« 粗末すぎる弁当とこだわりすぎる弁当 | トップページ | 確かにボタンが多いほど偉いわけでもないので »

2014年10月31日 (金)

健康に投資する価値はどこまで?

本日の本題に入る前に、昨今は何でもネットで用が足りると言う時代で、全国各地で近所の書店が次々と閉店していくのもネット通販が定着したからだと言う話もあるほど社会への影響も大きくなっているそうですが、人の命に関わる領域においてもアメリカではこんな話も出てきていると言います。

検索結果に「医師と相談」、米グーグルがテスト中か(2014年10月15日日本経済新聞)

 米Google(グーグル)が医師に直接相談できるビデオチャットサービスをテストしていると、Engadgetやニューヨーク・タイムズ、PCMag.comなど、複数の米メディアが報じている。Google検索で気になる体の症状などを検索すると、医師と直接会話するための手段が提供されるという。

 最初に同機能に気づいたユーザーが現地時間2014年10月10日、ソーシャルニュースサイト「reddit」に投稿し、その後EngadgetがGoogleに確認を取った。同ユーザーがAndroidスマートフォンで「knee pain(膝の痛み)」を検索したところ、ビデオチャットアイコンとともに「Talk with a doctor now(今すぐ医師と話をする)」との選択肢が表示された。

 画像共有サイト「Imgur」で公開されたスクリーンショットによると、同機能では、検索に使われたキーワードからユーザーが症状について詳しく知りたがっていることを認識し、ビデオチャットによる診察が可能であることを知らせる。テスト期間中は、Googleが手数料を負担する。

 サービスが正式にスタートすれば有料になると見られるが、どのくらいテストを行うか、正式サービスの手数料はいくらになるかなど、詳細については明らかにされていない。
(略)

ゴールデンタイムに健康に関わる番組がこれだけ増えていることを見ても世間的需要はもちろん小さくないのでしょうが、アメリカですとこういうサービス提供で十分ドクターフィーを稼げるのでしょうが、医師に限らず専門家の時間を取らせることがタダ同然に認識されている日本では商売として成立するのかどうか微妙な気もします。
先日は無料オンライン講座の一環で山中先生がiPS細胞に関して無料講座をネット配信すると言う記事が出ていて、もちろんこういう仕事もスポンサーからそれなりの手間賃は出ているのでしょうが、先日もネット上での医師相談サービスを紹介しましたがあれも参加する医師のボランティアが前提で成立していたようにいまだこの種のサービスの報酬体系は流動的で、果たしてこうしたシステムが永続的にうまく機能するものかどうか若干の危惧を感じています。
金目的の人間になど参加してもらわなくても構わないと言う考えもいるかも知れませんが、基本的に人間誰しも働いて稼がないことには喰っていけず、一般論として医師という商売は多忙だとされていますから、見返りを求めることもなく日常的に素人質問に相談に乗ってあげられる人達ばかりが集まってくると言う時点でどうしても一定のバイアスがかかってしまうのは避けられないだろうと言う気もします。
一般的なBBS等でも健康相談的な書き込みと言うのは少なからずあるものですが、見ていますと少しばかり極論に走りがちであったり一般的でないように思われる対処法が提示されていたりと言う場合もありますから、やはりあくまでも参考にとどめておくと言う割り切りを利用者が持てるかどうかが大事なんだと思いますね。

いささか余計な脱線が長くなりましたけれども、人間豊かになってくるほど自分の健康にお金や時間を使いたくなるのは世の常だし、世界的に健康産業と言うものが非常に大きな規模になってきているわけですが、科学の進歩に伴って登場したいわば究極的な健康追及のあり方として注目されているのが遺伝子検査と言うもので、その意味づけを問うこんな記事が出ていました。

