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2014年10月15日 (水)

台風接近時に見られたゼロリスク追及

先日の台風では全国各地で大きな被害が出ていましたが、そんな中でこんな出来事もあったそうです。

台風19号 「運休は午後4時からじゃ…」3時45分が最終になったJR難波駅では詰め寄る人も(2014年10月14日産経新聞)

 台風19号が近畿地方に接近した影響で、大阪・ミナミの百貨店や商業施設も、閉店時間を大幅に繰り上げるなどの対応に追われた。

 「間もなく本日の最終電車が出発します!」
 JR難波駅(同市浪速区)では、3時45分の最終電車の出発時刻が近づくと、駅員が駅構内をまわって大声で乗客に呼びかけを行った。それでも、終電を逃してしまった人は多く、中には「運休は4時からじゃないのか」と、駅員に詰め寄る人もいた
 八尾市の飲食店アルバイト、竹内まゆさん(28)は、JRが全面運休する時間に合わせて仕事を早退したが、終電にはわずかに間に合わず、「もう少し急いで入ればよかった。私鉄とバスを乗り継いで帰るしかないですね」と話し、まだ運行を続けている近鉄の駅に足早に向かった

 午後2時、岸和田市の会社員、茂永陸さん(24)は、友人と昼食のために「なんばパークス」(大阪市浪速区)を訪れたが、レストラン街はすでに台風の影響で閉店。
 商店街に移動して食事は済ませたものの、商業施設などは店終いを始めており「台風だから仕方がない。あまり遅くならないうちに帰ります」と、諦めた様子で南海電車の駅へ向かった
(略)

特に電車での移動が原則となっている都市部ではこうしたことも起こりがちですが、車社会である地方においても当然ながら道路が寸断されたり大渋滞が発生したりとその影響が少なくなかったようで、せっかくの連休も残念な結果になってしまったと思っている方々も多いんじゃないかと思いますけれども、ここではJR運休を見た方々が一斉に私鉄に流れていると言う状況に留意ください。
もちろん大量の乗客を安全確実に輸送するのが仕事である以上、鉄道各社が必要に応じて運行を休止するのは当然の判断なのですが、その結果として運賃収益減少など経営的な損害は元より記事にもあるような乗客からのクレームも少なくないはずで、ただでさえ災害対応に追われている中でクレーム対応にまでマンパワーが割かれると言うのは安全確保の上でもマイナスですよね。
乗客の側でもいきなり運行休止をされては帰るに帰れない、実際問題困ると言う事情も十分に理解出来るところですが、そもそも本当に危ないのならなぜ私鉄は運行しているんだ?と言う素朴な疑問は感じるだろうし、本当に危険だと言う根拠があるなら各社判断が違うのはなぜなのか?と気にもなるでしょう。
特に近年運行休止を決めるタイミングがどうも早くなっているんじゃないか、昔と比べてやたらに公共交通機関が止まってしまう気がすると感じている方々がいらっしゃるかも知れずですが、その背景にはこうした識者の方々の安全第一という御意見もあるようです。

13日夕~夜に中国、近畿最接近 JR、早めの全線運休を専門家も評価(2014年10月12日産経新聞)

 JR西日本は10月12日、台風19号の接近に備え、13日午後から京阪神地区で全線運休することを決定した。早めに防災対応を決める施策は「タイムライン」(事前防災行動計画)と呼ばれ、8月の広島市の土砂災害で避難勧告の遅れが指摘されて以降「空振りを恐れない対応」をとる企業や自治体が目立っている

 JR西日本は10月上旬に台風18号が接近した際にも、一部区間の運休を事前に公表したが、京阪神全域では今回が初めて。「あらかじめ周知することで、外出計画を変更してもらう方が安全」と判断したという。専門家からは「交通機関が率先して動けば、社会が事前対応を決めることができる」と評価する声があがっている。

 防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏は「主要交通機関が早い段階で運休を予告することで、企業や学校に警戒を呼びかけることになり、混乱を軽減することができる」と話す。

 こうした「タイムライン」と呼ばれる対応は、米国ではハリケーンの被害を抑える効果が上がっているという。山村氏は「災害の完璧な予測は不可能。安全を最優先にするなら、空振りを恐れてはいけない」と指摘している。

安全第一に考えれば早め早めに対応すると言うのは当然のことであって、もちろんそれによって災害そのものによる被害を抑えられるのは結構なことなんですが、逆に言えば災害による被害のたびにあちらこちらから批判が殺到することを受けて、何であれ事なかれ主義的に対応しているだけなんじゃないか?と言う疑問を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか。
以前に山形県で列車が鉄橋部で突風にあおられ脱線した事故で、某大手新聞社が「風の息づかいを感じていれば、事前に気配があったはずだ」と風速が基準値内であっても事故は予測出来たと主張、その後事故が竜巻による局所的突発的なものであったことが判明し多いに批判を浴びた事件がありましたが、この種の後知恵的批判は事故が起こるたびに必ず出てくる以上各社とも対応を迫られるのは当然ですよね。
もちろん事故の原因をきちんと究明し適切な対応を取ることは非常に重要なのですが、先の御嶽山噴火事件でも見られたように「なぜ事前に規制を行わなかったのか」と言う方向にばかり話が進んでしまえば、どれほどわずかではあっても決してゼロにはならないリスクばかりを過大に評価し何も出来なくなると言うゼロリスク症候群の弊害が出てくると言えそうです。
実際にJRでは山形での事故などを受けて運行休止の基準を引き下げた結果、私鉄各社が運行を続けている中でJRだけが止まっていると言うことがしばしば見られるようになったそうですが、当然ながらこうした状況は冒頭の記事のように乗客の流れを大いに混乱させ、一部路線への乗客殺到でホームや階段で事故の恐れが出てきたと言うのですから単純に安全性が向上したと喜んで良いのかどうかです。
今回の台風災害においても電車運休を知って車などに乗り換えた人も相応にいたと思いますが、その結果道路が大混乱して交通事故はかえって増えていたのかも知れずで、社会全体のトータルで被害が増えたのか減ったのかを検証して初めて災害対応の妥当性も評価できるはずだし、是非するべきだと思いますね。

