« 改めて注目される糖尿病のリスク | トップページ | 医療に関わる奇妙な騒動 »

2014年10月23日 (木)

医学部新設の余波

久方ぶりに東北地方に新設されることになった医学部の運営母体として東北薬科大が選ばれたことは先にお伝えした通りですけれども、宮城大医学部構想を立ち上げながらも「準備不足」と敗れ去った宮城県の村井知事がこんなコメントを出しているようです。

◆シリーズ 東北地方の医学部新設(2)宮城県知事が抱く文科省への不信感(2014年10月14日日経メディカル)より抜粋

(略)
 県が提案した新設構想は、入学定員数が60人と小規模であり、将来的な定員調整に問題がない点が構想審査会に評価された。だが、「地域完結型」の教育による総合診療医の育成を目指すとうたってはいるものの、教育内容やその方法、実習先などの具体策は示されていなかった。経営面や人材確保策、卒業生の地域への定着策についても、審査会で判断できるだけの根拠が足りないと評価され、「準備不足」と結論付けられたのだ。
 また審議会からは、運営費を宮城県が負担するため、県内の事情を優先せざるを得ず、東北各地に卒業生を送ることが県立大学であるがゆえに難しいという懸念も示された。

 選定結果に対し、村井氏は「新たな地域完結型の医学部をと手を挙げたが、残念ながら準備不足との指摘を受けた。この点については真摯に反省をしたい」としつつも審議会からの懸念には、「そもそも東北地方の医学部新設は、(東北地方の)地域医療を担う医師の不足を抜本的に解決することを目的に自ら必要性を訴え、国に要望を重ねて実現したもの」と説明。特に青森県、秋田県など、医師が不足している地域に医師を派遣することを考え、入学定員数が60人であれば、仮に20人が宮城県に、各県に8人ずつ派遣することも伝えていたと話し、「信念を傷つけられたような思いがした」と苦言を呈した。

選定結果の説明後、文科省への不信はさらに増大

 結果が発表された翌日には、村井氏の元に文科省高等教育局長の吉田大輔氏が選定結果の説明に訪れている。その説明を聞いた村井氏は、9月1日の定例記者会見で改めて選定結果について言及した。
 村井氏は冒頭で「大変驚いた部分もあった」と怒りを露わにした。村井氏が驚いた理由として挙げたのは以下の2点だ。

 1つは、最初に提出した構想応募書とヒアリング、質問書に対する回答書だけが審査の対象になっていた点だ。「我々が(新設構想応募書を出した)5月30日以降、黙々とやっていた取り組みは審査の対象外だとはっきりと言われた」と村井氏。構想審査会からの質問を受け、カリキュラム内容や教員確保策を具体化するために検討委員会を立ち上げたり、大規模事業評価を実施していたことなどについて、文科省に資料を提出して報告していたものの、一切評価に反映されなかったのだ。
 もう1点は、仮に東北薬科大が選定された場合の県の支援内容について、「東北薬科大に伝え、意向を確認すべき」とした村井氏の文科省への依頼がどこかで止まり、確認なく決定に至った点だ。「自治体として東北薬科大を支援する立場である宮城県が、ここまでの支援しかできないと考えている。その理由はこうだと伝えたことが、東北薬科大には届いておらず、確認されていなかったことが分かり、唖然とした」と振り返る。
 こうしたことから、村井氏は「選定手法について、納得できるものではない」と今回の選定方法と文科省の対応を問題視した。

 このとき村井氏は、東北薬科大の新設構想における財政面の指摘もしている。同氏によれば「現時点での東北薬科大の財政は豊か」だが、医学部を新設し、構想通りに運用するとなると毎年70人の医師を養成する必要があり、その費用は莫大な金額となる。
 「1人当たり三千数百万円といった資金を準備することを考えると、ファンドを作ったとしてもそのファンドの資金が徐々に減る可能性もある。こうしたリスクを考慮しつつ、大学経営をしなければならないだろう」と村井氏。
 さらに村井氏は、宮城県をはじめとする東北6県、大学、関連教育病院、地元医療関係者らが集う「運営協議会」の設置、運営に対する懸念も示している。「東北6県全ての自治体が足並みを揃えて運営協議会に入ってくれるかどうかの調整も大変」というのだ。
 宮城県も、医学部新設に手を挙げていた際、他県にアプローチしてきたが「あまり前向きでない返事ももらっていた」と村井氏は話す。こうした事情から、「国が前面に出なければ、東北薬科大の医学部新設は非常に難しくなるだろう」とした上で、「これは国策であって、財政的な支援を含め、国が責任を持って支援すべき」と強調している。
(略)

