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2014年8月 5日 (火)

生保患者=上得意様?

今や世間の認識的に大阪と言えば生活保護(生保)…かとうかはさておき、先日またしてもこんな記事が出ていたようです。

架空診療:生活保護大歓迎…受給者の医療費無料で不正(2014年7月25日毎日新聞)

 生活保護受給者は大歓迎−−。診療報酬詐欺事件の舞台となった大阪市西成区では、受給者を巡る不透明な診療報酬請求が後を絶たない。受給者を囲い込もうと、熱心に勧誘する医療機関も少なくない。大阪市は対策を強化するが、不正を一掃するための道は険しい。【津久井達、遠藤浩二、藤顕一郎】

 大阪府警は今月9日、受給者の架空診療などで診療報酬を詐取したとして、西成区の医療法人元理事長の医師、小松明寿容疑者(60)を詐欺の疑いで逮捕した。捜査関係者によると、「受給者は医療費が無料だから診療所に集まってくれる」と供述している。
 小松容疑者は1997年に西成区内で診療所を開いたが、思うようにもうからなかったため、医療費が全額公費負担される生活保護受給者に目を付けた
 2005年、受給者が多いあいりん地区に新たな診療所を開いた。その後、二つの診療所で架空診療などを繰り返し、約3400万円の診療報酬を不正受給したとされている。
 腰痛で通院していた受給者の男性(55)によると、あいりん地区の診療所の待合室には毎日、同じ受給者数人が顔をそろえ、「また点滴を打たれた」などと首をかしげていた

 「西成区で受給者の患者を囲い込むのは珍しくない」。西成区内の医院の医師が取材に漏らした。
 「うちに来てよ」。あいりん地区の公的医療施設の前では、ある医療法人の関係者が受給者に次々と声をかけていた。応じた人はマイクロバスで西成区内の診療所に運ばれた
 この法人が経営する診療所には、ニシキゴイが泳ぐ庭園や最新の医療設備を備えたリハビリルームがあった。通院していた受給者の男性(71)は「無料でジュースが飲める自動販売機もあった。居心地が良くて毎日通った」と打ち明けた。
 最近は、あからさまな勧誘活動を控えるようになったという。

 「生活保護 大歓迎」。軒先にこんなのぼりを立て、冬には使い捨てカイロなどを無償で配り、受給者を誘い込む診療所もあった。
 西成区のある病院経営者によると、行政の目が厳しくなり、目立った勧誘活動は減る傾向にあるが、受給者頼みの医療機関は多い。この病院も全患者の大半が受給者という。
 経営者は言った。「受給者は言う通りの治療を簡単にさせてくれる。受給者なしでは経営は成り立たない

 ◇2億4500万円の診療報酬の返還請求…氷山の一角

 全国の自治体で最多の約15万人の生活保護受給者を抱える大阪市。2012〜13年度、不正が疑われた市内48の医療機関に計2億4500万円の診療報酬の返還を求めたが、氷山の一角とされる。
 不正の手口で多いのは(1)不要な治療や投薬をする過剰診療(2)実際にはしていない治療行為の費用を請求する架空診療−−など。医療費負担が免除されている受給者は病院の窓口で金を払う必要がなく、医療機関側に悪用されやすい存在だ。
 特に西成区は、人口の4人に1人に当たる約2万7000人が受給者で、不正が最も多いとされる。西成区は12年8月、一つの疾患の通院先を原則1カ所にしてもらう制度を導入した。受給者が複数の病院をはしごして、過剰診療を疑われるケースが多いからだ。
 大阪市内の生活保護費の総額は年約3000億円。市と国が負担しているが、医療費はうち4割を超える。市は診療報酬明細書(レセプト)の電子化を進めるなど点検を強化しているが、追いついていないのが実情だ。
 市の担当者は「医師に過剰診療を指摘しても『素人に何が分かる』と反論される。不正の証拠をつかむのは難しい」と漏らした。

