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2014年10月28日 (火)

次のターゲットは教育コストの削減?

最近学校教育の現場では一方に学童学生によるいじめや非行の問題があり、他方では教師による体罰問題がありと様々なトラブルが報じられていますけれども、これら両者は相互に別々のものと言うわけではなく密接な関係性を有しているのではないか?と言う指摘もあって、教師の権威失墜に伴う指導力・矯正力の低下と言った文脈で語られることもありますよね。
昔は教室でふざけてでもいれば先生からげんこつの一発ももらうのは当たり前だったと言う声もあれば、そんな人権侵害の暴力的指導など今どき許容されるものではないと言う声もあってどちらももっともだと言う側面はあるのですが、やはりこの辺りの微妙な境界線は問題になりやすいと言うことでもあるのか、最近興味深いトラブルの事例が立て続けに報じられていました。

中学教諭、中1男子生徒の顔などたたき戒告 宮崎、生徒は軽傷(2014年10月24日産経新聞)

 宮崎県教育委員会は24日、宮崎市の中学校で男子生徒に体罰を加えて軽傷を負わせたとして、男性教諭(42)を戒告処分にした。

 県教委によると、教諭は7月2日午後、いたずらで他の生徒のスリッパを持ち去ろうとした1年の生徒を指導した際、頭や顔をたたいたほか、腹を指で突いた。生徒は顔や腹に全治1週間の打撲傷を負った。

 生徒が親に相談し、発覚。教諭は生徒と親に謝罪した。教諭は県教委に「指導に素直に応じる姿勢がみられず、気持ちが高ぶった」と話した。

 教諭は別の中学校に勤務していた平成19年度にも体罰で厳重注意を受けた。

教諭への抗議は「名誉毀損」 横浜地裁、保護者に賠償命令(2014年10月23日産経新聞)

 神奈川県大和市の市立小教諭だった女性(定年退職)が、担任した児童の両親からの抗議で名誉を傷つけられたなどとして損害賠償を求めた訴訟の判決が23日までに横浜地裁で言い渡され、遠藤真澄裁判長は名誉毀損を認め、両親に計約100万円の支払いを命じた。判決は17日付。

 原告側代理人の弁護士は「保護者の抗議を名誉毀損と認めるのは極めて珍しい」としている。

 判決によると、元教諭は、平成20年度に担任したクラスの児童1人が他の児童を引っ張ったり授業中に騒いだりするため、腰や背中をたたいて注意した。

 両親は20年11月から市教育委員会を複数回訪れ、懲戒免職を求めて抗議。同12月には母親が教室で元教諭の頭を殴打し、父親は市教委で元教諭を批判する暴言を吐いた。元教諭は抑うつ状態になり、約2カ月半の療養休暇を取った。

こうして並べてみますと非常に面白いと言いますか、同じようなことをしていても当事者の力関係等々によって結果も全く異なってくるのか?と言う風にも受け取れる話なんですが、ただ昨今世間の一部ではこうした場合にルールに基づいて停学等粛々と対応する、場合によっては警察を呼ぶと言う方法論が「正解」とされている風潮があって、手を出すリスクを負ってでもその場の裁量で収めてくれる先生も減っていきそうですよね。
正直どちらも一昔前までならとてもこんな騒ぎになりそうにない小さな事件が発端であったように思うのですが、どこの業界でも難しい顧客の対応が増えてきて心身が疲弊してくると「もう給料分の仕事だけしていればいいや」と言う考えになりがちなもので、「学校は学問を教える場所。しつけ機能まで期待されても困る」と割り切った先生が増えてくるのは教育のあり方としていいのか悪いのかです。
テレビに出ている偉いヒョウロンカの先生方も色々と原理原則論を説いてくれるのですが、それで収まりがつかない相手がいるからこそどうするかと言う話になっているのだと考えると、問題児の権利を守るばかりでその他大勢の子供達の教育機会が奪われることは無視していいのかと言う声にも一理あるだろうし、かつて橋下大阪市長が提言したような問題児童の隔離政策と言うのも一つのアイデアではあるのでしょうね。
ともかくも教育と言うものがなかなか面倒くさいことになってきた結果、以前よりもそれに対して手間ひまがかかるのだろうなと想像出来るのですが、聞くところによるとこれまた他業界と同様近ごろでは先生方も各種雑用に追われ多忙を極めるのだそうで、肝心の教育そのものに対して十分な時間や労力、あるいは熱意を費やすことが出来なくなってきていると言います。
そうであるなら教員をもっと増やして負担を軽減すればいいのでは?と言う考えは自然に出てくるだろうし、世論調査を見ても国民の多くは教員増を望んでいると言う結果が出ているようなのですけれども、財務省筋からはこのところの大々的なコスト削減の流れを受けてかこんな話も出ていると言います。