文明が進むほど人間一人を一人前にするコストは上がっていくと言う一事をもってしても、年々人間一人の命の重さが増していくことは理解出来るのですが、その一方で一定のリスクを甘受しないと世の中うまく回らないと言う現実もあり、また一つのリスクを回避してもそれ以上に別なリスクが増えているのでは意味がないことです。
子供に対してバイ菌が怖いと過度の清潔環境ばかりを用意しているとかえって抵抗力が下がって良くないと言う意見があって、その説の是非は別としても社会的にはそうした考えが広汎に受け入れられていることを考えると、過度のゼロリスクを追及して絶対に事故は起こさないことを追及するのが果たしていいのかどうか、その結果かえって別な方面でそれ以上の弊害が出て来ないかと言う視点も必要なのかとも思います。
もちろんその上で事故が起こった際には起こらないはずの事故、起こってはならないはずの事故が起こってしまったと大騒ぎするのではなく、一定確率で起こることが予想された事故に対して粛々と定められた通りの対応をする必要があるわけですが、そんなやり方は事故の犠牲者や識者からは到底受け入れられるものではないと言う意見はあるでしょう。
ただ毎年数千人の犠牲者が出る自動車事故などに関してはある程度こうした対応が社会としても個人としても出来ていて、事故当事者も含めて車そのものを根絶せよとか運行禁止をと言う声が大きくはならないことから考えると、人間リスクを身近に体感できる環境に置かれてそれに慣れることによって、初めて客観的なリスク評価と冷静な対応が行えるようになるものなのかも知れません。

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コメント

でも暴風雨になったら止めないわけにはいかないよね?

投稿: | 2014年10月15日 (水) 08時01分

結局は、大きな事故が起こらなかったことによる後付け批判という感じがします。
鉄道各社の対応が分かれたことも、それぞれの判断でなされたことであれば、非難されることではないと思います。
むしろ多様性が失われることの方が全体にとっては危険かと。

投稿: JSJ | 2014年10月15日 (水) 09時37分

防衛的対応になるのはどうしても仕方ないんですよね。
それが嫌なら何かあっても文句言うなと言いたいとこなんですが。
乗客全員とその家族に同意書出してもらうのも非現実的だし…

投稿: ぽん太 | 2014年10月15日 (水) 09時52分

必須インフラは頑強であるべきで、医療なら市中一般病院当直医が夜勤を拒否して宿直業務に専念することはありても、ERは可能な限り常時営業を続けられる態勢を調えるべきでしょう。
この点で車社会である地方路線はともかくとして、都市部においては路線沿いの暴風柵整備など災害耐性向上策は利用者負担によってでも推進する意味があると思います。
こうした災害時こそそのあたりの議論をすすめる良い機会だと思いますが、風速何メートルが妥当なのかと言う運用面での話に終始していたのではもったいない気がします。

投稿: 管理人nobu | 2014年10月15日 (水) 10時37分

 いいと思うけど
 アメリカだと、ハリケーンが接近すると、進路に当たる地域は警察が道路封鎖して、強制的に立ち入り禁止、避難の措置まで取るぐらい

投稿: うう | 2014年10月15日 (水) 10時54分

ゼロリスク症候群云々と今回のJR対応で出ていますが、
もう20年近く前から東名名神中国高速道路がそうですよね。
それまで少々の積雪でもチェーンや冬タイヤ確認で走行出来ていたのが、
今やすぐ通行止め。
通行止め解除も、走行路面に雪がない状態にならないとされない。
鉄道は走らせることで責任が生じますが、道路なんて自己責任そのものなんですがね・・・。
昔は、ここまで責任回避するか!と怒ってました。

投稿: hisa | 2014年10月15日 (水) 11時02分

>アメリカだと、ハリケーンが接近すると、進路に当たる地域は警察が道路封鎖して、強制的に立ち入り禁止、避難の措置まで取るぐらい

毎度毎度あれだけの被害が出るからこれは当然でしょ
彼らは防災に金使うかわりにこういうとこに金使ってんだろなと

投稿: | 2014年10月15日 (水) 11時30分

アメリカの話で思い出したけれど、ワシントンDCの近郊の住宅地でも河川改修なんてされている様子は窺えなくて、ただ「flood area」と書かれた標識が立っているだけ。
そのおかげか、ホワイトハウスから車で30分も走れば夏にはホタルを見ることができます。
このあたりは人口密度や地形などの前提条件だけでなく哲学の問題なのだと思います。

ひるがえって日本の大都市圏の交通機関についても
遮二無二強靭化を図らなくても、台風など沖縄以外では長くても一日あれば暴風圏を抜けますから、その間運休すればよいという考えもありだと思います。
帰宅困難者の避難先を確保する、という方向性もありでしょう。
そういったことを検証していくことは大事だと思いますが、議論が非難がましくならないよう注意する必要はあるかと思います。

投稿: JSJ | 2014年10月15日 (水) 12時33分

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