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2014年9月 3日 (水)

救急医療が弱いと言われる埼玉から

医療需給バランスと言う点で先日例外的に医学部新設が認められたように東北地方は医師不足だと言われていて、もちろんそれはそれで事実の一側面を示しているのでしょうが、人口比で考えると東北以上に医療需給バランスが崩壊している地域は他にもあって、例えば現在すでに人口が多く今後も人口増加が見込まれる割に医学部一つしかない千葉、埼玉両県などはかねて医学部新設待望論が根強い地域ですよね。
その埼玉では当然ながら医療供給能力不足の問題と言うことが以前から大きな課題と捉えられているようですが、先日市民団体ら医療を受ける側である非医療関係者の方々が集まって県下の医療問題を討議すると言う会議が開かれたといいます。

「救急医療体制が弱い」、埼玉県の課題集約- “市民委員”がワークショップ(2014年8月26日CBニュース)

救急医療体制が弱く、医療機関の人員も不足している―。埼玉県が抱える医療の課題について、市民団体の関係者や大学生らの“市民委員”が話し合う会議が26日、さいたま市内で開かれた。委員らは3つのグループに分かれ、医療を受ける側の目線で、現状の問題点や改善すべき事項を挙げた。【新井哉】

この会議は、昨年1月に埼玉県久喜市の男性が救急搬送時に病院から36回断られて死亡した事案などを受けて設置されたもので、今年5月から3回にわたり、救急や在宅医療にかかわる医師らから意見を聞くなどしてきた。
4回目となった同日の会議では、これまでの議論や検証を踏まえ、委員の意見を集約するためのワークショップを実施した。日ごろから感じたり、不十分だと思ったりしている県内の医療提供体制の問題点などを集約することで、効果的な政策提案につなげる狙いがあるという。
委員らは、伊関友伸委員(城西大経営学部教授)から明治時代に県と議会の対立によって「県立医学校」の予算案が否決されたり、県立病院が廃院となったりした歴史的な経緯や、75歳以上の高齢者の人口推計などの説明を受けた後、グループごとに「在宅医療の支援が不十分」「救急車の適正利用ができていない」といった課題をカードに書き込んだ。
「医療の質」や「薬」、「教育」などの項目ごとにカードを整理した後、グループの代表者が集約した課題を発表。「よりよい病院で研修を受けようと、医師が東京都内の病院に出てしまう」といった教育体制の問題点のほか、「命にかかわる順にホームページに掲載してほしい」と情報提供の改善を求める意見も出た。
今回集約した課題などについては、来月16日に開催される会合で、グループごとに改善策や政策を提案する見通しで、今年度内に県に対する提言を取りまとめるという。

まあしかし明治からの経緯まで掘り下げて学習することも大事ではあるのでしょうが、結局のところは埼玉に特異的な理由が存在していると言うよりも全国各地で当たり前に見られる課題の積み重なった結果が現状であると言えそうですし、逆にそうであるからこそ全国各地で同じ問題を抱える地域にとっても他人事ではないと受け止めるべきなのでしょうね。
興味深いこととして先日厚労省から平成24年度の全国各地の医療費比較と言うデータが発表され、年齢補正をした結果を見てみますとこれが見事に西高東低を描いているのですが、特に埼玉や千葉と言った人口に比べて医師不足が顕著であると指摘されてきた地域が全国で最下位争いを演じているほど一人当たり医療費消費額が低いと言うのが注目されます。
もともと東日本に比べて西日本の方が全般に医師数が多い傾向があって、これまた遡れば幕末から明治に続く歴史的経緯が云々と言う方もいらっしゃるようなのですが、ともかくもこうしたデータを見れば昔から厚労省が根強く持論としていた医師数増加は医療費増加につながると言う考え方も、まあそれなりの根拠はあるのかと思えそうな話ですよね。
埼玉や千葉が医師不足だから医療費統計にも表れるほど医療の供給面が他地域よりも過少になっているのだとすれば、平均寿命などにも影響が出るんじゃないかと思えばこちらはむしろ医師が多いと言われる西日本の各県が下位に来ていたりして年齢分布等他要因の影響もあるのかですが、強いて言えば年齢が進むほど埼玉県民の平均余命がどんどん順位を落としているあたりが救急医療のリソース不足を反映していると言うことなのでしょうか。
いささか話が飛びましたが、先日その救急医療リソース不足が言われる埼玉で珍しい夜間専門の救急クリニックをやっていらっしゃる猛者の先生の記事が出ていて、何と今年はとうとう24時間救急に挑戦したと言うことで当事者の体験談が載っていたのですが、これが色々な意味で興味深いものですので紹介してみましょう。

GWもお盆も24時間体制!その功と罪(2014年8月28日日経メディカル)

 ゴールデンウィーク、お盆、年末年始といえば、楽しい長期休暇!
 と世間一般では考えられていますが、この時こそ救クリが獅子奮迅する期間でもあります。
 今年のお盆も盛況で、某テレビ局が密着取材していて、その様子がつい先日放送されました(その模様はまた別の機会に)。
 救クリは昨年から医師二人体制となり、今年5月のゴールデンウィークから「24時間営業」を敢行しましたので、この場を借りて報告させていただきたいと存じます。

