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2014年10月22日 (水)

改めて注目される糖尿病のリスク

例のメタボ健診によって生活習慣病患者が激増したと実感されている臨床医の先生方も多いと思いますが、特に各種合併症の恐さなどからも対策の必要性が叫ばれているのが糖尿病で、各種民間療法まで入り乱れて様々な糖尿病対策が世に出回っているのはご存知のところかと思います。
そんな中で以前から糖質制限食等独自の糖尿病コントロール法を提唱してきた江部康二氏がこんな主張をしていらっしゃるのですが、江部氏の主張がこうなのか取り上げたメディア側の編集が恣意的なものだったのか、いささか誤解を受けそうな記事になっているようにも見えるでしょうか。

デタラメ治療の結果 糖尿病で年間3000人以上が失明、足切断(2014年10月19日NEWSポストセブン)

 予備軍を合わせ国内で糖尿病患者は2000万人を超えるといわれるが、その医療では、実に多くの「ウソ」がまかり通っている。そう指摘するのは、高雄病院理事長の江部康二医師だ。自身が糖尿病の内科医が、日本の糖尿病治療の欺瞞を暴く。

 * * *
 そもそも糖尿病とは血糖値が高くなる病気のことだ。血糖値が高くなると体内の酸化バランスが崩れ、活性酸素が生じて血管が傷つきやすくなる。また、血糖値が上がると血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンが分泌される。インスリンは中性脂肪の分解を妨げ、血糖を体脂肪に変えて体重を増やす「肥満ホルモン」であり、高インスリン状態は動脈硬化を招く。
 この病気で本当に怖いのは合併症だ。血糖値の乱高下で血管が老化し、細い血管が傷つくと「三大合併症」と呼ばれる網膜症、腎症、神経障害となり、太い血管が損傷すると脳梗塞や心筋梗塞に至る。
 元凶である血糖値の上昇を招く唯一の原因は、糖質(炭水化物)の摂取だ。かつて米国糖尿病学会は3大栄養素(糖質、たんぱく質、脂質)のうち「たんぱく質や脂質も血糖に変わる」としていたが、研究が進み「糖質のみが血糖値を上げる」と2004年に見解を改めた。これが他の先進国も認める「国際基準」だ。
 唯一、血糖値を上げる糖質を制限すれば、血糖値上昇を抑えられる私の提唱する糖質制限食はこのシンプルな事実に基づく。

 ところが日本糖尿病学会はこの事実を隠し、2013年11月に発行の『糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版』で「血糖値に影響を及ぼす栄養素は主として炭水化物だが、脂質とたんぱく質も影響を及ぼす」などと記載した。科学的根拠がなく、世界的な潮流とは真逆の非常識な見解だ。
 学会は現在も糖尿病治療として「炭水化物50~60%、たんぱく質20%以下、脂質の摂取上限25%」、「女性1日1200~1400kcal」、「男性1日1600~1800kcal」のカロリー制限食を推奨する。脂質とたんぱく質を控えれば、血糖値が上がる炭水化物を多く摂取しても構わないというのだ。
 論理矛盾も甚だしいが、この弊害は明らかだ。2型糖尿病患者が60%の糖質を摂取すると食後の血糖値は必ず200mg/dlを超える。血糖値が180mg/dlを超えると動脈硬化や合併症のリスクが高まることは、世界の医学界でエビデンス(科学的な根拠)として認められている。
 デタラメな治療の結果、年間1万6000人以上が糖尿病腎症から透析を受け、その医療費は年間800億円に及ぶ。さらに、年間3000人以上が糖尿病網膜症で失明し、同じく年間3000人以上が糖尿病足病変で足を切断している。これだけの患者数が物語るのは学会が主導する糖尿病治療の不首尾に他ならない。

まあ「年間1万6000人以上が糖尿病腎症から透析を受け」「年間3000人以上が糖尿病網膜症で失明し、同じく年間3000人以上が糖尿病足病変で足を切断している」理由は糖質制限食導入の是非と言うよりも、どのような食事内容であれそもそもカロリー制限を守らなかったり医師の指示に従って治療をきちんと受けることを怠ったことの方が影響が大きい気はしますけれどもね。
短期的に血糖を下げる点はともかく、いわゆる糖質制限食の長期的弊害に関しても様々に言われているところですが、基本的に日本の食生活の中心である米に関してはほぼカロリーとボリューム、そして味覚・嗜好的要素のために摂取されてきたと言えますから、「食事には銀シャリがなければ」と言うタイプでなければ現代の食生活では昔ほどの重要性はないとは言えるでしょう。
ただ食事の大きな部分を占め満腹感をも左右する米飯を抜いた部分を何によって補うのかと言うことも問題で、例えば糖尿病性腎症を来しているような方が血糖が上がらないからと肉ばかり食べていたのでは問題なのは明らかですから、この辺りはキャッチーなコピーばかりに踊らされることなくきちんとした知識を元に食事管理を行っていただきたいものだと思います。
ともかくもこれだけ糖尿病患者が増え合併症治療も含めて多額の医療費がかかっている以上、医療や製薬にとってもそれは大きな商機でもあると言えますが、当然ながら患者数から考えても糖尿病専門医だけで相手に出来るものではなく、一般臨床医であれば少なくともある程度の知識とコントロールの術を身につけておくことは必須スキルと言ってもよさそうです。
ただ糖尿病の場合放置患者の高血糖によるトラブルばかりではなく、厳格なコントロールを追及しすぎた結果低血糖性昏睡に陥るリスクもあるなどなかなかに管理が難しい面があって、純粋に医学的なベストを目指すだけではなく末端臨床におけるリスクマネージメントも考慮したコントロールが求められると思いますけれども、その辺りに関連して先日出ていたこちらの記事を紹介してみましょう。