財務省 35人学級を40人に戻すべき(2014年10月23日NHK)

公立の小学校で導入されている35人学級について財務省は、いじめや不登校などで目立った改善が認められないとして、40人学級へ戻すよう見直しを求める方針です。
これに対し文部科学省は、教育の質の向上などにきめ細かい指導体制が欠かせないとしていて、年末の予算案の編成で難航も予想されます。

公立小学校の35人学級は、入学直後にきめ細かな指導をするため、平成23年度から1年生の児童を対象に導入されています。
その効果について財務省が検証した結果、1年生とほかの学年を比べたいじめや不登校の発生割合は、導入前の5年間の平均で、いじめが10.6%、不登校が4.7%だったのに対し、導入後の2年間は、いじめが11.2%、不登校が4.5%となり、目立った改善がみられないとしています。
そのうえで、従来の40人学級に戻した場合、必要な教職員の数はおよそ4000人減り、国の負担はおよそ86億円減らせると試算しています。
財務省は、厳しい財政事情のなかでは40人学級に戻すべきだとして、今月27日に開かれる財政制度等審議会にこうした見直しの案を示すことにしています。
これに対し文部科学省は、教育の質の向上などに35人学級のようなきめ細かい指導体制が欠かせないとしていて、年末に向けた来年度予算案の編成過程で難航することも予想されます。

「先生1.8万人減らせる」 財務省が「機械的に」試算(2014年10月23日朝日新聞)

 財務省は、全国約3万の公立小中学校をすべて標準的な規模に統廃合すると、5462校少ない2万5158校になるとの試算をまとめた。必要な教員数は小学校だけで今より約1万8千人少なくなるという。試算をもとに、来年度予算案で教員の定員削減と人件費抑制を文部科学省に求めていく考えだ。

 27日の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で示す。財務省は「機械的試算」として、試算通りの統廃合を求めるものではないとの姿勢だが、少子化のペースに比べて学校統廃合や教員数の削減が進んでいない状況を示すことで、文科省に対して教員の人件費に充てる予算をカットするよう求める狙いがある。

 学校教育法に基づき、小中学校の標準学級数は1学校あたり12~18と定めているが、地域の実情により標準を下回る学校も認めている。少子化により、今は全体の約半数の学校が11学級以下と標準を下回っている。全国の学校が12学級以上になるよう機械的に統廃合する試算では、小学校数は約16%、中学校数は約22%減る。約41万人いる小学校教員数は4%ほど減らせるという。

 教員定数は今年度、少子化に合わせて約3800人減らした。財務省は来年度も削減を求める方針だ。文部科学省は反発しており、年末の予算編成で焦点になりそうだ。(疋田多揚)

まあ学校の統廃合については諸説あるだろうとしても、教師の数を減らしていくと言う話に関しては世間からそれなりの反対意見も出てきそうには思えますよね。
一応公平を期すために欠いておきますと、これは必ずしも教職員のリストラを推進すると言う話ではなくて、現状で非常に数の多い50歳代の教師が今後大量に定年退職していく、その結果放っておいても自然に教員の総数は自然減になっていきますよと言う事実を下敷きにした話ではあるようで、それに対して今後お金をかけて新たに教員大量採用を進めるべきかどうかの議論の叩き台にもなる試算とも言えそうです。
ただ気になったのは教員を減らす(と言うよりも、自然減を補わない)ことの妥当性を裏付けるデータとして35人学級にしてもいじめ等のトラブルが減っていないじゃないかと言っていることなのですが、先日発表された全国いじめ件数調査でも各都道府県で件数に大きな差が出て把握方法の不統一が問題になったように、これはいじめをいじめだときちんと報告するようになった結果把握率が高まったことも一因であるかも知れません。
現場の先生方と話をすると医療と教育は非常に似た部分があるようなのですが、医療の業界においても近年医療事故件数増加が報じられていますけれども必ずしもネガティブに捉えるべきことではなく、各現場がきちんと事故発生を把握し包み隠さず報告するようになったからだと考えるとむしろ良い傾向とも言えるし、現場が正直に申告した結果を理由に不利益変更を行うのでは誰も本当の事は言わなくなってしまいますよね。
いずれにしてももともと主観的評価に頼らざるを得ないこの種の質の議論と言うものは定量的評価が難しい部分が大いにあるものですが、素朴な国民感情としてもお金をケチるために教員を減らしますと言うのはやはり少しばかり外聞が悪い話には見えるところですし、方向性の是非はともかくこの種の問題に関してはなかなか理詰めで大きな変革を行っていくと言うのはまあ難しいのだろうとは思います。

