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2014年8月 4日 (月)

医療事故調運用ルール策定が生む対立の構図

本日の本題に入る前に、先日の東京女子医大でのプロポフォール使用の絡んだ患者死亡事例に関連して、全国的に調査を行ったところ相当多数の施設で「禁忌」使用例が明らかになったことをお伝えしましたが、この医薬品添付文書における禁忌という記載の意味づけについて、先日厚労省からこんな公式見解が示されています。

「禁忌」のプロポフォール投与に厚労省が回答(2014年8月1日日経メディカル)

 東京女子医科大学病院において2月に発生した2歳児死亡事故をめぐり、遺族側は「禁忌であるプロポフォール投与」について厚生労働省の見解を求める質問状を提出していた。これに対し、厚生労働省は7月28日付で回答を提示。その中で「小児に対して、集中治療における人工呼吸中の鎮静にプロポフォールを投与することは、添付文書上、禁忌とされており、投与すべきではない」などとする見解を示した。

 回答ではさらに、「仮に医師が治療に必要な医療行為として、小児に対して集中治療における人工呼吸中の鎮静のために使用する場合は、使用することについての特段の合理的な理由が必要になる」のと認識も示した。また、添付文書上の「禁忌」の意味については、医師が治療に必要な医療行為として、医薬品の禁忌の対象となる患者に対して使うことを「法令上認めないということではない」とも明記している。

 回答を受け取った遺族側は8月1日、厚生労働省所管の独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の禁忌と原則禁忌についての定義を引き合いに、今回の厚生労働省の見解は「PMDAの原則禁忌に該当するもので、禁忌を理解したものではない」などとし、再度の質問状を厚生労働大臣宛に提出した。

この禁忌という表記の解釈としての「使うべきではないが、使用することを認めないと言うことではない」と言う虹色めいた解釈、そしてその場合には禁忌であっても敢えて使用するだけの特段の理由が必要であると言う表現は非常に厚労省的と言いますか、まさしく保険診療における禁忌という表記の解釈に関してこのように行われているのだろうなと思える話です。
ただこの見解が司法の場で受け入れられるかどうかはまた別の問題であって、このあたりは過去に最高裁による「禁忌医療行為は原則医師の過失とする」と言う解釈まで示されているにも関わらず例外的な判決がその後も続いていると言うのは、やはり禁忌とされていても実際慣例的に行われている医療行為もあり、また最終的には鑑定医の生の意見の方が原理原則よりも重視されると言うことを示しているのでしょう。
この点で興味深いのは製薬会社のポジションなのですが、医師の側からすると禁忌などと書かれると非常に使いづらいから慎重投与くらいにしておけ!と言う圧力をかける動機があるわけですが、逆に製薬会社からすると明らかに事故率の高まる使用法をオーケーと言うことにしておくと何かあった場合に医師ではなく、欠陥のある(と受け取られる)添付文書をつけた製薬会社の方に損害賠償が来る可能性が出てくるわけです。
その意味で01年の女子医大での患者死亡事件で見られたような医療事故が起こった場合の現場スタッフ個人と医療機関の立場的対立と同様に、現場医師と製薬会社との間にも利害関係の対立が起こり得ると言えますが、多くの医師がプロパーなどとの付き合いから「製薬会社=かなり無理を聞いてくれるもの」と言った従属的存在だと認識していると万一の場合足下をすくわれかねないと言うことでもあるでしょうね。
さて話は変わって、いよいよ医療事故調の実際の運用に関してのルール作りが始まったところなのですが、それに関してこんな二つの記事が出ていたことを紹介してみましょう。

医療事故の届け出基準の議論を開始(2014年7月31日日経メディカル)

 来年10月からの医療事故調査制度の開始に向け、具体的な運用手順などを検討する厚生労働科学研究班が、7月30日に会合を開き、医療事故発生時、民間の第3者機関へ届け出る基準などに関して議論した。届け出基準については、2004年に厚生労働省が示した通知の形式を踏襲することなどが確認された。
 研究班名は「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班」(責任者は全日本病院協会会長の西澤寛俊氏)。今年7月から議論を開始しており、10月には中間とりまとめ案を示したい考えだ。

