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2014年8月 7日 (木)

医療現場にも口コミサイト問題が波及?

一般論として注射が好きという人はそれほど多くはないものですが、中でも子供に注射となれば当の本人のみならず想像するだけでも胃が重いと言う方々も少なくないのでしょうか、先日こんな動画が称讚を浴びていると話題になっています。

注射嫌いの子どもに対しての医師のパフォーマンスが神対応(2014年7月31日カラパイア)

 アメリカの小児科医の注射嫌いの子どもに対する対応が素晴らしいと話題となっていた。私も恥ずかしいことに注射は大の苦手で、ギャーギャー泣き叫んでいた幼少期、そして今でも注射針をみると逃げ出したくなるわけだが、こんなドクターならば、きっと献血すら思いのままだったのかもしれない。

Baby laughing while getting shots
(略)
 小児科医は日本同様アメリカでも医師の中で大変とされる科であるが、こんな素敵なドクターなら、何度か行われる予防接種も子どもはきっと嫌がらずに受けてくれそうだ。

一人でも大変なのに大勢が集まる学校での集団予防接種ともなれば最初から倒れそうな青い顔の子供が並んでいたりするものですが、さすがに担任の先生も心得たもので泣きそうな子は後回しにして真っ先にクラス一のガキ大将を送り込んでくるのだそうで、それは確かに普段からの体面もありますから「へへんっ!こんなのちっとも痛くないぜ!」と言うしかないところでしょうね。
まあしかしどれほど手がかかって大変だろうとも子供が嫌いと言う小児科医はまずいないものですが、それでも小児科医が心身をすり減らしドロップアウトしていくケースが多いのは大抵の場合は親対応で神経をすり減らしていると言うことのようで、この種の「モンスターペアレンツ」の存在はともすれば子供が関わる各業界で共通して当事者に大変な思いをさせているようですね。
もちろん親の側にも子供の一生に関わることだと言う思いからか言いたいことは色々あるのだろうと思われますし、そもそも世の中には「相手が成長するためにも悪いことは悪いとはっきり指摘してあげなければならない」と言った類の使命感に燃えている人もいらっしゃるようですから、とかく世の中各方面で顧客から声を出していくと言う機会が増えているように感じます。
そしてそうした声を受ける各業界の側でも「お客様の声こそ業務改善の最大の特効薬だ」と言う方々が少なからずいるわけですから良くしたものですが、こうした世の中の顧客フィードバック重視の傾向と近年の技術的進歩が組み合わさった結果どうなるものなのか、先日面白そうな記事が出ていたことを紹介してみましょう。

「いいね」は医療の質を高めるか 患者からの「コメント」に医師が戦々恐々(2014年8月1日日経ビジネス)

 イリノイ州に住むある女性が豊胸手術を受けた。結果が気に入らなかった彼女は、不満を持つ他の多くの消費者と同じ行動を取った。つまり、そうしたレビューを掲載しているウェブサイトを訪れ、執刀した医師に対する批判的なコメントを書いたのだ。彼女によれば、「私の胸はホラームービーか何かに出てくるような代物にされた」。手術の結果に不満を持つ他の患者もネットでの攻撃に加わり、この医師に「危険人物」「恐ろしい」「間抜け野郎」などと罵声を浴びせた。医師は名誉棄損だとして彼らを訴えた(その後、訴えを取り下げた)。
 米国を中心に、一部の医師が同様の訴訟を起こしている。勝訴するケースはほとんどないが、医師たちが訴訟を起こすこと自体、患者の投稿に対して、彼らが神経をとがらせていることを物語っている。医師の中には、患者からのフィードバックが正確でない、妥当性を欠いている、と疑問視する者がいる。別の医師は、「守秘義務を負っているため、患者からのクレームに反論することができない」と不満を漏らす。
 サイトの中には、わずかな数の患者から寄せられた情報を元に計算した、個別の医師に対するレーティングを載せているものが少なくない。このことは、1つでもひどいコメントが寄せられれば、その医師に対する全体的な評価が歪められる可能性があることを示唆している。