 24時間診療体制を敷くことは開院当初から救クリの祈願であり、大きな命題の一つです。しかし、医師と看護師の数的・体力的な事情もあり実現できていません
 私は救クリで昨年末から今年の年始にかけての診療を初めて体験し、16時前から患者さんが行列を作っている状況を見て、数分後、「24時間営業すれば、患者さんを色々な時間に分散でき、待ち時間を短縮できる!」という構想を思い立ちました
 それを院長、看護師長、事務長に話したところ快諾を得たので、ゴールデンウィークに実行することとしました。
 4月ごろから、救クリのウェブサイト上で5月3日~6日の期間は24時間診療することを紹介、市内各所にも連絡しました。
 とりあえず、午前の部「9:00~12:30」、午後の部「14:00~18:00」、夜間の部「18:00~翌9:00」ということにして、9:00~18:00を私、18:00~翌9:00を院長が担当することで診療を開始しました。
 ただし、実際に患者さんがどのくらい、どの時間に来院するかは全く読めなかったので、初日は試行錯誤でした。

私 いやー、どのくらい来るか全くわかりませんね~。
看護師長 まあ、夜間救急っていうのが定着しているので、あまり来ない気もします。あはは。

 などと雑談しているのもつかの間、鳴りやまない電話、次々と積み上がるカルテ達……。

私 よく、皆さん昼間も開いているって知っていますね~。
看護師長 確かに、よく調べていますね~。ウェブサイトもちゃんと見ているんでしょうね。

 って話しながら、黙々と診察していくと、あっという間に13時過ぎになり、何とか診察終了と思いきや……。

事務長 もうすでに午後の診察の受け付けしている人もいますよ。サクッと昼食取ってきてください。私は行けませんが……。

 午前中の患者さんの会計処理が多過ぎて、まだまだ休めない事務部の方々に感謝しながら何とか昼食を取り、休憩もままならず、午後の部へ
 特にペースが鈍ることなく経過して、気付くと夕方になっており、院長登場。

院長 どうだった、初日は?
私 いやー、宣伝効果か分かりませんが、100人近く受診されましたし、まだそこにカルテが積んでありますよ、終わらなくてすみません。
院長 こりゃ、昼間もやった甲斐があるわな、わっはっは。

 その後も、しばらく電話は鳴り続け、慌てて診療に取り掛かる院長を横目に見ながら私は帰り支度を済ませ、自宅に戻りました。
 翌日、グロッキーな院長が一言。

院長 結局、114人来院したよ……。
私 それは、スゴイ! 今日も頑張りますので、院長は帰って寝てください。
院長 そうさせてもらおう。おやすみ……。

 2日目もトータルで112人でした。3日目、4日目は若干減りましたが、それでも普段の土日の1.5倍くらいの患者さんが受診されました(図1参照)。
 当初の我々の目論見としましては、「16時付近に並んで受診される患者さん達を分散させ、我々の負担も軽減するのでは!?」ということでしたが、見事に玉砕されました。

 旅では必ず予期せぬ出来事が起こります。
 私にとっては、それくらい地域の人達に必要とされているのを実感した、ゴールデンウィーク4日間の救クリの「旅」でした。
 心地よい初夏のやわらかで穏やかな風を浴びながら、次なるTRYをしていこうと心に誓いました

ま、埼玉県においてはこれだけ救急の需要があるのだと受け止めるべきなのか、これだけ押し寄せた患者の中で本当の救急患者はどれだけいたのか?と考えるべきなのかは議論の分かれるところだとは思いますが、ともかくも医師二人で24時間救急クリニックを(期間限定とは言え)行われるその男気?には敬服するしかありません。
個人的には記事を拝見していて、以前に職員の組合活動が非常に活発なことで知られる(そしてその分?医師の業務負担が非常に大きいことでも知られる)某病院で研修医の先生が病院公式ブログを交代で更新されているのを拝見したことがあるのですが、休日も明らかに医業と関係ない業務にまで動員されながら「今日もホント楽しかったです~アハハハハ!」みたいな妙なハイテンションの内容ばかりだったことをちょっと思い出したりもしました。
こういう業務を行える、と言いますかそもそもやろうと言う気になるくらいですからもともとアクティビティーの高い先生なのだろうし、期間限定であればそれも可能は可能であるのかも知れませんけれども、一般的に医師二人で24時間救急をやるとなればこれは明らかに労基法違反の水準になってしまうでしょうから、永続性と言う点では疑問なしとしませんよね。
その場合患者が「先生もGWに忙しかったんだからしばらくはノンビリやったら」などと労わってくれると言うことは経験上まずないことで、むしろ「24時間やってると聞いたからわざわざ遠くから来たのに休みとはなんだ!医者のくせに患者を放置して休んでていいとでも思ってるのか!」などと言われてしまいかねないと思うのですが、ともかくもお体を労わって末永く地域医療に貢献なされることを願うしかありません。

