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2014年11月26日 (水)

医学部教授の価値が絶讚暴落中?

フリーランスの麻酔科医である筒井冨美先生が、自ら取材協力したというテレビドラマについてこんな記事を書いていました。

『ドクターX』に見る医療現場の真実…医大教授はなぜ落ちぶれたのか(2014年11月20日DMMニュース)より抜粋

(略)
 2013年放映の『ドクターX』第2シリーズでも大学病院における外科教授選を扱っているが、そこに登場する教授には財前教授のような輝きはない。藤木直人が演じる近藤教授はイケメンで女にはモテるが手術ではチョンボばかりだし、遠藤憲一が演じる海老名教授は上に厚く下に薄い中間管理職で「御意」が口癖、西田敏行が演じる蛭間教授は手術よりも院内政治に忙しい。「自分が患者だったら誰に手術されたい?」と訊かれたら「どれもビミョー」。教授の数そのものは増えたが質は低下……ドラマで描かれたこの現象は、リアル大学病院においても進行している。

 昭和の時代、当時の大学病院には若手医師が溢れていた。医大教授とは「医局における絶対君主」であり、医師にとって垂涎のポストであった。というのも、当時の教授や大学医局は医師就職情報を一手に握っており、人気病院への就職には教授推薦が不可欠であったからだ。
 教授や医局に逆らえばマトモな病院に就職できないだけではなく、薄給を補う当直アルバイトの口すら見つけることが困難となり(実は、大学病院の下っ端の勤務医は激務のわりに基本給はそれほど高くない)、たちどころに生活に困窮した。また、病院側としても優良医師を安定的に派遣してもらうには教授との円満な関係が不可欠で、「顧問料」「研究費」「協賛金」といった名目での水面下の“実弾”は半ば常識だった。

 2004年4月、ドラマ『白い巨塔』放送終了の翌月から、厚労省によって新研修医制度が導入された。それまで伝統的に母校の附属病院に就職していた新人医師たちは、卒業2年間は特定の医局に属さず、「外科2カ月→小児科2カ月→精神科1カ月……」と、いろんな科をローテートすることとなった。
 同時に、封建的な大学病院を嫌って都会の大病院を目指す若者が増え、大学医局の衰退がはじまった。大学医局の生命線であった「安定した新人供給」が断たれた。だからといって、患者数は減らないし、増え続ける医療訴訟の対策として「医療安全」「感染対策」などの書類や会議は増える一方であった。
 シワ寄せは、残った中堅医に過重労働としてのしかかった。大学病院や都内有名病院においても「医師集団辞職」が頻発し、「医師不足」「医療崩壊」といった記事がマスコミを賑わすようになった。
(略)
 でもって、リアルな大学病院では「医師不足」をどう解決するか……。フリーランス医師と契約するケースも稀にはあるが、実は、大学病院ならではの、お金のかからない手っ取り早い方法がある。

 近年、「病院教授」「臨床教授」「特任教授」といった肩書を持つ医師が増えた。医局トップを務める「主任教授」の他に、個々の病院独自でこういった“ナンチャッテ教授ポスト”を設け、「中高年医師を引き留めるためのエサ」にしているケースが多いのだ。こうしてなんとか、若手医師不足の穴埋めをしているわけである。
 また、現在50代以上の「リアル白い巨塔」時代を経験した世代にとっては、まだまだ「教授」と呼ばれることにはそれなりの魔力があるらしい。
「教授の肩書は1年につき500万円」と、某私立医大幹部はこっそり語ってくれた。「市中病院だと年俸1500万円でも契約しなかった医師が、教授の肩書を提供したとたん、1000万円で合意」ということがあるそうだ。その結果、「研修医の数よりも教授の数のほうが多い」という大学病院がフツーに存在するようになった。
 中には「医局員の半分以上が○○教授」みたいな医局も実在しており、そういう医局における「教授」とは「絶対君主」というより「中間管理職」に近く、「当直ノルマのある教授」も珍しくなくなった。

 さらに、医局の衰退やインターネットの発達にともなって、医師転職業者が発達した。「凄腕だが教授に睨まれて冷遇されている外科医」が、「高額年俸で民間病院に引き抜き」というのも珍しくなくなった(『ドクターX』第1シーズンでも、「年収3倍」で大学病院から転職する医師が登場している)。
 その結果、「凄腕」タイプの医師は30~40代のうちに転職したり開業したりしてしまい、どこからも声がかからなかった「可もなく不可もなく」タイプが残って「年功序列で教授に就任」というケースも増えている。こういった医局では、教授の肩書きは「医師として有能」であることを証明するものではなく、むしろ「残り物にはワケがある」系の、「このセンセーが開業したら、ソッコーで潰れそう」な爺医だったりする。
 日銀が1万円札をバンバン刷ればその価値が下がるように、教授の肩書きを乱発すれば、当然ながら教授の価値は下がるのである。今や、ほとんどの若手医師にとって「教授」とは垂涎ポストではなく、粗製濫造の「○○教授」があふれる大学病院の姿も、若手医師の大学病院離れを加速させている一因だと思われる。
 といっても、すべての医大教授が凋落したわけではない。「iPS細胞の山中伸弥教授」「天皇陛下の心臓手術を執刀した天野篤教授」のように、若手が向こうから集まってくるようなスター教授も実在する。「教授」というだけで無条件に敬ってもらえる時代は終わった。今後も生き残れる教授とは結局のところ、研究やら手術の腕やら何がしかの分野で卓越した実力があり、「ウチの教授はスゲェよ」と周囲から自然に敬われるタイプではないだろうか。

