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2014年10月16日 (木)

癌大国日本は健診のせい?

この時期秋の健診シーズンで職場健診を受けられた方も多いんじゃないかと思うのですが、最近こういう記事が出ていたのですが御覧になりましたでしょうか。

日本が世界有数の「がん大国」である理由(2014年10月4日エコノミックニュース)

 世界一の長寿国である日本は、実は、世界トップクラスのがん大国でもあるという事実は、どれほど知られているのだろうか。日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで死亡する日本。だが、多くの先進国ではがんによる死亡率が減少しており、死亡率が上昇しているのは日本だけだ。その訳はなぜなのか。
 理由の1つは、日本が世界一の長寿国であること。がんは、老化が1つの原因ともされるため、高齢化にともなって高齢者の数が増えると、同時にがんの患者数も増えるのだ。
 もう1つの大きな要因は、海外と比べて圧倒的に低い、がん検診の受診率である。例えば、子宮頸がんはアメリカでは84%が受診しているが、日本の受診率はわずか25%。乳がんでもアメリカやイギリスが7割を超えているのに対して、日本は24%と低くなっている。検診の受診率が低いため、発見が遅れて命を落とす人が多いのだ。

 がんは、早期に発見さえできれば、多くは治すことができる病気である。がん患者の中で一番多い胃がんは、進行すれば5年生存率が半数を切るが、ごく初期の段階では9割以上が完治する。
 多くのがんは、初期はほとんど症状がない。逆にいうと、症状が出てから初めて病院にいくのでは遅いのだ。症状のないうちに、検診でがんを早期発見するのが重要なのは、このためである。
 がんによる死亡を防ぐために効果的だとわかっているがん検診だが、なぜ日本では受診率が低いのか。内閣府の調査では、多くの人が「時間がない」ことを理由としていた。時間的な制約のほかにも「がんが見つかるのが怖い」という意見もある。また子宮頸がんなどでは産婦人科を受診すること自体が、心理的なハードルとなっていることも考えられる。

 こうした中、8月には国立がん研究センターや国立長寿医療研究センター、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが新たに、1回の採血で13種類ものがんを発見できる診断システムの開発に着手したと発表した。
 新たなシステムは、がん患者などの血液中で変化するマイクロRNAに着目したもので、認知症も対象とし、2018年度末の開発を目指すという。このシステムが実現すれば、検診受診率は一気に上がり、がんの克服にまた一歩近づくのかもしれない。
(略)

健診(検診)と言うものが非常に重要視される時代ですが、病院の経営的にも癌に限らず健診で引っかかって精密検査に受診する方々の存在はそれなりに大きなものがあって、癌ともなればいずれにせよ高価な治療を受ける方がほとんどだろうし、糖尿病や高血圧など慢性疾患にしても長期に渡って通院する常連顧客になってくれるわけですから、そもそものとっかかりである受診率が低いと言うのは様々な意味で困ったことです。
まあドックなどのついでに「中年以降の男性におすすめです!」などと言われるままに高い腫瘍マーカーのセット検査などを頼むのもなんだかなあ…とは思うのですが、何にしろ発見の機会がないことには癌も見つからないものですし、多くの癌では症状が出てきた時点ではそれなりに進行しているだろうと考えると、技術的進歩で気休めではなく本当に早期発見がかなうならそれに越したことはないですよね。
ただここで注目頂きたいのは日本ではどんどん癌患者が増えている、そして癌による死亡者数も増えていると言うことで、それは世界一の長寿国なのだし癌患者は全員届け出することになっているのだから統計上そうなるのは当然とも受け止められる話なのですが、興味深いのは世界中の先進国共通で高齢化は進んできているにも関わらず、日本のように癌死亡がどんどん増えているわけではないと言われる点です。

その大きな理由の一つとして以前から日本における癌検診受診率の低さが挙げられている…と言われると「そんなことはない。今どきどこの職場でもメタボ健診だとうるさいじゃないか」と言われるかも知れませんが、そもそもあのメタボ健診の必須項目は別に癌の発見を目的にしたものではありませんし、そのメタボ健診ですら受診率は半数にも満たないと言う現実があります。
ちょうど先日週刊現代がほぼ同じテーマの記事を出していて、こちらでも検診受診率の低さが癌死亡者数増加の大きな要因とされているのですが、ここで語っている東大放射線科の中川恵一先生によれば検診を担当する医師自身の業務への関心の低さも問題だと言うのは、某基幹病院では歳をとって現場で使えなくなった医師が健診部に送られる、などと言う話を聞けば確かにその通りなのかも知れません。
いずれにしても病気が見つからないのにいくら治療技術だけ進歩向上させても意味がないし、癌の早期発見と言う意味合いを突き詰めるなら今の癌検診のあり方がいいのかどうかも議論すべきところだと思うのですが、ただせっかく癌が見つかってもその後の治療の段階でいささか気になる風潮も見られると言う指摘もあるようです。

