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2014年8月11日 (月)

高齢者社会保障 制度の変化よりも先行する国民意識の変容

お隣中国と言えば経済成長の陰で一人っ子政策による人口構成の急激な変化が進行していることが知られていて、ちょうど一人っ子世代の親たちがこれから介護を受ける年齢になると言われていますけれども、考えて見ると二人の親を一人の子供で支えていく計算になるのですから、よほどに腰を据えてかからないと大変なことになるのは目に見えていますよね。
もちろん経済的な面でも極めて大きな負担が予想されるとともに、単純に介護に要するマンパワーをどうするのかと言った物理的問題もありますけれども、そんな中で社会的な介護システムの未整備が今後大きな問題となってくるはずだと言う予想があるようです。

高齢化進む中国の未成熟な介護市場(2014年8月7日AFP)

【8月7日 AFP】定年が少しずつ近づくなか、息子への仕送りやベビーシッターの仕事で忙しく、自分の老後について心配する余裕もないと語るHe Xiangyingさん(51歳)──体が動くうちは働き続け、その後は故郷に戻って節約生活をすると話すHeさんは、仕事に就いていない息子の世話になることなど少しも考えてもいないという。
 Heさんは北京(Beijing)の公園で、「自身の生活もままならない状況で、年老いた親の面倒なんて誰がみるだろうか。私は自分の世話は自分でする」と目に涙をためながら話した。

 中国の高齢者人口は急速に増加しており、子どもは親の介護に追われている。介護士の助けを借りる金銭的余裕がないだけでなく、介護業界の人手不足の問題もある
 中国では、2030年までに60歳以上の人口が全人口の4分の1にあたる3億5000万人と、その数は現在の約2倍に膨れ上がるとみられている。一人っ子政策で進んだ高齢化の影響により国の労働力は縮小し、複数の祖父母の面倒を孫1人でみるケースも予想されている。
 これに追い打ちを掛けているが、今の若い世代を苦しめている、高騰する住宅価格と低迷する経済だ。

 親の老後の面倒は子どもがみるという同国の伝統は、現代社会の中で薄れつつある。しかし、中国の介護システムはまだまだ試験的な段階にあり、李立国(LI Liguo)民政相によると、高齢者1000人に対して用意されている介護ベッドの数はわずか25個程度だという。
 北京市郊外には3つ星ホテルを改築したベッド数300の介護施設がある。2年前に入居したZhou Chuanxunさんは「自宅にいたらとてもさみしかったと思う。ここにいれば少なくとも他の人と話すことができる。ここの方がいい。時間の流れも早い」と話す。Zhouさんの娘と息子は2人ともいい仕事に就いているが、多忙のため親の面倒を見る余裕がないのだという。
 施設経営者によると、入居費用は月額8000元(約13万円)。これは大半の家計を大幅に上回る金額だ。

 若年労働者の間では、高齢者の入浴や食事の介助は魅力的でないという考えが根強く、これが介護市場の人材確保における問題にもなっている。施設に入居できる高齢者は全体のわずか3%の見込みだという。

まあしかし日本が何十年もかけて経験してきた国民全体の高齢化社会への適応をずっと短い期間で行わなければならないのですから、今後国中から不平不満の声も上がってくるだろうことは当然ですけれども、中国の政治システムにおいてこうした声にどのような答えを用意していくことになるのか、これは壮大な社会実験になりそうだと言う気はします。
ただここで注目頂きたいのは恐らくわずか一~二世代ほどの間に中国人社会での長年の慣習、常識と言うものが大きく変わりつつもあると言うことで、彼の地ではまだまだ公的な社会保障制度は未整備だと側聞しますけれども、老いた親の面倒は子供がみるのが当たり前だと言う伝統的価値観の継続に為政者が期待をしていたのだとすればとんだ肩すかしだったでしょうね。
ひるがえって日本ではどうかと言えば、先日厚労省が発表した2013年度の統計では介護サービスを利用した高齢者が23万人増えて過去最多の566万となり、高齢者増加を反映して過去10年間で実に5割増しになったそうですが、興味深いのは増えた23万人のうち在宅サービスを受ける者が15万人と多く、厚労省が進める「病院から家庭へ」と言う高齢者介護の大方針とも合致するように見えますよね。
ところが介護をする側の認識は着実に変わっていると考えられる、こんなデータが先日出てきているのですが、調査対象があくまでも既婚女性であると言う点が非常に生々しさを感じるものになっているようです。