まあしかし今回の場合あくまで政策的に作られる大学である以上、ある程度恣意的な選定になるのは仕方がないとは思うのですけれども、興味深いのは財政面の裏付け等も含めて薬科大の新医学部構想が地元自治体と今ひとつうまく摺り合わせが出来ていないこと、そして同医学部から医師派遣を受ける立場であるはずの東北諸県も積極的に関与する様子がなかったらしいことでしょうか。
国としては表向き東北諸県に医師派遣を行う供給源として医学部新設を決めた形ですが、実際にはやはり地元自治体である宮城県が派遣先の主体になるのは避けられないだろうし、それが判っているからこそ他県としても敢えて距離を置いていると言うことなのかも知れませんが、一番重要なはずのその辺りのことを全く具体化しないまま医学部新設だけが先行しているのだとすれば実効性に不安が残りますよね。
もともと医学部と言うところは全国的に地域の病院に対する支配力を発揮し系列化しているもので、新たに医学部を作っても系列病院のポストがなければ卒業生も行き先に困ると言うものですが、一般論として地方にあっても患者の集まる優良病院は既存の各大学ががっちり握っているものであり、医師不足だからとポストを手渡してでも新設医学部から医師を呼びたいと言う病院は格落ちする施設が多そうには思えます。
もちろん医学部が出来ても卒業生がそれなりの地位につく年代になるまでまだまだ長い年月がかかるはずですし、その頃には今とは全く医療事情が変わっている可能性もありますけれども、下手をすると卒業し医師免許を取った学生達が相次いで関連病院を多く抱える他大学の医局に流出してしまい、大学病院ですら外様の先生ばかりで維持運営にも四苦八苦と言う状況に陥ってしまうのかも知れませんね。
いささか余談が長くなりましたけれども、この医学部新設と言うことに関しては今回たまたま震災復興と言う名目もあって東北地方に特例的に認められたとされる一方で、人口比で医学部定員が少なく東北以上に医師不足が深刻だと言われている地域の代表として関東地方の千葉、埼玉両県が長年挙げられていますが、最近この両県に関してこんなニュースが出ているようです。

成田の医学部新設、石破大臣「結論を出す」 国家戦略特区「東京圏」、第1回区域会議(2014年10月2日m3.com)より抜粋

 国家戦略特別区域の「東京圏」の第1回会議が10月1日に開催され、東京都と神奈川県、成田市から成る「東京圏」の区域計画の素案を議論した。医療分野では、慶応義塾大学病院において、保険外併用療養の特例で、クローン病などに対して未承認薬や適応外薬を使用するなど、三つの規制改革、計10項目の具体的事業が挙がっているが、注目されるのは、「国際的な医療人材の育成のための医学部新設等の新設に関する検討」も、「千葉県成田市などで、医学部の新設等について検討し結論を得る」との表現で記載されている点だ(資料は、内閣府のホームページに掲載)。

 会議後の記者会見で、石破茂・内閣府特命担当大臣(国家戦略特別区域)は、「さまざまな観点から検討して結論を出さなければいけないと思っている。この考え(医学部新設)の有益性、有効性については認識しているが、議論に長く時間を要しているので、いつまでも検討しているわけにはいかない。『検討して結論を得る』と書いたのは、そのためだ」と説明。「さまざまな観点」からの検討が必要なのは、「成田という地域は国際化が進んでいること、また事業者(成田市)の話を聞くと、医師不足を解消するものであること。医学部に入学するに当たって、極めて多くの資金を必要とすることを解消しなければいけない、という考えも聞いた」(石破大臣)との理由からだ。

