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2014年12月24日 (水)

産科の現状は未だ改善途上?

昨年最高裁で原告勝訴が確定した奈良県の産科医時間外労働訴訟ですが、前回勝訴した2004~2005年に続いて2006年以降についても原告勝訴の高裁判決が出たようです。

旧奈良病院の当直訴訟 二審も「全て労働時間」 産科医に割増賃金 大阪高裁(2014年12月19日産経新聞)

 県立奈良病院(現奈良県総合医療センター)の産婦人科医の当直時間帯すべてが「労働時間」に当たるかが問われた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は19日、一審奈良地裁と同様に労働時間と判断し、病院側に未払いの割増賃金など計約1280万円の支払いを命じた。

 病院側は、患者の急変など業務に携わる時間だけを割増賃金の対象としてきたが、水上敏裁判長は判決理由で「当直の全時間を通じ病院長の指揮命令下にあり、十分な休息を確保する見込みはない」と退けた。

 訴えていたのは産科医2人。2006-07年、当直勤務をそれぞれ1200時間以上こなした。

 昨年9月の一審判決は奈良県に約1900万円の支払いを命じたが、控訴審は「医師数の増員など、病院側も労働密度の低下にある程度努力している」として、付加金(制裁金)を減額した。訴訟を引き継いだ県立病院機構は「判決を精査し対応する。今後も医師の処遇改善に取り組む」とコメントした。

県立病院機構に1280万円の支払い命令- 奈良・産科医訴訟で大阪高裁(2014年12月19日CBニュース)

奈良県総合医療センター(旧県立奈良病院)の産科医2人が、同センターを運営する県立病院機構を相手取り、2006、07年分の宿日直勤務(当直勤務)の時間外割増賃金などの支払いを求めた訴訟の控訴審で、大阪高裁(水上敏裁判長)は19日、割増賃金と付加金合わせて約1280万円の支払いを命じる判決を言い渡した。【敦賀陽平】

控訴審で同機構側は、当直中の一部の業務については手当を支払っているとして、すべての時間帯で割増賃金を支給する必要はないと主張したが、高裁判決は、当直中の医師は病院の指揮命令下にあり、全時間が労働基準法上の「労働時間」に当たるとする一審判決を支持する内容となった。

同機構の榊壽右理事長は、「厚生労働省の通達の趣旨を踏まえ、宿日直制度を見直したにもかかわらず、裁判所に認められなかったのは誠に残念に思う」とコメントした。

判決は当初5月の予定だったが、県立病院の独立行政法人化に伴い、控訴人が県立病院機構に代わったことによる影響などで大幅に遅れた。

昨今のブラック企業に対する厳しい世間の目線を考えてもまあ当然かと思う結果ではあるのですが、しかし公立病院などでは医療訴訟になった場合、医師らの目からすればそんな条件で?と思うような和解や判決をあっさり受け入れている事例が目立つ印象があったのですが、今回被告側が負け戦が見えてもここまでしぶとい対応をしていると言うのも今後に対する影響がそれだけ大きいと考えているのでしょうか。
実際には奈良県だけがひどいことをしていたと言うわけでもなく、全国的にどこでも似たり寄ったりな状況があるのだと思いますが、一連の判決を受けて自主的に当直報酬を改めると言う動きが全国的にそれほど活発化しているようにも見えず、医師側からのアピールがない限りはだんまりを決め込んでいる施設も少なくないのかも知れません。
また報酬体系を改めるにしても特に公立病院であれば予算の制約もあるでしょうから、無条件に増やすだけと言うわけにはなかなかいかずどこかを削らなければならないでしょうが、例えば当直は割り増しでつけるが本給は削ってプラマイゼロ的なことをされたのでは意味がない話で、この辺りは医師の側も月々の報酬がどうなっているのかをチェックしていく必要はあるのだろうと思います。
ともかくも先日も関連学会から産科医不足に対応して特に基幹施設には多数の医師を集約化し過重労働を避けよとの提言があったように、給料だ当直代だと言う以前にまず勤務環境改善も必要だと言う話ですが、医師数が大きく増える当てがない以上はまとめて運用し交代勤務にするか、それとも需要そのものを制限するかと言った大胆な対策が必要になるのでしょうか。
さて、同じ産科にちなんだ話題と言うことでもう一つ取り上げてみたいと思いますが、先日産科無過失補償制度の運用開始後6年間の集計が公表されたと言うニュースが出ていましたが、こちらの記事から紹介してみましょう。

産科医療補償、対象事例は1126件- 運用開始後6年間で、制度運営委(2014年12月18日CBニュース)

