いのかを理解してもらう必要がある」と述べた上で、その効果的な手法として、「一緒に訪問してケアをすることで、ケア方針も共有されていくのではないか」との考えを示した。

医療と介護の視点の違いと言うこともありますが、看取りと言いながらやはり視点が「生きている間」に向きがちであるとも感じられる点、そして経験数も自然に増えるだろう正規職員の方が看取り満足感が高いと言う点に留意いただきたいところです。
これをもってそれなりに対応の態勢が取られつつあると見るべきかお寒い数字だと見るべきかはともかくとして、注目いただきたいのは「夜間や緊急時の連絡体制は、約70%の事業所が患者の主治医と連携体制を構築していた」と言う部分で、24時間対応を行い看取りもしていると言う施設が9割前後あることに対してこの数字の差をどう考えるかですよね。
入院もそうですが施設入所者と在宅とで違いは何かと考えた場合に、定期的なスタッフの見回りがない在宅ではどうしても何であれ発見が遅れる理屈で、すなわち看取りにしても素人目にも完全に亡くなっていると言う状態になってから見つかるケースが多いと思われるのですが、こうした場合にさてどうする?と言うシミュレーションをどれだけ行っているかと言うことがポイントになりそうです。
昔まだ医療が誰にでも容易にアクセス出来るものではなかった時代には、夜間に亡くなっているのに気付いても翌朝まで待ってから医者を呼びに行ったなどと言う話も聞きますけれども、今の時代看取り慣れていない家族ではいざその時どうすべきなのかもとっさに判断出来ないでしょうから、よほどによく段取りをつけておかないととりあえず救急車を呼んでしまうと言うのはありがちなことだと思います。

要するに在宅看取りを推進するならいざその時に取りあえずどこに連絡すればいいかと言う連絡先を徹底しておく、それも24時間365日迅速に対応出来るようにしていなければならないはずなんですが、この点で記事から介護側の大半が24時間態勢を組んでいると言うのは心強いものである一方、どんな看取りであれ法的に唯一関与が必須な存在である医師の方がそれについてきているかと言う課題がありそうですね。
結局死亡診断は医師にしか出来ないと言うのが最大のポイントなのですが、例の24時間電話対応をうたう時間外対応加算なども6割の医師が一人で対応していたと言い、それでは連絡がついたとしても業務等の兼ね合いもあり出かけて行って死亡診断書を書けるかどうかも微妙で、下手すると「それじゃ救急車呼んで病院行って」で済ませてしまう(済ませざるを得ない)場合の方が多いかも知れません。
この辺りはいざそうなる以前の日常的な病診連携などとも絡むテーマで、むしろ地域で医療機関と言えば旧町立病院一つきりと言った僻地の方が縦の体制構築は容易いんじゃないかと思いますけれども、病院選択枝が多くなる都市部では例えば在宅クリニックがもし在宅看取りに対応出来ない時にバックアップの病院なりを確保出来るのかどうか、またその病院が必ずいつでも対応してくれるのかどうかも考えておく必要がありそうです。
いずれにしても記事からも判る通り未だ在宅看取りのシステムは構築の途上と言うしかなく、いきなり全員在宅看取りと言うのではなくとりあえず比較的簡単そうなケースから経験を積んでいくしかないと思うのですが、まさにその点で「介護職は人の死に立ち会う機会が極めて少な」いことが大きな壁ともなりかねないところで、看取ると言うこと自体にも慣れ親しんでいく機会を今後どう求めていくかですよね。

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コメント

浴室床暖房はききますよあれ

投稿: | 2014年12月 5日 (金) 09時01分

理想的なピンピンコロリだと思います。>入浴中の高齢者、心肺停止
遺族としては警察沙汰になるのが嫌でしょうけど。

で本題のほうですが、定期的に診療している患者なら、翌朝診断書を書きに行けばいいのでは?
>結局死亡診断は医師にしか出来ないと言うのが最大のポイントなのですが、例の24時間電話対応をうたう時間外対応加算なども6割の医師が一人で対応していたと言い、
>それでは連絡がついたとしても業務等の兼ね合いもあり出かけて行って死亡診断書を書けるかどうかも微妙
(参考)http://apital.asahi.com/article/nagao/2014031600008.html

投稿: JSJ | 2014年12月 5日 (金) 09時15分

一番の問題は、なくなった後ではなく、なくなる直前(数日間)ですよね。
その部分での症状の出現を家族が許容できるか、許容できるように周囲が(介護士含む)サポートできるか、ということでしょう。

息が苦しそうだから、意識がなくなったから、動転した家族が救急車呼びました!

これがリソースを一番削がれます(まだご存命のため、救急対応で濃厚治療をしなくてはならなくなります)。

投稿: | 2014年12月 5日 (金) 10時12分

基本的には医師も含めて医療の応需が限定される状態で顧客満足度を維持出来るかどうかが課題であって、逆にこの部分が問題ないケースであれば対応にはさほど苦慮せずとも済むかと思います。
その意味で初期には家族の理解もあり、本人に苦痛がない状況の患者さんから症例を選んで経験を積んでいくのがいいかと思いますが、概ねこうした方々は長期入院(入所)している場合が多いですね。
家族の介護力保持と言う点では介護から離れるほど低下していくと思われますから、担当医は入院初期から在宅看取りを見据えて計画を立てていく必要もありそうです。

投稿: 管理人nobu | 2014年12月 5日 (金) 10時40分

そもそも家族に面倒みさせられるかどうかが一番のハードルでしょ?
核家族化で年寄り同居が減ってるのに死ぬときだけ面倒引き受けたくないよね

投稿: | 2014年12月 5日 (金) 15時28分

結局、救急外来とか急性期病院とか療養型病床に高齢老衰者に使う医療費が勿体ないから「高齢老衰者は病院に救急で行かず自宅で死ね」とかいう話に転嫁してるだけでしょ。それで介護や在宅を推進して家族や在宅医に押し付けてるだけ。
ただ今まで老衰者でも病院で救急対応してきた長年の習慣をいきなり価値観を変えろと言っても無理。
そもそも老衰なのか急病なのかを家族や在宅医に判別させろというのも無理な話で、病院に連れて行って検査しなければわからない事も多い。
いくら高齢者でも肺炎とか心筋梗塞とか病院で適切な対応をすれば救命できる病気もある。
スーパー救命医上がりの在宅医ならまだしもそれ以外の在宅医にはただ看取ることしかできないんじゃないですか?
家族や在宅医に少しでも良心があれば病院で検査や治療を受けさせるのが普通の感覚だと思いますが。
そんなのカネがかかるからムダだからやめとけというのは何か違和感がありますね。

投稿: アンチ在宅死 | 2014年12月 5日 (金) 18時04分

ただ看取るだけの何が悪いの?

投稿: | 2014年12月 5日 (金) 18時28分

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