 研究班での主な論点は(1)医療事故調査制度の基本理念・骨格、(2)医療事故の届け出に関する事項、(3)院内調査に関する事項、(4)調査結果の報告と説明の在り方、(5)第3者機関の業務に関する事項――の5つ。このうち、同日の会合では(2)医療事故の届け出に関する事項について検討した。
 非公開の会合後、研究班長の西澤寛俊氏は会見で、メンバーらの意見が一致した項目について説明した。
 メンバーらの意見が一致した医療事故の届け出に関する主な事項としては、

・2004年から開始した日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業の届け出基準の形式を踏まえ、日本医療安全調査機構の「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を参考に具体的な事例を示す
・死産については、死亡事例と同様の考え方で整理する
・小規模な医療機関でも適切な判断ができるよう、相談機能を設ける。医師会等の職能団体が適切な支援を行う体制を構築する
・遺族から申し出があった場合には、何らかのかたちで医療機関にフィードバックし、その対応については医療機関の管理者が判断する
・遺族への具体的な説明項目については、民間の第3者機関への届け出事項が決まった後に検討する

――など。

 会見に同席した研究班メンバーの一人である虎の門病院顧問の山口徹氏は、「届け出る医療事故の対象としては、再発防止に資するものは漏らさずにできるだけ広くと考えるが、実際の運用を考えるとある程度絞りこむことも必要。どういう事例を届け出るのかについては、もう少し議論が必要」と説明した。また、届け出る医療事故の具体的な事例については、「全てを示すことは不可能。大枠を示し、個々の事例については相談できる窓口を作ることが重要」との見解を示した。
 医療事故調査制度は、病院、診療所または助産所で「予期せぬ死亡事故」が発生した場合に、民間の第3者機関に報告し、事故の原因究明と再発防止を目的とした院内調査を実施することを義務づけた法律。6月18日に参院本会議で賛成多数で可決、成立した。院内調査結果は、第3者機関に報告するだけでなく、遺族に説明することが求められる。また、遺族が調査結果に納得しなかった場合は、第3者機関に対して再調査を依頼できる(関連記事:医療事故調査制度、来年10月から施行へ)。具体的な運用手順を示すガイドラインは、厚生労働省が策定することが決定している

「医療を守る会」有志がガイドライン策定へ- 事故調運用方法への反映期待(2014年8月1日CBニュース)

 医師らが集まり、医療制度などについて情報発信する「現場の医療を守る会」代表世話人の坂根みち子・坂根Mクリニック院長を中心とする有志は、来年10月に施行される医療事故調査制度の運用方法を規定するガイドライン案を独自に策定する。ガイドラインについては、厚生労働省の研究班が現在、議論を進めており、同会有志は、現場の声を反映させた独自案をつくることで、厚労省ガイドラインに反映させたい考えだ。【君塚靖】

 ガイドラインをめぐっては、厚労省の「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班」が、10月末までにガイドライン案の中間取りまとめを目指している。「現場の医療を守る会」は4月に、同研究班のガイドラインの検討過程をチェックするために、メーリングリストへの登録募集を開始するなど、広く現場の医療者が、ガイドラインに関心を持つよう取り組みを活発化させている。

 同会有志は、今月中にまず、たたき台を取りまとめる。坂根氏は、「独自案は最終形ではなく、あくまでたたき台として、現場の医療者に提示した上で、意見を募集し、実態に即したものにするのが狙い。厚労省研究班の議論が秘密裏に進むことに、現場は不安を感じている」と話している。

まあしかし、「予期せぬ死亡」という文言も非常に恣意的な解釈が可能であって、それこそ末期の患者などで「もはや何が起こっても不思議ではない状態です」と説明してあるような場合には何であれ予期したとおりの範疇であると言う言い方も出来るだろうし、実際にもそうするしかないようにも思いますね。
この後段の記事にある「現場の医療を守る会」なるもの、第二の大野病院事件を防ぐを合い言葉に結成されたものだと言うことで、医療事故調に関しては特に再発防止に向けた証言の信頼性を担保するための「責任追及してはいけない」「公開してはいけない」の二大原則が守られないシステムになるのでは?と言う危機感があるようです。
実際に彼らの見解が事故調議論に反映されるかと言えば限りなくその可能性は低いものと考えるべきなのでしょうが、このあたりに関しては厚労省研究班トップの西澤氏も以前に認識を原則同じくすると取れるコメントを出していて、少なくとも医療側に関してはおおむね共通認識として存在しているものと判断していいようにも思えますよね。
ただ問題は当の西澤氏も含めて関係者が繰り返し表明している「遺族が納得してもらえるシステム作りを」と言う最大の命題と両立するものなのかどうかですが、特に調査結果が遺族に公表されるとなればそれを元に民事訴訟を起こすと言うルートも想定されるだけに、この面で何の歯止めもないまま「裁判前に手札を全て見せる」ようなレベルでの協力をしてくれる証言者がどれだけいるのかと言うことです。