医療の世界においてはこういう場合本当に不正でやっている人間もいれば、本当に純然たる善意でやっている人間もいるのが話をややこしくしているとは言え、明らかに不正と言われる手段を用いていたと言うのでは社会的制裁を受けてしかるべきですが、いずれにせよ医療機関にとっては単純に顧客を増やし収入増になり、また生保患者にとってもこの暑さの中冷暖房完備の環境に無料でのんびり出来るとwin-win関係だと言えます。
一般的に保険診療においては保険者による厳しい査定によって正しい医療ですらカットされると言うことがありますが、伝統的に生保診療に関してはスポンサーである自治体のチェックもあまく(まあ田舎の所帯の小さな自治体でそこまでの専門的な仕事も出来ないとは思いますが)請求通り幾らでも支払ってくれるのが通例でしたから、昔からやたらと生保患者の大勢通院している医療機関と言うものはあったわけです。
もちろん記事にもあるように明らかに黒と言える違反行為があれば判りやすい話なのですが、多くの場合は生保患者を多数抱え過剰診療しているらしい気配はあるけれども、さりとて明らかな不正行為は見いだせないと言うレベルに留まっているのですから、これをきっちり規制しようとするとなかなか理由付けも難しいと言うのは理解出来ますよね。
以前に橋下市長が言い出したように生保患者を限られた指定病院にだけかからせるだとか、あるいはイギリスの家庭医的に人頭制にしてお金のかかる診療をするほど赤字になるようにすると言った手も考えられますが、世の中には生保患者には原則ジェネリックを使うことにしましょうと言うだけで差別だ、人権侵害だと大騒ぎになると言うこともあるようですから対策もままならないところもあります。
財政負担にあえぐ自治体としては「国がもっと音頭を取って積極的な対応をしてくれなければ困る」と言うのが本音であるのかも知れませんが、国としてもこうした諸問題は把握していると言うことなのでしょう、先日こうした記事が出ていました。

「ぐるぐる病院」実態調査を 厚労省に総務省が勧告(2014年8月1日朝日新聞)

 総務省は1日、生活保護の実態調査の結果を公表した。「ぐるぐる病院」といわれる、生活保護を受けている人が短期間で頻繁に入退院を繰り返すケースが見つかったとして、厚生労働省に実態把握とチェック体制の整備を勧告した。

 総務省は生活保護の申請窓口となる全国の福祉事務所のうち、約1割の102カ所を調査。3年2カ月の間に34回も転院し、2012年度だけで724万円の医療扶助費がかかった例があった。東京都台東区の事務所は調査に「『ぐるぐる病院』と呼んでおり、130人ぐらい把握している」と回答。総務省は厚労省に全国的な実態調査を求めた。

 生活保護受給者は医療費の全額が保護費から出るため、入退院しても金銭負担は生じない。一方、病院は入院が長期化すると診療報酬が下がる仕組みで、利潤のために病院側が転院を繰り返させた可能性がある。

 厚労省では「早急に調査して件数を把握し、転院の理由を医療機関に確認する対応ルールを徹底したい」としている。

ご存知のように生保患者は医療機関でどれだけ高額な医療を受けようが全額公費負担で何ら腹は痛みませんが、おもしろいことに入院治療を行っていてもその期間も生保の保護費は支給されるため、月末になると金の尽きた生保受給者が「そろそろまた入院させてくれ」と病院に相次いで訪れると言う光景が昔から見られたわけです。
もちろん前述の記事のように利益を上げるために生保患者を積極的に受け入れるところもあるのは事実ですが、各地の公立病院などでは元々の応召義務に加えて「市民様の求めには可能な限り応じなければならない」と言うローカルルールがありますから、医師として心ならずと言った状況であってもこうした患者も引き受けざるを得ないと言うことはあり得ることです。
昨今では入院日数短縮と言うことが色々と言われる中で、当然ながら別に目立った病気もなく入院する必要はないと考える医師ら病院側と、長期に入院すればするだけお金が貯まっていくだけでなく、冷暖房完備の病室で上げ膳据え膳の生活が満喫出来ることから断固入院続行を主張する生保受給者との間で見解の対立が発生することもままあるわけで、その場合こうした患者をどうすべきかですよね。
病院側としては入院適応のない患者を一人抱え込んだ分本当に医療が必要な患者を一人断らざるを得なくなるなどデメリットが多数ある中で、何とか両者の折り合いの付け方として病院間を転々と患者が移動していくと言うことは別に生保患者に限らずあり得ることですが、さてこの場合誰が(あるいは何が)悪くてこんなことになってしまうのかです。
この辺りはまさに医療機関によって生保患者をどう見るかと言う捉え方の違いが露骨に出るところでもありますが、生保向けクリニックなどでお互い互助関係にある場合などは財政的にはともかく現場では良い関係を続けられるのでしょうけれども、多くの多忙な勤務医にとっては単に仕事を忙しくするだけで一円の得になるわけでもなし、こんなことなら生保など受け入れるべきではないと考える人も少なくないでしょうね。

