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2014年9月 2日 (火)

医療費抑制、まずは外来自己負担増から?

消費税増税による税収増を見込んでか各省庁からの予算概算要求額が史上最大規模にまで膨れ上がっていると言う報道があり、このうち増税の根拠ともなった医療や年金に関わる社会保障費関連は人口高齢化等に伴う自然増8千億円超を丸々認める方針であることからも大きな伸びが予想されていますが、その当事者である厚労相の口から先日こういう発言が出たといいます。

厚労相「医療費総額の抑制に努力」(2014年8月29日NHK)

田村厚生労働大臣は閣議のあとの記者会見で、平成25年度に国民が医療機関で病気やけがの治療を受けるのにかかった費用の総額が、概算で39兆円を超えたことについて、医療保険制度の持続可能性を損ないかねないとして、抑制に努める考えを示しました。

昨年度・平成25年度の医療費は、概算で39兆3000億円で、前の年度に比べて8500億円、率にして2.2%増え、過去最高になりました。
これについて田村厚生労働大臣は記者会見で、「医療費の伸びは高齢化や医療の高度化などの影響でしかたのないところもあるが、持続可能性の面から大きな課題だ」と述べ、このままでは医療保険制度の持続可能性を損ないかねないという認識を示しました。
そのうえで田村大臣は、「無理に抑制すると患者の症状が悪化して、逆に医療費が伸びてしまうおそれもある。診療報酬明細書=レセプトなどのデータを生かして、医療費の伸びを抑制していきたい」と述べ、レセプトのデータを活用して過剰な診療や投薬を防ぐ取り組みを進めるなどして、医療費の抑制に努める考えを示しました。

レセプトデータを活用した引き締め策と言うことがどのような方法論になってくるのか、例えば平均的水準よりも高額な薬剤を使い処置を行った場合にその理由を示す注釈をつけなければ報酬カット、などと言われますと大変な混乱も予想されるわけですが、漫然とゾロ(ジェネリック)変更不可で先発品ばかりが並んだ処方箋を出しているような場合には、何故それが必要なのかと言う言い訳のネタは用意しておいた方がいいのかも知れませんね。
いずれにしても厚労省としても伸び続ける医療費を抑制すべく努力していますと言う態度を示さないことには仕方がない立場になってきていると言うことですが、問題はその方法論がどのようなことになるのかで、少なくとも有効性がありそうなのに各方面に反対の声があるばかりに行われてこなかった類の対策は今後軒並み実施されてくるものと覚悟しておかなければならないでしょう。
その一つとしてやはり国民の間でも長年批判の声が大きいのが高齢者における病院待合室のサロン化と言う問題で、もちろん各種基礎疾患も多いだけに受診機会が増えるのは当然ではあるのですが、現役世代が多忙な生活の中で病院にもかかれず市販薬でなんとかやりくりしている一方で、高齢者は何かと言えばとりあえず病院に出かけて飲みもしない薬を山ほどもらってきてはゴミ箱に捨てていると言った声はかなり昔から言われていたものです。
もちろん医療費全体に占める高齢者の、特に外来医療費の割合はそれほど高くはないとも言えるのですが、特に世代間の資産格差が拡大し年金老人=弱者などとは必ずしも言えなくなってきた時代において、高齢者ばかりが優遇されていると何かと目の敵にされがちなところはありますから、国としても「応分の負担」を合言葉に是正策を講じる必要に迫られてきているようです。

外来医療費の上限上げへ 70歳以上、厚労省が検討(2014年8月31日産経新聞)

 厚生労働省が、医療費の自己負担に上限を設ける高額療養費制度について、70歳以上の外来医療費の上限を引き上げる方向で検討に入ったことが30日、分かった。社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会で近く議論を始める。

 現在、70歳以上の外来医療費の毎月の負担上限額は、年収370万円以上の場合は4万4400円、370万円未満は1万2千円、住民税非課税の低所得者は8千円となっている。70歳未満(上限額3万5400~15万円)に比べると大幅に優遇されており、増え続ける医療費を抑制するためには、高齢者にも支払い能力に応じた負担を求めるべきだと判断した。