遺伝子検査は「予防のため」か「占い」か(2014年10月28日日経メディカル)より抜粋

 大手IT企業DeNAの参入が話題となり、個人向け(direct to customer:DTC)遺伝子検査サービスが注目を集めている。疾患の「なりやすさ」を知ることで予防に役立てるなどのメリットがうたわれる一方で、法律による規制はないため検査会社ごとの技術力のばらつき、結果解釈の曖昧さ、利用者のリテラシーへの不安など課題も多い

 「○○さんの遺伝子型の発症リスクは日本人平均の0.88倍です」――。DeNAライフサイエンス(東京都渋谷区)が2014年8月に開始したDTC遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」の結果画面には、個々の疾患の「リスク」がこう表示される(図1)。結果を一覧すると、「喘息」「心筋梗塞」「C型慢性肝炎」など、約280項目が並ぶ(図2)。これらのリスクは、特定の遺伝子配列(一塩基多型:SNP)と疾患の罹患リスクや体質との関連を示した論文に基づいて算定される(図3)。日本人の平均的な疾患発症リスクを1とし、利用者と同じ遺伝子型を持つ集団の発症リスクをオッズ比で示す。あくまで遺伝子型ごとの統計的なリスクを算定するもので、疾患の診断に結びつくものではないことを各社とも説明する
(略)
 もっとも、誰でも気軽に検査を行える分、遺伝子と疾患に対する利用者のリテラシーは様々だ。リスクが平均より高かった疾患を、将来自分が発症する疾患だと誤解するかもしれない。また、結果に書かれているのは「自分が属する遺伝子型集団の発症リスク」だが、解析対象になっていない遺伝子の影響を受ける可能性もある。表示された疾患リスクが、実際のリスクとそのまま一致するわけではないことを、利用者のどれだけが理解できるのかも懸念される。

「アンジェリーナ・ジョリーの検査」と違うことをどれだけ理解?
 遺伝子検査といえば、2013年5月、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーがBRCA遺伝子変異によって両乳房切除手術を受けたことを公表し、大きな話題を呼んだ。BRCA遺伝子は、家族性乳癌や卵巣癌の発症に強く関連することが分かっている。
 各社が強調するのは、DTC遺伝子検査サービスはあくまで予防の動機付けを目的としたものであること。BRCAのように疾患の発症に強い相関を持つと判明している遺伝子は解析対象としない会社が多い。ジェネシスヘルスケア代表取締役CSRの佐藤バラン伊里氏は、「生活習慣に起因する癌の発症リスクを調べられる検査キットも販売しているが、家族性乳癌が検査項目にない旨は明記してある」と説明する。これは、「DTC遺伝子検査は予防を目的としたサービスであり、医療行為につながるものではない」(佐藤氏)というスタンスからだ。
(略)
 各社が「診断に直結する遺伝子の解析」に慎重になるのは、米国の大手DTC遺伝子検査サービスの23andMeに対し、2013年11月に米食品医薬品局(FDA)が販売の即時停止を求める警告書を送付したことも影響している。23andMeが警告を受けた理由は、遺伝性疾患など疾患の診断に直結する遺伝子について解析しているにも関わらず、使用する機器が医療機器としての承認を受けていないこと。ワルファリンなど薬剤の感受性に関連する遺伝子の解析結果を受けて利用者が薬剤の量を自己判断で調節するといった事例が報告されたことなど。
 警告書では、遺伝子検査の結果が間違っていた場合や、利用者が検査結果を適切に理解しなかった場合に深刻な問題が生じるという懸念も示した。同社は警告を受け、サービスの提供を停止。深澤氏は、「今のところ日本国内には遺伝子検査に関する法規制はないが、同様の問題は起こり得ると考えている」と説明。遺伝性疾患や薬剤感受性の関連遺伝子などは、この米国のケースなどを踏まえてサービスから外しているという。