産科医療補償制度運営委員会(委員長=小林廉毅・東大大学院教授)は18日、分娩の際に発症した重度脳性まひ児の経済的負担を補償する産科医療補償制度の運用が始まって以降、12月5日までの約6年間で計1126件を補償対象と認定したことを明らかにした。一方、補償申請を受けたものの、対象外と判断した事例は208件あったことも示した。【松村秀士】

同運営委員会は、18日に開いた会合で、これまでの補償対象件数などを集計したデータを公表。それによると、制度開始の2009年1月から今年12月5日までに、1340件を審査し、このうち1126件を補償対象と認めた。再審査が可能なケースも含めた補償対象外の事例は208件で、継続審議が必要な事例も6件あった。

補償対象外の事例のうち、対象範囲に適合しなかった理由で最も多かったのは、「在胎週数28週以上の個別審査で補償対象基準を満たさない」で、99件だった。このほか、「児の先天性要因、または新生児期の要因によって発生した脳性まひ」(36件)、「重症度の基準を満たさない」(19件)などもあった。

18日の会合では、来月からの同制度改正に向けた準備状況について、事務局が説明。具体的には、▽制度や補償申請に関するハンドブックの改訂▽分娩機関や診断協力医などへの改正の周知▽システムの改修―などを進めているとした。

ちょうど来年1月に制度改正を行うと言う話なんですが、年間200件弱と言いますと制度発足後の周知徹底の期間も含まれていることを考えても当初予想の500人以上と言う規模からはずいぶんと少ないなと言う印象ですし、実際に1000億円規模の保険料剰余金も発生していることが制度見直しの一つの大きな動機だと言いますが、それ以上に気になるのが補償対象外と認定されたケースです。
そもそも審査にかけられる症例自体が予想よりもずいぶんと少ないのですから甘めの審査をしているのかと思いきや、2割近くが審査で振り落とされていると言うのですからかなり厳しいんだなと感じるのですが、当然ながら届け出を行うに当たっては医師に相談もするでしょうから、足切りに引っかかるケースがこれだけ出ると言うのは現場医師の間で制度の対象がうまく理解されていない可能性がありますね。
ちなみに制度上の補償対象となる条件も1月の改正でもう少し広めに取られるようになったのは当然だと思いますが、せっかく届け出ても却下されたのでは関係者の失望も大きく下手をすれば新たな紛争の原因にもなりかねないですから、運用面においても少なくとも認定数が限られているうちはなるべく弾力的に行っていただければとも思うのですが、ともあれこの制度によって産科医療がどう変わったのかが気になりますよね。

そもそも医療紛争を回避するためと言う目的もあったこの制度ですが、本来の無過失補償と違って各症例を審査し(名目はともかく)実質的にはどこにどのような過失があったかチェックしていると言うのが最大の特徴であり問題点でもあって、処罰目的ではないとは言え報告書を見て大きな失敗、過失があると記載されているにも関わらず全く処罰感情を抱かずにいられるほど出来た人間もそう多くはないだろうと思います。
この辺りは昨今話題の医療事故調制度などでも議論になるところですが、興味深いのは産科補償制度にも運営委員として加わっている御高名な勝村久司氏が「これからは、この補償制度が裁判の代わりになる」と公言していると言う点で、小松秀樹先生などはこの制度が行政処分等とも連動されれば実際上憲法に禁止されている特別裁判所となり、本来司法の場において守られるべき権利が侵害される危惧を表明しています。
最終的にはもちろん現場の産科医の先生方がどのように制度を受け止め行動するかと言う点から効果を判断するしかないのですが、近年医学部定員増加に伴い順調に増えてきている総医師数に対して産科医数の増加率は未だそれを下回る状態が続いているのだそうで、今のところ必ずしも顕著な効果があったとは言えないようです。
ただ産科医が少ない、地域によっては減少傾向にさえあると危機感を持って語られる一方で、産科医一人当たりの分娩取り扱い数は横ばいないし微減なのだと言いますから、そもそも少子化の時代にあって産科医自体の需要も減っていくと言う現実がベースラインにあるべきでもあって、その上で限られた産科医をどう効率的かつ様々な意味で安全に働かせるのかと言う方法論を議論していくべきなのでしょう。

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コメント

呼び出しの当番も拘束なのにお金まともに出ないですもんね。
ああいうのもブラック並みなんですかね。

投稿: ぽん太 | 2014年12月24日 (水) 10時58分

産科医増え過ぎたら過当競争で潰れちゃうとこも出たりしてね

投稿: | 2014年12月24日 (水) 14時43分

奈良の裁判は県立病院機構が上告してまた最高裁行きになったらしいw

投稿: | 2014年12月28日 (日) 09時48分

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