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2014年9月24日 (水)

「昔は里帰り分娩と言うものがあって」といずれ言われかねないお産の現状

産科医療の崩壊が叫ばれてからすでに久しいところですが、最近久しぶりに各地で産科絡みの崩壊ニュースが続いています。

里帰り分娩:派遣医引き揚げや近隣の閉院で受け入れ休止(2014年9月19日毎日新聞)

 神奈川県小田原市立病院(小田原市久野、白須和裕病院長)が、妊婦が実家近くの病院で出産する「里帰り分娩(ぶんべん)」の新規受け入れを来年1月以降、休止することが分かった。近隣の秦野赤十字病院(秦野市立野台)への産婦人科医派遣が、今年度末で打ち切られる問題が背景にあるとみられ、市立病院側は「受け入れ状況の見極めがつくまで休止せざるを得なくなった」と説明している。

 小田原市立病院経営管理課と医事課によると、同院の2012年度の年間分娩数は826件で、08年度に比べて143件増加した。このため市は13年度、11年度より3人多い計11人の産婦人科医を配置。「現在の分娩数なら対応は十分に可能」だとしている。
 しかし、秦野赤十字病院に産婦人科医を派遣している昭和大学(東京都品川区)が今年5月、今年度末に派遣医を引き揚げることを病院側に通告。秦野市こども健康部によると「(同院の産婦人科医確保は)現段階で非常に厳しい状況」で、現在扱っている年間約700件の分娩に対応することが難しくなった
 これに加え、今年3月には小田原市内の3院の産婦人科医院のうち1院が閉院。両院で出産を考えていた妊婦の一定数が、小田原市立病院で分娩することが想定される事態になった。

 里帰り分娩の新規受け入れ一時休止について、市立病院は「地元の人が安心してお産ができる態勢を堅持していくための、やむを得ない措置。受け入れ状況の見極めがつくまでの一時的な休止で、早く元の体制に戻したい」と話している。【澤晴夫】

産科医不足、福島など9県で「危機的状況」(2014年9月20日読売新聞)

 当直回数が多く、成り手が不足している産科医について、都道府県間で最大2倍程度、産科医数に格差が生じていることが日本産科婦人科学会などの初の大規模調査で分かった。
 福島、千葉など9県では、35歳未満の若手医師の割合も低く、将来的な見通しも立たない危機的状況にあると報告されている。

 全国9702人の産科医の年齢(今年3月末時点)や、昨年の出産件数などを調べた。人口10万人当たりの産科医数は、茨城が4・8人で最も少なく、最も多い東京と沖縄の11・1人と倍以上の開きがあった。
 また調査では、35歳未満の割合、産科医1人当たりの出産件数など6項目で全体的な状況を見た。福島、千葉、岐阜、和歌山、広島、山口、香川、熊本、大分の9県は6項目全てが全国平均よりも悪く、「今後も早急な改善が難しいと推測される」とされた。
 中でも福島は、産科医が人口10万人当たり5人(全国平均7・6人)と2番目に少なく、平均年齢は51・5歳(同46歳)と最も高齢で深刻さが際だった。東日本大震災や原発事故も影響しており、同学会は昨年5月から全国の産科医を同県内の病院に派遣している。

 調査をまとめた日本医大多摩永山病院の中井章人副院長は「国や各自治体に今回のデータを示し、各地域の対策を話し合いたい」と話している。

産婦人科と産科、減少続く 背景に訴訟リスクと出生数減少 厚労省の医療施設調査(2014年9月2日産経新聞)

 全国7474の一般病院のうち、昨年10月時点で産婦人科や産科を掲げていたのは前年比12施設減の1375施設で、23年連続で減少が続いていることが2日、厚生労働省の2013年医療施設調査で分かった。
 厚労省の担当者は「訴訟リスクなどが敬遠されたり、少子化で出生数が減ったりしていることが背景にあるのではないか」と分析している。

 調査によると、産婦人科は1203施設、産科は172施設だった。二つを合わせた数は1991年から減り続け、99年に2千施設を、08年に1500施設を下回った。
 小児科も前年より22施設減って2680施設となり、20年連続減
 また、13年病院報告によると、患者1人当たりの入院期間を示す指標の平均在院日数は30・6日で、前年より0・6日短くなった。