医局の(少なくとも名目上は)トップである大学教授の権限もこれまた大学によるようで、古くから続く歴史と伝統ある医学部では講座生え抜きの医局長あたりが人事面を全て管理していて、他大学から招かれた外様の教授は権威はあれども権力はないと言う状況に置かれているところもあるやに聞きますが、ともかくもこのところの大学では何とか教授なるよく判らない肩書きの先生がやたらと増えたのは確かですよね。
医師の場合はもともと大学教員の給与など外病院と比べて知れたものですから、名目的に役付きにしてポスト相応の色をつけることで優秀な医師を招きやすくすると言う意味があったのだろうし、実際に論文よりも手術の腕と実績で選考され臨床教授として後進の指導に当たっている立派な臨床家の先生方も少なくありませんから、大学の役職が増えると言うこと自体は別に悪いことではないのでしょう。
この辺りはむしろ予算の都合上部門事のスタッフ定員が決まっている各地の国公立病院などの方が厳しい場合もあるようで、実際には常勤的にハードワークをしている30代辺りの中堅の先生方が名目上は日雇いの非常勤として給与も不当に低く抑えられていたりもするようですから、給与体系そのものをもう少し実態に即したものにしなければ現場の士気も上がるはずがありませんよね。
ただ記事にもあるように待遇の悪さを肩書きと言う名誉で誤魔化すだとか、どこにも行き場がないまま大学で歳だけ食ってしまった古株の先生方の受け皿としてポストを作ると言ったやり方は本来の意味合いとは違っているのだろうし、若い先生方にとってもこうした現状を見て自分も大学で頑張ろうと言う気にはならないんじゃないかと言う気がしますが、現状ではこれもある種の必要悪と言うことになるのでしょうか。
ともかくも昔のように臨床であれ研究であれ何かしら一芸に秀で一目も二目も置かれている教授像とは違う、何かしら粗製濫造的な教授と言うものが一部には出てきているのだとすれば教授という権威も揺らぎかねないと言うものですが、そういう視点から見るとなるほどと思えるような不祥事のニュースが先日出ていたことを紹介してみましょう。

教授がパワハラ「結婚は三角 出産はバツ」(2014年11月20日NHKニュース)

前橋市にある群馬大学医学系研究科の40代の男性教授が、部下の教職員に対して、適正な範囲を越えた休日出勤を強要したほか「結婚は三角、出産はバツだ」と女性職員を蔑視する発言などを繰り返し、パワーハラスメントを行っていたとして、大学はこの教授を懲戒解雇の処分にしました。

懲戒解雇の処分を受けたのは、群馬大学医学系研究科の40代の男性の教授です。
大学によりますと、この教授は、おととし1月から去年8月にかけて、自分の研究室に勤める教職員合わせて5人に対し「月曜日に仕事をするためには土日に働かなければならない」と言って、業務の適正な範囲を超え、休日出勤を強要したほか、女性職員に対しては「結婚は三角、出産はバツだ」と女性を蔑視する発言などを繰り返していたということです。
教職員の訴えを受け、大学で調査委員会を設置した結果、この教授の言動がパワーハラスメントに当たると判断し、20日付けで懲戒解雇の処分にしました。
教授は「反省しているが指導の範囲と考えているものもある」などと話しているということです。
群馬大学の井手孝行副学長は「将来がある研究者の芽を摘む行為で許されない。大学を挙げてハラスメント防止に努めたい」と話しています。

群馬大:パワハラで40代教授を解雇(2014年11月20日毎日新聞)

 群馬大は20日、部下の教員5人にパワーハラスメントや暴言を繰り返したとして、大学院医学系研究科の40代の男性教授を懲戒解雇したと発表した。

 大学によると、教授は2012年1月〜13年8月、同じ研究室の助教や講師の男性4人と女性1人に対し、退職や休日出勤を強要したり、長時間にわたり叱責、侮辱したりしたとしている。女性に対し、「結婚は三角、出産はバツ」との趣旨の発言もあったという。5人のうち2人が退職した。

 教授は大学の調査に対し女性蔑視発言を認めたが、他の行為については「指導の範囲内」と説明したという。大学側は教授を諭旨解雇とすることを決め、退職願を書くよう勧告したが、本人が拒否したため20日付で懲戒解雇とした。

 群馬大医学部付属病院では今月、腹腔(ふくくう)鏡手術で患者8人が相次いで死亡する問題が発覚したが、懲戒解雇された男性教授は、この問題には関わっていないという。【尾崎修二】

群馬大、パワハラで教授を懲戒解雇 退職や休日出勤強要(2014年11月20日朝日新聞)