標準医療を否定する“ニセ医学”に注意せよ―内科医・NATROM氏インタビュー(2014年10月10日BLOGOS)

がんは治療してはいけない」「出産はなるべく自然に近い状態で行うほうがよい」…。メディアやインターネット上では、こうした根拠が不明確な健康、医療情報が大量に流通している。こうした情報と向き合い、その真偽を判断するためには、どうすればよいのだろうか。長年ブログで「ニセ医学」に関する情報を発信し続け、「「『ニセ医学』に騙されないために」 」を上梓したばかりの、現役内科医NATROM氏に話を聞いた。【取材・文:永田 正行(BLOGOS編集部)】

標準医療を否定する“ニセ医学”の問題点
―「ニセ医学」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

NATROM:今回の本の中では、「医学の形態をとっているものの、実は医学ではないもの」という程度の定義をしています。一般の方がよく触れているものでいえば、例えば「食事だけでがんが治った」といった話です。こうした話は、医学的根拠がないものがほとんどです。「気功でがんが消える」みたいな話も典型的ですね。
(略)
NATROM:例えば、食事療法でも「これを食べるとがんにいいかもしれないよ」くらいであれば、そこまで問題になりません。ただ、今売れているような書籍は「“食事だけ”で治った」といった言い方をしているものも多いんです。「食事だけで治った」ということは、標準医療を否定する意味合いが出てきます。標準医療とは、現時点でわかっている科学的根拠に基づいて最良と考えられる医療のことです。
手術を勧められたけど、それを拒否して食事だけで治そう」となってしまうと問題です。「ニセ医学」の提唱者に「無理にがんと闘う必要はない」などと言われて標準的な治療をやめてしまうと、病状が悪化したり、手遅れになってしまう可能性もあります。とにかく標準医療と併用していただければ、それほど問題はありません。
(略)
「標準的な医療はこういうものです。一方で、私の提供する代替医療は、医学的根拠が不十分なため、一般的には認められていません。それでも受けますか?」というところまで、きちんと説明された上で、患者さんが選択したのであれば、ある程度仕方ないでしょう。
しかし、代替医療を提供している人間の多くはそんなこと言いません。代替医療のメリットのみ説明してリスクは説明しない。標準医療のメリットも説明しません。つまり、患者さんに十分に正しい情報を提供していないケースがほとんどです。その辺をついていけば、訴訟で勝てるケースもあると思います。
そもそもほとんどの医師は、医学的根拠のある標準治療をおこなっています。それでも結果が悪ければ、訴えられる可能性があるため、訴訟リスクも考えざるを得ない。ところが好き勝手やっている代替医療を行っている医師は、何故かそれほど訴えられていない。本当に不思議ですね。
(略)
NATROM:すべてに通じることですが、「うまい話はないよ」ということが、わりと有効だと思います。「断食するだけ」「ふくらはぎを揉むだけ」で、「いろんな病気がみるみる治る」と謳うものがあったりしますが、そんなことないですよね。そうした“うますぎる話”は割り引いて聞いた方がいいと思います。
(略)
―また、ネット上では「厚労省が~」「製薬業界が~」といった陰謀論的な情報も多いです。

NATROM: これは推測ですが、今メインで病院に来ているようなご高齢の方々は、テレビは見るけれど、それほどネットはしないので、そういう陰謀論に接する機会はあまりないのではないでしょうか。
なんだかんだ言っても、今のご高齢の方は“お医者さん”を信用していると思います。80歳ぐらいの方は私が「Aですよ」というと「Aなんですか、ありがとうございます」といった反応をしてくださいます。しかし、30~40歳くらい方は、疑うというか根拠を要求する場合が多い。それ自体は非常にいいことなんですが、だんだんやりにくくなって来ている面もあります。
現在、比較的若い20~40歳代のインターネットに親和性のある方、そういう中に一定の割合で存在する陰謀論を信じている方、あるいは標準医療否定の言説を信じている方は後々苦労するかもしれません。若いうち、40歳代くらいまでの間は標準医療を否定していても、困らないかもしれません。しかし、50歳、60歳、70歳になって標準医療を否定する言説を信じていると実際に健康に有害なケースが出てくるでしょう。

