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2014年11月27日 (木)

受精卵の染色体スクリーニング始まる?

不妊医療と言うものが年々進歩してきている中で、自然妊娠が難しい方々も子供が持てるようになったと言う光明と共にその問題点も注目されるようになってきましたが、先日こういうニュースが出ていたことを御覧になったでしょうか。

受精卵検査の範囲拡大へ 学会倫理委、臨床研究案を了承(2014年11月26日朝日新聞)

 体外受精させた受精卵の染色体を幅広く調べ、異常のないものを子宮に戻す「着床前スクリーニング」について、日本産科婦人科学会(日産婦)の倫理委員会は25日、臨床研究として実施する計画案を了承した。学会の理事会が実施の可否を判断し、認められれば来年度にもスタートする。

 日産婦の指針では、受精卵検査は、重い遺伝病があったり染色体の異常で流産を繰り返したりしている夫婦に限って、原因となる特定の染色体を調べることを認めている。着床前スクリーニングは、流産を防ぐ目的ですべての染色体を調べるため、ダウン症など様々な病気がわかる。「命の選別」につながるとの批判もあり、これまで認めていない。

 しかし、すでに実施している欧米では妊娠率が上がったとの研究結果もある。日本でも効果の有無を確かめるべきだとの意見を受け、日産婦は、産婦人科医や生命倫理の専門家らで小委員会を2月につくり、臨床研究の計画案をまとめた。


新たな受精卵診断の臨床研究案まとまる(2014年11月26日NHKニュース)

体外受精をしても妊娠できなかったり流産を繰り返したりする女性を対象に、受精卵の染色体を特殊な検査法で調べ、異常がないものだけを子宮に戻す、新たな受精卵診断の臨床研究案を、日本産科婦人科学会の倫理委員会がまとめました。
出産の確率を高められるか調べるのが目的ですが、ダウン症などの病気があるかどうかについても同時に分かることから議論を呼びそうです。

新たな受精卵診断の臨床研究案は、日本産科婦人科学会の倫理委員会が25日承認したもので、対象となるのは、体外受精をしても3回以上着床しなかった女性と、流産を2回以上経験した女性です。
体外受精の際、受精卵の染色体に異常がないかどうか「アレイCGH」と呼ばれる方法で調べ、異常がない受精卵を子宮に戻すことで流産のリスクを減らし、出産の確率を高められるかを調べます
ただ、この検査法では、23対あるヒトの染色体の異常が一度にすべて分かるため、流産を引き起こす染色体の異常だけでなく、ダウン症など出産の可能性がある染色体の病気や、男女の性別についても一緒に結果が出ます
倫理委員会では、これらの検査結果について、どこまで本人に伝えるかは、今後さらに議論するとしていますが、専門家は、より完璧な赤ちゃんを選ぶという傾向を助長するなど倫理的な問題も生じるのではないかと指摘しています。
また、学会の指針でも、受精卵の診断は、重い遺伝病の子どもが生まれる可能性がある場合などに限るとしていて、不妊治療を受ける女性一般を対象に、流産の予防を目的とした検査は認めていません
日本産科婦人科学会の苛原稔倫理委員会委員長は「学会の指針を変えるわけではない。あくまでも出産を望む妊婦にとって効果のある方法か、医学的な検証のために行うものだ」と話しています。
学会では今後、シンポジウムを開いて広く意見を聞くなどしたあと、理事会で協議し、承認されれば、来年にもこの臨床研究を実施することにしています。

染色体の異常が一度の検査で

今回の臨床研究で使われるのは「アレイCGH」と呼ばれる検査法です。
ヒトの染色体は23対、合わせて46本ありますが、この検査法を使えば、さまざまな染色体の異常を一度の検査ですべて調べることができます。
その結果、流産を引き起こす染色体の異常のほかにも、ダウン症など出産の可能性のある染色体の病気や、男女の性別についても、一度に結果が出ることになります。
この検査法に詳しい東京女子医科大学の山本俊至准教授は「これまで受精卵の検査は、特定の染色体を調べることしか許されなかったし、すべての染色体を調べることは技術的にも困難だった。だが、この方法では、すべての染色体の異常を分かるようになり、ほぼ100%、流産するような受精卵を選び出すことが可能になった。一方で、ダウン症についても、受精卵の段階で分かるといった倫理的な問題も、この技術は含んでいる」と話しています。