 上げ幅は、入院を含めた上限額に近づける案が有力だ。同額まで引き上げた場合、年収370万円以上の人は8万100円、370万円未満の人は4万4400円まで上限額が上がることになる。

 低所得者に関しては、現行の8千円が据え置かれる公算が大きい。

 ただ、引き上げに対する高齢者の反発は必至で、統一地方選を来春に控えた与党内にも、「世論の地ならしが必要」(自民党幹部)との慎重論がある

定年の延長もあってか70歳を過ぎても仕事をしていると言う人はちらほら見かける時代ですが、そうでなくとも各種年金をしっかり受け取ったり資産もがっちり確保している高齢者がワープア化著しい現役世代と比べて貧困に喘いでいるとはとても言えない状況であり、来年度税制改正で高齢者から現役世代へ資産を移していくための施策が並んだと言う、その一環としても意図されている話なのかも知れません。
もちろん高齢者で収入も資産もなく払えないと言う人は一定数いるでしょうが、当然ながらそうした場合には元より家族の支払いに頼るか緊急の生保導入で公費負担とするかであるのは何も変わらない話ですし、そもそも医療機関の多くが医療費に関しては催促無しのある時払いに近い態度で未集金の多さが問題化するくらいですから、少なくとも緊急やむを得ざる状態でお金がないから医療を受けられないと言うことはなくて済むと思われます。
むしろ国にしろ多忙な基幹病院にしろ不要不急の受診で医療費がかさみ、医療現場が疲弊することを回避するための一手段としての期待が大きいのではないかと思うのですが、やはり仕事を持っていない高齢者の受診が特に目立つとは言え、「一週間前から風邪気味で」と夜間救急を受診するコンビニ受診対策とも併せて対策を講じたいとは財政上のみならず現場からの要請でもあると言えます。
この点に関して医療現場にも金銭的負担増加による受診抑制と言う考え方に賛否両論あると言われる中で、先日大病院の外来制限に関してこんな調査結果が出ていたのですが、少なくともこの結果を見る限りでは現場医師の意見は非常に明快でほぼコンセンサスが出来ているとも言えそうですよね。

医師2202人に聞く「大病院の外来制限強化に賛成ですか?」 自己負担増による大病院の外来制限、約8割が「賛成」 (2014年8月29日日経メディカル)

 「大病院への外来患者集中の是正」は、現在進められている医療制度改革の主要なテーマの一つだ。
 軽症患者が大病院の外来に集中している状況を改めるため、厚生労働省はこれまでも様々な対策を実施。特定療養費制度(現在の保険外併用療養費制度)により、紹介状を持たない患者からの「特別の料金」の徴収を容認したり、診療報酬の入院料で、入院患者数に対する外来患者数の比率が低い病院を優遇するなどの策を講じてきたが、十分な効果が上がっていないのが実情だ。

賛成の理由は「患者の意識を変える必要があるから」が最多

 そこで厚労省は、さらなる外来縮小策を導入。2012年度の診療報酬改定では、紹介率や逆紹介率が低い大病院の初診料などが引き下げられ、今年4月の改定ではその要件が厳格化された。
 一方で、同省の社会保障審議会・医療保険部会では、紹介状なしで大病院外来を受診した場合に定額負担(金額は初診の場合、初診料相当額~1万円程度)を徴収する制度の検討が進められている。

 今回のアンケートで、この定額負担導入の是非を尋ねたところ、回答者2202人のうち賛成が1711人(77.7%)、反対が164人(7.4%)と、賛成派が圧倒的に多かった(図1)。
 賛成の理由(複数回答)として最も多いのは、「軽症でも安易に大病院を受診する患者の意識を変える必要があるから」(85.3%)で、「大病院の外来は本来、専門性の高い診療に特化すべきだから」(64.1%)、「外来医療に関する勤務医の負担を減らす必要があるから」(54.1%)が続いた(図2)。
 自由記載欄の記述を見ると、「500床クラスの病院の総合内科外来で勤務していたとき、しっかりした足取りで歩いてきた老婆の『何の病気を疑えばよいのか』というほどの元気さに、一瞬思考が止まった」(40歳代、200床未満病院勤務)など、大病院における軽症患者の受診の実態をつづったものが目立った