「高価な占い」という批判も
 「DTCの遺伝子検査は占いと同じ」。こう断ずるのは、国立精神・神経医療研究センター神経研究所部長兼トランスレーショナル・メディカルセンター副センター長の後藤雄一氏。「疾患に強く結びつかない関連遺伝子ばかりを解析しても、ほとんど参考にならない」からだ。後藤氏は臨床における遺伝子検査に長年携わり、現在は同院の遺伝カウンセリング室医長と臨床検査部遺伝子検査診断室医長を併任する。
(略)
 また、「利用者が生活習慣を改めるためのエビデンスとして割り切って利用する分には害はない」としつつも、「そのような目的ならば他にも方法はある。数万円を掛けて遺伝子を調べる必要はあるのか」と語る。遺伝子検査の体制についても、「本来なら難病の診断などにその貴重な資源や人的リソースを使うべき。なりやすさを調べる検査をすることに意味はあるのか」と後藤氏は疑問を投げかける。
(略)
 DeNAライフサイエンスは、9月にインターネット電話サービスのSkype(スカイプ)などを利用し、管理栄養士から個人的に食事や運動の指導を受けられる有料オプションを開始。検査結果でリスクが高かった疾患の予防についてもアドバイスを受けられる。今後はこうした指導を定期的に行ったり、気になる疾患の検査が受けられる医療機関を紹介するサービスも検討しているという。
(略)

遺伝子検査と言うと何か大変なもののように思いますが、今どき人間ドックなども一日拘束されて結構高い料金を取られることを考えると、自宅に送られてくる容器に唾液等の検体を入れて送り返せば色々な病気の「素質」をどれくらい持っているかが数万円の出費で判ると言われれば、まあ一度くらいは試しにやってみようかと考える人もかなり多くなりそうですよね。
興味深いのは本当に疾患のリスクに直結する危ない遺伝子と言うものもあちらこちらで見つかっているわけですが、この検査では敢えてそういうものは除外してあると言うことで、利用者の立場から考えると「それじゃ意味ないじゃないか」と思ってしまいがちなんですが、記事にもあるようにやはりそうしたデータを直接素人に提示するのは弊害も大きいと言うことで、この辺りは今後検査結果と医療との連携を考慮していくべき課題でしょうか。
そもそも医療との連携と言えば遺伝子的な疾患リスクがいくら判ったとしてもそれが行動に結びつかないことには意味がないのは当然だし、逆に医師が相談を受けるにしても現に異常が現れていると言うのでもなければせいぜいが「気をつけましょうね」と言うしかないだろうしで、現状では確かに「高価な占い」と言われても仕方ないほど位置づけが微妙な検査ではあると言う気もします。

健診などは基本的にそれを行って早期に病気の芽を見つけ出すことで後々の面倒(多くの場合はコスト)を減らすと言う効果を期待したものですが、一方でメタボ健診導入によって全国数多の病人が新たに作り出され医療費はむしろ増大しているのではないか?と言う批判もあるように、費用対効果と言う観点から見ればどこかで見切りを行っていく必要もありますよね。
これに対して遺伝子検査などはあくまでも個人が自分の健康や生命のために自費で行うことであって、どれほど高価で非効率であっても本人がその価値があると考えるなら自由にすればいいと言う扱いですけれども、生活習慣病などはしょせん本人が生活を改めるかどうかが全てだとも言えるし、見つかりにくいが見逃しては大変なことになると言った類の病気の検査は敢えて行っていないと言うのでは有り難みが乏しいのは確かでしょう。
また仮に遺伝子検査の結果何らかの病気の素因が見つかった、さっそく早めに治療をしてくれと病院にやってきた場合には保険診療を受けるわけですから、保険財政上はいまだ治療を受けなくてもよかったはずの患者が余計に増えていくとも言えますが、こうした方々の医療費までも全国民が均等に負担すべきなのか?と言われるとやや釈然としない方もいらっしゃるかも知れません。
現行のドックなどでもやたらに高価なオプションばかり頼む人もいて、まあ気持ちは判るけれども肝炎ウイルスマーカーなど毎年測っても仕方ないんじゃないかな…と言うケースも多々ありますから、やはり様々な意味で余計な出費を抑えるためにも素人があれやこれやと自己判断するよりは、信頼できるかかりつけ医なりにまず相談してみるところから始めた方がいいような気はしますね。

|

« 粗末すぎる弁当とこだわりすぎる弁当 | トップページ | 確かにボタンが多いほど偉いわけでもないので »