 会議に出席した成田市長の小泉一成氏は、会議後、「従来は、医学部新設について検討するとされていた。『検討』では、結論が先送りになる、あるいは結論を出さなくてもいいという解釈にもなるが、『検討し結論を得る』とされたことは、大きな前進」と期待を込めて語り、今後、地元の医師会などの理解を得ることなどに努めていくとした。成田市は、国際医療福祉大学と共同で、「国際医療学園都市構想」を打ち出し、医学部新設を目指している(『成田医学部、東北より早い可能性、市幹部が答弁』を参照)。
(略)
 もっとも、医療分野を含む「東京圏国家戦略特別区域計画」の第1次計画は、次回の会議で決定する予定だが、会議の開催時期は現時点では未定。同計画に、医学部新設の「結論」が含まれるかは否かも未定であり、石破大臣は、「いつまでに、とは断定できない。しかし、結論を出すことを、いつまでも遅延をさせてはいけない」と述べるにとどまり、結論を出す時期について言葉を濁した。東北地方での医学部については、新設に向け具体的検討が進められているが、国家戦略特区での医学部新設はなお流動的だ(『東北薬科大、医学部新設の“第一関門突破”』を参照)。
(略)

大学病院整備計画、土地確保前でも応募可- 埼玉県が詳細明示、来年1月に受け付け(2014年10月20日CBニュース)

医師不足などの改善を目指し、大学附属病院を公募する方針を示していた埼玉県は20日、病院整備計画の応募条件などの詳細を明らかにした。医師確保が困難な地域への医師派遣に協力することなどを条件に挙げており、医学部を設置している全国の私立大を対象に、来年1月5日から同月30日まで計画を受け付ける。【新井哉】

応募条件には、医学系大学院の併設や2018年3月までに着工することなどを明記。県内の医師不足の解消を図るために昨年12月に設立した県総合医局機構に協力することも条件に挙げた。また、県は参考資料として、応募する大学の関係者を対象にした「Q&A」も作成。例えば、土地を確保できていない場合でも、取得の時期や方法などを記載することで「取得予定でも応募できる」としている。

県が大学附属病院を公募する背景には、同県の人口10万人当たりの医師数(12年12月末現在)が148.2人で「全国ワースト1」といった要因がある。県内で医学部がある大学は埼玉医科大の1校のみで、県内の地方議会では、医学部設置を求める意見書を国に提出する動きが広がっていた。

こうした状況を受け、県は先月開催された県医療審議会で、大学附属病院の公募を盛り込んだ計画案を提示するなど、病床や人材の確保に向けた取り組みを進めてきた。県内の基準病床数を改定することで最大1502床の増加を見込んでいるが、医師の確保や育成を担う大学附属病院に対し、こうした病床を優先的に配分する方針。また、医学系大学院の併設によって高度医療にも対応できる人材を確保し、地域医療の水準向上にもつなげたい考えだ。

東北のケースによって医学部新設が有りなのだと認知された以上、全国各地から我も我もと手が上がるだろうことは当然に予想出来たところで、特に千葉県などはかねて亀田総合病院を中心としてメディカルスクール構想などもあっただけに、悲願とする医学部新設に向けて自治体とも一体化して強力なプッシュをかけてきていることは想像に難くありません。
興味深いなと思ったのは埼玉の計画なのですが、もちろん医学部新設を希望している点では従来通りなのですけれども、一方で独自に大学病院誘致についてどんどん話を進めているのが非常に興味深いやり方で、確かに医師確保や医療リソース蓄積と言う点から考えると県内に医学部はなくても、大学病院が存在し医師派遣が機能していれば問題なしと言う考え方も出来るかと思います。
そう考えると別に付属病院は一大学に一つと決まっているわけではないのだし、医学部新設は大変でも大学病院新設であれば特に国のお許しをいただく必要もないと言うことであれば案外手っ取り早い抜け道にもなりそうで、これが有りなら今後埼玉に限らず全国各地で同様の取り組みが活発化してくる可能性もあるのかなと思うのですが、その場合問題となるのが財源と基準病床数ですよね。