「一般の国民にも理解と議論を」

日本ダウン症協会の玉井邦夫代表理事は「受精卵の段階で障害が分かることで、生まれてからの子どもの姿を想像することもなく、出生前診断よりも安易に、その受精卵を選ばない判断をしてしまうのではないかと懸念している。学会の中だけではなく、もっと一般の国民に、この技術や倫理的な問題を理解してもらい、議論する必要があると思う」と話しています。

「完璧な赤ちゃん選ぶ傾向助長」

生命倫理の問題に詳しい東京財団のぬで※島次郎研究員は「受精卵を調べる検査について、学会はこれまで抑制しながら行ってきたにも関わらず、なぜ今回大幅に対象を広げるのか、もっと国民に説明すべきだ。染色体の数に異常があっても、ダウン症など無事に生まれてくる赤ちゃんもいる。流産を減らせるのか医学的に調べるのが目的でならば、調べる染色体を絞る必要があるのではないか。より完璧な赤ちゃんを選ぶという傾向を助長するなど、倫理的な問題も生じると思う」と話しています。
※「きへん」に「勝」

目的としてあくまでも流産のリスクを下げるための臨床研究と言うことですから、まずは幅広く遺伝子異常全般をチェックしていくのは妥当なのだろうし、その結果どの遺伝子異常が流産リスクを高めているのかが判明すれば将来的にはそれをチェックから外していくのが筋と言うことになるのでしょうが、現実的に明らかに先天異常の原因になると判っているものをチェックから外すことが出来るかどうかはまた別問題ですよね。
この辺りは保険診療であれば純然たる医学的判断から可能な範囲はここまでと決めやすいのでしょうが、通常の医療よりも利用者側の意志が尊重されるのは当然の流れだろうと思いますし、高いお金を支払いリスクも負った上で不妊治療を受ける側とすれば異常を事前にチェックする手段もあるにも関わらずそれを行わないで胎内に戻されると言うのも承伏しがたい話だとは思います。
この辺りは染色体異常と言うものをどう捉えるかですが、様々な遺伝的素因によって特定の疾患リスクが上昇することは広く知られている一方でそれらは染色体異常とは全く別の問題ですから、染色体異常のチェックによって「将来偏差値の高い学校に行ける頭のいい子を選びたい」だとか「スポーツで大金を稼げるような選手になる子が欲しい」と言ったことまで望むのは無理な話でしょう。
ただもちろん染色体異常が多くの場合、素人目にもはっきり判るほどの大きな先天的異常に結びつくことも事実で、特にこうした不妊医療を受ける方々は相対的に高年齢層に偏っていると思われる以上やはり将来の子供の養育をどうするのか?と言った懸念もずっと深刻になるだろうし、先日も知的障害者を抱えた母親が子供を自ら手にかけると言う悲惨な事件があったことなども考えてしまいますよね。

社会全体の利益の最大化と言う観点から言えば、養育コストが圧倒的に大きいのに対して生産性など社会への還元が見込めない障害児は基本的には利益より損失が大きい、だからなるべくなら少なければ少ないほうがいいと言う考え方は優生学的だとして一般には否定されるものですが、では障害児は全てあるがままのものとして受け入れられているかと言えば実際には必ずしもそうなってはいないと言う現実があります。
有名な先天的異常の一つであるフェニルケトン尿症の患児などは放置しておけば心身の発達障害を来しますが、新生児スクリーニングが導入され早期治療が行われるようになってから何ら問題なく成長出来るようになっていますし、高齢出産の増加で注目を集めているダウン症なども将来的に発症前治療が可能になるのでは?と思わせるニュースが最近あちこちから出てきていて、一部治療薬はすでに治験に入っていると言います。
そう考えると異常があるのが問題なのではなく治療手段がないことが問題なのであって、将来それなりの対処法が出てきて社会生活上さしたる不具合もなくなり誰も深刻に悩む必要がなくなってしまえば、こうした出生前の遺伝子検査はむしろ早期発見早期治療のきっかけとして忌避どころか重要視されるようになるのかも知れませんね。