心と体」カテゴリの記事

コメント

うちのドックのオプションで腫瘍マーカーおすすめセット1万円が人気なんですよ
これがまたちょいと高めに出て精密検査に引っかかってくる人も多くてもうけにはなるんですが
○○癌疑いでぜんぶ保険診療で体中調べて医療費使いまくるのもちょっと釈然としないことが

投稿: 赤とんぼ | 2014年10月31日 (金) 09時14分

そういう精密検査にひっかかったことあるけどね
赤札が来たから時間を工面して再検査に言ったら、
やる気のなさそーな医師が出てきて、ああ、こんなの・・・みたいな言われ方
来ちゃったからしょうがない、CTとりますかって
ろくでもないとこにきちゃったと思ったわ

投稿: | 2014年10月31日 (金) 09時55分

でもCEA軽度高値くらいでレントゲンも胃腸もエコーも全部やってたら実際どうしようかって思いますよ。
あんまり検査したがらないのはお金もうけるつもりがないいい先生なんだろうなって思いますけど。

投稿: ぽん太 | 2014年10月31日 (金) 10時41分

オプションの項目は基本本人が気になっている部分であるはずなので濃厚対応が妥当なのかなと思いますが、雇用先が勝手にオプション検査を組んで精査に引っかかった時は本人の希望等空気を読むしかないでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2014年10月31日 (金) 11時46分

高い料金払ってるお客様に対する態度じゃないわ

投稿: | 2014年10月31日 (金) 12時28分

高い金はらったのにとか
濃厚治療しろとかではなく

病院からの通知で時間を工面して行ったらば、こんなので来ちゃったよばわりで馬鹿馬鹿しさ満載だったってだけ
じゃあ通知すんなよという

投稿: | 2014年10月31日 (金) 13時02分

基準がある以上は異常が出てんのを見て見ぬふりするわけにもいかんでしょ
どうせほとんどはコンピューターが勝手に引っかけてるんだから
健診なんてデータだけで大量に処理するから割り切らないと仕方ないわ
ばかばかしいと思ってんのは医者だって同じだよ

投稿: | 2014年10月31日 (金) 13時47分

取り越し苦労で済んでよかったじゃないですかw、とか先日有棘細胞癌をレーザー焼却しちまったおいどんが利いた風な口を叩いてみるてすつ。

投稿: 10年前にドロッポしました。 | 2014年10月31日 (金) 17時14分

オーバーダイアグノーシス気味に扱うのが正しいだろうとは言え、やはりあまりにオーバー過ぎる基準だとかわいそうにはなりますな。

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年10月31日 (金) 17時56分

>オーバーダイアグノーシス気味に扱うのが正しい
 スクリーニングなので然り。弊害はせいぜい無名(無明なほう)氏のたわごと。

>あまりにオーバー過ぎる基準だとかわいそう。
 そですね。無明氏の相手をしなきゃなならない医療者さんがかわいそう。報酬内での対応に徹すればよいでしょう。  

投稿: 過剰診断 | 2014年11月 6日 (木) 11時22分

検診が過剰診断になってることの不満を受診者にぶつけんのがサービスだとでもいうのかなw
そんなサービス、いらないからw

投稿: | 2014年11月 6日 (木) 13時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/60562067

この記事へのトラックバック一覧です: 健康に投資する価値はどこまで?:

« 粗末すぎる弁当とこだわりすぎる弁当 | トップページ | 確かにボタンが多いほど偉いわけでもないので »