先日日経メディカルに「三度の飯より手術が好き」と言う院長を持つ外科系クリニックで患者のクレームが多いと言う記事が出ていて、種を明かせば院長が「手術件数を増やすことを至上命題とし」ていて「手術点数につながることは奨励するが、それ以外のことは全て無駄であるという考え方が、組織に浸透して」いることが諸悪の根源であったと言うことなんですが、実はこうした側面は多かれ少なかれ多くの医師が持っていることだと感じます。
医師などと言う人種はおよそヲタク的要素を大なり小なり持っているもので、別な言い方をすれば「○○が三度の飯より好き」と言うその○○の部分が医業に関連したものである人々だからこそ長く激務にも耐えられると言う側面が大きいように感じますが、周囲のスタッフも同じノリでついて来れるかどうかはまた別の話であって、前述のクリニックにしても今後事務長らスタッフの方が先に音を上げたり患者を歓迎しない雰囲気を発散させたりするかも知れません。
これもよく聞くことですが正直医師としての腕の部分はちょっと…と言う三流大出の先生が妙に患者に評判がよくて流行っている、そして名門大学を出て赫々たる経歴を誇りながら正直あまり顧客が寄り付かない近隣同業者の先生が「あんなヤブ医者に好んでかかるとは!全く素人には医療の何たるかなどワカランのか!」と憤慨している、と言う構図がありますが、では何故そういう現象が発生するのかですよね。
急を要する方々のための救急外来ですらコンビニ感覚の患者が多数押しかけてくるわけですから、普段のクリニックの外来などは大部分がとりあえず型どおりの対応で直ちに問題ない患者だとすれば、こうした患者の多くが自分達にはさしたる利用機会のない高度な医学的知識や技術よりも、日常的に経験する接遇面等における顧客満足度の高さの方を重視しがちになるのも無理からぬことなのでしょう。
救急需給バランス破綻の対策として救急の供給面を改善することと平行して、通常外来に不要不急の患者を誘導すると言う対策も重視されるべきでしょうが、そのためにも誘導先の市中医療機関に行くことが気分がいい、快適だと感じさせることも重要なのだろうし、そう言う部分を改善し多くの患者を引き受けて他の医療機関をサポートする能力を発揮できることも、むしろ臨床の場でより広く求められるスキルの一つと言えるのかも知れませんね。

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コメント

だって埼玉

投稿: | 2014年9月 3日 (水) 07時50分

患者様のために一生懸命という気持ちが大切なのですw

投稿: aaa | 2014年9月 3日 (水) 09時55分

埼玉、千葉が人工の割に医学部定員が・・・とよく言われるのですが、
埼玉・千葉・東京・神奈川での人口当たりの医学部定員って、関西と
ほぼ同じなんですよね。

関西人なもんで、関西のように各地がそれぞれ特色を持って独立?
しているのと違い、人の動きからもあっちは東京ってひとくくりの
感覚しかないというのもありますが、
なので、単に東京都に医学部が集中しているだけでしょう?
なにか問題あるのっていう感じしか持てません。
埼玉・千葉の医師数が少ないっていうのは、魅力がない、報酬が低い等
他の要因が大では?

投稿: hisa | 2014年9月 3日 (水) 10時06分

個人的には自治体別免許でも作らない限り、医学部定員に基づいた議論は医師分布に関してはさほど実効性がないと思っていますが、定員数自体の議論においては当面一指標として扱われるでしょうね。
全く関係ないですが何気なくネットを見ていましたら、ダサいだとかアメリカンコーヒーと言った言葉はすでに死語なんだそうでちょっとショックでした。

投稿: 管理人nobu | 2014年9月 3日 (水) 10時29分

医師不足の埼玉県、大学附属病院を公募へ- 増加病床を優先的に配分
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/43679.html

 医師不足などの改善を目指し、埼玉県が県内に整備する大学附属病院を公募することが2日、分かった。
県は県内の基準病床数を改定することで最大1502床の増加を見込んでいるが、医師の確保や育成を担う大学附属病院に対し、
こうした病床を優先的に配分する方針だ。【新井哉】
 県内すべての二次医療圏が対象で、県は応募の条件として、大学附属病院の整備に加え、医学系大学院の併設や
医師確保が困難な地域への医師派遣に積極的に協力することなどを挙げている。また、自治体などから支援を予定している場合は
事業計画書に記載することや、2018年3月までに着工することも求めている。
 県の人口10万人当たりの医師数(12年12月末現在)は148.2人で、全国ワースト1。県内で医学部がある大学は埼玉医科大の1校のみで、
県内の地方議会では「地域医療に貢献する医師を充足させることは困難」などとし、医学部設置を求める意見書を国に提出する動きも出ていた。
 県は2日に開催された県医療審議会で、委員に病院整備計画案を示し、了承された。県議会で議決後、10月中旬ごろに公募の告知を行う方針。
15年1月に計画を受け付け、同年3月に医療審議会で採用する計画を選定するという。
 県は、附属病院の運営主体となる県内外の大学による医師の供給や、医学系大学院の併設によって高度医療にも対応できる人材の確保につなげたい考えだ。

投稿: | 2014年9月 4日 (木) 12時18分

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