道路交通法改正で医師や薬剤師も責任を負うのか(2014年10月21日DIオンライン)

【質問】
 道路交通法の改正で、糖尿病患者やてんかん患者に対する規制が強化されたと聞きました。患者が交通事故を起こした場合、治療に当たる医師や薬を交付した薬剤師も責任を負うことになるのでしょうか。(40代女性)

【回答】
法的責任が生じる可能性はある
回答者 ◎ 小林 郁夫(小林法律事務所 [東京都千代田区] 弁護士)

 2013年6月に公布された改正道路交通法が、14年6月1日から施行されました。この改正では、運転免許の取得時と更新時の「一定の病気」の症状に関する質問制度と、虚偽回答に対する罰則が整備されました。
 ここでいう「一定の病気」は、道路交通法施行令で定められており、統合失調症(自動車の安全な運転に必要な能力を欠く恐れがある症状がないものを除く)、てんかん(発作が再発する恐れがないもの、発作が再発しても意識障害・運動障害がもたらされないもの、睡眠中に限り発作が再発するものを除く)、再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気で発作が再発する恐れがあるもの)、無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節できるものを除く)、双極性障害、そして重度の眠気の症状を呈する睡眠障害です。

 糖尿病では、治療薬の服用や注射などにより低血糖を起こし、意識障害をもたらす可能性があることは知られています。糖尿病患者の治療に当たる医師や、糖尿病治療薬を交付する薬剤師は、低血糖の可能性、服用から低血糖に至るまでの時間、低血糖になる前に糖分などを摂取することなどを患者に対して伝える必要があります。
 また患者の病状と職業によっては、運転や危険な仕事を回避するよう注意を喚起することが必要です。同様に、無自覚性の低血糖症、てんかん、統合失調症などの患者についても、それぞれ状態に応じ対応すべきです。

 糖尿病患者に関する過去の判例では、血糖管理を怠って自動車を運転し、事故を起こした患者の責任が認められています。自動車を運転する糖尿病患者は、自己の血糖を管理する義務があるのです。
 例えば、水戸地方裁判所の12年11月6日判決は、血糖測定後インスリンを注射したが、食事を取らなかったために低血糖の意識障害に陥り、交通事故を発生させた患者に禁固6年を言い渡しました。また東京地方裁判所の13年3月7日判決は、1型糖尿病による無自覚性低血糖でもうろうとした状態で起こした事故について、運転者の事故時の責任能力を否定しましたが、血糖管理義務を怠ったという理由で損害賠償義務を認めました。
 一方で、事故を起こした患者の主治医や、患者に糖尿病治療薬を交付した薬剤師の責任を追及している判例は、今のところ見当たりませんが、今後は法的責任が生じる可能性はあります。

 道路交通法は、「何人も、第1項の規定に違反して車両を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない」(第65条第3項)と規定し、運転者に対する酒類提供を禁止しています。
 もし、医師、薬剤師を酒類提供者と同じ立場であると考えるなら、糖尿病やてんかんの患者が運転する際の意識障害を防ぐ責任が生じます。つまり、意識障害の可能性がある患者に対し予防法や対策を充分に説明して、事故を回避させなければなりません。
 意識障害を生じる可能性のある疾患の患者に対する医師や薬剤師の説明が不十分だった場合や、全く説明をしなかった場合、患者の起こした事故による損害を賠償する責任が発生することも考えられます。
 該当する説明を患者にした場合は、念のため、その内容を薬歴などに記録しておくとよいでしょう。