「介護は家族で」大幅減少 既婚女性の5割超が「親との同居」に否定的(2014年8月8日産経新聞)

 「親の介護は家族が担うべきだ」と考える既婚女性が5年前に比べて大幅に減少し、56・7%と過去最低になったことが8日、国立社会保障・人口問題研究所の第5回全国家庭動向調査で分かった。「年を取った親は子供夫婦と一緒に暮らすべきだ」も賛成が44・6%で、平成5年の調査開始以降、初めて半数を下回った。厚生労働省は独居や老老介護向けサービスの拡充を図っているが、同研究所は「こうした介護サービスの充実が、意識の変化に影響した可能性がある」と分析している。

 調査は既婚女性を対象に5年ごとに実施。今回は25年7月に6409人から得た回答を分析した。「介護は家族」に賛成の人は15年前の74・8%をピークに減少が続き、今回は5年前の63・3%から6・6ポイント減って過去最低親との同居についても、賛成は20年前の62・0%から減少傾向となり、今回は6・2ポイントも下げた

 一方、育児や経済的な支援については「親」の存在感が増し、出産・育児に関する最も重要な相談先を「親」とした既婚女性は20年前の33・9%から46・9%に拡大。「経済的に困ったときに頼る人」では5年前の60・5%から64・9%に増加した。
(略)

まあしかし「こうした介護サービスの充実が、意識の変化に影響した可能性がある」などと原因と結果を逆転させたようなことを言っていますけれども、これを受けて「ならば在宅介護を推進するために介護サービスは削減しよう」などと言い出しかねない怖さはありますかね…
興味深いのは一方で老親を自宅で介護したいと考える人が着実に減ってきているのに対して、長年続いてきた核家族化の方向性に反するように経済面や子育てなどでは逆に親への依存度が増しているとも取れるデータなのですが、現役世代の収入の減少によって親の支援に期待せざるを得ないと言う現実的な状況が背景にあるのでしょう。
ただ親からすれば今まで以上に長く脛はかじられるわ、その結果見返りに介護を手伝ってくれるかと言えば施設に送り込まれるわで「何もいいことがないじゃないか!」と文句の一つも言いたくなりそうな話なのですが、日本の場合は社会制度的に親世代が極めて優遇されている状況があるのですから、子供からすれば俺達の手を駆り出すことまで期待するとは虫が良すぎると言う感覚になるのでしょうか。
こうなると親世代としてはこんなことでは我々の老後に不安がある、さらに高齢者社会保障を充実させなければと言う話にもなり、当然ながらその財源として現役世代からの税収等に期待すると言う無限連鎖になりかねない話で、低福祉低負担な中国などと比べて一体どちらが幸せなのか判らないことになってしまいますよね。