―セカンドオピニオンなども含め、広い意味で根拠を求める姿勢は持つべきですが、標準医療を否定したり、陰謀論に走るあまり医師に不信感を持つと、先々本当の治療が必要になった際に困ることになってしまうかもしれませんね。

NATROM:そういう事例が出てくるかもしれないと、漠然とは思っています。その結果、被害者の数が増えると、現在反医療的な主張をしている医療関係者に対して集団訴訟が起こる可能性もあるかもしれません。
(略)

NATROM氏と言えば長年ネット界隈で言論活動を続けられている方ですけれども、別にネット上の陰謀論を取り上げるまでもなく多くの実臨床家がこうした似非科学の類による弊害を実感しているのだろうし、特に癌のような進行性かつ致死的な疾患においては「あれがなければ助かっていたのに…」と悔しい思いをすることがままあるのだと思います。
この点で実は医者の側の責任もそれなりに無しとしない部分もあって、「医者は癌と言えばすぐ手術手術と言って患者の希望など聞いてもくれない」と言う誤解も根強いものがありますし、実際に癌が見つかれば患者の希望も受容もそっちのけで勝手にどんどん話を進めてしまうベテランの先生も未だいらっしゃるようですけれども、もちろん癌に限らず放置すれば死ぬからと言って必ずしも無条件に治療しなければならないわけではありません。
ただその判断の前提として正しい知識をきちんと得た上で主体的に自分の価値観が反映された意志決定が出来ていると言うことが重要であって、例えばひと頃話題になった宗教的信条に基づく輸血拒否のケースなどは平常時に冷静な頭で決めたことであると言うことが知れ渡った結果、今や医療現場で混乱を来すようなことも少なくなり粛々と対応されるようになってきていますよね。
癌なども年齢や状態によって治療の選択枝が変わってくるのは当然で、例えば癌を治療するための施設であるはずの拠点病院でのデータでも90歳以上なら半数が癌治療を行っていない(もちろん支持療法は行っているのでしょうが)と言いますが、残る半数の治療もカメラによる早期胃癌切除術などごく侵襲の少ないものに限られるケースが大半だろうと考えると、今や患者個々の状態や希望に応じた治療がごく当たり前に選べる時代になってきていると言えそうです。

それでも代替医療の類がなぜこうまではびこり、結果として患者に不利益がもたらされてしまうのかと言うことなんですが、やはり最大の理由として代替医療を手がける方々はよく患者と話をする、言葉を交わすと言うコミュニケーションに重点を置いていて、実際にはそれが単なるセールストークだとしても患者からすると自分の希望を十分に聞いてもらった上で主体的に判断した気分になるのかも知れません。
もちろん口八丁で単なる砂糖玉を高く売りつけるのが商売の人達なんだから口がうまいのは当たり前だと言われればごもっともですが、患者のためを思って良心的に治療の選択枝を提示したのに代替医療に逃げられたと言う真面目な先生方の中には、この種のコミュニケーションの点でいささか及ばないところがあったと言う事例がそれなりに含まれている可能性はありそうには思いますね。
冒頭の健診の話に戻っても人間ドックなどで結果を説明してくれる先生がいかにもやる気がなさそうだったとか、この先生本当に大丈夫なのかいな?と素人目にも能力を疑われかねない方であったりと言う経験をした受診者の方は少なくないと思いますが、本来的には自分でお金を出してでもわざわざ受診に来てくれる上顧客なのですから、一般外来の患者さん以上に気を遣い少なくとも丁重に対応するのが筋なのでしょう。
医師自身が「あの先生は臨床能力がちょっとアレだから健診部でも担当しておいてもらおうか」と言う態度では患者側も気持ちよく受診出来ないのは当然だろうし、仮にそこで癌の疑いが見つかってもそんな先生に応対をさせている病院で治療を受けたいとは誰も思わないだろうと考えると、早期発見早期治療のとっかかりとして以前に対外的イメージの面でも健診業務は病院の重要な表看板の一つであると言う認識が必要になりそうです。

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コメント

日本以外の先進国はどんな原因による死亡が増えているのかが疑問の一つ目。
癌で死ぬのが良くないのであればどんな原因で死ぬのが理想的なのかが疑問の二つ目。

投稿: クマ | 2014年10月16日 (木) 08時57分

癌保険のことを考えたら癌で死んだことにしてほしいって場合は増えてそうな気が

投稿: 鎌田 | 2014年10月16日 (木) 09時14分

この数年、検診は人間ドックに行ってますが、あのお客様扱いだけは違和感ありすぎ。
治療で行くのとは違うからとは理解していますが、もうちょっとフランクな感じにならないかな?