教員増とはすなわち国民負担の増加でもあって、相応のコストをかけてでも医療の維持を望む世論の後押しも受けて医師増員に舵を切った医療政策と対比されるべきことですけれども、医療の現場においても医師数大増員が正しいのかどうか、むしろ多忙過ぎる医師の負担軽減策の方を推進すべきなのではないか等々の異論数多であることを考えると、教員増員も必ずしも万人が泣いて喜ぶとばかりも言い切れない話なのでしょう。
そもそも1クラス40人だろうが35人だろうが現実的にどれほどの差があるのか、それよりも副担任をつけて二人担任制でやった方がよほど効果はあるのではないかと言う気もするのですが、現実的に全国全ての学校現場で二人担任にするとなると膨大な教員数とコストがかかることを考えると、国民全てに最低限保証すべき公教育とはどこまでする必要があるのかの議論にもなりそうです。
この辺りは医療の世界においても皆保険制度で誰でも安く担保すべき医療にはある程度限度と言うものがあってしかるべきで、それ以上の高価なオプション的医療に関しては混合診療等の形で個人負担で行うべきだと言う考えがあることとも対比出来そうなんですが、そう考えますと今後は教育の場においてもコストの限られた公立とお金のある私立とで教育環境の格差が拡大していくような可能性もあるのでしょうか。
ただ高校までは実質全員が進学する時代で私学にも学費補助が行われているせいか今や多くの私立も公立もさしたる差がなくなっている感もあって、お金を出してでもいい教育をと言う考えで「良い学校」に通っているのはごく限られた数に過ぎないとも言えるし、特に地方ではそういう様々な需要に応える選択枝の多様性が限られていることもまた一つの問題ではあるのかなと言う気もします。

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コメント

不祥事続きで自浄作用ゼロの先公どもは涙目だなこれは
余ってんだからカスはどんどん辞めさせてしまえばいいんだ

投稿: | 2014年10月28日 (火) 09時04分

>余ってんだからカスはどんどん辞めさせてしまえばいいんだ
 振り返ってみると医療崩壊もこんなヘイトスクラムから始まったような気がする。医者の倫理観がダメだから医療ミスが起きる、裁判で喝を入れてやる、いやならやめろ、とか。

>今後は教育の場においてもコストの限られた公立とお金のある私立とで教育環境の格差が拡大していくような可能性
 高校無料化なんて手遅れなところにムダ金を使うのをやめて、公教育は幼児、初等教育にこそ金をつぎ込むべきだと思いますよ、二人担任でも、私立と全く格差が無いくらいに。といってもダメだろうなぁ。老人医療とおんなじだ。
 行き着くところまで行きそうですから、まずは身内を守ります。 
 

投稿: 感情的医者 | 2014年10月28日 (火) 10時29分

教育も医療と似たような構図ってのはなんとなく判る気がしますが。
でも医療にさえだんだん金を惜しむようになってきてんですよねえ…
これからの私学は教育環境の良さをもっと売り込んでいくべきなんですかね?

投稿: ぽん太 | 2014年10月28日 (火) 10時32分

まさにそうした国民目線という観点からも医療と教育の共通項は少なからずあるようで、実際に一度完全崩壊なりして社会問題化しなければそれは変わらないと言うことなのかも知れません。

投稿: 管理人nobu | 2014年10月28日 (火) 11時07分

>実際に一度完全崩壊なりして社会問題化 
 それはやばい。 医療よりひどいことになる悪寒がいたします。

 医療はアウトカムが割とすぐ見えそうで(公衆衛生的なとこのレスポンスは遅そうですが)それでも大方の人に認知できる形でアウトカムが出てくる。だから気づいてフィードバックが効く。 最悪、人は必ず死ぬものだ、と開き直れば崩壊もクリティカルではない。

 一方、教育、特に初等教育の失敗は アウトカムが見えてくるのが遅いですし、時期を失すと挽回もほとんど不可能で、(先天性甲状腺機能低下スクリーニングで拾い上げ失敗)アウトカムは今後数十年生き続けいつか後進を育てる側に回るのです。お○○○様の小学校教諭が現場で働き始めています。どんなことが起きるのかわかんないのですから、よく見て知恵を集めて手当をしなきゃならないかと。 

 より企業の役に立つ人材、よりたくさん稼ぐ人材 を目指した競争的教育に 平等化の掛け声など無意味です。中等高等教育で落としこぼされた人間には、次の世代では平等を目指すことができるよう子育ての技術を教えることこそが必要だと思いますよ。
 階層固定化しておいて掛け声賭けてますね、嘘が見え見えだから子作りに躊躇するんです。 
 
 崩壊を覚悟しつつやるしかないですが。  

投稿: 感情的医者 | 2014年10月28日 (火) 23時26分

逆に言うならうまくいってるのかどうかもわからない
ずっと目隠しして運転してるようなものだわな

投稿: koma | 2014年10月29日 (水) 07時33分

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