そもそも生まれ来るものの選別を絶対悪とするのであれば、経済的要因など様々な事情から健常児でなければ養育は無理だと言うケースもあり得るはずですが、不妊医療自体にも多額のコストを支払った上にどんな子供であれ育てられるほど経済的に裕福な方々にしか不妊医療は受けさせないのが正しいのか?と言う議論も必要になりそうです。
また現実的に不妊医療などと無関係にこれだけ妊娠中絶が数多く行われている以上、胎児をしかるべく処置すると言う行為自体に対して一般の日本人はさほどの忌避感はないのだろうと思いますが、やはりひとたびお腹の中に入れば親にも思い入れもあるだろうし、同じ処置をするなら受胎させる以前の受精卵の段階で処置をした方がまだしも人道的だと言う考えもあるかも知れません。
この点で世界的にどこからを人として認めるかと言う定義は様々なものがあるとは言え、少なくとも受精する以前の精子と卵子の状態で人と認定することはないようですから、技術的進歩によって配偶子の段階で必要な遺伝子検査が出来るようになれば人道や倫理観に基づく議論のかなりの部分を回避出来る可能性もありそうです。
いずれにしても現段階では非常に限定的な対象にだけ行われる検査で、それも理由があり検査を行うことに意味があるから行うと言う大義名分があるわけですが、その有効性が確認されるほど対象外の方々からも「何故私達は検査を受けられないのか」と言う声が上がってくることになるはずで、学会側としても何故この対象に限定するのかと言う理論武装も必要になってくるのでしょうか。

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コメント

デザイナーベイビーであふれるのも正直な所は時間の問題だと思います。
今は高コストですが手軽なったらおそらくルール破る人は結構出てくると思います。
闇業者も出てくるだろうし

投稿: | 2014年11月27日 (木) 07時33分

きついこと言っちゃうけど、障害児産んで外国に臓器買いにいくくらいだったら、外国で検査してでも障害児産まない方がいんじゃない?

投稿: yoshi | 2014年11月27日 (木) 08時57分

たしか検体を外国の機関に送ったら検査はしてくれるのではなかったですか?
現実的に産み分けを制限することは難しくなってると思うのですが。

投稿: ぽん太 | 2014年11月27日 (木) 10時01分

質問:臓器移植の対象になる、アレイCGH法で診断可能な疾患は何がありますか?

投稿: JSJ | 2014年11月27日 (木) 10時57分

高齢出産希望者にとっては年々妊娠可能性が低下していく中で難しい判断なのだと思いますが、対象者数から言っても自然妊娠も可能な若年者にこの種の遺伝子検査が広まっていくと圧倒的に大きな影響がありそうです。

投稿: 管理人nobu | 2014年11月27日 (木) 11時06分

日本はまだまだ遅れてる

中韓で熱を帯びる優生思想 6割超「精子バンク使っても優秀な子を」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141121-00000591-san-soci&pos=1
 中国や韓国の大学生の6割以上が、第三者の精子提供を行う「精子バンク」を利用してでも
「優秀な資質の子供を持ちたい」と考えているのに対し、日本の大学生の9割以上は「そう思
わない」と回答していることが、岡山大の研究グループが日中韓の3カ国の大学生を対象に実
施した意識調査で分かった。

投稿: | 2014年11月27日 (木) 12時17分

これはどっちが進んでてどっちが遅れてるのか自分はわからないです。

投稿: てんてん | 2014年11月27日 (木) 12時49分

↑の記事、国による考え方の違いもあるのだろうが、さすがに一人っ子が強制されている国で要介護になると判っていても産みたいとはいいにくいのでしょうな>中国

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年11月27日 (木) 14時31分

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