以前に長期入院していた全盲患者を病院職員が公園に置き去りにした!医療虐待だ!と大いに話題になったことがありますが、では医療制度上入院対象となるような状態でもないにも関わらずどうしても退院しようとしない患者に対して病院側に出来ることは何かと言えば、実は制度的にははっきりこれと言う名案がないようです。
無論各論的に「こういう場合には応召義務は免除されるものと推定される」だとか言ったケースはあるわけですけれども、前述の全盲患者の場合も日常的に暴言暴行を繰り返していた上に身内が引き取りも医療費支払いも拒否するなど本来明らかに病院側こそが一番の被害者であったはずなのに、最後の結末の部分だけで人でなしのように社会的バッシングを受けてしまうと言うのはいささか酷な気がしますね。
特に生保患者の場合は何しろ慣れている方々も多いだけに突っ込まれどころを無くするように様々な工夫を凝らしている場合も多く、医学的判断としても「しんどい」「くるしい」「とても自宅では生活できない」と言った主観的訴えに終始された場合なかなか難しいところがありますけれども、帰れと言えば帰らせられる権限も与えないまま病院ばかりを悪者にしておけば適当に対応するだろうでは現場も困るわけです。
生保患者の場合は言ってみれば自治体が保護者のようなもので、家族に代わって最終的には自治体に面倒を引き受けてもらうしかないと医療側目線で言えばなるのでしょうが、自治体にしてもただでさえ人手不足の社会保障領域でこの上そんな余計な仕事まで引き受けられないと言う気持ちはあるだろうし、それならどうせ税金なのだから病院に入院させておけばいいじゃないかと言う考えになってもまあ、不思議ではないでしょうね。

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コメント

ナマポ患者率に上限を決めたらいい
上限超えたらみればみるほど損するようにして

投稿: | 2014年8月 5日 (火) 08時50分

経営者にとってナマポは上客。
医師にとってはナマポは下客。

投稿: てきさん | 2014年8月 5日 (火) 09時31分

基本的には生保患者とそれ以外の患者と言う区分での議論ではなく、問題患者とそれ以外の患者と言う区分での議論の方が医療現場における環境改善には役立つはずだと思います。
ただスポンサーが誰かと言うことを考えた場合にやはり全額公費負担と言うものは標的視されやすいもので、その意味では生保患者の窓口自己負担支払い化などはむしろ生保患者自身のためと言う考え方もあるでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2014年8月 5日 (火) 11時10分

素朴な疑問なんですが、この場合問題なのはどっちなんでしょう?
1)生保患者は無駄な診療が多くて医療費がかかる?
2)生保患者は問題行動が多い?

投稿: てんてん | 2014年8月 5日 (火) 11時47分

両方あり

投稿: | 2014年8月 5日 (火) 13時26分

生活保護不正受給 男を逮捕

http://www3.nhk.or.jp/lnews/shizuoka/3033485631.html?t=1407134588000
※NHKローカルニュースは元記事が消えるのが早いので御注意を

海外で生活していながら、浜松市の生活保護を約450日間にわたって不正に受給していたとして、
64歳の男が詐欺の疑いで逮捕されました。男は容疑を否認しているということです。

逮捕されたのは、浜松市北区初生町の無職、松下一八容疑者(64)です。

警察によりますと、松下容疑者は平成23年11月から去年9月までのうち、
約450日間をフィリピンで過ごしていたにも関わらず、浜松市から生活保護、
合計240万円ほどを受け取っていたとして、詐欺の疑いがもたれています。

警察は、今年1月に、市から松下容疑者が不正に生活保護を受給していると告訴があり、
捜査を進めていました。
浜松市によりますと、生活保護を受給している人は、市内に生活実態があることや、
海外へ行く際には市へ事前に申請し、許可を得ることが必要だということです。

警察の調べに対し、松下容疑者は「生活保護費をだましとったつもりはない」
と容疑を否認しているということです。

警察は、金の使い道などを詳しく調べることにしています。

08月04日 13時47分

投稿: | 2014年8月 5日 (火) 15時38分

記事からみた限りでは単純にクリニック過剰なのではないかな?>西成

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年8月 5日 (火) 16時57分

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