もう一点非常に気になるのは、昨年の段階で厚労省は「診療行為に絡んで起きた予期せぬ患者死亡事例の第三者機関への届け出と、院内調査を義務付ける方針を決めた」と言う報道があったことで、文字通りに「全て」と解釈すると今回の研究班での発言として出ている「実際のところ全部は無理」と言う言葉と相反するだろうし、そもそも遺族感情を考えるとこの部分が一番のネックになるべきところですよね。
なお繰り返しになりますが注意していただきたいのは、この事故調に絡んだ第三者機関への届け出と医師法21条に基づく異状死体の警察への届け出は全くの別物であり、なおかつ先日厚労省から明確な言質が得られたように医療業界内部でさえ未だ一定していないこの異状死体なるものの定義に関して、見た目に明らかな外観的異状のあるものに限る(外表異状説)と言うことが法律解釈上は確定した点です。
ともかくも事故調議論がこれほど長々と続いた背景として、やはり表向きの立場はどうあれ調査結果で何かしら問題がありそうだと言う判断が出た場合にそれを個人の処罰へと結びつけるかどうかと言う点で医療側と患者・遺族側の立場が決定的に異なっている、あるいは別な言い方をすれば「調べた結果医師のミスだと判っても何も罪を問わないで遺族は納得できるのかどうか」と言うことです。
今のところは「それでも正しく真実が明らかになり再発防止のために役立つのであれば納得頂けるはずだ」式の公式見解がまかり通っていますけれども、そんな理屈が現実に通用するのであれば医療訴訟がこれほど増えないと言うものであって、少なくともこの点で実際の運用をある程度こなし事故調レポートがどのように活用されるかのエヴィデンスが蓄積されるまでは、100%信用のおける証言も出ないと考えておくべきでしょう。
そしてその過程で当然ながら医療側、患者・遺族側双方から不満が山積し制度を手直しすべきだと言う話になるはずですが、その時に厚労省と言う組織が果たしてどちらの立場に近いところにあるかが問題で、政府組織一般の性質上少なくとも表立って国民感情に反した立ち位置を表明するわけにはいかないだろうと考えておくべきではないでしょうか?

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コメント

女子医大ってやっぱり組織として構造的な問題があるんでしょうかね?
事故そのものより事後の対応がいつもドタバタするようなイメージですが。

投稿: ぽん太 | 2014年8月 4日 (月) 08時53分

独自案作るにしたってもっと早く動けばいいのに

投稿: | 2014年8月 4日 (月) 09時36分

本来的には「何が起こったか本当のことを知りたい」と言う患者側の立場でこそ証言の真実性をどう担保するか必死になってしかるべきかと思うのですが、現状で奇妙な逆転現象が起こっているのは気になるところです。

投稿: 管理人nobu | 2014年8月 4日 (月) 11時06分

耳触りの良い、「何をおいても、何が起こったか本当のことを知りたい」
なんて文言は 決して患者の本音ではない。理性で感情をねじ伏せられる強い人ばっかりじゃありませんて。

「何をおいても自分が納得したいように 納得させてくれ」
が本音(今も昔も)。

 今では医者を精神的グルから技術者に降格してしまいましたから、グリーフケアで医療者に頼ることが難しくなってる。
 これに成功できるかどうか が肝で、失敗した人たちが周りも不幸にしている、ということです。
 病理ですよ。

投稿: 感情的な医者 | 2014年8月 5日 (火) 13時29分

>「何をおいても自分が納得したいように 納得させてくれ」が本音(今も昔も)。

それを言っちゃあw

投稿: aaa | 2014年8月 5日 (火) 14時19分

知らなきゃ幸せなことは沢山あるw

投稿: | 2014年8月 6日 (水) 11時15分

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