 一方、少数派ではあるが「反対」の理由(複数回答)を見ると、「患者負担を増やすこと自体、好ましくないから」(88.4%)が最多で、次いで「患者のアクセスに制限を加えること自体、好ましくないから」(64.0%)、「定額負担を導入しても受診適正化につながらないと思うから」(37.2%)の順(図3)。自由記載欄には「定額負担が1万円程度では抑止力にならないと思う」(50歳代、診療所開業医)などと制度導入の効果を疑問視する回答も幾つか見られた。
 なお、「賛成」とした医師の比率は、診療報酬上「大病院」に区分される200床以上の病院の勤務医では78.6%、200床未満の病院・診療所の勤務医は75.1%、診療所開業医は79.6%。施設類型による大きな差は見られなかった
(略)

外来全般と言うわけではなく、高度な医療を提供する大病院の外来に限っての話であることに留意が必要ですが、後段の自由記載による意見を見るとやはり高齢者の病院外来サロン化が真っ先に挙がってくるなど不要不急の継承患者が安易に病院を受診することへの批判が並んでいる、そしてそれを抑制するには現状「金しかない」と考えている先生が多いと言うことが見て取れます。
興味深いのは日医などが好んで用いる「患者負担増にはとにかく反対」「フリーアクセス死守」と言った声が反対意見の圧倒的多数を占めていると言うことなんですが、同時に全体の中ではせいぜい数%程度と圧倒的少数派であること、そして意外にも医師の勤務形態による差がほとんど見られなかったと言うことで、これは立場による差と言うよりもあるべき医療に対する理念の差を反映していると見るべきでしょうか。
大病院と言うところは様々な検査が出来ると言うことが患者から見れば安心感をもたらすのでしょうが、逆に医師の側から見れば市中開業医であれば経過観察で十分だと判断するような症例でも万一のことを考えて慎重に鑑別診断を徹底せざるを得ないと言う場合も多々あって、平均的に医療費もかかればマンパワーもかかる傾向にあると言う点も厚労省としては受診行動を是正したい大きな理由の一つでしょう。
また当然ながら大病院の医師ほど外来よりも入院患者の相手で忙しいはずで、そうした施設の勤務医が軽症患者の来院を敬遠するのは理解出来る話ですが、市中の開業医にとってもこうした患者がもっと来てくれればありがたいのは道理ですから、「どうしても大病院でなければ」と言うごく一部の患者を除いては医療費を負担する大多数の国民も含めて、誰にとっても悪い話ではないと言うことになります。

実効性と言うことから考えると、かつて厚労省が大病院集中を是正しようと開業医の外来診療に手厚く報酬を設定した結果、相対的に安くなった病院外来に患者が集中したと言う大失態の記憶が未だ新しいのですが、紹介状無しの大病院受診に関する任意金額の選定療養加算によって各病院とも患者数が減ったと言う実績がありますからある程度の効果は見込めそうで、後はどの程度のコスト負担が妥当なのかと言う部分の議論になります。
費用を高額に設定するほど本当に受診が必要な患者の受診控えが起こるのではないかだとか、近所の開業医に紹介状だけ書いてくれと言う患者が増えるだけだと言う意見もありますが、前者に関してはフリーアクセス規制ではあっても医療へのアクセスは規制するものではないと言う逃げ道がありますし、後者に関しては飛び込みが減り予約を入れての正規受診ルートに回るのであればいずれにせよ総体としての大病院受診抑制にはつながりそうです。
中には一部論者のように日本の医療は皆保険とは言ってももともと自己負担率は決して低くはなく、これ以上自己負担を増やすのは反対と言う立場もあるかも知れませんが、圧倒的な高額となる医療費はおよそ入院を要する重症時に発生するものだと考えると、負担額がもともと低く軽症患者がほとんどの外来部分から手をつける方が重症入院患者の医療を制約するよりは妥当ではあるのでしょう。
ともかく医療費をどこまで抑制すべきなのか、その手段に何を用いるかは議論の分かれるところですし、何を実施するにしても国民に対し説明と理解を求める手間暇がかかるはずですが、一度に全部まとめてではなくまずは誰にとってもそれなら妥当と思える部分から手っ取り早く手をつけておいて、その間に議論が分かれそうなところについて慎重に話を詰めていくと言う段階を踏んだやり方が為政者にとっても現場にとっても安心安全ではあるのでしょうね。