投稿: hisa | 2014年10月16日 (木) 09時19分

うちはドックはレジデントクラスの若い先生の仕事ですがそんなに偉そうな先生はいない気がします。
ただ患者さんに突っ込んだこと聞かれたときにいなし切れないでのトラブルはあるかも?
患者さんそれぞれでツボが違うので慣れないとちょっと難しいところがありますね。

投稿: ぽん太 | 2014年10月16日 (木) 09時58分

一般論としては歳がいくほど増える病気である以上、癌で死ねるような年齢になるまで生きられたのは幸運だったとも言えるのだろうし、高齢者ほど癌を治療せず放置して結果死因となる場合は多そうです。
ただご指摘のように癌保険向けの配慮であるとか、あるいは癌登録の都合上どうでもいい癌でも書かずにはいられないと言う理由もあるのでしょうか、この辺りのバイアスがどの程度なのかですね。

投稿: 管理人nobu | 2014年10月16日 (木) 10時42分

人間ドックってきっと施設によって客層が全然違うんだろうね
地元病院のドックは、看護師さんは親切だけど医師は事務的、下らん質問せんでくれってオーラ発散しまくり
そんなものわかりの悪い患者ばかりで辟易してんのかと

投稿: | 2014年10月16日 (木) 10時48分

状態の悪い患者さん大勢抱えてるときに軽症者の相手するのって気が急くんですよ。
特にドックだ健診だって方々は健康な人なんでよけいな手間とりたくないんです。
必要な医学的質問には答えるけど世間話じみたことしたがる暇な人も少なくないしね。

投稿: | 2014年10月16日 (木) 10時56分

客商売でそれ言ったらあかんやろ・・・・

投稿: | 2014年10月16日 (木) 11時08分

健康なのに下らんって態度なら、ドックでの形ばかりの医師の診察なんてやめればいいと思う

投稿: | 2014年10月16日 (木) 12時04分

甲状腺腫大なんかはもっぱら診察で引っかけるので全く無駄でもないでしょうけどね。

投稿: ぽん太 | 2014年10月16日 (木) 12時23分

昔懐かし、CEA狂奏曲を想起しますね

研究予算を確保し、あわよくばベンチャー企業立ち上げて。。。なんて人達は何度も同じ手で学習しないメディア向けにアドパルーン上げますね

ちゃんと限界を理解して使うと良いのだけれど、それでは儲からないのが現実。

癌死率が世界一って、どれだけ心臓死、脳血管障害死、事故死、新生児死亡が少ないか?!って話なのにね。。。

投稿: Med_Law | 2014年10月16日 (木) 17時22分

現行の中医協に支配されていて、いくらやっても儲からないチマチマした保険医療に嫌気がさして、
保険外医療である健診・人間ドックにシフトしている医療法人が増えてますね。
日本の健診が過剰とかいうプロパガンダが強まると、こういうセレブ向けのクリニックとかも経営難とか閉院が相次ぐのでしょうね。
近藤先生が言うようにがんを放置していいのであれば、無理に見つけようとしたり治療したりするのは医療費のムダという事なのでしょうか。
家庭の医学コーナーで医療否定本が満載状態になっているのは、裏国策もあるのかもしれませんね。
多剤併用・過剰投薬のムダ、危険性を訴える書籍も急に増えましたからね。
がん健診やがん治療を無駄だと考える人が増えれば、無駄ながん治療は減って医療費は削減できるという狙いなのでしょう。
厚労省が「がん健診やがん治療はムダだからやめろ」「薬はムダだからやめろ」とかとても言えませんからね。
インフルの薬なども日本だけで世界の7~8割消費してるそうですが、「こんな薬ムダだからやめろ」とは口が裂けても誰も言えない。

投稿: 第3極 | 2014年10月17日 (金) 11時45分

疾患啓発のCMはずいぶん増えてる気がするけど
薬の名前が出なければ口が裂けても規制できないのかな?

投稿: | 2014年10月17日 (金) 15時22分

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