財源に関しては当然ながら自治体が土地を提供したり支援を行ったりと言ったことが誘致の条件としても出されるのだろうと思うのですが、すでに基準病床数に達している地域であれば当然こうした大規模病院を新設することなど出来ない道理であって、その意味では既存の中小病院を整理、統廃合していかに大学病院用の病床数を稼ぎ出すかと言ったことも必要になってくると思われます。
ちょうど例の地域医療構想策定作業と絡んで今後は都道府県が地域の医療提供のあり方にずっと積極的な役割を果たすことになるはずですが、この中の大きな役割の一つとして地域内での病床数管理と言うことも挙げられていて、要するに地域でどのような医療がどの程度供給されるべきなのかは各病院に任せるのではなく、きちんと計画的に配分され管理されるべきだと言う考え方です。
基準病床数と言う地域のベッド数の条件が決まっている以上、昔から大きなベッド数を確保している病院は例え需要がそこまででなくなっていてもベッドを手放さす、新たにやる気も能力もある病院が十分力を発揮出来ないと言う状況がまま見られていたわけですが、大学病院クラスの大病院がいきなり登場するとなれば大幅な病床再編は避けられず、場合によっては多くの病床を奪われ経営が成り立たなくなる施設も出てくるかも知れません。
もともと国際比較で日本は病床数が多すぎだと言う声は以前からあって、診療報酬の仕組み上ベッドは常に埋めておかなければ赤字がかさむせいで不要不急の入院が増え診療報酬を押し上げていると言う批判もありますから、大学病院と言う巨艦の登場で地域医療がどれだけ激変するか、ひいては医療費の動向がどうなるかと言うことも注目していくべきかと言う気がします。

|

« 改めて注目される糖尿病のリスク | トップページ | 医療に関わる奇妙な騒動 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

大学病院に何を期待してんだか、って思うのは過去の怨念による偏見ですかね。
具体的には、指示簿に「血圧○検」とか書いて自分で測定していたこととか、
ターゲスのために当直でもないのに夜半に採血したこととかですが。

投稿: JSJ | 2014年10月23日 (木) 09時29分

ありましたねいろんな裏技なんてのも…って思わず遠い目しちゃいますが。
昔よりはよくなったって言っても大学病院が非効率なのは変わりませんからね。
いまさらそんなもの作るくらいなら普通の市中病院作るべきじゃないですか。

投稿: ぽん太 | 2014年10月23日 (木) 09時33分

医学部定員、15年度は18大学で65人増 文科省
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG20H1L_Q4A021C1CR8000/

投稿: | 2014年10月23日 (木) 10時00分

純粋に医療を行うと言う面では大学病院はあまりいい環境ではないですが、医師派遣機能としては市中病院よりも優れているだろうと言う期待感があるのと、やはり大学直営と言うことで切られないと言う安心感でしょうか。
あちらこちらに特例特例でどんどん医学部を新設してしまったのではスタッフ集めも大変そうですが、医師という人種は基本ワーカホリックな方々が多いのでどこに行っても仕事はしてくれるものなのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2014年10月23日 (木) 11時07分

埼玉、勤務医に不人気。何でだろう、東京に隣接してるのに。
なので市中病院作っても、医者来ません。
さいたま市に順天堂大学の付属病院をつくる予定で敷地も確保してあるとか。
国立埼玉大学に医学部作る話はなし。

投稿: physician | 2014年10月23日 (木) 13時39分

埼玉は都道府県魅力度ランキングもワーストだったような?
茨城も不人気ですね。
思うに東京の隣である事以外のアイデンティティが無いからでは?
東京でも医師余りという訳では無いので地元が埼玉の人以外は東京の隣で働くなら
いっそ東京でって人が大多数なんだと思います。
首都圏で独自の魅力を出せてるのは神奈川というか横浜だけでしょう。
あとは全部東京のおまけって感じです。栃木や群馬になるとまた少し別ですが
これがそれぞれ独自色のある京阪神との違いですね。

投稿: | 2014年10月23日 (木) 19時28分

グンマーは秘境としての魅力がr

投稿: | 2014年10月23日 (木) 21時05分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/60522021

この記事へのトラックバック一覧です: 医学部新設の余波:

« 改めて注目される糖尿病のリスク | トップページ | 医療に関わる奇妙な騒動 »