まあしかし大野病院事件を思い出すまでもなく震災後のトラブルを見ても福島県と言えば今や全国に名を知られることになった聖地の一つですから、わざわざそこで医療を、それも産科医療を行おうとする人が少ないと言うのはむしろ自然な反応だと思いますけれどもね。
産科医と施分娩設数の減少は産科医を1人づつ分散配置することによるリスクの回避と、同じく分散配置に伴う個人負担過重化の回避と言う二つの側面もあると思いますが、厚労省の資料を見ても産科医数の減少ペースに比べると分娩施設数の減少の方がずっと早いペースで進んでいて、一面で産科医の集約化が進んでいると言うことが言えるかと思います。
ではその集約する施設がどこになるのかと言うことなのですが、当然ながら少子化で出産総数も減少している以上なるべく需要が多く分娩数も多い施設に集約しようと考えるのが筋と言うものであるし、その意味では産科医分布の現在は意図的に作り出された状況でもあって、今さらわざわざ時計の針を巻き戻すように昔の分散配置に戻そうと言うことにはならないだろうとも予想されますよね。
冒頭の記事にあるいわゆる里帰り出産の制限などはこうした需給ミスマッチのある場合真っ先に行われやすい方法ですが、一般の病気と違って分娩の場合は何月何日頃とある程度計画的に対応出来るだけに(予定外の出産となった場合にはそもそも里帰り出産どころではないでしょう)、一般の医療と違って受け入れ制限を行うことによる弊害が最低限で抑えられると言うことは言えそうです。
ともかくお産と言えば社会的にもそうですが、各種マスコミなどでも非常に尊重すべきものとして扱われていて、その意味で産む場所の自由すら思うに任せない不自由があることに思うところがある人も少なくないと思いますが、現状で社会的司法的に求められているレベルの安全性と永続性を担保するためにはやむを得ざる措置として、ある程度の不自由には了承いただくしかないのかなと言う気はします。

今回の記事を見ていて興味深いのは厚労省が産科の現象を公的に認めた形なんですが、一方で現在ガイドライン作成作業が始まったところである例の地域医療構想に関して先日第一回の検討会が開かれたのですが、厚労省が叩き台として6つの提案をしている中で高齢者や慢性期に関しては言及があるものの産科小児科には特に言及なしと言うことになっているようです。
もともと医療と介護の総合的な確保を推進するための構想であって、特定診療科の数量制限に踏み込むものではないと言うことなのでしょうが、本来地域医療の中で老年医学も人生の一時期の医療を提供すると言う点では産科や小児科と何ら変わるところはないはずであって、危機的状況にあるのは同じなのに何故年寄りだけは特別扱いなのかと言われかねない話ではあるかと思いますね。
ただ厚労省の示した「国民(患者)が医療機関の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けられるような医療機関に関する十分な情報の国民(患者)への提供」と言うポイントは別に高齢者だけの話ではなく、どこでどんな医療が提供されどうやったらそれを利用できるのかと言うことに無関心では当の国民はもちろんのこと、受ける方の医療機関側でも困る話ですよね。
この点でいささか混乱があるのは医療現場で直接働くスタッフは疲弊しこれ以上は無理だと思っていても、彼らを使う経営側ではもっと患者を受け入れろと更なる拡大路線に走りがちであると言うことですが、例えば当院は24時間あらゆる救急患者を受け入れますと病院公式サイトで明示してあるのに、実際に利用しようとすると何のかんのと言い訳されて受け入れを渋られると言うことはままあることではないかと思います。
医療行為において疲れていたから、忙しかったからで失敗が許されるものではないことが判例的にも確定していますから現場が無理をしなくなるのは当然なんですが、ただ日本の診療報酬体系を考えると現場が労基法無視の無理や無茶をすることが前提でようやく黒字が見込めるように設定されている側面もあって、この辺りはいつかは摺り合わせをしていかないといずれ大きな混乱の元になってくる気もしますけれどもね。
いずれにしても産科崩壊だと盛んに言われてきましたけれども、案外産科の方では計画的に戦線を整理縮小しているようにも感じられるところがあって、国民の理解と適切なサポートさえ得られれば今後も十分永続的な産科診療を提供することも可能なのではないかと思うし、むしろそうした危機感もなく漫然と医療提供を続けている他診療科の方が危ない部分もあるかも知れませんね。

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コメント

里帰りせずに親がヘルプに来ればいいんじゃない?

投稿: もんた | 2014年9月24日 (水) 08時49分

そういう家庭もありますけど部屋が狭いと気兼ねするでしょうね。
そもそも里帰りって夫も含めた婚族からの逃避でしょ?

投稿: ぽん太 | 2014年9月24日 (水) 09時47分

親から子へお産や子育ての知識や経験が継承されることは社会的にはもちろん、医療の側にとっても本来は非常にありがたいことであるはずなんですけどね。
産科リソースの集約化が避けられないのであれば、せめて電話やネットを通じて遠隔地に離れた親子間でもこれらの継承が行われるようにしたいところです。

投稿: 管理人nobu | 2014年9月24日 (水) 11時30分

だから、最初から妻実家に同居、もしくはその近くに住めばいい

投稿: | 2014年9月24日 (水) 12時43分

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