この道交法改正に関しては以前にも取り上げたところですが、医学的に運転を行うことが妥当でないと判断される場合それを患者に遵守させるシステムが未整備であるとか、患者が医師の指示通りの治療を受けていなかった場合どこまで医師の責任が問われるべきなのか等々、少し考えただけでも実際の運用に当たっては様々な問題点がありそうな話ではありますよね。
特に糖尿病患者の場合は一時期その事故多発ぶりが社会問題化したてんかん患者のような「治療を受けるよう指示されながら放置」と言うケースばかりではなく、医師の指示通り治療を続けていた結果低血糖となって意識を失うと言うケースが一定数あるはずですが、こうした場合患者や家族から見れば指示を出した医師側の責任が全く問われないと言うのでは釈然としないところがあるでしょう。
今のところ直接的にこうした形で医師の責任を問い処罰する法律と言うものはなさそうなんですが、記事にもあるように解釈次第で責任を問われる余地はあるようですし、当然ながら患者や事故の相手方などから民事で損害賠償を請求されるリスクはあり、てんかん事故などでも勤務先の会社が訴えられたように民事の原則として「取れそうなところから取る」と言うことは予想されます。
同時に雇用する会社側にしろ担当する医師にしろこうした責任を問われることを回避したいと言う気持ちは当然あるはずで、よく言われる雇い止めのリスクなどはもちろん社会的に見ても問題ですけれども、必ずしも運転禁止とまでは言えない疾患の状態であってもリスク回避の観点から有病者には厳しめに指示を出しておくと言うことが、今後次第に増えてくるかも知れませんね。

そうしたリスクを患者側から見ると病気持ちであることはなるべく世間に知られない方がいい、さらに一歩進んでそもそも規制を受けるような病気と診断されなければいいと言う考え方になってしまえば体調不良を自覚しても病院に近づかない者が増え、社会全体としてかえってリスクが高まることにもなりかねませんから、要は規制強化と言うムチばかりではなくアメの部分も用意する必要があるはずですが、これがなかなか難しそうですよね。
糖尿病に限らず意識朦朧となった患者が事故を起こした、あるいは事故に巻き込まれたと言った怖い経験をされたことがある方は相応にいらっしゃるはずですし、臨床面から言えば救急隊や救急病院などはこうした運転手の基礎疾患を早い段階で見極める必要があるはずですが、そうした点からすると簡易な血糖値測定である程度白黒が付けられる糖尿病などはむしろ対応が容易い方だとも言えるかも知れません。
逆に言えば基礎疾患によっては即座に現場で診断をつけるのが難しく、患者情報がなければ治療が遅れると言うケースもあるかと思いますが、そう考えると法的規制を行うような「一定の病気」に関しては眼鏡などと同様免許に記載してくれれば医療の側は元より、患者さんにしてもそれなりに助かる場合があるかも知れません(もっとも略語やコード記載などでなく病名そのものを出すとプライバシーが問題視されそうですが)。
根本的にはマイナンバー制度に伴ってこうした医療情報も全部一元的に管理するようになればこの辺りの面倒はずいぶんと楽になりそうだし、技術的には何も難しいことはなさそうに思われるのですが、日医などは医療情報をマイナンバーで管理すること自体に反対だと言っていますしねえ…

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コメント

糖質まったくとらなくても頭の働きには支障ないんですか?

投稿: こだま | 2014年10月22日 (水) 09時04分

リバウンド体質になる? じつは危険な「糖質オフダイエット」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141021-00000003-nallabout-hlth

投稿: | 2014年10月22日 (水) 09時42分

高血糖側に比べると低血糖側にはそれなりに対処手段が備わっていますからそうそう大事にはならないはずですが、対局中の棋士が糖分摂取を重視する点などを見ても高度の知的活動性には一定の影響はあるかも知れません。
個人的には朝・昼食に関しては妥当な量の糖質を摂取することは問題がなく、むしろ過度の制限は日中の活動に悪影響が出るのではないかと考えていますが、食事内容による生活パフォーマンス面での影響は評価が難しいかも知れませんね。

投稿: 管理人nobu | 2014年10月22日 (水) 11時21分

 或る程度の水準の治療が十分浸透して ケトアシドーシスや高浸透圧昏睡はめったに起こらない、起きたら救急救命で助かれば御の字の世界。
 一方、
 できるだけ血糖を下げたほうが腎臓の持ちが良いが、意識を失うような低血糖を起こすとよくないというエビも出た。腎臓をどれだけ長く使えるかが糖尿の治療の当面の課題になってきて、低め低めにコントロールする結果、おこりがちな低血糖が注目されているのでは?
 抗てんかん薬と同じ様な扱いになるのはつらいですね。
 
 肝腎がまともなら意識を失う低血糖は薬を使わなきゃおこりません。糖新生で血糖を維持しようとカテコラミンが多く出てるくらいの方が、頭は冴えるのではないでしょうか。腹の皮vs目の皮 ですので、菓子を貪る棋士、はひと山越えた後の補充だろうと思ってます、根拠はありませんが。

 

投稿: 感情的医者 | 2014年10月22日 (水) 18時03分

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