日本の介護福祉制度は皆保険制度を堅持する医療と同様、お金のあるなしによって受けられるものが違ってはならないと言う受益の平等の原則に基づいて整備されていますけれども、財源の逼迫から更なる切り下げが言われる年金支給額にしてもそれに頼って暮らす低所得者にとっては喰っていくのも難しい低額である一方、富裕層にとっては正直あってもなくてもどうでもいい程度の支給額であるとも言えるのでしょう。
先日野党民主党の政調会長が介護施設が努力して利用者の介護度を減らすほど報酬が減ってしまう、努力しても報われない制度は改めるべきだと言うことを言っていましたが、そもそもこれだけ社会的に需要もある成長産業であるにも関わらず3kだ、いや4kだと求職者から「介護だけは嫌」とまで忌避され、心ある就業者も全業種最低水準の低報酬にあえぎ到底家族を養っていけないと離職が続くのもおかしな話です。
その大元を辿っていけば誰しも平等に給付を保証すると言う理念の裏返しで誰でも負担できる程度のコストで運用せざるを得ないからとも言えますが、富裕層にとってはお金は出すからもっといいサービスをしてくれだろうし、低所得層にとっては出来ることはなるべく自分でするから何とか負担を減らしてくれと言いたくなることも多いのだろうと思います。
いわゆる低負担低福祉と高負担高福祉のどちらがいいかと言う議論は様々にあって、日本は結局中福祉中負担だと言う人もいますけれども、すでに日本人は一億総中流意識で…などと言われた時代も遠く過ぎ去り国民間にも現実的格差がある現状の中で、誰もが平等であることを前提にした場合に最もうまく機能するシステムばかりに未来永劫頼り続けるのもどうかなと言う気がしないでもないですよね。

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コメント

既得権益にはうるさいマスコミも老人にだけは突っ込まないんだよね
おかしな話だと思うなあ

投稿: | 2014年8月11日 (月) 08時36分

安月給はともかく医療に比べたら介護はまだ制度的にはまともって気はするんですけどね。
田舎は報酬割り増しにするか燃料代その他の実費は別請求にしたらかなり違うんじゃないでしょうか?

投稿: ぽん太 | 2014年8月11日 (月) 09時34分

昔の「介護は家族」だって、「自分以外の」家族という意味だったんじゃないかと
4、5人も子供がいれば、半数は同居も介護もしなくていいんだし
いまはほぼ全員にふりかかるから、ある意味公平?

投稿: | 2014年8月11日 (月) 10時53分

同居して介護した親族には税金や保険料で優遇したらいいのではと

投稿: 鎌田 | 2014年8月11日 (月) 11時06分

在宅介護に対するインセンティブの付与は桝添氏が厚労相だった時代にもう少し議論が進むかと思っていたのですが、特に盛り上がることもないまま終わってしまったのは残念でしたね。
いずれにしても特定の親族に負担ばかりが集中してメリットがないと言うことであれば在宅移行も絵に描いた餅ですので、早急に何かしらの制度的改善を期待したいところです。

投稿: 管理人nobu | 2014年8月11日 (月) 12時03分

私はもっと税金から介護に回して低賃金を改善するべきだと思っておりますが・・・家族介護に何らかのインセンティブを与えると、余計特定の家族に過大な負担がかかってしまうような気がします。

投稿: クマ | 2014年8月11日 (月) 14時09分

けっきょくは介護スタッフの給料がどの程度増えれば人材が集まるのかですな
多くの人に嫌われている現実を考えると、現行の5割増しでは到底おっつかないでしょう
介護は医療より人件費率は高いですから、国民にとっては相当な出費増にはなるでしょうな
ただ逆に言えば負担が大きくなるほど利用の抑制につながる可能性もあるわけなので

投稿: 元僻地勤務医 | 2014年8月11日 (月) 16時29分

家族介護している人に、少なくとも施設で預かった場合にかかる費用を支給すべきだろ
そんで、施設に預けた場合に払う費用を、残りの親族から均等に徴収

投稿: | 2014年8月11日 (月) 17時22分

>家族介護している人に、少なくとも施設で預かった場合にかかる費用を支給
がめついけど介護スキルの無い子供が無理矢理親を引き取ってネグレクトするのが容易に想像出来ますが・・・

投稿: クマ | 2014年8月12日 (火) 10時06分

>がめついけど介護スキルの無い子供が無理矢理親を引き取ってネグレクトする

それはそれでw

投稿: aaa | 2014年8月12日 (火) 10時37分

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