レビューを元に医師を選ぶ

 医師は、ネット上の患者のコメントを無視することができなくなってきている。ネット上のコメントを読んで医師を探そうとする患者が増えているからだ。例えば、医療サービスの世界最大市場である米国では、医療保険料について従業員が自己負担する金額を引き上げる企業が増えている。このため従業員はネットを検索し、指針となる情報を得ようとする。
(略)
 マサチューセッツ大学のハイジン・ハオ(Haijing Hao)氏によれば、中国ではハオ・ダイ・フ(Hao Dai Fu:「良医」を意味)が運営するサイトを利用する患者が増え始めた。中国の医療制度はまだ整備が行き届いていないため、患者はこうしたサイトを利用して、より良い医療を受けようとするという(中国人は一般に、かかりつけ医を持たない)。同サイトには約30万人に上る医師のプロフィールが登録されており、寄せられたレビューは100万件を超える。

フィードバックを医療の向上に生かす

 こうした傾向を、むしろ利用しようと考える医師や病院、保険制度が増えている。サイトにアクセスし、自分たちを評価してくれる患者に、商品の抽選などのインセンティブを提供するサイトが現れている。ゾックドックの調査によれば、昨年、同サイトに登録している医師の85%が自身の評価を確認した。
 医療の提供者の中には、レビューを自ら公開する動きも出始めている。2012年にはユタ大学が、先陣を切ってレビューの公開に踏み切った。同大学は4つの病院と10の診療所を運営している。同大学は、内部での使用を目的に患者からのフィードバックを収集していた。きっかけとなったのは独立系サイトに対する医師の苦情だ。一部の医師には何百ものレビューが寄せられている。
 良いコメントも悪いコメントも含めてすべてのコメントを公開するために、スタッフはまる1年をかけて準備をした――ユタ大学のシステム構築に携わったブライアン・グレシュ氏はこう振り返る。しかしながら、そんな懸念は杞憂だった。蓋を開けて見ると、ほとんどのコメントは好意的なものだった。さらに、レビューを公開するようにしてから、患者の満足度も改善した。
 プレス・ガーネイ社で最高医療責任者を務めるトム・リー氏は、(提供された医療の質に)満足している患者は医師と積極的に意思疎通を図り、協力を惜しまない、と指摘する。同社は医療提供者に代わって患者への調査を行っている。ユタ大学もクライアントの1つだ。リー氏の上司のパット・ライアン氏は、他の数多くの病院がユタ大学に追随するだろうと予測する。
 中には、患者からのフィードバックに懐疑の念を抱く医師もいる。患者は、どのような医療を受けたかではなく、医師の人となりで病院を判断するのではないか、という不安を感じているのだ。だがライアン氏は、些細なことで患者の評価が変わることはめったにないと、主張する。ライアン氏に言わせれば、「病室に薄型テレビがあっても、医師が患者ときちんとコミュニケーションを取らなければ、ひどい評価がつけられる」。それに――とライアン氏は続ける。患者からのフィードバックによって医師は、患者と接するあらゆる機会が重要であることを認識する。そうなれば、彼らは一層努力するようになる

米政府が患者から評価を利用し始めた

 米政府は医療サービスへの支払いと患者のフィードバックを連動させる試みを始めた。65歳以上の高齢者を対象とする公的医療保険制度、メディケアがこのほど、患者からの評価が高い病院にボーナスを支払うシステムを開始したのだ。全米有数の規模を持つ米クリーブランド・クリニックは、メディケアが提供するデータを活用して、医療の改善を図っている。英国の国営保険サービス(NHS)は10年以上にわたって患者の追跡調査を行い(個々の医師の評価は行っていない)、その結果をネットで公表している――ただし、NHSはこのデータをもっと有効に活用できるとの見方がある。
 しかしながら、ほとんどの国の政府は患者の意見を聞こうともしていないのが実情だ。例えば調査機関のピッカー・インスティチュート・ヨーロッパのマリア・ナジ・キットラー氏によれば、ドイツの医師や病院は、医療の質と政府からの補助とをリンクさせる努力を行ってきた。それゆえに彼らは患者のレビューを敵視しているという。だがそれでは、みすみす機会を逃すことになる。患者が医師に責任を課すことで、より良く、より効率的な医療が実現されるからだ。誰が医療費を支払うにせよ、これはいいニュースだ。