 群馬大学は20日、研究室の部下にパワハラを繰り返したとして、大学院医学系研究科の40代の男性教授を懲戒解雇したと発表した。当初は退職手当が出る諭旨解雇だったが、退職願の提出に応じなかったという。

 大学によると、教授は2012年1月~13年8月、研究室の助教と講師の男女計5人に、退職や休日出勤を強要。「結婚△出産×」などの発言で結婚や出産をする女性研究者を非難し、「ポストを空けるため(他大学などに)応募しろ」などと言い、3人が精神的な病気で休み、2人が退職した。教授は大学に発言を認めたが、一部は「指導の範囲」と話しているという。

 大学側は13年4月に調査委員会を設け、その後、被害者との接触を禁ずる業務命令などを出していた

風の噂によれば講座内で教授と下のスタッフとの間にもともと対立的な関係もあったようで、講座の運営に支障を来していることの方がむしろ大きな解雇理由だったのでは?と言う声もあるようなんですが、本気で研究をやるのであれば土日出勤も当然だと言う考えが根底にあったのだとすると、女性に対するやや意味不明の発言にしても同じ文脈で理解すべきなのでしょうかね?
この辺りは人によっても考え方が違うのでしょうし、実験の進め方によっても方法論は様々にあっていいことだと思いますが、ウィークデーはきっちり実験をして週末は自宅で文献のチェックと翌週以降の実験計画作成と言ったやり方もあるはずですから、長時間研究室にいる者が研究者として上等なのだと言う価値観を部下にも強要したと言うのであればさすがにどうなのかでしょう。
ただ3年ほど前には山梨大医学部の教授が女子の院生に日常的にパワハラ的言動を繰り返し休学にまで追い込んだ問題が報じられましたが、当時の反応としては「この程度どこの講座でもやってることなのに」と言った意見が少なからずであり、実際に大学側から下された処分もわずかに1万円(1カ月)の減給処分と言う形ばかりと言えるほど軽微なものであったことを考えると、被害者が複数とは言え今回妙に厳しい処分には感じられるでしょうか。

もちろん今の時代にこの種のパワハラめいた言動は厳しく罰せられる流れではあるし、記事にもあるように群馬大医学部と言えばつい先日腹腔鏡手術に関する大きな騒動があったところですから、こうまで断固たる厳しい処分を課したと言うのも綱紀粛正を図らざるを得なかった事情もあったのかも知れませんが、記事に出た件だけでなく他にも余罪があったのでは?と勘ぐる声も出てくるのは当然ではありますよね。
前述のように一昔前の教授と言えば少なくとも何かしら一芸に秀でていたもので、逆に言えば人生の大半を一芸の追及にばかり費やした結果その他の部分で大幅な欠落・欠損がありそうな方々も多かったものですけれども、そうした古典的な教授の奇行ぶりを知っている世代からすると「この程度で懲戒解雇?」とも感じられる話であり、教授の「一山いくら」化を示しているのだとすれば時代の変遷を示す事例ではあるのでしょう。
もちろん同じような事件であっても大学ごとに判断が異なってくるのは当然で、今後他大学も同じような基準での処分を行っていくと言えるものではないでしょうが、市中病院なら部門のトップがこの種のパワハラで懲戒解雇と言う話もあまり聞かないだけに、給料も悪いくせにうるさいことばかり言う大学勤務などまっぴらゴメンだと考える先生がますます増えるとすれば、さらに教授と言うものの価値が下落していくのかも知れませんね。

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コメント

と言うよりもともと教授の価値なんて幻想

投稿: | 2014年11月26日 (水) 08時10分

私立なんかはどんどん講座作って教授の肩書き増やしてますね。
スポーツ医学教授とか輸血センター教授とか
大体が他の教室からの横滑りですが

今の時代は東大教授なんかも昔よりはかなーり旨味は無いんでしょうねぇ

投稿: | 2014年11月26日 (水) 08時15分

ちょっと前に解剖学講座がいくつもあるの統合したらって大学の同期と話してたんですけどね。
なんでもかんでも教授の肩書きつけるのはやっぱり満足度の関係なんですかね?
さすがにこうまで増えると馬鹿馬鹿しい気がしますが。

投稿: ぽん太 | 2014年11月26日 (水) 08時56分

個人的には教授と言われるとやはり部門の責任者と言うイメージが根強いので、中間管理職的な役職であれば別な名前を考えるべきだったかと思うのですが、教授として呼んでおいて今さら改称するのも無理なんでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2014年11月26日 (水) 11時32分

パワハラで解雇の群馬大の教授は大学を訴えるらしいですよ。

投稿: | 2014年12月 2日 (火) 12時08分

裁判沙汰になっているので当然都合の悪いことは言わないのでしょうが、こちらの記事を見る限りではそうお歳でもないのに昔気質の先生なんだろうなと言うのか、個人的に古い記憶を思い出すところが多々ありました。

パワハラで解雇の群馬大教授、大学を提訴の意向
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/201412/539655.html

投稿: 管理人nobu | 2014年12月 3日 (水) 10時17分

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