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コメント

大規模基幹病院の外来縮小には賛成です。
飛び込みでの受診は基本無しにしてもいいと思いますけど。
あとは追い出されたコンビニ受診の患者がどう出るかですね。
もともと病院こなくてもいいような人は家で寝てるかも?

投稿: ぽん太 | 2014年9月 2日 (火) 09時18分

この20年ほど、厚労省ってバカの集まり?って思っていますが、
また今度もやっぱりていう結果となりそうですね。

医療費で膨らんできているのは後期高齢者の医療費の増大が主ですから、
そこを触らないとどうしようもないんですよね。
また、生保者の受診でせめて500円/回でも徴収すれば、相当受診抑制できると
言われていますが、それさえも実現しません。(これは市町村?)

政治のほうからの強力な反対が出るでしょうから、行政側は何もやろうと
しないでしょうから、結局は診療報酬を下げる方向になるんでしょうね

投稿: hisa | 2014年9月 2日 (火) 09時39分

基本的に省庁と言うものはより大きな予算獲得を目指す性質があるものだと思っているのですが、その意味では医療費削減と言う方向へ舵を切るのは厚労省にとってもジレンマが無しとしないのかなと言う気もします。
ただ基本的にこの問題は選挙対策も含めた旧来のしがらみによって解決が遅れている部分が大きくて、消費税ばかりどんどん上げるよりもこのあたりを抜本的に解消していく方が国家百年の計につながるのかも知れませんけれどもね。

投稿: 管理人nobu | 2014年9月 2日 (火) 11時06分

素人考えですが出来高払いを改めるか出来高部分の報酬を減らすことはできないのですか?
医療行為自体ではもうけが出ないくらいにして別のところで補てんすれば過剰医療は減りそうに思うんですが。

投稿: てんてん | 2014年9月 2日 (火) 11時40分

医療費増大に、そんなにコンビニ受診が寄与してるのかな??
コンビニ受診は、軽症外来患者で儲からない患者だとしたら、是非はともかく、話がずれてる気がしますが

投稿: | 2014年9月 2日 (火) 13時22分

と言うより明らかな無駄だという反感と勤務医の負担軽減に役立つこととの合わせ技では?
とは言えJBM的に満足いく水準で診断をつけようとすればコンビニ受診にもそれなりの大金がかかるでしょうが
大病院に来る初診患者をまず開業医にかからせればどれだけ安上がりになるのかですな

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年9月 2日 (火) 15時10分

医療費にキャップを掛けるのは貧乏になったのだから仕方ないとして、治療の質が落ちたことによるトラブル(訴訟なり不満)を押さえ込んでくれないと割れ鍋に閉じ蓋です

アクセス制限を本気で考えてくれるなら、質とコストはナントカなるでしょう

アクセスは制限せず、質を下げるな、でも金は出さん!
では、なんともなりません

降圧薬はゾロだけ
CT、MRは3ヶ月に1回のみ保険適応
。。。

ヨーロッパ並にするのには抵抗があるでしょうね

まあ、自腹を増やすことで受診の実質的制限を加えるのが実際的なのでしょう
今の医療の質が落ちても、将来、医療が維持できなくなるよりはマシと考えてしまいます

投稿: Med_Law | 2014年9月 2日 (火) 23時49分

割れ鍋に閉じ蓋・・・綴じ蓋じゃないから、つりあってないって意味で合ってるのかいな

投稿: | 2014年9月 3日 (水) 14時16分

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