一読いただければこの話題、まさしく昨今数々の紛争にまで発展している飲食店と口コミサイトとのトラブルに全く相似形であることがお判りいただけるかと思いますが、良く言えば料理人以上にプライドが高そうで、普通に言って他人が何を言おうが唯我独尊で突き進みそうな印象がある医師という方々が、案外世間の評価と言うものを気にしているらしいのがおもしろいですよね。
もちろんその背景にあるのは単純に評判が悪くなることで経営状態が悪化していくことの懸念であるとか、あるいは見かけの評価ばかりを追及するクリニックに患者が集中し「正しい医療」を行うクリニックが衰退するんじゃないかと言う懸念なのだろうと思われるところで、日本でも患者が風邪だと言えば黙って薬をどっさり出し点滴の一つも付けるような先生の方が流行る、なんて話は古来しばしば耳にするところです。
一般的に医療とはもちろん一つにサイエンスとして正しい、正しくないと言う基準で正しい方向に進歩する一方で、やはり多くの国で報酬体系とリンクして「より儲かる」方向へ発展してきたことは否めませんが、患者の評価という今までにない基準が収入に直結すると言うことが明らかになってくれば、当然ながらこれは医療の進む方向性をも決定づける因子となる可能性があります。
ただ見ていて非常に興味深い点として、アメリカにおいては政府ですらこうした顧客の評判を公的に取り上げ始めていると言う点なのですが、顧客満足度向上が病院の収入増につながると言う制度によって総医療費がどのように変化していくものなのか、今後の長期的な推移を是非検証していただきたいところだと思いますね。

日本の場合安上がりな国民皆保険制度があると言う強みがある一方で、病院設備などを見ても顧客満足度向上にさほど熱心であったとも言えずで、今どき大部屋に何人も雑魚寝させられるだとか風呂は週二回のシャワーだけだとか、まあヒラリーさんならずとも先進国の住民が甘受すべき水準にないと判断してしまうのは当然ですよね。
もちろんその背景にはこうした設備投資に対して適切な評価すなわちコスト的な負担をしてこなかった皆保険制度のシステム的な問題もあるわけですが、一方で日本においては金のかからない顧客満足度向上の手段(実際にはこの方面にこそコストをかけるべきだと常々感じるところではありますが)と認識されている接遇面での改善と言う点に関しても、多くの場合世間並みの水準には至っていないのは否定出来ないところです。
さすがに今世紀に入る頃から現場に出てきた若い医療従事者は顧客である患者とそれなりに妥当な関係を構築出来ているものと推定しますけれども、やはり昔ながらの上から目線で顧客対応を行ってしまうだとか、あるいは社会人として基礎的な対人関係の教育も受けていないんじゃないかと思わせるのは問題で、こうした面での教育と同時に考課表上の評価にもつながっていくべきなんだろうなと思います。
ただ日本の勤務医の場合基本的に多忙過ぎますから、こうした顧客満足度が高まると余計に患者が増えてしまうと言う懸念から意図的に評価を落とそうとするバイアスがかかるのは注意すべきところで、特に今は患者の側に問題があると医師が感じた場合、昔のようにそれでも主治医として全責任を持つと言う先生は減ってきていて、あくまでドライに黙って紹介状を書いてすっぱり縁を切ると言った対応も増えていますよね。
その意味で顧客と担当者がより密接に一対一の関係を構築することになる医療の世界では口コミサイトのような一方的な評価と言うものは存在せず、あくまでも双方向に互いに評価され合う関係であるはずですから、顧客たる患者の側も口コミと言う手段を得て立場が強くなったつもりでも、やはり一対一の関係で失敗すれば直接的に自分の不利益になるかも知れないと言う感覚は持っておく必要がありそうです。

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コメント

日本じゃこういうのないの?利用したいんだけど

投稿: | 2014年8月 7日 (木) 08時41分

口コミサイトみたいなもの見たことありますが内容はあまり役に立ちそうでもなかった記憶が。
うまくすると医師の専門別に患者が正しく振り分けられたりで双方に有益な場合もありそうですけどね。

投稿: ぽん太 | 2014年8月 7日 (木) 09時32分

口コミサイトに、どうみても病院スタッフの偽装の自画自賛コメントがあるのであてにならない

投稿: | 2014年8月 7日 (木) 10時02分

考えようによっては、サクラ的書き込みをするほどやる気にあふれた施設が身近にいれば周囲の施設のスタッフとしては助かると言うこともあるのかも知れません。
とりあえずこの種の口コミによって移動していく客層が一般顧客のそれとどのような違いがあるのか、その辺りのデータは知っておきたい気がしますね。

投稿: 管理人nobu | 2014年8月 7日 (木) 10時33分

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